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2013年12月12日 (木)

社内ガイドラインの作成は企業不祥事の未然防止に役立つのか?

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズです。昨日(12月10日)の日経朝刊に、5日に逮捕者を出してしまったドイツ証券による厚生年金基金への過剰接待問題についての記事が掲載されていました。AIJ事件の後も、懲りずに過剰接待を続けていたのは、同証券の営業担当者が過剰接待禁止に関する社内ルールを無視して突っ走ったことが問題だったと、監視委員会幹部の話として紹介されています。

食品偽装事件の防止のために、今後は各ホテル、レストラン等が社内ガイドラインを作成して食品の虚偽表示問題を未然に防ぐことが報じられています。「上から規制」に限界がある以上、下から規制の典型としての社内ルール作りが推奨されるのは当然です。しかし、本当に社内ガイドラインを作成すると不祥事は防止できるのでしょうか?

先のドイツ証券の問題のように、いくら社内ガイドラインを策定したとしても、残念ながら不祥事はなくならないと考えます。たしかにドイツ証券の場合は逮捕されるという事態なので、確信的な社内ルール違反だったのかもしれません。しかし最初から確信的ということはないわけで、最初は「これくらいなら過剰接待にはならない」といった判断だったと推測します。昨年公募増資インサイダーで課徴金の対象とされた某信託銀行の社員の人たちは、証券会社の接待攻勢にあたり「これは証券会社と銀行との職員の関係からではなく、個人的な友人関係からの接待だ」と勝手に解釈したり、「たとえインサイダー情報を教えてもらったとしても、自分たちが扱うポートフォリオのごく一部にすぎない」と勝手に合法化したうえでの不正行為でした。

なぜこのように勝手な解釈がまかり通るかといいますと、不正な行為とそうでない行為は境目がなく連続性を持った概念だからです。また、その境目は客観的なモノサシでは測れないからです。「過剰接待」とそうでない接待、偽装とそうでない表示、「やらせ」と「許される演出」、「粉飾」と適正な会計処理はいずれも境目が見えない連続性のある概念です。ガイドラインを策定したとしても、解釈が伴う以上は、その判断権者のバイアス(偏見)のかかった解釈は避けられません。とくに経営者からノルマを課された営業担当者からすれば、「ガイドラインに書いてないからだいじょうぶ」と考えるのが当然かと。

もちろん不祥事がなくならない、ということと、ガイドラインが役に立たないというのは別です。ガイドラインによってコンプライアンス経営への現場の関心が高まることは事実です。ただ、ガイドラインが不祥事防止に役立つためには、上記のように、不正か否かは境目がみえにくい概念であること、自分に課せられたノルマによって判断が正常にできなくなってしまうことを理解しておく必要がありますし、またバイアスリスクの存在について注意喚起をしてくれる監視者も必要です。

適法な行動と不正な行動との境目がないことのリスクを理解していても、かならず不正行為は起こります。ただ、注意喚起やリスクの認識によって行動は不正と適法の間で振り子のように動くので、大けがはしません。しかし、このリスクの認識が欠如していたり、注意喚起を行う者がいない組織では、残念ながら振り子運動にはならず、気が付いたら誰がみても違法行為になってしまっていた、ということで不祥事が発覚します。したがって社内でガイドラインを策定した場合には、ガイドラインが絶対のモノサシになるのではなく、そのガイドラインを活用する社員の意識、組織の意識の変革がなければ役に立たないものと考えています。

今後、企業の接待交際費の一部損金処理が認められるようになるそうですが、公務員(みなし公務員)への利益供与問題だけでなく、接待交際費は不透明なお金の流れにつながるものとして、多くの企業不正の温床となります。単純に会社資金の流用防止のためではなく、社内に不幸な犯罪者を作らない、というためにも、ガイドラインの策定と共に、交際費を使う社員の意識改革も企業の重要な内部統制だと思います。

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コメント

原則主義で行くか、細則主義で行くか、の議論に似ていますね…。

まずは統制環境をきちっと整備・運用して、経営者が範を示し…から始まるのでしょうが…。(例えば営業が)売上額をベースに評価され給与が決まるとなると、どうしても(傾斜配分評価が大きいならなら余計に)「生活かかっちゃう」となって少しくらいは、と魔が刺しそうになるとこともというのも(営業職の)経験上ありますから、突き詰めてしまえば個々の心によるとなってしまうのでしょうが、企業としてはこれが「内部統制の構築に取り組まない理由」にはならないでしょうから、難しいですね。。。

投稿: 会計利樹 | 2013年12月12日 (木) 19時21分

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