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2013年12月 2日 (月)

食品偽装リスクを平時に認識していた企業に学ぶ不正リスク管理

食材の虚偽表示問題について、消費者庁は企業の内部統制システムの整備を強化する方向性で景表法改正を検討していると報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。メニュー表示のチェック部門の設置や表示に関する責任者の設置など、社内の監視体制の強化が義務つけられる可能性があるようです。

食品偽装問題が景表法の改正問題にまで発展する事態にまで至ったわけですが、私自身もあるホテルのメニュー偽装問題のアドバイザーとして関わった印象からしますと、実際のところ経営者がメニュー偽装という不祥事リスクの存在を認識していなかったように感じます。百貨店にせよ、外食にせよ、産地偽装のように他人の営業努力にフリーライドすることの問題は理解していたと思いますが、そこに至らない程度の不一致は「許された演出」と認識していたところも多かったのではないでしょうか。とくに社内調査の結果として、メニューと食材の不一致が存在したことが判明した企業のうち、どれだけの企業が不一致を公表したのでしょうか。おそらく外食チェーンを含め、公表せずにこっそりとメニューを変えただけの企業も多かったのではないかと推測します。

もちろんメニュー偽装は消費者、顧客の方々に対する裏切り行為であることは当然です。どこの企業でも、社内でもメニュー偽装が判明した時点で、すぐにメニューを改定し、今後は同様のことが起きないように再発防止策を検討しています。しかし、果たして「食材とメニューに不一致が生じるリスク」というものを、平時に(今回の問題が大きく報じられる前に)どれだけの企業が重大リスクとして認識していたかと言えば、あまり危機意識を持っていた企業は少なかったのではないでしょうか。

食材原価をできるだけ低くして、一方できるだけ美味しそうなメニューを表示して顧客に喜んでもらうことについてはどこの企業でも同じ意識で競争しています。問題は、食材とメニューの不一致について判断する場合、「許される演出」と「許されない偽装」の境界線は極めてあいまいであり、また人によって判断が変わりうるということです。したがって、景表法を改正して、上からの規制で食品偽装を規制したとしても(そもそも境界線があいまいなわけですから)同じ問題は残るわけで、法令違反の有無よりも、顧客の信頼を裏切る行為か否かが問題となった今回の事件と同様、今後も食品偽装不祥事は間違いなく発生します。

もし従来から経営者がメニュー偽装が大きな不正リスクであるということを認識していたのであれば、今回の不祥事は起こしていないはずです。なぜなら、この「境界線があいまい」ということのリスクを知っていて、常に現場に警告を発していたからです。警告を発していれば、ときどきは偽装の疑いがある判断にブレたとしても、誰かの指示でまた正常なラインにまでブレが戻ってきます。しかし不正リスクの重大性を認識していない組織では、現場はできるだけ原価を抑えること、顧客に喜ばれるメニューを表示することがミッションですから、歯止めがなければこのブレが次第に偽装の色が濃いゾーンにまで傾いてしまい、社内の常識・社外の非常識の様相を呈してきます。気が付いた時には、社内から内部告発がなされていた・・・ということで問題が発覚します。

大阪の名門のホテルが「社内調査で不一致が判明したが、公表の必要があるとは思ってもいなかった」と正直に会見で述べておられましたが、これは正直な感想かと思います。今回の食品偽装問題では、企業の有事対応に焦点があたることが多かったのですが、では平時からどうすればよかったのか・・・ということを改めて考えると、意外に未然防止がむずかしいことがわかります。おそらく誰か個人のミスに起因する不祥事ではなく、組織の構造的な欠陥に起因する不祥事だからです。顧客から信頼を失ってしまうような不祥事とは、いったいどのような場面なのか、平時から不正リスクを洗い出して評価することの重要性を痛感します。とくに誰かの法令違反やミスではなく、どのような行為が企業風土を映し出す鏡になってしまうのか、ということに思いを巡らすことが大切だと思います。

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コメント

山口先生
いつも、本ブログを通じ、勉強の機会をいただき、感謝申し上げます。
さて、
今回の記事の中で、「『許される演出』と『許されない偽装』の境界線は極めてあいまい」との一文に、強いインパクトを感じました。
それは、監査役スタッフとして業務を行う際、「法令及び定款に適合しているか」という視点を、意識するようにしている中、「境界線が極めてあいまい」という事案については、他の視点が必要になってくると思えたからです。
これは、メニュー表示だけにとどまらず、テレビ番組や新聞記事、小売り、サービス業など、「BtoC」の事業には、大なり小なりすべからく必要になってくる視点のように思えます。
(テレビ番組のヤラセは「許されない偽装」、スーパーのチラシの「うまみタップリ!」は「許される演出」?)

法令・定款への適合性以外の視点について、ご教示いただけましたら幸甚です。

投稿: 監査役スタッフF | 2013年12月 3日 (火) 09時26分

会計でも「境界線が極めてあいまい」な事項、俗に言う「グレーゾーン」が生じることがあるのですが、現場としては「グレー」なことは(上司を通じて最終的には)経営者に報告し判断を仰ぐ、というのが適切だと私は考えています。

(会計の話ではなく、食品の虚偽表示の話ですが)とんかつの和光が「客が食べ残したキャベツやお新香を使いまわしていた」として報道がなされ、運営会社のHPにも「食材の再使用についてお詫びとお知らせ」が掲載されました。ところが、この件、新聞社は記事にするのを一度ためらったそうです。というのは、この「食材の再利用」がキャベツだったのですが、提供方法が「別の大皿に盛り付けられて、トングで取り分ける」方法だったというのです。これでは回転すしの生姜や牛丼屋の紅生姜のほうがよっぽど「使いまわし」ではないかというのです。
(参照記事:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131129-00000007-jct-soci)

これを聞くと私の感覚としては「使いまわし」と言えるのかと考えますし、そのようにとらえる方が多数派のようです。この件、内部告発にて新聞社に寄せられたそうですが、当然、経営側も「一般感覚として使い回しと言えるのか」と考えたと思います。ただ、発表に至ったのは「昨今、食品の虚偽表示が問題となっている中、(限りなくホワイトに近いグレーだと思うが)自社作成マニュアルに反しているし、きちんとお客様にご説明しておくべきだ」という判断が働いたのだと思います。

このあたりの判断は経営陣が企業の説明責任や、二次不祥事の発生の抑制ついてどう考えているかにかかっていると思います。もちろん何でもかんでも報告・判断を仰ぐでは自らの職務能力を疑われかねませんが、自らが発見したグレーがクロに近いと考えるのであればあるほど、現場としてはきちんと報告し判断を仰ぐのがよいと考えます。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月 3日 (火) 18時59分

何度も失礼します。

食品虚偽表示問題については経営学(戦略論、組織論、意思決定論、動機付け(モチベーション)理論などなど)の視点からも非常に興味深い問題であり、示唆に富む情報が得られると考えています(「企業法務」のカテゴリからは外れるかもしれませんが…)。

今、『学習する組織』(ピーター・M・センゲ、枝廣淳子ほか訳、英知出版2011)を途中まで読んでいるのですが、センゲが主張している理論は食品虚偽表示の問題に当てはめると企業はどうすべきだったのか、あるいはこれからどうするべきか、と考えを巡らせながら読んでみるとこれまた興味深いです。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月 3日 (火) 19時57分

監視体制の強化、が単純なあら探し機能にならないように気を付けたいものですね。境界線の曖昧なところに収益のタネがあることを認識したうえで、営業を萎縮させることなく、境界線の見極めが消費者の視点や法の趣旨とずれないようにするバランサーのような機能が求められると考えます。

投稿: JFK | 2013年12月 3日 (火) 21時32分

いつも楽しく(?)拝見しています。

トップが認識不足だったのであろうという点は理解できます。が、たとえば水産庁がJAS法対応のためにわざわざ呼称ガイドライン(http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/hyouzi/meisyou.html)を出しています。
「許される演出」はあくまで演出。業界向けのこうしたガイドラインがどの程度分かりやすいものか私には判断できませんが、「既存の規範」がある場合は演出では済まされないと感じました。

投稿: とある法務 | 2013年12月 3日 (火) 22時14分

皆様、ご意見ありがとうございます。
11月28日の読売新聞関西版の記事をご存じでしょうか?
某名門ホテルの「公表する必要はなかった」という考え方に対して、某著名弁護士の方が「善管注意義務違反の可能性あり」と述べておられます。ひょっとすると、今後、もう少しこの問題も議論が発展するかもしれません。
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20131128-OYO1T00256.htm

投稿: toshi | 2013年12月 4日 (水) 02時44分

山口先生、午前3時近くのエントリー、誠にお疲れ様でございます。
先生ご指摘のとおり、各分野(法・コンプライアンス、情報開示、消費者問題などなど)各方面から多々意見が出ており、いろいろな分野でこの問題の議論が深まりそうですね。当初私は、この問題、これほど多分野多方面からの議論に発展するとは思っておりませんでした。今度の動向に注目したいと思います。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月 4日 (水) 11時04分

課徴金制度導入の方向のようです。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040126.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201312040126

投稿: 迷える会計士 | 2013年12月 4日 (水) 22時25分

迷える会計士さん、こんばんは。嘘のような衝撃の事実ですね(笑)これはまたブログネタです。

投稿: toshi | 2013年12月 5日 (木) 01時15分

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