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2013年12月20日 (金)

きっと有能な監査役(監事)さんは世間にたくさんいるはず・・・(と信じたい)

読売新聞の地方版ですが、例の長野県建設業厚生年金基金の横領事件に関する監査の問題点が報じられています。記者さんが、かなり頑張って詳細に調査されたことが窺われます(読売新聞ニュースはこちらです)。

これを読みますと、組織として監査の重要性に関心がなかったように思われます。ルール通りに権限分掌、ダブルチェック、ローテーションが行われていたとしたら、たとえ監査にずさんなところがあったとしてもこれだけ大きな不正は防止できたはずです。しかし予算の関係等からか、ルールが守られなかったため、月例監査に大きな疑問が投げかけられているように読めます。

厚生年金のガバナンスについて、最近ある方からお教えいただいたのですが、内部統制に関するルールが遵守されていない年金基金も散見されるようなので、おそらく今回のような横領事件はひょっとすると他の基金でも発生した(もしくは発生しそうになった)ことがあるのではないかと思います。

ただ、昨日のエントリーにコメントをいただいたサンダースさんがおっしゃるとおり、監事さん(監査役)の頑張りによって不正を未然に防止したり、不正を早期に発見できていたのでしょうね。不正は発生しても、監事さんの日ごろからの頑張りによって早期に発見して、そのまま組織の中で処理をした、という成功例は、ひょっとして多く存在するのかもしれません。

本事例に即してみれば、たとえば加入会社に対して未収金の存在を確認する、運用に関する口座をチェックするといったことを監事監査でおやりになっていれば、そもそも経理担当者が(いくら長期にわたり、単独で責任管理をしていたとしても)不正の機会や動機が欠如しますので未然に防止できるはずです。

記事に登場される会計士さんは「第三者の目が必要」とおっしゃっておられますが、もちろんそれがベストだと思います。ただ、会計専門職の導入を必須とする前に、もう少し監査の重要性を組織として認識することが先ではないかと。第三者の目を必要とするのであれば、むしろ当該組織の内部統制や監事監査の様子を第三者が評価する、といったことも検討してはいかがでしょうか。内部統制の面では、先ほど述べたように権限分掌やローテーション、ダブルチャックの様子、そして監事監査においては、その監査の状況をきちんとモニタリングするだけでも違うと思います(内部統制システムと監事監査の総合的評価)。

こういった事件が発覚して「監査人や監査役は何をしていたのか」という批判が出てきますと、「チェックすべき資料について偽造されてしまえばお手上げ、見抜くことは困難」といった理由が関係者から漏れてきます。しかしそれでは思考停止に陥ってしまいます。今回の事件では、本当に関連証拠を偽造されてしまえば監査はお手上げだったのかどうか、検証する価値のあるものだと考えています。

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コメント

監査役の機能が適切に発揮されるかどうかは、能力の問題ではなくて意識の問題だと思います。それは監査役本人と法人側の両方とも、です。出世コースから微妙に外れた幹部職員を監査役に据えるようなことをやっているうちは、ダメでしょう。

投稿: こばんざめ | 2013年12月20日 (金) 10時47分

結局、厚生年金基金の損失は加盟企業の負担になるのである。加盟企業にとっては基金への払い込み時に費用計上で、オフバランスとなっていても、完了しているのではなく、期待運用益と実際運用損益との差額負担になっている。厚生年金基金の貸借対照表に粉飾があれば、それがすべて加入企業の負担となる。

そう考えると、それぞれの厚生年金基金の役員や職員を盲目的に信頼するのではなく、時には自らの企業の会計・経理・財務業務を担当してる従業員を基金に調査に入らせることも必要な気がします。あるいは、必要ならその厚生年金基金の規約変更をして、参加企業がそのような権限を有するように明文化したならば、牽制力も働き、不正防止やリスクの低下につながるように思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2013年12月20日 (金) 14時50分

ある経営コンサルタント様のご提案、うなずけます。自分たちが任せているおカネがどうなっているかを知る機会があるべきというのは当然という気がします。
ただ、自社の会計・経理・財務・(退職金や年金が絡むので人事・総務も?)の人員に証券会社勤務経験があるような資産運用に精通した者や年金数理人のような専門家がいるのであればいいのですが、そうでない者が調査に行っても、バラ色の運用資料を見せられてしまえば納得してしまいそうです。そうなると調査権限があっても外部の専門家さんを雇って調査してもらうことになりそうですが、その場合費用対効果の社内検討が生じるような気がします(検討するほど高額でなかったり、社内のリソースが豊富だったり、社内でノウハウを持てたりすればいいのですが…)。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月20日 (金) 20時31分

横領の様な不正に対しては職務分掌は有効ですが、それだけでは十分ではありません。厚生年金基金で、常務理事と事務長が共謀した横領事件が発生していますね。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131122/trl13112216510003-n1.htm

厚生年金基金自体の内部統制だけではなく、行政や受託金融機関を含めたチェック機能が重要でしょう。
「今回の長野基金の場合、総幹事であった生命保険会社は、2007年頃から掛金の減少を指摘していたというが、その不自然な急減に不審を抱いて調査したのは2011年になってからであった。受託者責任を果たすべき総幹事金融機関が、その監査機能を発揮できなかったということだ。」
http://diamond.jp/articles/-/45657

投稿: 迷える会計士 | 2013年12月20日 (金) 21時31分

旧特殊法人の政府系法人の監事(社外・常勤)であった者です。
年金基金の具体的情況はわかりませんが、監事時代の経験を披露したいと思います。内容は似ているかもしれません。(この法人は、公認会計士監査の対象にはなっていなかった。)

1.預かり金・未払金・未収入金の照合
私が監事就任以前では、取引相手先別整理や取引相手先との残高照合は行われていなかった。記帳ミスがあっても発覚しないまま放置されていた。
(5年間分の調査では、期ずれが見つかったが、不正取引はなかった。)
(法人の業務は無謬であるとの思いこみがあるので、当初照合は必要ないということが主張された。)

2.理事は監事監査の対象ではないと主張する理事がいた。
意識の問題以前の話であるが、その理事とは平行線のままでであった。
定款で監事の選任は、理事会であると定められていることが理由としてあげられていた。(某理事は、監事を途中で解任したいと思ったかもしれないが、人気中途はまずいとの判断で、私は監事任期2年を全うできた。)

3.経理規定の内容が混乱していた。
税務当局に多額の追徴課税を受けて、欠損金が生じる結果になったが、法人の経理規定では、欠損金は、貸借対照表の借方科目であるので、資産として計上すると定められていた。監事の指摘により、公認会計士に相談するも、監督官庁との調整も含めて、半年掛けてやっと規程を修正した。
(意図的に混乱した規程を作ったのか、単なる無知であったのかは、規程の改訂が古く、事実は分からなかった。)

役職員の意識の問題とか、外部調査の必要性等の課題以前に、組織の設計がうまくいっていないように思われた。その前提は、官僚出身者の無謬性信仰のようなものが、ちらちら見え隠れすることが問題と思われる。
組織のきちんとした制度設計が行われないと、いつの間にか不正の温床ができてしまうように思われる。

投稿: 法律しろうと | 2013年12月20日 (金) 21時37分

皆様、思いのほか、たくさんのご意見をいただきまして、ありがとうございます。なかなか厳しい現実なのですね。法律しろうとさんの最後のところで官僚出身者の無謬性信仰とありますが、これ、やはりそうなのか・・・と。話は変わりますが、特定秘密保護法について前内閣法制局長官の方が解説をされていたのですが、そのとき「公務員は悪いことをしないのだから」という理由を何度も援用されていました。公務員は職務遵法違反のようなことをする、という前提で法律は作られないということを知りました。

投稿: toshi | 2013年12月20日 (金) 22時03分

この使途不明金問題が発覚したとき、厚労省は全国の厚生年金基金を対象に経理事務について実態を調査し、基金監事による内部監査を徹底するよう通知を出しました。泥棒かもしれない人に、泥棒していませんよねと聞いたところで、事実を回答するわけがありません。
厚労省はルールがきちんと定められているのに、ルールを破る人がいる事実が明らかなのに、再びルールを改正します。ルールを見直したのでこれで問題解決だと。厚労省はなぜそのような不正が起きたのか原因究明をしていないから効果的な再発防止策を打ち出すことができないのだと思います。この基金は特殊な基金で、他の大半の基金は問題がないのだと勝手に決めつけているのだと思います。

仮にルールが破られても不正が起きにくい仕組みを用意すべきだったのに。厚労省はいつもおめでたいことします。基金実務ん精通した常務理事らが作成した監査資料を基金実務に必ずしも精通していない監事が監査できるはずがありません。毎月の月例監査はめくらばんをおしている場合が多いと思われます。内部監査は形骸化しているにで、それを機能させる仕組みを導入するしかありませんよね。

AIJで騒いでいたとき、基金役職員への接待が問題視されました。基金役職員はみなし公務員で職務に関連して利益供与を受ければ、刑法の収賄罪が適用されるかのうせいがあります。これにたいして厚労省はろくな調査もせず、国家公務員倫理規定に準じる規定を入れるよう求めただけです。その後、今年12月にはドイツ証券から接待を受けた元基金役員が収賄容疑で逮捕されました。

投稿: 年金ジャーナリスト | 2013年12月22日 (日) 23時52分

年金ジャーナリストさん、コメントありがとうございました。ご指摘の問題点につきまして、本日のエントリーで若干触れさせていただきました。今後の規制についてはたいへん興味をもっております。今後ともどうかよろしくお願いいたします

投稿: toshi | 2013年12月26日 (木) 01時21分

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