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2013年12月26日 (木)

来年は「内部統制」に再び光があたる年になりそうな予感(?)

今年9月2日のエントリ「内部統制への関心が再び高まる時代が到来」でも書きましたが、再び企業の内部統制に光があたる時代になりつつあるなぁと改めて認識しています。若干ポジショントークの感も否めませんが、以下その理由をいくつか示します。

本日(12月25日)の消費者庁HPでもアップされましたが、いよいよ来年から消費者庁主催、日本内部統制研究学会協賛の企画が始まります。詳しくはまた別途ご紹介いたしますが、企業の内部通報制度などの充実を広報するものです。また、消費者委員会で審議される予定のようですが、景表法改正に伴って課徴金制度が導入されるとなりますと、(行政当局の限りある資源を考慮しますと)どうしてもピンポイントによる調査が不可欠でしょうから、対象企業を絞るためにも内部統制の不備に注目されることになると思われます。

※なお、消費者庁主導によるガイドライン行政については、ホントに課徴金で争われたときに大丈夫なのか?という点について、実は書きたいことがありますので、来年にでも別途エントリで書かせていただきます。

また、金融商品取引法において開示責任制度が改正され、虚偽記載に対する法人の過失が要件となるようですが(現行は法人については無過失責任)、おそらく法人の過失というのは内部統制の不備も判断基準にひとつになるのではないかと推測します。つまり開示統制プロセスの構築に不備がなかったことを企業側が立証することで(立証責任は転換されることになりそうなので)、企業の賠償責任が免責される、という理屈になるのではないかと。

さらに、来年6月ころに発表される日本成長戦略の目玉となりそうな公益法人改革ですね。来るべき高齢化社会に向けての医療法人、社会福祉法人、年金基金のガバナンス改革です。行政サービスを日本の津々浦々に確保するため、体力の弱い公益法人は統合されるかもしれませんが、統合を推進するためにも各公益法人の透明性ある経営が求められます。財務状況がしっかりしていて、ガバナンスや内部統制がしっかりしているかどうかが鍵となるところです。私のような地方の弁護士にも、最近とくに、社会福祉法人や年金基金さんから、内部統制構築支援のお仕事が増えてきました。

※年金基金のガバナンスの問題点については、「年金ジャーナリスト」さんのコメントをご覧いただければ問題意識がおわかりになるかと。

今年は名門企業が海外の裁判所で多額の賠償責任が認められるケースや、相変わらず海外不正事件で有罪答弁の合意をしているケースが目立ちました。とりわけ海外の捜査や司法制度に基づく和解勧告や司法取引について「どうして高額の支払いに応じなければならないのか、最後まで争ったほうが得ではないのか」といった難問に直面する企業が出てきています。このような難問にきちんと答えを出せずに和解をしてしまいますと、日本で株主代表訴訟を提起された場合に、役員は免責されるのでしょうか?このあたりの訴訟リスクを回避するための内部管理体制の在り方も議論されるようになるものと思います。

その他、グループ企業の内部統制、みずほ銀行融資問題における企業統治に重点を置いた業務改善命令など、まだまだ数え上げたらきりがありませんが、いずれにしても、スピード経営、透明性のある経営、そしてリスク管理のバランスをとるために、いよいよ来年は本格的に企業の競争力を高めるための内部統制について議論が深まるものと考えています。

拙ブログも、来年3月にはいよいよ10年目に突入しますが、これからも法務ネタを中心として、私自身の意見を発信していきたいと思っています。今年も1年間、ブログをお読みいただきありがとうございました。よいお年をお迎えくださいませ。<m(__)m>

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2013年12月24日 (火)

ノバルティスファーマ事件で出した厚労省の最後の切り札-刑事告発

12月18日にマスコミが報じたところですが、降圧剤(ノバルティスファーマ社が販売)臨床研究論文疑惑の件について、厚生労働省は薬事法違反(虚偽誇大広告)で同社を刑事告訴する方針とのことです。本件については、いろんなところで申し上げてきたとおり、刑事告訴しか方法がないと思っておりましたが、薬事法違反(誇大広告)という形で、法人および関係者双方の立件を視野に入れて、刑事告訴が検討されているとまでは予想しておりませんでした(日経ニュースによると、これまで虚偽誇大広告ということだけで行政処分や刑事告訴が行われたことはなかったようです)。

私が刑事告訴しか方法がない・・・と予想していたのは、ごくシンプルな理由からです。毎度申し上げているとおり、規制緩和の時代における行政規制の在り方は、原則として事後規制(行政処分、刑事罰)であり、その効率的な規制手法を維持する目的で(基本的にはほとんどの製薬会社は誠実な経営を心掛けていますので)従来の事前規制の代替措置である「企業の自律的行為」に最後まで期待を寄せます。とくに、国民に切迫した被害が生じていないかぎりは、できるだけ企業の自律的行動による自浄能力の発揮を促すことになります。しかしながら、自律的行動に期待ができない事態となれば、強権を発動して事前規制に出ることとなり、それも困難となれば、もはや厳格な事後規制手法で対応せざるをえない、ということになります。

たとえば今回のノバルティス社の事例では、社内調査や大学における調査に期待が寄せられましたが、不正疑惑は明らかになりませんでした。しかし本件が真偽不明のままでは、日本の医学における論文の信用性が国際的に失墜することになりかねません。したがって事後規制の原則の「例外」として、行政としては強力な事前規制を検討することになり、ここで大学と製薬会社との寄付金制度というものに問題があるとして、これを是正せよ、という意見(事前規制)も出てきます。しかしながら、アメリカと異なり、補助金が少ない日本の医学研究にあたり、この寄付金制度を見直すというのは国力を低下させるものとして、非現実的です。

つぎに、寄付金制度の開示(利益相反規制-事前規制)ということに期待が寄せられるわけですが、そもそも詳細な開示は各製薬会社がどの分野に力を入れているか・・・という、まさに企業秘密に属するような情報を世にさらすことになりますので、これまた製薬会社の国際戦略上も大きな問題を抱えることになります。また、利益相反行為をいくら開示したとしても、不正行為を防止することにはつながらない・・・という行動心理学的な実証例も出ており、その実効性には疑問があります。そのため、開示規制についても、限定的な規制しか採用できないものと思います。

このように考えますと、ノバルティスファーマ事件をめぐって、厚労省としては、もはや企業の自律的な行動に期待をする事前規制的手法、国民の被害を未然に防止するための強権的な事前規制に期待することができない状況であることは明白となったので、ここは最後の切り札として「不正は絶対に許さない」ということを社会に示すための事後規制的手法に出るしかないと予想されます。任意の調査では事実が明らかにならなかったので、強制権を行使した調査に期待をかける、という意味において、薬事法違反という理屈をもって強制捜査に臨むことになるものと思います。

薬事法違反という罪名で立件するには、まだまだ高いハードルがあるかもしれませんが、この事前規制不発➔事後規制の徹底という流れは、明らかに最近の金商法規制、消費者行政、その他の社会福祉法人や年金基金に対する厚労省行政などと同じ規制手法であり、このような行政規制に対する企業対応の実務については、今年最後のエントリーの中で詳しく論じていきたいと思っています。

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2013年12月20日 (金)

きっと有能な監査役(監事)さんは世間にたくさんいるはず・・・(と信じたい)

読売新聞の地方版ですが、例の長野県建設業厚生年金基金の横領事件に関する監査の問題点が報じられています。記者さんが、かなり頑張って詳細に調査されたことが窺われます(読売新聞ニュースはこちらです)。

これを読みますと、組織として監査の重要性に関心がなかったように思われます。ルール通りに権限分掌、ダブルチェック、ローテーションが行われていたとしたら、たとえ監査にずさんなところがあったとしてもこれだけ大きな不正は防止できたはずです。しかし予算の関係等からか、ルールが守られなかったため、月例監査に大きな疑問が投げかけられているように読めます。

厚生年金のガバナンスについて、最近ある方からお教えいただいたのですが、内部統制に関するルールが遵守されていない年金基金も散見されるようなので、おそらく今回のような横領事件はひょっとすると他の基金でも発生した(もしくは発生しそうになった)ことがあるのではないかと思います。

ただ、昨日のエントリーにコメントをいただいたサンダースさんがおっしゃるとおり、監事さん(監査役)の頑張りによって不正を未然に防止したり、不正を早期に発見できていたのでしょうね。不正は発生しても、監事さんの日ごろからの頑張りによって早期に発見して、そのまま組織の中で処理をした、という成功例は、ひょっとして多く存在するのかもしれません。

本事例に即してみれば、たとえば加入会社に対して未収金の存在を確認する、運用に関する口座をチェックするといったことを監事監査でおやりになっていれば、そもそも経理担当者が(いくら長期にわたり、単独で責任管理をしていたとしても)不正の機会や動機が欠如しますので未然に防止できるはずです。

記事に登場される会計士さんは「第三者の目が必要」とおっしゃっておられますが、もちろんそれがベストだと思います。ただ、会計専門職の導入を必須とする前に、もう少し監査の重要性を組織として認識することが先ではないかと。第三者の目を必要とするのであれば、むしろ当該組織の内部統制や監事監査の様子を第三者が評価する、といったことも検討してはいかがでしょうか。内部統制の面では、先ほど述べたように権限分掌やローテーション、ダブルチャックの様子、そして監事監査においては、その監査の状況をきちんとモニタリングするだけでも違うと思います(内部統制システムと監事監査の総合的評価)。

こういった事件が発覚して「監査人や監査役は何をしていたのか」という批判が出てきますと、「チェックすべき資料について偽造されてしまえばお手上げ、見抜くことは困難」といった理由が関係者から漏れてきます。しかしそれでは思考停止に陥ってしまいます。今回の事件では、本当に関連証拠を偽造されてしまえば監査はお手上げだったのかどうか、検証する価値のあるものだと考えています。

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2013年12月19日 (木)

社外取締役制度と平田オリザさんの「演劇入門」

(12月19日午前 追記あります)

私も社外取締役に就任してもうすぐ1年(もう一社は半年)になるわけでして、ときどき「社外取締役としての経験談を聴かせてください」といったご質問も受けるようになりました。とくに会社法改正法案が来年の通常国会で成立する(たぶん)・・・といった状況になり、上場企業各社において「自民党による修正案」が話題になっているところなので、質問される方も真剣そのもの。

法律家的な関心(たとえば社外取締役を選任することが相当でない理由の説明に関する会社法条文への格上げ等)は、法律雑誌における著名な先生方の解説に譲るとして、社外取締役が本当に企業にとって有用な存在なのか、ということへの独断的な見解は、私自身も少々持ち合わせているところです。これは学者の先生方や経済団体の方々がおっしゃる理念的なものとは少し違います。「制度理念の実践とは少し違うかもしれないけれど、それでもこういった重要な側面はあるかなぁ」という類のお話でして、一社あたり月に2回ほど会社の重要議案の審議に対面する者として、結構まじめに考えているものです。

当ブログにトラックバック(もはや死語に近い?)していただいているのですが、あまり目に触れないかもしれないので、あえてご紹介しますが、このあたりのことを活字フェチ弁護士さんがブログで書かれており、私もいたく感じるところなので、(ご本人のご了解を得ずに)ご紹介する次第です。賛否はあると思いますが、ぜひご一読をお勧めいたします。なるほど「平田オリザ」ですか。。。これは読まねば。とくに法律専門職で社外取締役に就任する方には向いているかもしれません。

私自身、先日のセブン&アイHD社から受けたTOB、および同社への第三者割当、といった有事についての社外取締役の役割については(かなりしんどいですけど)割とやるべきことが明確なので、それほど悩むことはありません。では、そういった有事ではなく、平時の社外取締役のあり方ではどうでしょうか。

最近、社外取締役として思うところは「この会社にとって自分が存在して(それなりに)意味があるための『出口戦略』ってなんだろう」といったあたりのことです。出口(パフォーマンスの出し方)を模索して、自分なりに存在価値を考えて、そのための今日の自分のふるまいを考える。いまの自分のふるまいを起点として、「ベストプラクティス」をはめこんでしまうと、自分の中の常識らしきものを会社に押し付けてしまうことになってしまう気がします(社外役員の常識≠世間の常識・・・、うーん、これはたしかに活字フェチ弁護士さんのご指摘のとおりかも・・・と、最近私も懐疑的になっています)。

半年ほど取締役会や執行役員会議に出席していれば、その会社の「暗黙知」がなんとなくわかってきます。何がその組織を動かしているのか、この会社がこれまで大きく成長する要因となった「お約束事」があるわけで、それは素晴らしくもあり、また新参者には異様にも思える。「社外の常識」などといった抽象的な概念で比べることへの畏れを感じます。その「暗黙知」こそ、社外役員が匂い(臭い?)として感じなければならないわけで、その匂いから自分なりの出口戦略を模索するようになります。

その場の状況から「社外取締役のベストプラクティス」に忠実にふるまう・・・、それはそれで社外取締役制度の根幹からすると正しいのかもしれませんが、それで役員会に何らかの影響を及ぼせたとしても、ではこれから先、本当に経営企画的な問題を真剣に考える為の情報が入ってくるのでしょうか?投資家に対する「アリバイ工作」以上の意味をこの会社に残せるのかどうか、とても不安になります。

活字フェチ弁護士さんは事務局と社外取締役との関係で述べておられますが、実際に就任してみると、他の社外役員との関係でも、みなさん生きてきた道が違いますから「コンテクストのすり合わせ」の必要性を強く感じるところです。そういった「コンテクストのすりあわせ」を社外取締役や監査役さんとの間でもつけていきながら、その会社における立ち位置を見つける作業ができる人・・・・・、これがまず社外取締役に向いている人ではないかな、と。。。また結論的には同業者の方に叱られそうな雰囲気になってしまいましたかね(笑)

関西系の上場会社の社長さん方は、ときどきおもしろいことをおっしゃいます。

「社外取締役ってようわからんわ。先生の言うような役割を果たしてくれるんやったら、私より高い金払って社内取締役になってもらったらええやんか。ホンマにうちの会社のことを思って辛口のこと言ってくれはるんやったら、ナンボでも頭下げて来てもらいますわ。社外なんてもったいないですやん!」

これが社外取締役制度のホンネとタテマエの妙に対する鋭いツッコミかと(^^;;

あまりのタイミングにビックリですが、今朝(12月19日)の日経新聞33面「辛言直言」で平田オリザさんのインタビュー記事が掲載されています。「対話と会話は違う」・・・なるほど。

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2013年12月16日 (月)

インサイダー取引規制にひそむ「やったもん勝ち」の穴

金融商品取引法にお詳しい方であれば、すでにチェックされていらっしゃると思いますが、11月22日に報じられていたように、イー・アクセス株をインサイダー取引によって取得した同社元会長秘書の方が、有罪判決を受けました。懲役2年6月、執行猶予4年、罰金300万円および追徴金4400万円という判決内容だそうです。しかし、その判決言渡の際、裁判官が「いまの法律だと被告人が不当に得た利益をそのまま残すことになる。早期に立法的措置を望む」との異例の法改正提案をされたそうです(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。

金融商品取引法198条の2には、インサイダー取引を犯した(刑事罰として)者については、犯罪行為によって得た財産(およびその財産による対価)を没収することができること、そして没収が困難な場合には追徴することができることが規定されています。これは刑法にある任意的没収・追徴に関する規定の特別法的な規定であり、必要的没収・追徴に関する定めです。没収できるのは「財産」であり「利益」ではありません。したがって、たとえば500万円で株を買って、1000万円で売り抜けた場合には、この1000万円について没収できることになります。

インサイダー取引によって処罰される場合、普通は売買によって利益を上げている事案が多いのですが、本件はたまたま安値で買って(上がる前に買って)そのまま保持していたところに特色があります。インサイダー取引を立件する場合、(被告人が否認することを想定して)値段が想定どおりに変化したこと、実際に被告人は利益を手にしていることを証明して「故意立証」を確実にすることが通常だと思いますが、本件では高値になってもそのまま被告人は株を持ち続けていたというものです。これまでも多数のインサイダー刑事事件の判決が出ていますが、普通は高値で売り抜けていますので本件のような問題は生じなかったのでしょうね。

上記の毎日新聞ニュースによりますと、裁判所は「現在の金商法の規定では2009年に電子化された株券について換金のための手続きが定められていないため事実上没収は困難、したがって追徴するしかないが、追徴は株式取得時における価格を基準に算定せざるをえず、したがって4500万円以上の利益がそのまま被告人の手元に残ることになる。これは法の欠缺である」と判決で述べたそうです。

金商法198条の2は「犯罪行為で得た物」ではなく「犯罪行為で得た財産」とあるので、金銭債権等についても没収は可能です。したがって株券が電子化されていても株主権を没収することは法律上は可能なのですが、その換金となりますと電子化後の株式売買は、被告人の手続き協力だけでなく、第三者の協力や口座開設などの手続きを必要としますので、これを明確にする規定がなければ刑事手続きにおけるデュープロセス違反(憲法13条)になるものと思われます(現に、組織犯罪処罰法では19条以下で金銭債権の没収に関する詳細な規定があります)。したがって金商法においても、犯罪で得た財産が株主権の場合には、これを換金するための手続きに関する特別の規定がなければ事実上没収は困難、ということになります。

さらにやっかいなのは追徴について、株式取得時の価格を基準として算定しなければならないということです。このあたりは昭和52年12月22日最高裁判決におけるゴルフ会員権を没収・追徴の対象とした場合に関する考え方が参考になるかと(裁判の公判終結時を基準とすべし、との少数意見もありますね)。株価には変動がつきものですし、時価がインサイダー取引によるものとは必ずしも言えないので、過度に残虐な刑罰にあたる(比例原則)可能性もある、というのが理由でしょうか。いずれにしても、現行の金商法のままだと、インサイダー取引は「やったもん勝ち」の可能性が残っている、ということになりそうです。

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2013年12月13日 (金)

法律家と芸術家の接点を求めて-日展不正審査第三者委員会報告書

第三者からの情報提供をもとに、10月30日の朝日新聞朝刊でスクープされた日展の不正行為疑惑ですが、本日(12月12日)公益社団法人日展のWEB上に日展第三者委員会報告書の全文が公開されました。第41回日展の第5科(書)の篆刻(てんこく-印章による書画)部門における審査において、事前に会派別に入選数が割り当てられており、審査の公正が害されている、との疑惑に関する調査結果です。元最高裁判事でいらっしゃる弁護士の方を委員長として、多くの弁護士や有識者の方々が委員ならびに調査担当者として関与されていたようです。

報告書を読みますと、調査対象事実について、不正疑惑が強く推認されるとのことで(ただし書部門であり、日本画や洋画、彫刻など、他部門では認められなかったそうです)、当初の情報提供された事実がほぼ間違いないとのこと。告発で「天の声」とされた著名な芸術家の方にもヒアリングをされたようですが、その方は強く否認をされたそうですが、結局のところ、組織内部での派閥争いが原因のようです。第三者委員会はヘルプラインは設置しなかったけれども、複数の情報が第三者委員会に寄せられ、その事実についてもほぼ精度の高いものであったことが記載されています。第三者委員会が設置された後も内部告発があった、ということで相当に根深いものがありそうです。

芸術家の世界の社会通念や正義について、法律家がどこまで踏み込めるのか・・・、とても関心を持ちましたが、一般企業における不正行為を認定するのと同じく、比較的淡々と証拠に基づいて事実を認定しているように思えました。また、芸術の世界のこととはいえ、国民の信頼を大きく裏切るような組織運営は許容されないとして、再発防止策の提言にもあえて踏み込んでいます。長年の師弟関係に基づく芸術の世界のしきたりのようなものについても、第三者委員会がどう切り込めばよいのか・・・、かなり悩まれたところもあるのではないでしょうか。そのような悩みが、報告書最後に添付された「委員長所感」や公益社団法人日展第三者委員会規則の掲載などに出ているように思えました。

しかし、芸術の世界においても、内部告発が大きな影響力を持つようになったということでしょうか。組織に大きな支配抗争が生じている場合、内部告発リスクをいうものは、当然に認識しておく必要がありそうです。

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2013年12月12日 (木)

社内ガイドラインの作成は企業不祥事の未然防止に役立つのか?

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズです。昨日(12月10日)の日経朝刊に、5日に逮捕者を出してしまったドイツ証券による厚生年金基金への過剰接待問題についての記事が掲載されていました。AIJ事件の後も、懲りずに過剰接待を続けていたのは、同証券の営業担当者が過剰接待禁止に関する社内ルールを無視して突っ走ったことが問題だったと、監視委員会幹部の話として紹介されています。

食品偽装事件の防止のために、今後は各ホテル、レストラン等が社内ガイドラインを作成して食品の虚偽表示問題を未然に防ぐことが報じられています。「上から規制」に限界がある以上、下から規制の典型としての社内ルール作りが推奨されるのは当然です。しかし、本当に社内ガイドラインを作成すると不祥事は防止できるのでしょうか?

先のドイツ証券の問題のように、いくら社内ガイドラインを策定したとしても、残念ながら不祥事はなくならないと考えます。たしかにドイツ証券の場合は逮捕されるという事態なので、確信的な社内ルール違反だったのかもしれません。しかし最初から確信的ということはないわけで、最初は「これくらいなら過剰接待にはならない」といった判断だったと推測します。昨年公募増資インサイダーで課徴金の対象とされた某信託銀行の社員の人たちは、証券会社の接待攻勢にあたり「これは証券会社と銀行との職員の関係からではなく、個人的な友人関係からの接待だ」と勝手に解釈したり、「たとえインサイダー情報を教えてもらったとしても、自分たちが扱うポートフォリオのごく一部にすぎない」と勝手に合法化したうえでの不正行為でした。

なぜこのように勝手な解釈がまかり通るかといいますと、不正な行為とそうでない行為は境目がなく連続性を持った概念だからです。また、その境目は客観的なモノサシでは測れないからです。「過剰接待」とそうでない接待、偽装とそうでない表示、「やらせ」と「許される演出」、「粉飾」と適正な会計処理はいずれも境目が見えない連続性のある概念です。ガイドラインを策定したとしても、解釈が伴う以上は、その判断権者のバイアス(偏見)のかかった解釈は避けられません。とくに経営者からノルマを課された営業担当者からすれば、「ガイドラインに書いてないからだいじょうぶ」と考えるのが当然かと。

もちろん不祥事がなくならない、ということと、ガイドラインが役に立たないというのは別です。ガイドラインによってコンプライアンス経営への現場の関心が高まることは事実です。ただ、ガイドラインが不祥事防止に役立つためには、上記のように、不正か否かは境目がみえにくい概念であること、自分に課せられたノルマによって判断が正常にできなくなってしまうことを理解しておく必要がありますし、またバイアスリスクの存在について注意喚起をしてくれる監視者も必要です。

適法な行動と不正な行動との境目がないことのリスクを理解していても、かならず不正行為は起こります。ただ、注意喚起やリスクの認識によって行動は不正と適法の間で振り子のように動くので、大けがはしません。しかし、このリスクの認識が欠如していたり、注意喚起を行う者がいない組織では、残念ながら振り子運動にはならず、気が付いたら誰がみても違法行為になってしまっていた、ということで不祥事が発覚します。したがって社内でガイドラインを策定した場合には、ガイドラインが絶対のモノサシになるのではなく、そのガイドラインを活用する社員の意識、組織の意識の変革がなければ役に立たないものと考えています。

今後、企業の接待交際費の一部損金処理が認められるようになるそうですが、公務員(みなし公務員)への利益供与問題だけでなく、接待交際費は不透明なお金の流れにつながるものとして、多くの企業不正の温床となります。単純に会社資金の流用防止のためではなく、社内に不幸な犯罪者を作らない、というためにも、ガイドラインの策定と共に、交際費を使う社員の意識改革も企業の重要な内部統制だと思います。

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2013年12月11日 (水)

景表法改正の動き-課徴金制度導入検討とは驚き(◎o◎)!

このたびの一連のメニュー虚偽表示問題を契機として、消費者庁は景表法の改正を検討するそうです。都道府県が排除措置命令を出せるように権限委譲がなされること、景表法違反の有無を他省庁も調査する権限を持つこと等が改正の中心テーマだそうですが、なによりも驚いたのが「景表法違反に課徴金制度を導入する」といったことも検討されるそうです(たとえば時事新聞ニュースはこちら)。消費者団体からの強い要望とのこと。

正直、このたびの食品偽装事件を契機に、景表法に課徴金制度導入が検討されるとは夢にも思いませんでした。たしかに、平成23年ころから消費者庁では「行政による経済的不利益賦課制度」について、一部の研究会で検討がなされていましたが、未だ「研究」の域を超えたものではなく、現実味を帯びたものではないと理解をしていました。

まだ感想めいたことしか書けませんが、上記時事新聞ニュースにも誤解があるとおり、課徴金は制裁のように思われていますが、原則として罰則(ペナルティ)ではありません。あくまでも不当な利益の収奪ということです。だからこそ行政処分の一種です。レストランのメニュー偽装があった場合、果たしてレストラン側がいくらの不当な利益を得ていたと捉えるのでしょうか?たとえば近鉄グループのホテルでは、メニューに誤表記はあったけれども、お客様から頂戴した料金に見合うサービスは提供していたので返金には応じない・・・という姿勢でした。つまり不当な利益を得ていたわけではない、ということだと思います。

また景表法違反による行政処分については、これまで無過失責任とされていますが、課徴金制度も無過失でも処分の対象となりますので親和性が高いことは間違いありません(これは課徴金がペナルティではないからです)。しかし世間一般では課徴金は罰則だと理解されていますので、BtoCの各企業としては「偽装ではなく誤表示」だとしても課徴金処分を受けてしまうおそれがある、ということです。消費者を騙すという意思がなくても、現場のミスによって課徴金を課され、ブランドイメージを傷つけてしまうというのはなんともおそろしい気がします。もちろん、公認会計士法上の課徴金制度のように、行為者の主観的な帰責性によって課徴金の金額が変わるという、実質的には過失責任に基づくペナルティのような課徴金制度も存在しますが、市場の健全性確保のために高い職責を負う会計士と、BtoCの企業とを同列に比較できないものと思います。

さらに、課徴金制度は罰則ではなく、不当な利益の収奪が目的なので、いわゆる行政法上の「羈束行為」です。つまり行政の裁量によって課徴金を賦課すべきかどうか、裁量の余地はないということです。景表法違反の事実を発見したら、かならず処分を下さねばならないということになりますが、調査権限を持つ省庁に内部告発があれば、かならず慎重に調査が行われることになります。これは調査権限を持つ省庁にとっては負担が大きいのではないでしょうか。

企業側からしても、景表法に課徴金制度が導入されることは不正リスクがひとつ増えることになります。なんといっても「法令違反」が目に見える数字になることで、企業の損失が明確になるわけですから株主代表訴訟を誘発する要因になります。さらには訴訟でも「ブランド価値維持義務」などが認定されるようになりましたので(ただし契約上の信義則義務ですが)、課徴金処分を受けることが企業のブランド価値を低下させた、と評価される可能性もあります。これは当該企業だけではなく、親会社の役員責任にもつながる可能性もあります。

上記は厳密に調査したわけではなく、あくまでも私の感想に基づくものなので、不正確なところがあるかもしれません。しかし、このように景表法に課徴金制度を導入することは多くの問題点が存在しますので、ニュースなどでも、消費者庁としては慎重な配慮をする、と報じられておりまして、消費者委員会で十分に審議を行うようです。いずれにしても、景表法に課徴金処分を導入するについては、消費者庁には運用していくだけの人的・物的資源に乏しいわけですから、「上から規制」は限定的にならざるをえないはずです。企業としては「ピンポイントで上から規制」の対象にならないようにすることが必要なわけでして、9月2日に当ブログでも書きましたが、今後ますます企業の内部統制システムの整備・運用が求められる時代になりそうです。

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2013年12月 9日 (月)

メディアが問う!わが国の会計および監査の課題(シンポ登壇のお知らせ)

Aogaku090週末より、たくさんのコメントをいただいているにも関わらず、お返事が遅れておりまして申し訳ございません。非常に有益なご意見ばかりで、私自身も今後の研究の参考にさせていただきたいと思います。

さて、このたび、会計及び監査に関する経済記事の執筆に関わっておられる第一線のジャーナリストの方々が、どのような視点でわが国の会計及び監査を見ているのか、実際に執筆された最近の会計・監査の事案をもとに、会計・監査の課題について議論をするという、これまであまり試みられてこなかったシンポジウムが開催されます。

青山学院大学大学院会計プロフェッション研究センター主催「第8回公開シンポジウム-メディアが問う!わが国の会計および監査の課題」でして、日時は12月21日(土曜日)午後2時より、場所は青学の青山キャンパス本多記念国際会議場です。(ご案内は青学会計プロフェッション研究センターのこちらをどうぞ)。

日経、朝日、東京、年金情報等マスコミの各記者の方々に加え、金融ジャーナリストの伊藤歩氏もパネリストとして登壇されます。それぞれ粉飾決算事件やIFRS問題、AIJ投資顧問事件、監査法人の不祥事問題等の報道に関わってこられた経験をお持ちの方々が、日本の会計・監査問題をどのように語られるのか、たいへん興味深いシンポになるものと思います(いろいろと辛口の意見も飛び出すと予想しています)。会計・監査に関するシンポのコーディネーターといえば、やはりこの人(八田進二青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)でしょうね。

実はこのシンポ、毎年シンポに先立つ「特別講演の部」がございまして、今回は私が1時間ばかり講演をさせていただくことになりました。テーマは「わが国のメディアは本当に真実を伝えているのか?」という、かなりチャレンジングな題目です。お話する内容は、①企業不祥事報道にみるメディアの力、②ブロガーからみた情報双方向時代における国民の「真実への関心」、そして③司法、会計、監査とメディアの力、といったことです。こうやって骨子だけを掲げますと、バラバラなお話のように思えますが、実はきちんとひとつの流れになっておりまして、最後には会計や監査の話題を取り扱うメディア(主にマスコミ)に対する私の提言で締めくくる・・・というものです。決して会計のご専門の方々向けにお話するのではなく、きわめて平易な言葉で一般の方々向けにお話をするつもりです。

私個人としては、いつも不正調査などで「ひとりひとりの社員の方々はこんなに誠実でまじめな方なのに、組織の構成員となってしまうと、どうしてこんな悪事を平気でやってしまうのだろう」と疑問を抱くときがあります。マスコミの記者の方々についても、おそらく魅力的な方が多いはずだし、編集権の独立という原則があるのに、どうしてマスメディアの構成員という立場になってしまうと、自分では納得できないような記事を書かざるを得ないこともあるのでは・・・といった疑問も湧いてきます(たぶん、そんな疑問にお答えしていただけるはずもありませんが・・・)。おそらく参加者それぞれ、いろんな視点で楽しめるシンポになるのでは、と今から期待をしています。

前回、前々回の特別講演者の方々とのネームバリューの差は歴然としておりますし(東証CEO、元金融庁長官等)、コテコテの関西人にとって、クリスマスの青学・・・というのは、なんともアウェーな雰囲気で、若干不安を感じておりますが、拙著「法の世界からみた会計監査」でも述べているとおり、少しでも「開かれた会計・監査の世界」の形成についてお役に立てましたら幸いです。申込締切は12月12日までとなっておりますので、ご興味がございましたら、ぜひお上記リンク先より申込みの上、クリスマス(21日)の青学キャンパスまでお越しくださいませ。

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2013年12月 6日 (金)

監査役の平均任期はガバナンス報告書で開示すべきである

昨日(12月4日)は、一般社団法人監査懇話会にお招きいただき、2時間ばかりですが監査役と監査人との連携についてお話させていただきました。監査役の方がお集まりになる組織といえば日本監査役協会が著名ですが、こちらも監査役および元監査役の方々300名ほどの会員組織でして、WEBページをご覧いただけばおわかりのとおり、たいへん活発な活動をされています。月1回の研修の講師は、12月が私でしたが、前月は野村修也先生、そして来月はIFRSでおなじみのあずさ監査法人の山田辰巳先生だそうで、(私以外は)毎月なかなか豪華な顔ぶれです(セミナー講師の一覧はこちら)。また、昨年もお招きいただきましたが、ここの会員の方々はかなり監査役制度について先進的な意見をお持ちの方も多いようで、手ごわい理論派の方が多い、というのが昨年来の私の印象です。

さて、講演終了後、約20名の監査役、監査役経験者の方々との食事会にもお招きいただいたのですが、そこでたいへんショッキングなお話をお聴きしました。金融機関の監査役の方々が1期4年の任期を全うすることなく退任される例が多いという話をしたところ、実は懇話会に参加しておられる監査役経験者の方の半数以上が「私も任期4年を全うしていない」ということでした。ほとんどの方が常勤監査役をされていたようですが、会社の内規に従って中途退任を余儀なくされたとか、会社の人事政策に従って中途で退任せざるをえなかったとのお話が出ていました。とりわけ取締役の任期が定款で1年とされている会社などでは、監査役が4年も役員として就任しているのはバランスを欠く、との社長からの説得によって辞めざるを得なかった、といった(耳を疑うような)お話も。

そもそも監査役の職務の独立性を確保するために、会社法では1期4年という監査役の任期が定められています。株主からも、最低4年は身分が保証されることを前提として、独任制機関としての監査を行うことが期待されている(信認されている)はずです。にもかかわらず、会社の慣行や人事政策、取締役の任期とのバランスといった理由で退任を余儀なくされるというのは、「一身上の都合」ではなく「会社の都合」によって辞めさせられるというのが実情ではないかと。適時開示の辞任理由に偽りあり、ということです。会社法によって監査役の権限は強化されているのですが、こういった監査環境の下では適切な監査権の行使は期待できません。

もちろん監査役制度の在り方は、各社それぞれの社風や慣行、グループ会社管理の手法などによって異なるわけですから、かならずしも「任期が短いのはけしからん」とまでは言えません。ただ、その会社が監査役制度に何を期待しているのか、人事政策と監査役監査とはどちらを優先しているのか、ということは一般投資家にも「企業のリスク管理」を知る上で重要な情報だと思います。したがって、たとえば証券取引所の有価証券上場規程にあるコーポレートガバナンス報告書の中で、過去10年以内に退任された社内監査役の方々の平均任期を開示するべきだと考えます。

平均任期が4年以上であれば監査役に適任者を選ぶ社風が認められるものと考えられますし、また2年以下ということであれば、そもそも取締役になれなかった方のポストではないか、親会社の人事政策上の待機ポストに過ぎないのではないか、といった推定が働きます(そうなりますと、社長と対立する可能性もあるような監査役の職務執行は期待できないのでは・・・と思われます)。企業集団内部統制が話題になっている昨今、グループ会社の監査役の平均任期についても関心がありますが、そこまではちょっと煩雑すぎるきらいもありますので、せめて親会社の監査役さんの平均任期だけでも開示の対象となれば投資家に対する貴重な情報提供になるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の優劣は、営業政策や商品開発のように目に見える業績によって判断できるものではありません。つまりリスク管理の視点からは「存在価値」に投資するのではなく「期待価値」に投資せざるをえないのです。将来に対する期待価値を推定できるだけの情報は開示されるべきであり、そのモノサシのひとつが監査役の平均任期だと思います。

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2013年12月 5日 (木)

食品偽装事件と役員の法的責任(善管注意義務違反)

そのうち食品偽装事件を起こした企業の役員に法的責任が認められるか・・・という点にスコープした記事が出てくるのではないかと予想していましたが、案の定、読売新聞(関西版)に登場しました。関西の名門リーガロイヤルホテルを運営するロイヤルホテル社(東証2部)の食品偽装事件をテーマとして、食品偽装表示事件の公表に消極的だった企業の役員について、法的責任(善管注意義務違反)が認められるかどうかを検証するものです(読売新聞ニュースはこちら)。

ロイヤル社では、今年6月、コンプライアンス担当の専務さんが、同業他社の偽装事件をきっかけとして「自社でも同様のことが生じているのではないか」と思い、社内調査を実施。その結果、案の定、メニュー偽装が発見され、専務さんは社長さんに事実を報告されたそうです。しかしその時点で取締役会への報告は一切されずじまい。その後、10月の阪神阪急ホテルズさんの事件をみて、公表を決意。今年11月14日の取締役会で初めて全役員に報告され、11月18日に消費者庁へ報告、その後ただちに公表するという予定も報告されたそうです。その際、他の取締役の方々からは「なぜもっと早く報告しなかったのか」と質問があったようですが、専務さんは「社内調査が済んでいない状態で公表することはできなかった」と回答されたそうです。

さて問題は、その11月14日の取締役会の後ですが、中間決算の説明を行う際、記者さんから「おたくのホテルでは(メニュー偽装は)大丈夫か?」との質問があり、専務さんは「以前からチェック体制はとっている」と回答し、偽装の存在を否定しました(実際にはその5日後に偽装の事実を公表することになります)。11月19日の偽装公表時には、専務さんが「公表に対する認識が甘かった」と説明。

上の読売新聞の記事では、企業法務で著名な弁護士の方が、中間決算の記者会見の様子を問題視され、担当の専務さんがあえて事実に反する答弁を行ったのであれば、取締役の善管注意義務違反の可能性が高いとされています。たしかに積極的に虚偽の答弁を行ったとすると、世間がメニュー偽装事件に関心を抱いていた時期だけに、この時期における虚偽説明は法的責任に結びつく可能性もありそうです。ただ、専務さんの法的責任がどうであれ、私が疑問に思うのは、今年6月の時点で、なぜ専務さんは取締役会に報告をしなかったのか、さらに会社法357条で取締役は会社に対して著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、ただちに監査役に報告しなければならないとあるにも関わらず、どうしてメニュー偽装の事実を監査役に報告しなかったのか、という点です。コンプライアンス担当役員ということであれば、全貌が判明していない時期であったとしても、せめて監査役と他の取締役との間で、事実を共有しておく必要があったのではないでしょうか。

さらに問題は、この11月14日時点で、偽装を知った他の取締役、監査役さん方の法的責任問題です。もはやこの時期は、阪急阪神ホテルズさんの事件を含め、食品偽装事件が世間で注目されていた時期です。中間決算報告で、記者さんから質問が出ることは想定できたのではないかと。取締役会終了後の会見で、もし聞かれた場合にはどう回答すべきか・・・ということは議論されなかったのでしょうか?消費者庁への報告までは黙っておこう・・・ということで合意されたのでしょうか。「すぐにでも公表せよ」といった意見はどなたからか出たのでしょうか。このあたりの事実関係については(ダスキン事件の株主代表訴訟判決との比較で)とても関心を持つところです。むしろ、「この程度の食材とメニューの不一致程度なら、とくに問題視する必要はないのでは?との「リスク感覚の乏しさ」があったのではないかと思います。

もちろんこのたびの公表に消極的だったということで、単純に会社の損害が発生したとみるのは早計です。ロイヤル社のレピュテーションが毀損されたといえるためには、第二、第三の不祥事が発生しなければ顕在化していない、ともいえそうです。ただ、11月14日の時点で、ロイヤル社の役員さん方は、明らかに有事になっていたものであり、もはや経営判断の裁量の幅は著しく狭くなっていたことは間違いありません。阪急阪神ホテルズさんの一連の経過があったので、後出しじゃんけんではなく、有事の対応が求められていた時期だと思います。したがって、たとえ訴訟リスクは乏しいかもしれませんが、偽装が判明した時点における取締役、監査役の行為規範について検討しておくことは有益かと思います。このあたり、他社さんでも公表に消極的だったところが散見されましたので、食品偽装事件と役員の法的責任の関係を、それぞれの会社でお考えいただいたほうがよろしいのではないかと。

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2013年12月 4日 (水)

オリジナルの役員セミナー、1社決定!(引き続き募集中)

昨日、私が独立社外取締役および第三者委員会委員を務めておりますニッセンホールディングスのTOB賛同意見ならびに第三者割当増資に関するリリースが出ました(お相手はいずれも7&iネットメディア社です)。予想どおり(当然ですが)本日の値上がり率第1位でしたが、買付株数の上限が50.7%ということなので、今後の値動きがとても気になります。公開買付をされる側の社外取締役としては、ここで第1ステージは終わりですが、今後第2ステージ、第3ステージとまだまだ大切な役割が控えていますので、年末年始、体調を崩して関係者の皆様にご迷惑をかけないよう頑張っていきたいと思います。

個別案件の内容については一切お話できませんが、適時開示までマスコミからのリークは一切ありませんし、また昨日の終値がつくまで、不自然な取引もなかったようです。資本業務提携の内容を詰める段階で、次第に情報を共有する範囲が広くなりますが、それでも情報管理が徹底されていることを示すことができました。また、当社側の意思決定の内容を知るべきではない立場の当社役員、たとえば大株主出身の社外取締役や7&iホールディングス社の社外取締役を兼ねている当社の社外監査役の方などについては、本当に厳しい情報遮断が行われ、取締役会への欠席を含め、一切の経営判断過程からシャットアウトされました。一般株主の利益保護という意味においては、本当に冷徹なまでにデュープロセスが貫かれたことだけはお伝えしておきます。

さて、2週間ほど前に、こちらのエントリーでNPB統一球仕様変更問題を題材とした役員セミナーを企画しましたので、社内セミナーしませんか?と募集させていただきました。その結果、数社よりお問い合わせいただきましたが、このほどやっと第1号のセミナー開催が決定いたしました(どうもありがとうございます。<m(__)m>ちなみに開催は来年2月です)。東京に本社のある上場会社のグループ会社さん(非上場)ですが、海外駐在の取締役の方以外はお集まりいただけるようなので、私自身も楽しみにしています。まだまだ募集をさせていただいておりますので、もしご興味がございましたら当職までメールにてお尋ねくださいませ。

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2013年12月 2日 (月)

食品偽装リスクを平時に認識していた企業に学ぶ不正リスク管理

食材の虚偽表示問題について、消費者庁は企業の内部統制システムの整備を強化する方向性で景表法改正を検討していると報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。メニュー表示のチェック部門の設置や表示に関する責任者の設置など、社内の監視体制の強化が義務つけられる可能性があるようです。

食品偽装問題が景表法の改正問題にまで発展する事態にまで至ったわけですが、私自身もあるホテルのメニュー偽装問題のアドバイザーとして関わった印象からしますと、実際のところ経営者がメニュー偽装という不祥事リスクの存在を認識していなかったように感じます。百貨店にせよ、外食にせよ、産地偽装のように他人の営業努力にフリーライドすることの問題は理解していたと思いますが、そこに至らない程度の不一致は「許された演出」と認識していたところも多かったのではないでしょうか。とくに社内調査の結果として、メニューと食材の不一致が存在したことが判明した企業のうち、どれだけの企業が不一致を公表したのでしょうか。おそらく外食チェーンを含め、公表せずにこっそりとメニューを変えただけの企業も多かったのではないかと推測します。

もちろんメニュー偽装は消費者、顧客の方々に対する裏切り行為であることは当然です。どこの企業でも、社内でもメニュー偽装が判明した時点で、すぐにメニューを改定し、今後は同様のことが起きないように再発防止策を検討しています。しかし、果たして「食材とメニューに不一致が生じるリスク」というものを、平時に(今回の問題が大きく報じられる前に)どれだけの企業が重大リスクとして認識していたかと言えば、あまり危機意識を持っていた企業は少なかったのではないでしょうか。

食材原価をできるだけ低くして、一方できるだけ美味しそうなメニューを表示して顧客に喜んでもらうことについてはどこの企業でも同じ意識で競争しています。問題は、食材とメニューの不一致について判断する場合、「許される演出」と「許されない偽装」の境界線は極めてあいまいであり、また人によって判断が変わりうるということです。したがって、景表法を改正して、上からの規制で食品偽装を規制したとしても(そもそも境界線があいまいなわけですから)同じ問題は残るわけで、法令違反の有無よりも、顧客の信頼を裏切る行為か否かが問題となった今回の事件と同様、今後も食品偽装不祥事は間違いなく発生します。

もし従来から経営者がメニュー偽装が大きな不正リスクであるということを認識していたのであれば、今回の不祥事は起こしていないはずです。なぜなら、この「境界線があいまい」ということのリスクを知っていて、常に現場に警告を発していたからです。警告を発していれば、ときどきは偽装の疑いがある判断にブレたとしても、誰かの指示でまた正常なラインにまでブレが戻ってきます。しかし不正リスクの重大性を認識していない組織では、現場はできるだけ原価を抑えること、顧客に喜ばれるメニューを表示することがミッションですから、歯止めがなければこのブレが次第に偽装の色が濃いゾーンにまで傾いてしまい、社内の常識・社外の非常識の様相を呈してきます。気が付いた時には、社内から内部告発がなされていた・・・ということで問題が発覚します。

大阪の名門のホテルが「社内調査で不一致が判明したが、公表の必要があるとは思ってもいなかった」と正直に会見で述べておられましたが、これは正直な感想かと思います。今回の食品偽装問題では、企業の有事対応に焦点があたることが多かったのですが、では平時からどうすればよかったのか・・・ということを改めて考えると、意外に未然防止がむずかしいことがわかります。おそらく誰か個人のミスに起因する不祥事ではなく、組織の構造的な欠陥に起因する不祥事だからです。顧客から信頼を失ってしまうような不祥事とは、いったいどのような場面なのか、平時から不正リスクを洗い出して評価することの重要性を痛感します。とくに誰かの法令違反やミスではなく、どのような行為が企業風土を映し出す鏡になってしまうのか、ということに思いを巡らすことが大切だと思います。

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