法律家と芸術家の接点を求めて-日展不正審査第三者委員会報告書
第三者からの情報提供をもとに、10月30日の朝日新聞朝刊でスクープされた日展の不正行為疑惑ですが、本日(12月12日)公益社団法人日展のWEB上に日展第三者委員会報告書の全文が公開されました。第41回日展の第5科(書)の篆刻(てんこく-印章による書画)部門における審査において、事前に会派別に入選数が割り当てられており、審査の公正が害されている、との疑惑に関する調査結果です。元最高裁判事でいらっしゃる弁護士の方を委員長として、多くの弁護士や有識者の方々が委員ならびに調査担当者として関与されていたようです。
報告書を読みますと、調査対象事実について、不正疑惑が強く推認されるとのことで(ただし書部門であり、日本画や洋画、彫刻など、他部門では認められなかったそうです)、当初の情報提供された事実がほぼ間違いないとのこと。告発で「天の声」とされた著名な芸術家の方にもヒアリングをされたようですが、その方は強く否認をされたそうですが、結局のところ、組織内部での派閥争いが原因のようです。第三者委員会はヘルプラインは設置しなかったけれども、複数の情報が第三者委員会に寄せられ、その事実についてもほぼ精度の高いものであったことが記載されています。第三者委員会が設置された後も内部告発があった、ということで相当に根深いものがありそうです。
芸術家の世界の社会通念や正義について、法律家がどこまで踏み込めるのか・・・、とても関心を持ちましたが、一般企業における不正行為を認定するのと同じく、比較的淡々と証拠に基づいて事実を認定しているように思えました。また、芸術の世界のこととはいえ、国民の信頼を大きく裏切るような組織運営は許容されないとして、再発防止策の提言にもあえて踏み込んでいます。長年の師弟関係に基づく芸術の世界のしきたりのようなものについても、第三者委員会がどう切り込めばよいのか・・・、かなり悩まれたところもあるのではないでしょうか。そのような悩みが、報告書最後に添付された「委員長所感」や公益社団法人日展第三者委員会規則の掲載などに出ているように思えました。
しかし、芸術の世界においても、内部告発が大きな影響力を持つようになったということでしょうか。組織に大きな支配抗争が生じている場合、内部告発リスクをいうものは、当然に認識しておく必要がありそうです。
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