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2014年1月31日 (金)

福岡魚市場株主代表訴訟最高裁判決出ましたね(全文あり)

親会社取締役の子会社管理責任が問われた福岡魚市場事件株主代表訴訟の最高裁判決が本日(1月30日)最高裁第一小法廷で出されたようです(最高裁HPに全文リリースされています)。親会社役員の子会社管理義務については、野村証券米国子会社事件判決と、この福岡魚市場株主代表訴訟高裁判決が対比されていましたが、この高裁判決の判断が(概ね)最高裁でも維持されています。ちなみに、事件や下級審判断の内容については、こちらのエントリーをご参照ください。

企業コンプライアンスの視点からはいろいろと関心があるのですが、会社法的には、商法研究者の方々によるこの最高裁判決の射程距離がどこまであるのか、判例研究に期待したいと思います。このたびの会社法改正に関する法制審議会の議論でも取り上げられていた裁判なので、とても興味深いところです。

なお、上記最高裁判決は、取締役の会社に対する損害賠償請求権に付される遅延損害金の利率については、商事法定利率である6%ではなく、民事法定利率である5%であるとして一部破棄差戻し判決が出ています。これは同損害賠償請求権の消滅時効の期間について争われた過去の最高裁判決(最高裁平成20年1月28日判決→商事時効による期間5年ではなく、民事時効による期間10年が適用される)の判断理由に合わせた内容となっています。

商法266条1項5号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任は,取締役がその任務を懈怠して会社に損害を被らせることによって生ずる債務不履行責任であるが,法によってその内容が加重された特殊な責任であって,商行為たる委任契約上の債務が単にその態様を変じたにすぎないものということはできない

といったところでしょうか。ただ、商事時効の適用が排除されるべき理由と、遅延損害金に付される法定利率の選択の理由とでは、損害賠償請求権の法的性質は同じだとしても、かならずしも同様に考えなければならない(商行為性を否定しなければならない)、とは思えませんが、いちおう上記判決のとおり、ということで。

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2014年1月30日 (木)

「監査役で会社は変わる」新刊のご紹介

これは皮肉でもなんでもなく、改正を目前に控えた会社法(および会社法施行規則)に基づいて、キャノンキヤノンさんは「わが社にとって、社外取締役を導入することが相当ではない理由」をどのように開示するのか、とても楽しみにしておりました。おそらく、社外取締役を導入することに消極的な上場会社さんにとっても、消極派の旗手(と思われていた)であろうグローバル企業キャノンキヤノンさんの開示内容を手本にしたい、と期待しておられたところも多いと思います。(追記・・・・すいません、表記が誤っておりましたので訂正しております)

ところがなんと(?)、キャノンキヤノンさんが3月の株主総会で、社外取締役2名選任予定と開示されております。しかも理由が「いままで社外取締役制度にとくに反対していたわけではなく、いい人がいればと思っていた。このたびいい人に出会えたので・・・」とのこと(^^;;。。。(ええ?ホントにそうだったのですか・・・・?)とりあえず、この流れは大きいなぁと感じます。ちなみにキャノンキヤノンさんの社外取締役候補のお一人の方はトヨタ自動車の社外取締役にも就任されておられるようです。これからは「このたびめぐり会えたいい人」の争奪戦が始まるのかもしれません。

_20140129_213604このところ、会社法改正の流れもあり、社外取締役制度に注目が集まっていますが、監査役さんもがんばっておられます。京セラコミュニケーションシステムの元常勤監査役でいらっしゃる西村毅(たけし)さんが、このたび自費出版にて「監査役で会社は変わる」と題する自らの研究成果を発表されました。冒頭の西山先生(九州大学法学部教授)の推薦の言葉がひときわ目をひきます。

監査役で会社は変わる(西村毅著 日経事業出版センター 1,800円)

西村さんは、三和銀行のご出身で、ニューヨーク支店の副支店長を経て、京セラコミュニケーションシステムの常勤監査役に就任されました。日本監査役協会でも同志社大学の先生方とガバナンス研究に携わっておられましたが、さらに現役の監査役から立命館大学法学部の大学院生に転身し、ガバナンス研究の道に進まれました。実は当ブログ開設当時から、某ネームにてコメントをいただいておりまして、私の煮え切らない監査役の理解について渇を入れていただいておりました。何度がお食事をご一緒させていただきましたが、ホントに(監査役制度に対する)熱い思いをお持ちで、(失礼ながら)私も、西村さんくらいの年齢になっても熱い気持ちを忘れずに仕事ができたらなぁ・・・と思っておりました。

さて、その西村さんが、大学院で研究された成果をまとめられたのが上記の一冊です。一般の学者の方とは少し異なり、銀行マンとして、また常勤監査役として、これまで精一杯実務で経験されてきた立場から「効率性監査」「従業員主権に基づくガバナンス」を説いておられます。この本の中で、西村さんは5名の「モノ言う監査役」さんを紹介しておられ、監査役として必要な資質について語っておられます(ちなみに、あのスティールパートナーズが取締役には反対票を入れたにもかかわらず、モノ言う某監査役さんには賛成票を入れていた会社がある、という事実は知りませんでした)。ダブルチェックする立場の監査役、効率性監査のための監査役という位置づけについては私も同感です。最近いろいろなところで、私は「第二思考回路の必要性」についてお話していますが、この「第二思考回路」こそ、効率性監査への私なりの考え方です。

従業員主権に基づくガバナンス、というところは、かなり思い切った内容ですが、株主利益の最大化を図るという会社法の枠組みを考えたときに、会社法の中に組み込むことのむずかしさは感じます。従業員主権的な発想は、利害関係者の利益調整の枠組みとは別に、経済法の領域で考えるべきではないか、といった意見もあるかもしれません。ただ、アクリフーズ事件やJR北海道事件のように、「どうすれば不祥事が防止できるのか」思考停止してしまいそうな問題が後を絶たない昨今、こういった経営の一画に従業員が責任を持つという発想は、今後の取り組みを考えるうえで参考にできるのではないかと思います。

ガバナンス論というと、社外取締役導入論ばかりが注目されていますが、西山教授が(推薦の辞において)「従業員と言葉を交わすこともない社外取締役が行う会社の管理は、・・・果たしてわが国の経営風土に適合するものでしょうか」と疑問を投げかけておられます。まさにこの言葉が、本書の内容をよく表現されています。西山先生が「本書は監査役、監査役スタッフそして、同僚である取締役の皆様にお勧めいたします」と述べておられますが、私も「会社を変えることができる」元気な監査役さんが増えることを期待しつつ、本書を推薦したいと思います(たぶん、日経事業出版センターさんのほうでお買い求めいただけるものと思います)。そもそも社長さんの「監査役人選」の意識を変えること、それが「監査役で会社が変わること」につながるのでしょうね。

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2014年1月29日 (水)

社外取締役が不祥事防止に機能するには条件がある

昨日、一昨日と、企業不祥事(企業の危機対応)についていろいろと書き連ねましたが、企業が有事に至ったときに社外取締役は機能するのだろうか・・・ということは、よく議論されるところです。一昨年のオリンパス事件の際、3名の社外取締役の方々が、不祥事防止には機能しなかったと言われています。日頃は社長と懇意にしていることから、有事になってもモノが言えない、ということでは社外取締役としての役割は果たせないことは間違いありません。

しかし、社外取締役が有事にモノが言える方がいらっしゃるとしても、そもそも「有事意識」を他の取締役さんと共有できなければモノが言いたくても言えません。私が仕事でいろいろな取締役会をみていて感じるのは、「取締役会で議論すべき事項が、本当に取締役会に上程されているのだろうか」という点です。私はどんなに素晴らしいコーポレートガバナンスを構築している企業であったとしても、この役員会への上程事項に問題があればガバナンスは機能しないと思っています。これは不祥事防止という意味でも、また企業価値向上という意味でも、社外取締役や社外監査役が有事意識を共有して議論しなければならないことが、本当は上程されていないのではないか、社外役員や監査役会に「つつかれそうな事項」は、執行役員会議や常務会等で議論されているのではないか、という問題です。

企業不祥事を世間に公表すべきかどうか・・・という問題など、まさに社内の取締役にとっては利益相反行為です。その公表の是非を社外役員を含めて論議すべきであるにもかかわらず、社内調査の結果が別の会議体で報告され、社長決裁で済まされるということは十分にありうるところです。したがって、本来は①独立取締役が参加するに至った時点において、きちんと取締役会上程基準が見直されているか、②誰がどのような責任において上程基準の判断を決しているのか、③その判断についてはPDCAによって検証される機会が確保されているのか、という点はとても重要だと考えます。こういった取締役会上程基準が健全に運用してこそ、社外取締役は有事意識を共有することが可能となるために、不祥事防止や企業価値向上のための経営判断において有効に機能するものと思います。

本来、取締役会にきちんと議題が上程されているかどうか、といったことは社外取締役自身が気をつけていなければならないことですが、ガバナンスの「見える化」という視点からすると、社外取締役が取締役会の充実に寄与するためには、常勤監査役の存在も大きいと思います。取締役会以外の重要会議に参加し、また社内で発生している問題にもアクセスしうる立場にあるので、取締役会への上程基準の運用に不審な点があれば、常勤監査役から問題提起がなされる可能性があります。会社法改正によって新設される監査等委員会設置会社では、常勤の監査委員たる社外取締役は任意設置となりますが、本当に利益相反行為に関する取締役会の判断が確実になされるためにも、私は常勤の監査委員の存在が不可欠だと思います。もちろん管理部門の取締役さんが信用できない、というわけではなく、そういった保障装置の存在は、外から見ても安心できるガバナンスだからです。

今回は取締役会への審議事項、報告事項の上程基準について述べましたが、同じような状況は親会社による子会社管理にも言えると思います。子会社管理といっても、実際に下から上がってこなければ管理できないと思います。今後、財務情報だけでなく、非財務情報についても企業価値創造との結びつきが開示される機会が増えてくるものと予想しています。監査役制度や内部監査制度などが、当社のビジネスモデルが抱えるリスク管理にどう役に立ち、それがなぜ企業の売上向上、原価管理、そして経費節減に役立つのか、報告責任が求められます。ガバナンスの「見える化」「言える化(説明できること)」が益々問われる時代になるものと理解しています。

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2014年1月28日 (火)

不祥事発生時における行政当局と企業との「有事意識」のズレ

マルハニチロ系列のアクリフーズ社冷凍食品農薬混入事件において、アクリ社の契約社員が逮捕されたのを受けて、マルハニチロ社、アクリフーズ社の社長さん方が引責辞任されるそうです。今後どのような事実が判明するのかわかりませんが、外部からは私物を持ち込めない、包装室へは原則として関係従業員以外は立ち入りができない、としていたアクリフーズ社の説明が事実に反するものだったことから、ともかく現場のセキュリティに問題があったということは否めないようです。

しかしアクリ社の場合、農薬混入の事実公表の時点から、どうも公表内容と事実とのズレが目立ち、行政当局との信頼関係が維持できなかったようです。企業不祥事を発生させた場合、初動対応として、いかに監督官庁との信頼関係を築けるかという点が、その後の不祥事の広がりに影響します。最近大きく報じられた企業不祥事を、この「行政当局との信頼関係」という視点からまとめたのが以下の図表です。いずれの事件においても、初動対応において、行政当局との信頼関係が維持できなかったことがわかります。

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こうやって図にしてみると、信頼関係を維持できなかった要因として、企業と行政との間に、不祥事発生時点における「有事意識」の差が大きいことが推定されます。行政が「一大事」と考えているのに対して、企業は、少なくとも現場レベルでは、それほど有事の意識を持っていなかったのではないかと思われます。JR北海道が16%もの現場社員が「データ改ざんを自らやったことがある」と回答している点や、アクリフーズ社の社員も、「とんでもない量を食べなければ人体に影響はない」といった発言をしていたことなどからも、そもそも事件の重大さ、事態の深刻さに対する意識がなかったことがわかります。

ただ、この行政と企業との有事意識のズレが生じているのは、おそらく規制緩和(規制改革)の中で、行政規制の手法が事後規制に移行しつつあるからではないかと。一般企業で不祥事が発生した場合、その対応については、行政は最後の最後まで企業の自助努力に期待するのが事後規制社会における行政の対応です。そして、もはや自助努力に期待していては、被害の収束が困難と判断するや否や、今度は手のひらを反して事前規制(国民に被害が及ぶのを未然に防止する)の目的を達成するために積極的に企業経営に干渉します。

不祥事を起こした企業側において、こういった最近の行政規制の変遷に気づかないでいると、上記の事例のように不祥事発生の初動対応時において行政当局との意識のズレを生じさせます。そのことが、行政当局を本気にさせてしまい、非常に厳しい対応が、企業に向けられることになります。目の前で発生した出来事を認識したときに、経営トップが「これはわが社にとって一大事」と、どの時点で気が付くのか・・・・・、ここはひょっとすると「人の素質、才能」に関わる問題なのかもしれません。

企業が自浄能力を発揮することの重要性はよく説かれるところですが、これは「有事である」と企業自身が認識すれば、ということが前提となります。今回のアクリフーズ社の事件の経緯を丹念に眺めていますが、今のままでは、他の食品会社における同種事件の未然防止の教訓となりうるのか、そもそも従業員どうしで性悪説にたって監視して、本当に美味しいものが作れるのか、とても疑問に思うところです。更なる事実解明をまって、検討してみたいと思います。

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2014年1月27日 (月)

社会的反響に怯える(おびえる)名門企業の広報リスク管理について

さて、ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでございます。日テレ系ドラマ「明日、ママがいない」の放映について、ドラマ内容の適切性が社会的な話題となっています。同番組にCMを提供している名門企業8社のうち5社がCMスポンサーからの降板を決定、他の2社も現在検討中(1社は継続決定)・・・という事態に至りました(1月26日現在)。時を同じくしてANA(全日空)は海外からのCM批判(外国人の要望を揶揄する不適切表現)によってCM中止に追い込まれ、またファミリーマートも商品発売に対するネット上でのクレームによって商品提供を中止する事態になりました。なかでも、とりわけ「明日、ママが・・・」の問題は、近年の企業コンプライアンスやリスク管理を考えるうえで、とてもむずかしい課題を含んでいるように思います。以下は、あくまでも私個人の勝手な意見です。

いつも申し上げているとおり、企業コンプライアンスには100点満点の正解はありません。今回のCM提供スポンサー企業の行動についても、スポンサーを降りるべきか、そのまま継続すべきかは、当該企業の置かれている状況ごとに検討する必要があります。すでにスポンサーを降りた5社については、「このまま番組スポンサーを続けていると、この番組への社会的批判が強まる中で、企業イメージに傷をつけてしまうことになる」という経営判断を優先させたものと思料いたします。企業の信用を毀損させてしまうことを回避する、という意味において、これもひとつのリスク管理(危機対応)の手法なのかもしれません。

ここでひとつ私が申し上げたいことは、この「明日、ママがいない」にCMを提供している企業にとって、これだけ番組に対する社会的批判や擁護(継続支持)の意見が飛び交う状況は、企業にとって「有事」の状況にある、ということです。企業にはたくさんのステークホルダーが存在します。消費者、株主、地域住民、取引先、監督官庁、従業員などなど、企業は多くのステークホルダーの利益を考慮しながら事業を継続しなければなりません。社長は「すべてのステークホルダーのために」企業を経営するわけであり、ステークホルダーの利益に優劣はない、というのが平時の対応です。しかし有事となれば別です。平時とは異なり、どのステークホルダーの利益を優先し、どの利益は後回し(もしくは切り捨て)にするか、企業は非情な判断を下す必要があります。

有事において、企業がその優先順位を検討する場合に大切なことは、企業行動が合理的・論理的に対外的に説明できるかどうか、という点にあります。ここを間違えますと、社会的な批判の対象は、あやふやな行動に及んだ企業に向けられることになり、企業はいわゆる「二次不祥事」を抱えてしまうことになります。たとえば統合報告書に記載している内容と、有事の企業行動との間に矛盾は生じていないのか、ISO26000の社会的責任を果たしているといえるのか、また、今回のように社会的な批判が向けられているテレビ番組へのCM提供の場合、降板するのであれば、「社会的批判が強いからCMをやめる」というだけでは、今度は社会から「声の強い世論に負けた弱腰企業」という批判を受けることになるのではないか、といった点です。もし降板するのであれば「当社は番組内容が不適切と判断し、このような番組は支援できない」もしくは「全体を通じて作品を視聴せずとも放送法違反が明らかであり、資金支援はできない」という意思をきちんと示すことが重要です。

たしかに番組を制作するのは放送局ですから、ドラマ継続の可否、不適切表現の修正を含めて、その制作責任を負うのは放送局です。しかし一般的に、スポンサー企業が番組内容にいろいろと要望を述べることは(良い悪いは別として)行われるところですから、「内容に問題があるからお金はこれ以上出さない」とする判断は可能だと思います。しかしながら、そのような判断も下すことなく、世間の風向きをみて「これはマズイ・・・」ということで番組スポンサーから降りるというのは、まさにうつろいやすいレピュテーションに左右される企業行動として、私は賛成できません。

では「番組は厳しい社会的批判にさらされているが、それでも当社は番組を降りない、CM提供は継続する」という企業の判断はどのように合理的に説明できるのでしょうか。私は番組制作の前提となるルールメイキング(事実を曲げて放映する、放送内容に政治的な偏向がある、明らかに公序良俗に反する方法で放送を行う等)に不適切な問題がある場合にはCMは降りるべきだが、制作された番組内容の適切性については一切関与しない、という判断は十分成り立つ、と考えています。たしかに社会的な批判が高まる番組のスポンサーとなれば、自社商品のイメージを傷つけるという考え方もわかります。しかし、総務省による放送への関与や放送と人権の調整問題は、まさに自主規制としてのBPOが担うべき問題であり、レピュテーションに委ねることなく、BPOでの判断を尊重すべきではないでしょうか。また、自社が不正行為に及んだ場合は別として、企業のブランディング(企業イメージを向上させる戦略)は、もはやCM広告だけでなく、それ以外の日常の企業行動によるところが大きい時代です。たとえレピュテーションリスクが顕在化するおそれがあったとしても、その企業がどれだけ有事に毅然とした態度をとるのか・・・という点も含めて、企業の社会的な信用が形成される、という考え方も成り立つものと考えています。

企業が有事においてレピュテーションリスクに配慮しなければならない場合、「レピュテーションはうつろいやすいものである」という点に留意しなければなりません。私は「企業は時には闘うコンプライアンスの姿勢を示すことも必要」だと考えています。社会と共生できない企業は不要です。しかし、何が社会との共生にとって必要なのか、その判断基準は時代によって変わるものであり、今回の事例からすると、放送局、広告代理店、そしてスポンサー企業とのリスクコミュニケーションが求められると思います。

社会的な批判の出ている番組にスポンサーとして資金を提供することは、商品イメージを落とすころになり、短期的には損害を発生させるかもしれません。また、社会施設に対する社会一般の偏見等を助長してしまう結果に加担することになるかもしれません。しかし、番組制作者ではなく、スポンサーという立場において社会問題にどうアプローチすれば社会的な価値を創造しつつ、長期的な視点で事業を成長させることができるのか、そこをきちんと社会に対して説明する必要があると思います。企業はレピュテーションリスクから逃れられない以上、いかにして社会と共生していくか、その方法を地道に考えることが求められています。企業不祥事のリスク対応を担当する者として、広報コンプライアンスの課題は社会的な批判から逃げることが最もマズイ行動であり、その批判を重大な問題として受け止めて逃げない姿勢を示すことが最も大切だと考えています。

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2014年1月22日 (水)

JR北海道に対する監督命令は国の責任にも光を当てるのか?

JR北海道に対して、国交省は監督命令(JR会社法による)と、業務改善命令(鉄道事業法による)を出しました。データ改ざんやATS破損など、職員の行動をみれば厳しい行政処分が出るのも当然のことかと思います。同社の社長さんも「二度と同じことを繰り返さないよう厳粛に受けとめる」と記者会見で述べておられます。以下のお話は、純粋に利用客の安全を第一に考えるとすれば・・・という趣旨で書いたものであることをご理解ください。

しかし本当に「二度と同じことを繰り返しません」という言葉は信用できるのでしょうか?21日にJR北海道が公表した事故調査報告書によりますと、保線管理従事者のうち、16%もの現場社員が過去にデータ改ざんの経験があると聞き取り調査に回答しています。これは驚くべき数字であり、私からすれば、16%の人たちが自身でデータ改ざんをやるということは、ほとんどの社員が見て見ぬふりをしている、つまり全社的にデータ改ざんを容認する風土だったと言えると思います。これはおそらく現場社員の人たちが不誠実、ということだけで済ませることはできない異常な数字です。

このたび、国の監督命令が出されて、5年間の特別監査、第三者委員会の設置などが実現するようですが、そもそもこの「現場社員の16%がデータ改ざんをやっていた」という風土がすぐに改革できるとは到底思えません(おそらく、このブログを読んでおられる方々も同じ意見かと)。厳罰化といっても、そんな(一般探索型による不正発見のための)費用など、どこからも出るわけではなく、また内部通報制度が機能するほど、「見て見ぬふりはできない」社員が多いとも思えません。

そもそもJR北海道は実質的に国営企業ということですから、経営安定化基金の拠出など、国自身もJR北海道の経営に関与していたといえると思うのですが、今回の監督命令をもって、監督する立場の国の問題は浮かび上がるのでしょうか、それとも国は何も悪くなかったということなのでしょうか。現場の社員の人たちは、そんなに普段から不真面目な人たちばかりだとは思えないわけで、それなりにデータ改ざんを正当化する理由をもっていたはずです。ひとりひとりはまじめな社員でも、ひとたび組織の構成員になると、なんのためらいもなく不正に走る、ということはどこに原因があるのか、むしろそういった視点で考えるべきではないでしょうか。

たとえば、「これはデータの修正であって、改ざんではない」という理由ですよね。厚労省がアルツハイマー研究の成果について「改ざん疑惑」の調査に追われていますが、東大の先生が「たしかに修正はしたけれども、これはデータの改ざんではない」と述べておられます。今回の改ざんの中には、あの論理と同じものもあるのかないのか。誤差の範囲における修正は改ざんとは異なるのか、同じなのか。

また、人的にも物的にもやりくりができないほどの社内ルールは、そもそもルールのほうが間違っているのであり、それを何度も上層部に連絡しても改善されないから、やむをえず自己防衛のために(つまり責任感のあらわれとして)社内ルールを省略し、今回問題となったことから追記したのだ、という主張。もちろん、そのような言い分が正しいかどうかはわかりませんが、他者にも問題があるからこそ、自らのデータ改ざんを正当化できたのではないかと。それくらいに考えてみなければ、到底「16%の社員がやっていた」ことの説明はつかないと思います。(ちなみにアンケートでは7割程度の保線社員の方々が、人員が足りない、業務が多すぎると回答されています)。

国は国民の生命、身体の安全を未然に防止する義務がありますから、安全管理責任者の解任命令を発出することはわかります。また懲戒解雇の5名を含む75名以上の社員が処分を受けたこともわかります。ただ、「安全管理責任者が解任という厳罰を受けた」「改ざんした者が処分を受けた」ということで、なにか組織上の責任がとられたように考えるのが最も危険です。「見て見ぬふりをする風土」はそのまま残るわけですし、誰が責任者をやっても、そもそもの原因究明があいまいであれば、またデータ改ざんは必ず起こります。なぜなら、彼らにとってはデータを改ざんしてでも国民の安全を守るという責任感(国や経営者の言うことを守っていては、かえって事故が発生してしまうから、やむをえないのだ)が成り立つからです。また、不正をやりたい放題やったとしても、絶対にJR北海道という企業がなくなることはない、ということはみんなが知っているからです。

今後、JR北海道の組織構造上の問題を解明していくのであれば、「いやいや、JRの社員が一方的に悪いのだ。新幹線計画を含め、使われている税金の金額は適正なのだ。不届き者の社員に教育をすれば絶対に不正はなくなるのだ」と言い切ることができるような原因究明がまずなによりも必要だと考えています。「分割民営化以来の根深い労使問題がある」などと、わかったような言い方で済ませてしまうと思考停止を招きます。仮説検証を繰り返し、国や旧経営陣も含めた問題点を深堀りする必要があります。そうでなければ、そもそも監査する側の問題点は今後も浮かび上がることはなく、不正は繰り返され、国民の生命、身体の安全は確保されないのではないか、と考えています。

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2014年1月20日 (月)

東証・上場会社セミナー「会計不正のリスクとガバナンス~法律と会計からの実務対応~」

大阪もめっきり冷え込んで厳しい寒さとなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。さて、本日は東証セミナー(上場会社役員向け)のお知らせでございます。上場会社の代表者、コンプライアンス担当役員、監査役、コンプライアンス担当の管理職の方に向けての会計不正リスクへの対応に関する講演をさせていただくことになりました。先週17日より、東証のHPにてリリースされております。2月19日は渋谷公会堂、3月4日は大阪銀行協会となっています。

講演をご一緒させていただくのは、ご存じ(?)「粉飾ハンター」の異名をとる宇澤亜弓会計士(女性の方ではございません)です。最近2冊目のご著書「財務諸表監査における不正対応」(清文社 宇澤亜弓著 3,600円消費税別)を出版され、財務諸表監査は(とりわけ)経営者不正に対して有効である、ということを「職業的懐疑心」の中身に鋭くツッコミながら力説をされていることが一部で話題になっております。申すまでもなく、12年間にわたり粉飾を摘発する側で活躍をされ、現在は会計不正事件の第三者委員としても活躍中の宇澤先生のお話はたいへん関心のあるところです。私と宇澤先生はACFE(日本公認不正検査士協会)の理事仲間ということで、宇澤先生のお話をお聴きする機会もありますが、やはり粉飾を摘発する側の論理(言い分?)というものを聴くことはたいへん勉強になります。

さて、私はといいますと 「『気がつけば我が社も粉飾企業』と後悔しないための経営者の知恵」、という意味深けなテーマでございます。経営者向け、ということで、経営者がどのように投資家、監査人と向き合うことがリーガルリスクを低減させるのか、という点を具体的な事例や、私の関与事例などを参考にしながら(守秘義務に気をつけながら)解説させていただきます(「期待ギャップ」という言葉は、監査制度に関する投資家・株主と監査人との認識のズレを言い表すものですが、経営者にも制度会計や監査に関する誤解があるのではないか、この誤解を解く必要があるのではないか、と感じているところです)。

忙しい経営者はほとんどのビジネス案件を社内の「暗黙知」で処理したいのです。とくに日本の役員会、執行役員会議では、この暗黙知(非言語領域にある経験知)をもって処理できるからこそスピード経営が可能だと思います。ただ、ディスクロージャーやIR・SR活動は暗黙知では通用しません。対外的に求められる合理的・論理的な経営判断をどう「暗黙知」と調和させるか・・・、そのあたりが「気が付いたら粉飾企業になっちゃった」と後悔しないために検討しなければならないところかと思っております。1時間15分という、私にとっては短距離競争の時間なので、本当に要点のみに絞ってお話をしたいと思います。参加資格が決まっているので、どなた様も・・・とは言えませんが、ぜひともご担当の方々にご紹介いただけますと幸いです<m(__)m>

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2014年1月16日 (木)

企業のリスクマネジメントを予算に結び付けるために必要なもの

今年も2月から日本監査役協会の研修会(全国ツアー)の講師を務めます。おかげさまで、ツアー最初の大阪講演は2日ともソールドアウトの状況でして(どうもありがとうございます<m(__)m>)、「経営に活かす監査役の有事対応」といった春の新作を用意しております。またぜひ楽しみにしていただければ幸いです。

さて、トーマツ企業リスク研究所さんが、恒例の企業リスクマネジメント調査の結果を公表されております。ESG投資がさかんになり、投資家の投資判断指標において、非財務情報の占める割合が急激に増加しています。そのような時代に、企業リスクマネジメント調査の意味も次第に大きなものになってきているものと思います。本日(1月15日)、警視庁による情報管理体制のミスが東京地裁で認定され、プライバシーを侵害されたとする原告らに対する莫大な賠償命令が下されました。こういった情報漏えいリスクも企業にとって大きな懸念ですが、2013年の調査結果をみると、初めて「海外拠点におけるリスク」が1位になったようです。

当ブログでも、以前から海外不正リスク管理の重要性は述べてきましたが、(反社会的勢力対応リスクと同じく)その重要性は認識できたとしても、だからといって十分なリスク管理の実践に結び付くかどうかは別問題です。私はとくに海外不正リスク対策を支援する経験は多くはありませんが、反社勢力排除システムの支援についての経験からしますと、「リスクが顕在化したらオソロシイとは思うけれども、ウチの会社では大丈夫」という経営者の意識が強い場合には、なかなか予算獲得にまでは至らないのが現実ではないかと。

よくリスク管理評価の場面で、「リスクの重大性×発生確率」による定量化が指摘されますが、この数値によってリスクマネジメントの予算が獲得できるようには思えません。経営陣にリスクマネジメントの重要性を納得させる「何か」が必要であり、こういった理屈の上での数値化は、その「何か」を補強するものにすぎない、というのが実感です。いわばリスク管理の巧拙がどのように「お金の動き」に影響するのか、リスクの顕在化によって、どういった経過をたどって企業価値の重大な損失につながっていくのか、ひいては会社だけでなく、自身の身の危険にまで発展していくのか、というところを「たとえを用いて」わかりやすく解説することが求められます。

不正リスクというものも、他社では(企業不祥事として)顕在化したかもしれないけれど、自分の会社では(少なくとも2期4年の間は)起きないと信じて疑わない経営者の方も多いはずです。リスク管理の構築のためには、ここで「いや、御社でも十分起きる可能性はありますよ。なぜなら・・・」と説明する監査役さんや担当責任者のスキルが必要です。リスクマネジメント会社がコンサルタントとして会社と契約を結ぶ背景なども、そのマネジメント会社が有能だから・・・ということだけでは契約締結には至らないと思います。たとえば会社のIT責任者とマネジメント会社との相性はどうか、IT責任者は一方的にマネジメント会社の儲け話にうまく取り込まれることはないか、本当にITマネジメント会社と相対している責任者に公正な目でどこのマネジメント会社が適切なのか、見る目はあるのか・・・、そういったところから、経営トップが多額の予算を付ける決断に至るのが現実ではないかと(これは法律事務所選びでも同じだと思います)。

会社の中で半年とか1年ほど、不正対応の仕事(アドバイザーやコンサルティング)をさせていただく機会に、これまで何度か恵まれましたが、それでもセミナーを20回ほどやる中で、わずか1件程度の割合です。そういった機会をいま振り返りますと、社長のほうをみて「有能な仕事やりますよ!」といったアピールをしても仕事には結び付きませんが、親身になって担当者と細かい打ち合わせを重ねていく姿が評価されて有事の仕事やコンサルティングの業務に結び付いたというのが実際のところです。

リスクマネジメントの重要性を経営者に訴えるということは、経営者の心に響く「何か」のイメージが伝わるからこそ、予算がつき、管理体制の構築・向上につながる、ということなのではないでしょうか。また、(社内的に)経営者を動かすリスクマネジメントのイメージ作りが向上することによって、対外的にはリスク管理能力の「見える化」が進み、ひいては非財務情報が重視される時代の良好なIR活動につながるものと考えています。

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2014年1月15日 (水)

恫喝されても監査をやりぬくのが「職業的懐疑心」ではないか?

昨年から、ある社会福祉法人のコンプライアンス体制支援をしていますが、この法人が弁護士に支援を求めるに至った要因は、今般の産業競争力強化法の施行に対処することもありますが、なんといっても経理担当者による大きな業務上横領事件が発生したことにあります(もちろん事件の報道もされました)。

同法人の経理担当社員が長年にわたり、合計1億円ほどの金員を横領していた、という事件です。税金の一括納付と集金業務とのタイムラグを利用して、少しずつ着服しては架空の「未収金」を積み上げていたようです。厚労省の定期監査、会計士資格を有する監事さんらの監査もくぐり抜けていました(こういった監査は主に事業所が中心であり、本部は手薄になるようです)。

同法人の内部監査担当者はといいますと、不正の疑惑を感じていたので経理担当者に質問をしてみたものの、「お前は内部の同僚を疑うのか!」と恫喝され、その後は質問できなくなってしまいました。まぁ、厚労省監査でも、また会計士資格を持った監事の監査でも「問題なし」だったので、それ以上には疑わなかった、とのことのようです(実際には疑惑は残っていたものの、これを追及しなくてもよい理由がみつかった、というのがホンネではないでしょうか)。

では、この経理担当者の横領がなぜ発覚したかといいますと、最近、新たに同法人の財務担当理事(監事ではありません)に就任した方の前職が上場会社の常勤監査役でして、「おや?未収金の積み上がり方が異常ではないか。なぜ、ここ数年、これほど未収金が増えているのか、質問してみよう」ということで、経理担当者を呼び出して疑問点をすべて質問されました。経理担当者も、最終的には横領の事実を認めたとのこと。質問の最中は「そんな細かいことまで」とかなり批判をされたそうですが、いわゆる職業上の懐疑心を発揮した好例ではないでしょうか。

そういえば昨年12月4日の日経新聞朝刊に、食材偽装を発表した松屋さんの事件が掲載されていまして、松屋の総務部の社員の方が「うちのテナントにも偽装はないのか、一度調べてみよう」ということで、各テナントさんに「偽装を行っていないことの確認書」に署名するようにお願いに回ったそうです。最初は各テナントさんから「いままでの付き合いがあるのだから、なにもそこまでしなくても」と批判をされたそうですが、断固この要求をまげなかったため、結果的にたくさんのテナントさんが偽装を告白したとのこと。これも監査する者の職業上での懐疑心の発揮事例だと思います。

昨年、ネットワンシステムズ社の第三者委員会報告書が話題になりましたが、あのネット社の不正行為者も、経理部や内部監査部を恫喝し「お前の家族がどうなっても知らないぞ」「地下鉄では用心しろ」などと言われ、やむなく追及の手を緩める、という衝撃的な記載がありました。また、最近のニュース記事では、あの長野県建設業厚生年金基金の24億円持ち逃げした担当者は、保険会社からの質問に対して「そんな質問をするのなら、これから保険会社を変えるぞ!」と恫喝され、その後3年ほど追及の手を緩めています。

こうやって実際の事件を眺めてみますと、不正行為者にとって、「恫喝」は意外と監査担当者が相手だと有効な手法だと言えます(もちろん、そんな行動は絶対にあかんことですが・・・)。恫喝された方からしてみますと、なにも精神的な苦痛を背負ってまで、不正を追及することもない、という正当化理由をどっかで見つけてくるようです。しかし、本当の職業的懐疑心というのは、恫喝を受けたとしても、ひるまずに不正の疑惑を解明する姿勢があってのことではないでしょうか。少なくとも、監査という役割を担っている以上、「ちょっと細かすぎるのではないか、そんなことどうでもよいでしょ」と言われようが、監査に協力するよう相手方を説得しつづける姿勢が求められていると思います。

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2014年1月14日 (火)

一緒に失敗したからこそ社長にモノが言える弁護士

サントリーホールディングス社のビーム社買収のニュースには驚きましたね。1兆6000億円という日本でも最大規模の買収とのことですが、よく事前に情報が洩れませんでした。ここのところのサントリー社のグローバル展開はすごいスピードですね。2009年にキリンホールディングス社との経営統合が破談に終わったときは、あれだけ日経さんから批判されましたが、ひょっとするとサントリーHDの社長さんの最大の功労は、あの時点で事業統合を撤回したことではないかと(もちろん、撤回に向けてどのような力が働いたのかは知る由もありませんが・・・)。

さて、今朝(1月13日)の日経新聞(法務インサイド)に、弁護士資格を有する上場会社社長である松竹(東証1部)の迫本氏のインタビュー記事が掲載されていました。日本で弁護士資格を有する上場会社社長という方がどれほどいらっしゃるのか、私はわかりませんが、おそらく非常に珍しいのではないでしょうか。

記事の内容はとても興味をそそられますが、社外の弁護士に意見を求めた場合、

考えられる法的リスクを挙げたうえで、どうするかは経営判断だと言われがち。しかし会社はもう少し踏み込んで一緒にリスクをとるぐらいの助言を求めている。米国では映画制作に出資するなど事業に深く関わる弁護士が多い

とのこと。かなり耳の痛いお話ですが、社外の弁護士に対する経営者の意見としては、世間でよく聞かれるところです。われわれ弁護士の立場からすると、事業に関与することについての弁護士法上の問題や、多数の案件を抱えている法律家として、そのうちの一件で問題を抱えてしまいますと、職務に対する専心義務を尽くすことができなくなり、他の多くのクライアントに迷惑をかけてしまう、という(もっともらしい)言い訳、さらには弁護士としての信用を落としてしまうと同じ事務所の他の弁護士にも迷惑をかけてしまうという(内向きな)言い訳なども浮かんでくるかもしれません。

「弁護士の助言」といいましても、レギュレーション(業界における特殊な規制)に関する助言と、経営全般に及ぶリスクマネジメントに関する助言とは異なります。レギュレーションについては、迫本社長もおっしゃっておられるように、どんなにリスクが大きなビジネスでも「法の許す範囲で」行うことが前提なので、法律の専門家として発言は比較的しやすいものと思います。たとえ有能な法務部が存在しても、法令遵守のレベル感(世間並み、業界並み)という感覚は、やはり外部の弁護士から知りたいところかと。

ここからは私の経験からということで、一般化はできないかもしれませんが、ビジネスリスクマネジメントに関する助言となると、かなりむずかしいですね。実際、M&Aの8割は失敗するわけですし、またビジネスが成功するかどうかは理屈や論理ではなくてセンスや感覚、たぐいまれな知見に秀でた社員の存在、それを支えるガッツある組織等に依拠するところが多いと思います。ましてや法令違反の伴わない企業不祥事リスクともなると、社外の常識と社内の常識が食い違っていたなどというのは、「後だしジャンケン」に近いものでして(笑)、重大なリスクとしてあらかじめ認識しておくことは至難の業です。ということで、私は最近「トライ&エラー」によるリスク管理ということを推奨しており、経営判断よりも前に認識できるリスクよりも、判断後に初めて認識できるリスクのほうが多いので、リスクの顕在化を早くみつける体制作りを推奨しています。

企業としての投資判断が失敗に終わった場合、トラブルに見舞われた場合、紛争で負けないようにするための判断と、そもそも紛争に巻き込まれないための判断は異なります。これは「リスクをとってみなければわからない」わけでして、銀行さんに顔を向けるのか、株主様に顔を向けるのかによっても判断は変わります。本当に効率的なリスクマネジメントは、トライ&エラーでいくべきだと思うのですが、「トラブルが起きることを前提に物事を考えるなど、とんでもない」「最初から社員を信頼しないなど、もってのほかではないか!」と怒られることもあります。

社長に「なにがなんでも成功させる!」「失敗など絶対にしないし、させない!」という意気込みがあるからこそ、経営判断後に顕在化するリスクを乗り越えて事業を成功に導くわけですし、しんどくても社員みんながついていくわけです。ただ、ひとつ言えることは、社長と一緒にリスクをとって、一緒に失敗した経験を持たないと、「社長、ここで撤退する勇気を持ちましょう」と意見を言っても通らないのではないかと。

アメリカのようにプロの経営者がたくさんいらっしゃるならいざしらず、一社員から上ってきた日本の経営者の方の場合、「あとは経営判断であり、会社が考えること」と冷静にお話をして、それ以上踏み込まない人の意見には、おそらく社長は耳を傾けないはずです。一緒に失敗をして、一緒に恥をかいた立場にいるからこそ、社長も人の意見を聞いて、「撤退」という新たなリスクをとる覚悟をするものと思います。

最後になりますが、先の迫本社長さんが、インタビュー記事の中で、

利益を最大化するために、ぎりぎりまで踏み込んだ強気の経営判断を下す際、弁護士としての経験が生きている

と述べておられますが、このあたり、たいへん興味があるものの、少々イメージが湧きにくいので、もう少し具体的に詳しくお聴きしてみたいところです。

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2014年1月10日 (金)

役員セミナー募集の終了のお知らせ

さて、昨年11月に募集させていただきました「組織ぐるみの不祥事と言われないための役員のリスク管理」と題する役員セミナーですが、現在までのところ、検討中のところを含めて5社よりお声掛けいただきました(うち、すでにセミナーが確定したのは3社)。やはりこういった社内セミナーは、予算の許す範囲内で(?)、法務部やコンプライアンス室、総務部などのご担当者の方が企画されるケースが多いのですね。

今年前半のスケジュールとの兼ね合いから、この5件で精一杯のような感じなので、ここで募集を締め切らせていただきたいと思います。いろいろとお問い合わせいただき、ありがとうございました。<m(__)m>聖人君子のような姿勢でのお話ではなく、あくまでも現実に火の粉を振り払うためのリスク管理、ということなので、また関連する話題などありましたら、セミナーでお話する内容の一部をブログ等でご紹介したいと思います。

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2014年1月 8日 (水)

日立造船特別背任疑惑と会社法改正法案との接点

有斐閣の雑誌「法学教室」の400号(記念号)の特集記事に、東大の神田教授の比較的長いインタビュー記事が掲載されていまして、平成17年改正会社法施行のころから上場会社を当事者とする裁判が激増しているということを指摘しておられます。裁判激増の理由として、上場会社についてもようやく会社法が使われる時代になった、使ってみると、会社法の条文の解釈とか、いろいろとわからないことが出てきて、そこで紛争が裁判所に持ち込まれるケースが多くなってきたことを掲げておられます。上場会社を取り巻く関係者の方々や支援をする方々の中に、会社法を理解する方が増えてきた、ということなのかもしれません。

さて、そのような神田先生の見解を裏付けるような事例が新聞やニュースで報じられています。第一報は、たしか年末の紅白歌合戦の最中だったと思いますが、本日(1月7日)、どこのニュースでも取り上げられているのが、日立造船社の事業譲渡(同社役員の特別背任)疑惑の件です(ちなみに日立造船さんは、私の知人・友人がたくさん勤務しておりまして、この件を取り上げるにあたり、若干テンションは落ちますが・・・・・)。どのような事案かといいますと、

日立造船社から派遣された経営陣によって、自社の独自技術を盗まれ損失を受けたとして、ベンチャー企業の旧経営陣4人が7日、日立造船を相手に約7億5000万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。訴えたのは、大阪府泉佐野市の「エヌビイエル」(NBL、すでに破産)の旧経営陣。訴状によると、NBLは石油やシェールガスの採掘に使うプラスチック製高圧管の製造で独自技術を持っていたが、資本参加した日立造船に会社分割制度を悪用され、別会社に技術を移転されたと主張。NBLは破産に追い込まれ、株主だった旧経営陣が損失を受けた、旧経営陣らは、経緯を明らかにするため、造船の会長らへの刑事告訴も行っている

というもの、(たとえば時事通信ニュースはこちらです)。つまり、NBLは日立造船社と資本業務提携を結んで、一部の株式を日立造船さんに持ってもらっていたのですが、時間の経過とともに、NBLの過半数の株式を日立造船社が取得するようになり、子会社化と同時に多数の取締役が日立造船社から派遣されることになりました。日立造船社は会社分割(新設分割)によって子会社を設立して、その子会社の株式と引き換えにNBLの主力事業(独自の技術)がこの新設会社に移転します(この時点では、旧経営陣はNBLの少数株主のままですが、当該新設会社はNBLの100%子会社なので、とくに問題はないかと)。

ところがその後、このNBLの子会社株式が、NBLの取締役(つまり日立造船社から派遣された方々)によって、日立造船本体に売却されてしまいます。その金額が非常に安いために、旧経営陣の方々の保有するNBLの株式価値が極めて低いものになってしまうわけで、そこに怒っておられるものと推測されます。

現行の会社法によれば、会社の重要な事業の一部を譲渡する場合には原則として株主総会で特別決議を必要とします(会社法467条2号)。※ しかし(解釈には争いはあるものの)、重要な資産(事業)を有する子会社の株式を譲渡する場合には、株主総会の承認を要することなく、取締役会の決議のみで可能となります。このたびのNBLの旧経営陣が「会社分割を悪用された」と主張しているのは、本来ならば(NBLの資産のままであれば)株主総会で3分の2以上の賛成がなければ譲渡できない資産を、日立造船社の方々が、わざわざ会社分割制度を悪用して、NBLの取締役会のみで譲渡できるように「法の潜脱」を行ったという点ではないかと思われます。

※・・・もちろん、ここでは報道をもとに、譲渡されたものが会社法上の「事業譲渡」に該当することを前提としてのお話なので、もう少し詳しい内容がわかれば訂正する可能性があります(あるいは、この「事業譲渡」の要件該当性が論点になるのかもしれません)。

1月下旬から始まる通常国会で成立することが予定されている会社法の改正法案でも、この点が問題とされていまして、新しい会社法の467条2号の2で手当てがされています。つまり、会社内部の重要な事業の譲渡と同じように、重要な事業を有する子会社の株式を譲渡する場合には、親会社の株主総会における特別決議が必要となりました。まさに少数株主保護の必要性は同じだからですね。グループ会社内での資産配分の最適化(子会社マネジメント)を極力妨げないように、(少数株主の利益を害さない範囲で)総会決議を不要とする除外事由も規定されていますが、今回の日立造船社の事例では、その除外事由にも該当しないようなので、新しい法律ができた場合には、同様のスキームは困難になるものと思います(ただ、同じグループ企業内での事業譲渡という面からすると、親会社による資源の最適配分という意味でのマネジメントがやりにくくなる、というのは若干問題になりそうですが・・・)。

企業行動の適正性確保の手法について、レギュレーションが事前規制から事後規制へと変遷している中で、最近の司法手続きは「形式主義」よりも「実質主義」を指向しているように思われます。つまり、形式的に手続きを遵守していたとしても、全体としてみた場合に、既存の規則の抜け穴を探しているような行動については、実質的に見て法令違反と判断する、というケースが増えているのではないでしょうか。このたびの日立造船社の件も、新設分割で設立された会社がどのような目的で作られたのか、そのあたりに関心が向きます。会社法が使われることが増えれば増えるほど、会社法を理解する経営者や法律家も増えるわけで、そうなると、裁判で勝てるかどうか(刑事責任を問われるかどうか)ということだけでなく、経営者は、裁判で訴えられるかどうか(告訴されてしまうかどうか)という新たなリーガルリスクに直面することが増えることは間違いないと思います。

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2014年1月 7日 (火)

マルハニチロHD役員の説明責任は重大だと思う。

昨年末から連日報じられているマルハニチロホールディングス子会社(アクリフーズ社)の食品事故の件ですが、本日(1月6日)午後9時現在、冷凍食品農薬(マラチオン)混入事件による「異臭商品」が23件に及んでいる、とマルハニチロ社のHPにてリリースされています。また読売や朝日のニュースによれば、被害相談が持ち込まれている都道府県はすでに35に上り、被害を訴えている方も300名近くに上るとのこと。予想以上にたいへんな事態になっています。

商品回収率が未だ17%程度ということなので、まだどれだけ事件の規模が広がるかは不透明な状況のようです。グループ挙げて被害回復に努めておられるようなので、これは今のところ「不祥事」とは一概には言えないですね。マスコミも、昨年末はアクリフーズ社の公表遅延などを批判する報道が目立ちましたが、被害拡大のおそれが強い中での報道の公共性から、現在は、混入の犯罪性や被害状況、異臭商品の判明状況の発表にウエイトが置かれているようです。

ところで、今年4月にマルハニチロホールディングス社は、連結子会社5社と合併して、事業持株会社制度に移行するようです(テクニカル上場により、ホールディングスの株主は、合併対価として上場予定の事業持株会社の株主になり、株式売買にも影響はありません)。ホールディングスは子会社に吸収合併される(つまり消滅する)ことになりますが、そのホールディングスの合併承認株主総会が1月下旬だそうです。

このたび食品事故が発生しているアクリフーズ社も合併当事会社ということですが、親会社(最終完全親会社)であるマルハニチロホールディングスとしても、この時期にアクリフーズ社を合併する、ということも厳しい局面ではないかと推察します。もちろん合併がなくても、基幹子会社ですから支援することは間違いないと思いますが、短期的にはホールディングスの一般株主の利益に影響が及ぶでしょうし、グループ会社経営という立場からみても、マネジメントの面において、資源の最適配分の計画が大きく狂ってくることになるのではないでしょうか。

それでも合併を進めることが長期的な企業価値の向上につながるものである・・・ということは親会社の取締役として(総会で)十分に説明責任を尽くす必要があるでしょうし、今後どこまで拡大するか不透明なアクリフーズ社の損失についても、グループ全体においては軽微であることを説得的に説明することが求められるものと思われます。

しかし新体制に関するリリースをみても、アクリフーズの役員の方々は、全く要職には就かれないようです。やはり雪印乳業グループだったということが影響しているのでしょうか。アクリフーズの社長さんは平成20年ころまではマルハニチロの取締役だった方ですが、親会社と子会社との情報共有体制などはどのようになっていたのか、気になるところです。

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2014年1月 6日 (月)

みずほ銀行が認定した反社会的勢力は本当に反社会的勢力なのか?

みなさま、本年も宜しくお願いいたします。当ブログも本日より始動いたします。

年末年始もいろいろと書きたいテーマがありましたが、なんといっても興味をそそられましたのがオリコ社のHPで12月27日にアップされました検証報告書(要約版)です。元東京地検特捜部長の方、元公正取引委員会委員の方など、錚々たるメンバーによる「みずほ銀行・オリコ間の提携ローン問題等に関する検証委員会」の検証結果の報告書です。正直なところ、一読して「ここまで書いていいのだろうか」とも思いましたが、一般事業会社を含め、企業の反社会的勢力への対応について一石を投じるものとして、たいへん貴重な報告書ではないかと考えています。

検証対象はオリコ(株式会社オリエントコーポレーション)社の(これまでの)審査体制、反社会的勢力疑惑対象者に対する対応に問題があったかどうか、ということですが、加盟店審査と顧客審査を分けて、「疑わしきは顧客の不利益に」との考え方は(加盟店にはとりえても)顧客にはとりえない、という意見はなかなか説得力があるものと思います。

圧巻は上記報告書7頁以下のところで、昨年5月から10月にかけて、オリコ社がみずほの要請を受けて代位弁済をした147件のうち、警察照会によって反社と明確に情報が得られたのはわずか3件だったことから、

「みずほ銀行が反社会的勢力であると認定したことと、実際にその顧客が反社会的勢力であることとは、必ずしも同義ではないのであって、世上にみられるような、みずほ銀行が反社会的勢力であると認定した顧客がすべて実際に反社会的勢力であることを所与の前提とするかのような姿勢には、当検証委員会は大きな違和感を覚えざるをえない」

としています。反社会的勢力排除のための政府指針(平成19年)の存在や、昨今の社会情勢(暴排条例による接触禁止)からみて、現時点では反社会的勢力排除条項の存在、反社性の立証方法の検討、相手方の債務履行状況等を総合的に勘案して、あくまでも個別的に対応していかざるをえない、とのこと。今後のデータベースの共有などの運用が進まない限りは、なるほど、上記報告書で述べられているとおりかもしれません。

ただ、私自身が心配するのは、今後の政府指針の改訂などによって「反社会的勢力」の定義が明確になったとしても、反社会的勢力かどうかの認定は思っているほど明確にはならず、「疑わしきは顧客の不利益に」の考え方が消え去ることはないだろう・・・ということです。これはデータベースの運用が進み、警察情報へのアクセスが共助の精神によって容易になったとしても、今度は(警察情報が頻繁に立証方法として活用されることになるので)警察のほうが情報提供に慎重になるでしょうから、同様の不安は消えません。

また、昨年11月のエントリーでも述べたように、企業にとって不安なのは、反社会的勢力と癒着していることではなく、反社会的勢力と「噂のある」人たちとの癒着です。反社と立証はできないけれども、反社の疑惑のある人たちに利益供与している、というだけで、企業は世間からは取引を停止されたり、「密接関連者」と言われて社会的信用を失うリスクを背負います。これらのリスクを背負いながらも、「銀行は反社だと言っているが、我々の調査では反社とは言えない、疑わしきは顧客の不利益に、という考え方には与することができないので問題はない」と言いきって損害が発生した場合に、果たして取締役としての善管注意義務違反にはならないのか、という問題にはどう対応すれば良いのでしょうか。

もちろん、できないことまでやれ、とは法律は言わないわけですから、ここで内部統制システムの問題が出てくるのでしょうね。ただ「反社と疑惑のある相手方」を知っての状況なので、いわゆる(裁量権の収縮した)黄色信号の点滅している状況での作為義務が模索されることになろうかと思います。以前ブログでも紹介したように、最近は反社排除条項が盛り込まれていない契約においても、錯誤無効(民法95条)を活用して取引停止を求めるケースもあるので、積極的にどこまでの作為義務があるのか、検討しなければならないということになりそうです。

金融機関だけを悪者扱いするような報道が多い中、今回の件が単純な問題ではないということが上記報告書で明らかになったように思います。そして企業のリスク管理を考えるうえで、更に実質的な議論をするためにも、この報告書はとても貴重なものだと思います。

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