社外取締役制度と平田オリザさんの「演劇入門」
(12月19日午前 追記あります)
私も社外取締役に就任してもうすぐ1年(もう一社は半年)になるわけでして、ときどき「社外取締役としての経験談を聴かせてください」といったご質問も受けるようになりました。とくに会社法改正法案が来年の通常国会で成立する(たぶん)・・・といった状況になり、上場企業各社において「自民党による修正案」が話題になっているところなので、質問される方も真剣そのもの。
法律家的な関心(たとえば社外取締役を選任することが相当でない理由の説明に関する会社法条文への格上げ等)は、法律雑誌における著名な先生方の解説に譲るとして、社外取締役が本当に企業にとって有用な存在なのか、ということへの独断的な見解は、私自身も少々持ち合わせているところです。これは学者の先生方や経済団体の方々がおっしゃる理念的なものとは少し違います。「制度理念の実践とは少し違うかもしれないけれど、それでもこういった重要な側面はあるかなぁ」という類のお話でして、一社あたり月に2回ほど会社の重要議案の審議に対面する者として、結構まじめに考えているものです。
当ブログにトラックバック(もはや死語に近い?)していただいているのですが、あまり目に触れないかもしれないので、あえてご紹介しますが、このあたりのことを活字フェチ弁護士さんがブログで書かれており、私もいたく感じるところなので、(ご本人のご了解を得ずに)ご紹介する次第です。賛否はあると思いますが、ぜひご一読をお勧めいたします。なるほど「平田オリザ」ですか。。。これは読まねば。とくに法律専門職で社外取締役に就任する方には向いているかもしれません。
私自身、先日のセブン&アイHD社から受けたTOB、および同社への第三者割当、といった有事についての社外取締役の役割については(かなりしんどいですけど)割とやるべきことが明確なので、それほど悩むことはありません。では、そういった有事ではなく、平時の社外取締役のあり方ではどうでしょうか。
最近、社外取締役として思うところは「この会社にとって自分が存在して(それなりに)意味があるための『出口戦略』ってなんだろう」といったあたりのことです。出口(パフォーマンスの出し方)を模索して、自分なりに存在価値を考えて、そのための今日の自分のふるまいを考える。いまの自分のふるまいを起点として、「ベストプラクティス」をはめこんでしまうと、自分の中の常識らしきものを会社に押し付けてしまうことになってしまう気がします(社外役員の常識≠世間の常識・・・、うーん、これはたしかに活字フェチ弁護士さんのご指摘のとおりかも・・・と、最近私も懐疑的になっています)。
半年ほど取締役会や執行役員会議に出席していれば、その会社の「暗黙知」がなんとなくわかってきます。何がその組織を動かしているのか、この会社がこれまで大きく成長する要因となった「お約束事」があるわけで、それは素晴らしくもあり、また新参者には異様にも思える。「社外の常識」などといった抽象的な概念で比べることへの畏れを感じます。その「暗黙知」こそ、社外役員が匂い(臭い?)として感じなければならないわけで、その匂いから自分なりの出口戦略を模索するようになります。
その場の状況から「社外取締役のベストプラクティス」に忠実にふるまう・・・、それはそれで社外取締役制度の根幹からすると正しいのかもしれませんが、それで役員会に何らかの影響を及ぼせたとしても、ではこれから先、本当に経営企画的な問題を真剣に考える為の情報が入ってくるのでしょうか?投資家に対する「アリバイ工作」以上の意味をこの会社に残せるのかどうか、とても不安になります。
活字フェチ弁護士さんは事務局と社外取締役との関係で述べておられますが、実際に就任してみると、他の社外役員との関係でも、みなさん生きてきた道が違いますから「コンテクストのすり合わせ」の必要性を強く感じるところです。そういった「コンテクストのすりあわせ」を社外取締役や監査役さんとの間でもつけていきながら、その会社における立ち位置を見つける作業ができる人・・・・・、これがまず社外取締役に向いている人ではないかな、と。。。また結論的には同業者の方に叱られそうな雰囲気になってしまいましたかね(笑)
関西系の上場会社の社長さん方は、ときどきおもしろいことをおっしゃいます。
「社外取締役ってようわからんわ。先生の言うような役割を果たしてくれるんやったら、私より高い金払って社内取締役になってもらったらええやんか。ホンマにうちの会社のことを思って辛口のこと言ってくれはるんやったら、ナンボでも頭下げて来てもらいますわ。社外なんてもったいないですやん!」
これが社外取締役制度のホンネとタテマエの妙に対する鋭いツッコミかと(^^;;
あまりのタイミングにビックリですが、今朝(12月19日)の日経新聞33面「辛言直言」で平田オリザさんのインタビュー記事が掲載されています。「対話と会話は違う」・・・なるほど。
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コメント
日経新聞(2013年12月19日付、14版31面)の平田オリザ氏の記事を読んでから山口先生のエントリーを拝見し、あまりのタイミングにビックリしております(先生と逆パターンですかね…?)。
大学が就職予備校化しているのでは?という疑問は、大学自身が就職率を大学選びの選択肢(のひとつ)として喧伝している風潮が一部にあるような気が私もしてそれでいいのだろうかと考えていたところでした…先生のブログ内でのコメントではありませんね、失礼いたしました。
「常識」というのはなんなのでしょうね? 世間の常識≠会社の常識、会社の常識≠社外役員の常識、社外役員の常識≠世間の常識、日本の常識≠中国の常識、日本の常識≠アメリカの常識、業界慣行での芝エビの常識≠世間が持っている芝エビの常識…突き詰めてしまえば(活字フェチ弁護士氏もちゃぶ台の例示を引用されているように)「Aさんの常識≠Bさんの常識」であり、それを前提に「コンテクストのすり合わせ」をできる人材が今、求められている人材のように感じます。昨今流行りの「グローバル化」も「(各国家・民族の思想や文化、慣習の「常識」を踏まえての)コンテクストのすり合わせ」ができる人材の育成がキモ、だと私は思っています(「英語化」ではなくて)。
その点、いろいろな「常識」を知っている人は強いのかもしれませんね。アメリカ社会における転職はいろいろな会社の「常識」が体験でき、「常識」の幅も広がるでしょうし、その中で「コンテクストのすり合わせ」も鍛えられるというか、鍛えざるを得ないというかというところが、彼らが自らの意見(≒自らの常識)の主張、議論と合意の術に長けている源泉の一つなのかなとも思った次第です。(日本のようにプロパー社員が経営陣になるような組織では「常識」が偏ったものになりがちなのかなと…。)
会計の世界も「原則主義」全面採用となると、単なる「(会計の常識しか知らない)会計バカ」ではいられなそうです。自社の販売部門、製造部門をはじめとする各部門の「常識」、競合他社の「常識」、もちろん世間様の「常識」…を理解しそのうえで「(自分の常識を振りかざすだけでなく)コンテクストのすり合わせ」を行っていかなければならない時代がもう来ていると感じるこのごろです。
(また「雑駁な感想」のみのコメントになってしましました。。。)
投稿: 会計利樹 | 2013年12月19日 (木) 21時24分
初投稿になります。
山口先生、どうぞよろしくお願いいたします。
いつも楽しく読まさせていただいております。
かつて、80年代は、日本がデミング賞の獲得や日々の
の生産現場ではTQCなどの用語が踊っていた時代だと
思います。
今も、日本のものつぐりにかける思いは、どの国よりも
強いものと信じています。
ですが、日本の大会社や上場企業の監査役のイメージは
はっきりと掴めません。監査役室や役員室にしょっちゅ
う出入りすればお顔も分るのでしょうが、事業所にいれ
ばヒアリングでもない限りは全くわからないのではない
でしょうか。たぶん、出社の時だけは役員の車が出動さ
れ監査役会だけ自宅までの送り迎えなどと。
そんなイメージがほとんど当っているのなら、会社はあまり
社外監査役に探られたくはないのだろうなと憶測できるよう
になってきました。 (間違えていたらすみません。)
監査役自らが、
事業所には地下鉄で、ある時は鈍行列車に乗って不便な工場に
出向き、ブルーカラーやホワイトカラーを問わず、社員にフラ
ンクに聞き取りを行う。
監査役がフットワークで稼いだ貴重なその情報を、ご本人自ら
社内限りのブログに綴るなどされれば、社員という読者に、
(双方向の交信などできれば)、素晴らしい信頼関係が構築
できるのではないでしょうか?
監査役や取締役の善管注意義務も、この日々更新されたブログを
見つめると、法務部員やコンプライアンス部員までも巻き込んで、
何が義務違反なのかを、整理することもできるのではないでしょ
うか?
炙り出されていく問題は、案外バブルを知らない新人君の一言で、
何だそうなんだ!~みたいな解決法も有りだと素敵だと思います。
もちろん、会社法では監査役にそんなことは期待していないと
思いますが?
実は日本には、
モノ申す監査役が一杯いたり、モノ聴きまわる監査役がいたり
しているのではないでしょうか?
かつての80年代の監査役のイメージは、
陸士出の方や東大第二工学部出身者の方がおらた時代しか知ら
ない私自信は検討違いでしょうか?
当時のおじさんは、ポマード臭かったり、鼈甲のメガネ(古す
ぎ)をかけて写真に写っている人とのイメージが強いのですが?
偽装問題が起こっている今、当時と今は、何が変わったのでし
ょうか?
投稿: サンダース | 2013年12月19日 (木) 21時54分
山口先生、ご無沙汰しております。
深夜番組である私のブログが、突然ゴールデンタイム並みの視聴率を記録しておりましたので、もしや?と思いましたら、やはり先生にご紹介いただいていたのですね。ありがとうございます。
ご指摘の通り、確かに社外取締役と事務局との間だけの話ではなく、もう少し適用場面は広がりそうですね。元々「すり合わせ」は日本人が得意な行為のはずなので、いざ必要となれば上手くおやりになれるはずで、個人的には楽観視しておりますが。
余り言い過ぎると怒られますので、このくらいで。
少し早すぎるかもしれませんが、良いお年をお迎えくださいませ。
投稿: 活字フェチ弁護士 | 2013年12月24日 (火) 00時38分
活字フェチ弁護士さん、こちらこそありがとうございました。たいへん勉強になります。また、新年の法律とは関係のないエントリーも読ませていただきました。考古学にたいへん興味があるとのこと、私と同じですね。私は大和古寺の検証専門ですがww。考古学というのは法律解釈と似たところがあると感じています。年末年始に平田オリザの本を読もうと思っていたのですが、残念ながら遊びに夢中でかないませんでした(笑)。今年もよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2014年1月 5日 (日) 23時37分