ノバルティスファーマ事件で出した厚労省の最後の切り札-刑事告発
12月18日にマスコミが報じたところですが、降圧剤(ノバルティスファーマ社が販売)臨床研究論文疑惑の件について、厚生労働省は薬事法違反(虚偽誇大広告)で同社を刑事告訴する方針とのことです。本件については、いろんなところで申し上げてきたとおり、刑事告訴しか方法がないと思っておりましたが、薬事法違反(誇大広告)という形で、法人および関係者双方の立件を視野に入れて、刑事告訴が検討されているとまでは予想しておりませんでした(日経ニュースによると、これまで虚偽誇大広告ということだけで行政処分や刑事告訴が行われたことはなかったようです)。
私が刑事告訴しか方法がない・・・と予想していたのは、ごくシンプルな理由からです。毎度申し上げているとおり、規制緩和の時代における行政規制の在り方は、原則として事後規制(行政処分、刑事罰)であり、その効率的な規制手法を維持する目的で(基本的にはほとんどの製薬会社は誠実な経営を心掛けていますので)従来の事前規制の代替措置である「企業の自律的行為」に最後まで期待を寄せます。とくに、国民に切迫した被害が生じていないかぎりは、できるだけ企業の自律的行動による自浄能力の発揮を促すことになります。しかしながら、自律的行動に期待ができない事態となれば、強権を発動して事前規制に出ることとなり、それも困難となれば、もはや厳格な事後規制手法で対応せざるをえない、ということになります。
たとえば今回のノバルティス社の事例では、社内調査や大学における調査に期待が寄せられましたが、不正疑惑は明らかになりませんでした。しかし本件が真偽不明のままでは、日本の医学における論文の信用性が国際的に失墜することになりかねません。したがって事後規制の原則の「例外」として、行政としては強力な事前規制を検討することになり、ここで大学と製薬会社との寄付金制度というものに問題があるとして、これを是正せよ、という意見(事前規制)も出てきます。しかしながら、アメリカと異なり、補助金が少ない日本の医学研究にあたり、この寄付金制度を見直すというのは国力を低下させるものとして、非現実的です。
つぎに、寄付金制度の開示(利益相反規制-事前規制)ということに期待が寄せられるわけですが、そもそも詳細な開示は各製薬会社がどの分野に力を入れているか・・・という、まさに企業秘密に属するような情報を世にさらすことになりますので、これまた製薬会社の国際戦略上も大きな問題を抱えることになります。また、利益相反行為をいくら開示したとしても、不正行為を防止することにはつながらない・・・という行動心理学的な実証例も出ており、その実効性には疑問があります。そのため、開示規制についても、限定的な規制しか採用できないものと思います。
このように考えますと、ノバルティスファーマ事件をめぐって、厚労省としては、もはや企業の自律的な行動に期待をする事前規制的手法、国民の被害を未然に防止するための強権的な事前規制に期待することができない状況であることは明白となったので、ここは最後の切り札として「不正は絶対に許さない」ということを社会に示すための事後規制的手法に出るしかないと予想されます。任意の調査では事実が明らかにならなかったので、強制権を行使した調査に期待をかける、という意味において、薬事法違反という理屈をもって強制捜査に臨むことになるものと思います。
薬事法違反という罪名で立件するには、まだまだ高いハードルがあるかもしれませんが、この事前規制不発➔事後規制の徹底という流れは、明らかに最近の金商法規制、消費者行政、その他の社会福祉法人や年金基金に対する厚労省行政などと同じ規制手法であり、このような行政規制に対する企業対応の実務については、今年最後のエントリーの中で詳しく論じていきたいと思っています。
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