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2013年12月 6日 (金)

監査役の平均任期はガバナンス報告書で開示すべきである

昨日(12月4日)は、一般社団法人監査懇話会にお招きいただき、2時間ばかりですが監査役と監査人との連携についてお話させていただきました。監査役の方がお集まりになる組織といえば日本監査役協会が著名ですが、こちらも監査役および元監査役の方々300名ほどの会員組織でして、WEBページをご覧いただけばおわかりのとおり、たいへん活発な活動をされています。月1回の研修の講師は、12月が私でしたが、前月は野村修也先生、そして来月はIFRSでおなじみのあずさ監査法人の山田辰巳先生だそうで、(私以外は)毎月なかなか豪華な顔ぶれです(セミナー講師の一覧はこちら)。また、昨年もお招きいただきましたが、ここの会員の方々はかなり監査役制度について先進的な意見をお持ちの方も多いようで、手ごわい理論派の方が多い、というのが昨年来の私の印象です。

さて、講演終了後、約20名の監査役、監査役経験者の方々との食事会にもお招きいただいたのですが、そこでたいへんショッキングなお話をお聴きしました。金融機関の監査役の方々が1期4年の任期を全うすることなく退任される例が多いという話をしたところ、実は懇話会に参加しておられる監査役経験者の方の半数以上が「私も任期4年を全うしていない」ということでした。ほとんどの方が常勤監査役をされていたようですが、会社の内規に従って中途退任を余儀なくされたとか、会社の人事政策に従って中途で退任せざるをえなかったとのお話が出ていました。とりわけ取締役の任期が定款で1年とされている会社などでは、監査役が4年も役員として就任しているのはバランスを欠く、との社長からの説得によって辞めざるを得なかった、といった(耳を疑うような)お話も。

そもそも監査役の職務の独立性を確保するために、会社法では1期4年という監査役の任期が定められています。株主からも、最低4年は身分が保証されることを前提として、独任制機関としての監査を行うことが期待されている(信認されている)はずです。にもかかわらず、会社の慣行や人事政策、取締役の任期とのバランスといった理由で退任を余儀なくされるというのは、「一身上の都合」ではなく「会社の都合」によって辞めさせられるというのが実情ではないかと。適時開示の辞任理由に偽りあり、ということです。会社法によって監査役の権限は強化されているのですが、こういった監査環境の下では適切な監査権の行使は期待できません。

もちろん監査役制度の在り方は、各社それぞれの社風や慣行、グループ会社管理の手法などによって異なるわけですから、かならずしも「任期が短いのはけしからん」とまでは言えません。ただ、その会社が監査役制度に何を期待しているのか、人事政策と監査役監査とはどちらを優先しているのか、ということは一般投資家にも「企業のリスク管理」を知る上で重要な情報だと思います。したがって、たとえば証券取引所の有価証券上場規程にあるコーポレートガバナンス報告書の中で、過去10年以内に退任された社内監査役の方々の平均任期を開示するべきだと考えます。

平均任期が4年以上であれば監査役に適任者を選ぶ社風が認められるものと考えられますし、また2年以下ということであれば、そもそも取締役になれなかった方のポストではないか、親会社の人事政策上の待機ポストに過ぎないのではないか、といった推定が働きます(そうなりますと、社長と対立する可能性もあるような監査役の職務執行は期待できないのでは・・・と思われます)。企業集団内部統制が話題になっている昨今、グループ会社の監査役の平均任期についても関心がありますが、そこまではちょっと煩雑すぎるきらいもありますので、せめて親会社の監査役さんの平均任期だけでも開示の対象となれば投資家に対する貴重な情報提供になるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の優劣は、営業政策や商品開発のように目に見える業績によって判断できるものではありません。つまりリスク管理の視点からは「存在価値」に投資するのではなく「期待価値」に投資せざるをえないのです。将来に対する期待価値を推定できるだけの情報は開示されるべきであり、そのモノサシのひとつが監査役の平均任期だと思います。

12月 6, 2013 監査役の理想と現実 |

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コメント

グループ会社(100%子会社)の監査役スタッフをしております。
当社も御他聞に漏れず、非常勤(親会社部長・次長クラス)はそのポストの異動に伴い2~3年、常勤(親会社若しくは兄弟会社役職員OB)も役員定年の内規など親会社人事施策に従って代わるため、人によっては4年未満で、4年以上務める場合も「監査役に適任者を選ぶ」とは言えないかもしれません。
ただ、親会社社員である非常勤はその職務上得られる情報をもとに、取締役の職務の執行を監査できますし、OBである常勤は大部分の取締役の元上司、元先輩にあたりますので、社長に対しても率直に意見を言える立場とも言えます。
グループ会社の場合は一概に任期が短いために監査環境が十分でないとは言えないと、改めて思った次第です。

投稿: B.M. | 2013年12月 6日 (金) 12時31分

12月4日のご講演拝聴させていただき、ありがとうございました。
監査役の平均任期期間の開示という先生のアイデアはなかなか斬新であると感じました。公開会社監査役へのバックアップとしては、相当の効果も見込めるのではないかと思います。
 しかしながら、子会社で非公開会社で監査役についているものとしては、事業報告で監査役の平均任期期間を記載されても、親会社がすでに把握していることでもあり、開示そのものに意義があるようにも思えません。
 非公開子会社監査役としては、むしろ、会社法第336条3項にいう補欠監査役の任期に係る規定を廃止し、選任された監査役の任期は、全て選任後4年以内に終了する事業年度の定時株主総会終了時までとし、補欠監査役に関する定款の定めを認めないすることの方が、子会社監査役には意義があるように思いますが、いかがでしょうか?
 親会社がいつでも監査役を交代させられるという点では、実効性がないのではないかとの意見もあるとは思いますが、監査役自身としては、気持が幾分楽になり、親会社も説明責任を負う形になるようにも思えるのです。感想まで。

投稿: 法律しろうと | 2013年12月 6日 (金) 14時23分

Toshi先生 12月4日の監査懇話会の懇親会では久々にお話しすることができて大変嬉しく思いました。
監査役の任期に関する、先生のガバナンス報告書での平均任期期間の開示案及び「法律しろうと」さんの補欠監査役の任期規程の廃止案は全面的に賛成です。後者の案は、特に子会社にとって重要なポイントで、小生も会社法改正のパブリックコメントに同趣旨の提案をしましたが、残念ながら全く黙殺されてしまいました。4年任期を尊重しない会社は、経営者は監査役が本来の役割を果たすことを期待していないと表明しているのと同じだと言えます。
特に子会社の場合、殆どの監査役はおかしいとは感じながら、仕方ないとあきらめているのが現状でしょう。この状況を変えるためには、小生は下記の取組みが重要かと思っています。子会社監査役の任免に関し、最終決定は親会社の執行部が行うにしても、選定過程に親会社監査役(会)が関与する(事前協議等)ことをベスト・プラクティスとして広めていく。
こうすることにより、監査役の視点からの適性判断を取り入れると共に、協議を通じて任期4年を保証させることにより、より独立性を持った実効性ある監査活動が可能になると考えています。

投稿: いたさん | 2013年12月 6日 (金) 15時55分

法律で4年の任期を定めていても、辞任というルートがある以上、首のすげ替えを防ぐことはできません。なので、補欠監査役の任期規定も本題との関係ではあまり意味を持たないと思います。
問題の本質は、監査役を含む役員人事が従業員人事と同じ次元で運用されている点にあります。その現実を前提にソフトな改革を行うならば、開示義務により間接的に説明責任を起動させることは有効かもしれません。企業の羞恥心を刺激する方策ともいえます。
私見は、もっと抜本的に、監査役を全て社外役員化(親会社出身も不可)というところまでいかないと改善できないという意見です。取締役とは違う役割が求められるのに、母集団を同じくする人事の一環では機能するはずがありません。

投稿: JFK | 2013年12月 6日 (金) 22時43分

山口先生が提起された監査役任期の法規定と実態の乖離の問題が注目され、様々な角度から議論が盛り上がることを期待しています。
会社法第336条3項の補欠監査役の任期規定が、特に子会社監査役人事で果している役割について。多くの子会社で会社の「都合」による途中辞任が広範に行われているのは周知の事実です。その際、例えば前任者の残り任期が2年の場合、定款に定めがあれば、現任者は2年で任期満了となり、親会社が再任するか否かを判断することになります。端的に言えば、親会社または子会社執行部にとって都合の悪い人、特に「もの言う監査役」になりそうな人物を合法的に辞めさせたい場合に、正当化する根拠としてこの条項が活用(悪用)されているということです。2年だろうが任期満了なのだから何か問題ありますか?ということで、又辞任のように総会で理由を開示させる必要もありません。勿論元々親会社の言いなりになる監査役の場合は、途中辞任だろうが任期満了だろうが関係ありませんが、4年任期尊重を主張するようなうるさい監査役の場合は、「円満」に短期間で辞めさせる有力な武器となります。実は、これは小生自身の体験でもありますし、おそらく「法律しろうと」さんの提案の動機も同様かと。そして、このことを声を大にして主張することにより、たとえ法改正がなくとも、定款変更やあるいは選任時に4年任期を総会議事録に明記するように運用を変更させることが可能となります。確かにこのことだけで4年任期が保証されないとしても、恣意的な人事を抑制する効果は大きいと考えます。

投稿: いたさん | 2013年12月 7日 (土) 14時54分

山口先生、今回の問題提起、良くぞ言って頂きました!
私は常々、高名な法学者や弁護士の方が、監査役の現実世界、
実態を十分にご存じない事に不満を抱いておりました。
監査役制度が、もし十分に機能していないとすれば、その原因は
法的不備によるものではなく、JFKさんが仰っておられる様な問題が
根底にあるからだ思います。
それは監査役制度の最大の問題点は「人事的独立性」が脆弱である事、即ち
実質的に「監査される側が監査する側を選べてしまう」と言う点に
尽きると思います。定年間近の従業員処遇の一環として子会社監査役
ポストを利用する等は論外と思いますが、経営者の意にそぐわない監査役を
早めに降ろす(辞任を求める)、あるいは再任しない等と言った事は
日常的に行われているようです。こうした状況では、監査役が経営者に
媚びず毅然とした監査業務を執行する事は極めて困難であると思います。
問題の解決の為に、監査役の人事は「監査役会」が持つ事、選任提案は
取締役会でなく監査役が合議で決める制度に変更する事が必要と思います。勿論、この点は社外監査役の義務化以上に経団連が猛反対するでしょう。
従いまして、色々な方々が本件を言い続ける事が重要と思います。
今回の山口先生の問題提起によって、この議論が盛り上がる事を期待
しています。

投稿: 彷徨える監査役 | 2013年12月 9日 (月) 15時24分

現在の法制の下でも、監査役(会)が毅然とした態度をとれるというのであれば、監査役(会)に人事権が実質的にはあるのですが…。すなわち、取締役会からの提案に同意せず、かつ、監査役(会)が選任議案の提出を要求すれば、監査役(会)が適切と考える候補者の選任が会社提案として株主総会に提出されることになっています。

投稿: とおりすがり | 2013年12月11日 (水) 20時18分

「とおりすがり」さんの仰る通り、会社法第343条第2項の規定で、監査役会は同意権だけでなく、独自の選任議案の提案権という積極的なイニシアチブを取ることも出来ることになっています。しかしこの権限は実際に行使される例は少ないのが実態です。取締役は勿論のこと監査役自身さえこの権限の存在自体を知らない人が多いかも知れません。
ただ現行の取締役案への同意権では、余程のことがない限りNOといえないことも、企業の内情を知る者にとっては周知の事実です。おそらく、①そもそも監査役には明確な資格要件がないため、この人物は監査役として不適任であると言い切ることが難しく、②有事ならともかく平時に敢えて執行側と争いを起こすことは相当の覚悟が必要となるからでしょう。やはり監査役の人事的独立性は監査役会に選任権を付与することによって保障することが出来ます。とは言え、会社法の改正が簡単に進むとは思えません。従って、制度改革の旗は掲げつつ、実質的に監査役会側が選任の主導権を握れる仕組みを各社内で作り上げていく必要があります。監査役協会のアンケートでも監査役会が何らかの形で提案権を行使している会社が少ないながらも1割前後存在します。こうした先進的な事例を様々な機会をとらえて紹介し、ベスト・プラクティスとして広げることが重要だと思います。

投稿: いたさん | 2013年12月15日 (日) 00時45分

現行法に依るにせよ、法改正するにせよ、監査役(会)に
①人事権
②報酬決定権
を他機関の影響・干渉を受けずに実質的に独立して行えるようにすべきということでしょうか?

投稿: 会計利樹 | 2013年12月15日 (日) 08時52分

「会計利樹」さん
小生の場合は②報酬決定権は主張していませんが、①人事権はまさしく仰せの通りです。
監査役の選任権を監査役会に付与する制度改正を目指す。(「商事法務2013.9.15号」論文で太田監査役協会会長が次の会社法改正課題として提起)
その前の段階では、執行部との話し合いにより、下記をルール化する。
A.監査役会が実質的な選任案提案権を行使(取締役案に同意の形を取る場合の事前協議も含む)
B.子会社監査役選任には親会社監査役が事前協議等の形で関与する。その中で4年間任期を尊重させる。
上記の実例を増やし、ベスト・プラクティスとして定着させる。

投稿: いたさん | 2013年12月17日 (火) 08時42分

監査役の報酬決定権は、現行法上でも監査役(会)に帰属しています。(法387条)但し、この場合でも取締役(経営者)と話し合いの上で決める慣行がある為、実質的な決定権は経営トップに握られていると言う問題があります。その問題はさておき、監査役制度にとり最後の課題は再三申し述べたように「監査役の人事決定権」を監査役(会)に付与する事だと思います。現行法上では、経営側と対峙する可能性のある人物を排除し、好都合な人を経営側から提案する事が可能であり、それを「同意権」で否定する事は事実上困難であると思います。監査役協会の太田会長も、以前は「同意権」があれば十分と思っていたようですが、「商事法務NO.2009」では「決定権」を持つ事が必要と論述されています。ただ、10数年後の会社法改正の課題と述べているのは、頂けないですね。。それほどの困難な課題であるという認識なのでしょう。私の経験に照らしても、ガバナンスに対する理解が低い新興オーナー企業ほど監査役人事は軽視され、経営サイドに好都合な人選がまかり通っているのが実態だと思います。

投稿: 彷徨える監査役 | 2013年12月18日 (水) 10時35分

実務に精通した諸氏のご意見を拝読し、恐縮しております。
私の拙い知識に依れば、日本の株式会社法制は監査役制度をうまく利用しその権限を維持・強化することにより、取締役会の業務執行(会社経営)の管理監督につなげようとすべく法整備・法改正が行われてきたと理解しているのですが、諸氏のご意見拝見したところなかなか然に非ず、むしろ切実感や切迫感のような現状を感じずにはいられません。(例えば)不正に対峙する際には時として相当の覚悟をしなければならないということだと思いますが、実務において実質的にその覚悟を支える法の整備・運用(特に運用)がなされる必要があるということを痛感いたしました。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月19日 (木) 20時13分

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