みずほ銀行が認定した反社会的勢力は本当に反社会的勢力なのか?
みなさま、本年も宜しくお願いいたします。当ブログも本日より始動いたします。
年末年始もいろいろと書きたいテーマがありましたが、なんといっても興味をそそられましたのがオリコ社のHPで12月27日にアップされました検証報告書(要約版)です。元東京地検特捜部長の方、元公正取引委員会委員の方など、錚々たるメンバーによる「みずほ銀行・オリコ間の提携ローン問題等に関する検証委員会」の検証結果の報告書です。正直なところ、一読して「ここまで書いていいのだろうか」とも思いましたが、一般事業会社を含め、企業の反社会的勢力への対応について一石を投じるものとして、たいへん貴重な報告書ではないかと考えています。
検証対象はオリコ(株式会社オリエントコーポレーション)社の(これまでの)審査体制、反社会的勢力疑惑対象者に対する対応に問題があったかどうか、ということですが、加盟店審査と顧客審査を分けて、「疑わしきは顧客の不利益に」との考え方は(加盟店にはとりえても)顧客にはとりえない、という意見はなかなか説得力があるものと思います。
圧巻は上記報告書7頁以下のところで、昨年5月から10月にかけて、オリコ社がみずほの要請を受けて代位弁済をした147件のうち、警察照会によって反社と明確に情報が得られたのはわずか3件だったことから、
「みずほ銀行が反社会的勢力であると認定したことと、実際にその顧客が反社会的勢力であることとは、必ずしも同義ではないのであって、世上にみられるような、みずほ銀行が反社会的勢力であると認定した顧客がすべて実際に反社会的勢力であることを所与の前提とするかのような姿勢には、当検証委員会は大きな違和感を覚えざるをえない」
としています。反社会的勢力排除のための政府指針(平成19年)の存在や、昨今の社会情勢(暴排条例による接触禁止)からみて、現時点では反社会的勢力排除条項の存在、反社性の立証方法の検討、相手方の債務履行状況等を総合的に勘案して、あくまでも個別的に対応していかざるをえない、とのこと。今後のデータベースの共有などの運用が進まない限りは、なるほど、上記報告書で述べられているとおりかもしれません。
ただ、私自身が心配するのは、今後の政府指針の改訂などによって「反社会的勢力」の定義が明確になったとしても、反社会的勢力かどうかの認定は思っているほど明確にはならず、「疑わしきは顧客の不利益に」の考え方が消え去ることはないだろう・・・ということです。これはデータベースの運用が進み、警察情報へのアクセスが共助の精神によって容易になったとしても、今度は(警察情報が頻繁に立証方法として活用されることになるので)警察のほうが情報提供に慎重になるでしょうから、同様の不安は消えません。
また、昨年11月のエントリーでも述べたように、企業にとって不安なのは、反社会的勢力と癒着していることではなく、反社会的勢力と「噂のある」人たちとの癒着です。反社と立証はできないけれども、反社の疑惑のある人たちに利益供与している、というだけで、企業は世間からは取引を停止されたり、「密接関連者」と言われて社会的信用を失うリスクを背負います。これらのリスクを背負いながらも、「銀行は反社だと言っているが、我々の調査では反社とは言えない、疑わしきは顧客の不利益に、という考え方には与することができないので問題はない」と言いきって損害が発生した場合に、果たして取締役としての善管注意義務違反にはならないのか、という問題にはどう対応すれば良いのでしょうか。
もちろん、できないことまでやれ、とは法律は言わないわけですから、ここで内部統制システムの問題が出てくるのでしょうね。ただ「反社と疑惑のある相手方」を知っての状況なので、いわゆる(裁量権の収縮した)黄色信号の点滅している状況での作為義務が模索されることになろうかと思います。以前ブログでも紹介したように、最近は反社排除条項が盛り込まれていない契約においても、錯誤無効(民法95条)を活用して取引停止を求めるケースもあるので、積極的にどこまでの作為義務があるのか、検討しなければならないということになりそうです。
金融機関だけを悪者扱いするような報道が多い中、今回の件が単純な問題ではないということが上記報告書で明らかになったように思います。そして企業のリスク管理を考えるうえで、更に実質的な議論をするためにも、この報告書はとても貴重なものだと思います。
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コメント
本年もよろしくお願いします。
報告文書を読むと、オリコはかなり反社体制が整備された企業であるという印象を持ちました。
オリコに代位弁済され、「反社会的勢力の疑い」が掛けられたみずほ銀行の顧客は名誉棄損など損害賠償の余地があったりしないのでしょうか?
自分の債権者が銀行からオリコに代わるのですよね?
又、オリコとしては、みずほ銀行との業務関係の深さから言うことはないかも知れませんが、オリコの一般株主として、「みずほ銀行め!何を言ってんだよ、バカヤロー」ってことになりかねないので、オリコとしてみずほ銀行側に損害賠償請求しないと、オリコの役員として株主に尽くした、と言えないようなことはないでしょうか?
オリコや提携ローンの債務者から見れば、「濡れ衣」だった可能性が高いわけですから。
投稿: katsu | 2014年1月 7日 (火) 13時45分
もっと盛大にバトルを繰り広げていただきたいものです。
反社会的勢力の対応について、民間へ押し付けるだけの政策をとる結果、社会的コストがいかに増大するのか、形になって見えれば、オリコの株主の損害も多少は意義があるってものです。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2014年1月 8日 (水) 14時12分
今年もよろしくお願いいたします。
katsuさんのようなご疑問があるからこそ、富士通元社長さんの裁判や、富士通名誉毀損事件の裁判をきちんと分析すべきだと思います。ところが、あまり法律家の中で、(最高裁まで争われた事件であるにもかかわらず)両事件の判例分析をされる学者、実務家はいまのところいらっしゃらないようです。
投稿: toshi | 2014年1月16日 (木) 01時47分