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2014年1月27日 (月)

社会的反響に怯える(おびえる)名門企業の広報リスク管理について

さて、ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでございます。日テレ系ドラマ「明日、ママがいない」の放映について、ドラマ内容の適切性が社会的な話題となっています。同番組にCMを提供している名門企業8社のうち5社がCMスポンサーからの降板を決定、他の2社も現在検討中(1社は継続決定)・・・という事態に至りました(1月26日現在)。時を同じくしてANA(全日空)は海外からのCM批判(外国人の要望を揶揄する不適切表現)によってCM中止に追い込まれ、またファミリーマートも商品発売に対するネット上でのクレームによって商品提供を中止する事態になりました。なかでも、とりわけ「明日、ママが・・・」の問題は、近年の企業コンプライアンスやリスク管理を考えるうえで、とてもむずかしい課題を含んでいるように思います。以下は、あくまでも私個人の勝手な意見です。

いつも申し上げているとおり、企業コンプライアンスには100点満点の正解はありません。今回のCM提供スポンサー企業の行動についても、スポンサーを降りるべきか、そのまま継続すべきかは、当該企業の置かれている状況ごとに検討する必要があります。すでにスポンサーを降りた5社については、「このまま番組スポンサーを続けていると、この番組への社会的批判が強まる中で、企業イメージに傷をつけてしまうことになる」という経営判断を優先させたものと思料いたします。企業の信用を毀損させてしまうことを回避する、という意味において、これもひとつのリスク管理(危機対応)の手法なのかもしれません。

ここでひとつ私が申し上げたいことは、この「明日、ママがいない」にCMを提供している企業にとって、これだけ番組に対する社会的批判や擁護(継続支持)の意見が飛び交う状況は、企業にとって「有事」の状況にある、ということです。企業にはたくさんのステークホルダーが存在します。消費者、株主、地域住民、取引先、監督官庁、従業員などなど、企業は多くのステークホルダーの利益を考慮しながら事業を継続しなければなりません。社長は「すべてのステークホルダーのために」企業を経営するわけであり、ステークホルダーの利益に優劣はない、というのが平時の対応です。しかし有事となれば別です。平時とは異なり、どのステークホルダーの利益を優先し、どの利益は後回し(もしくは切り捨て)にするか、企業は非情な判断を下す必要があります。

有事において、企業がその優先順位を検討する場合に大切なことは、企業行動が合理的・論理的に対外的に説明できるかどうか、という点にあります。ここを間違えますと、社会的な批判の対象は、あやふやな行動に及んだ企業に向けられることになり、企業はいわゆる「二次不祥事」を抱えてしまうことになります。たとえば統合報告書に記載している内容と、有事の企業行動との間に矛盾は生じていないのか、ISO26000の社会的責任を果たしているといえるのか、また、今回のように社会的な批判が向けられているテレビ番組へのCM提供の場合、降板するのであれば、「社会的批判が強いからCMをやめる」というだけでは、今度は社会から「声の強い世論に負けた弱腰企業」という批判を受けることになるのではないか、といった点です。もし降板するのであれば「当社は番組内容が不適切と判断し、このような番組は支援できない」もしくは「全体を通じて作品を視聴せずとも放送法違反が明らかであり、資金支援はできない」という意思をきちんと示すことが重要です。

たしかに番組を制作するのは放送局ですから、ドラマ継続の可否、不適切表現の修正を含めて、その制作責任を負うのは放送局です。しかし一般的に、スポンサー企業が番組内容にいろいろと要望を述べることは(良い悪いは別として)行われるところですから、「内容に問題があるからお金はこれ以上出さない」とする判断は可能だと思います。しかしながら、そのような判断も下すことなく、世間の風向きをみて「これはマズイ・・・」ということで番組スポンサーから降りるというのは、まさにうつろいやすいレピュテーションに左右される企業行動として、私は賛成できません。

では「番組は厳しい社会的批判にさらされているが、それでも当社は番組を降りない、CM提供は継続する」という企業の判断はどのように合理的に説明できるのでしょうか。私は番組制作の前提となるルールメイキング(事実を曲げて放映する、放送内容に政治的な偏向がある、明らかに公序良俗に反する方法で放送を行う等)に不適切な問題がある場合にはCMは降りるべきだが、制作された番組内容の適切性については一切関与しない、という判断は十分成り立つ、と考えています。たしかに社会的な批判が高まる番組のスポンサーとなれば、自社商品のイメージを傷つけるという考え方もわかります。しかし、総務省による放送への関与や放送と人権の調整問題は、まさに自主規制としてのBPOが担うべき問題であり、レピュテーションに委ねることなく、BPOでの判断を尊重すべきではないでしょうか。また、自社が不正行為に及んだ場合は別として、企業のブランディング(企業イメージを向上させる戦略)は、もはやCM広告だけでなく、それ以外の日常の企業行動によるところが大きい時代です。たとえレピュテーションリスクが顕在化するおそれがあったとしても、その企業がどれだけ有事に毅然とした態度をとるのか・・・という点も含めて、企業の社会的な信用が形成される、という考え方も成り立つものと考えています。

企業が有事においてレピュテーションリスクに配慮しなければならない場合、「レピュテーションはうつろいやすいものである」という点に留意しなければなりません。私は「企業は時には闘うコンプライアンスの姿勢を示すことも必要」だと考えています。社会と共生できない企業は不要です。しかし、何が社会との共生にとって必要なのか、その判断基準は時代によって変わるものであり、今回の事例からすると、放送局、広告代理店、そしてスポンサー企業とのリスクコミュニケーションが求められると思います。

社会的な批判の出ている番組にスポンサーとして資金を提供することは、商品イメージを落とすころになり、短期的には損害を発生させるかもしれません。また、社会施設に対する社会一般の偏見等を助長してしまう結果に加担することになるかもしれません。しかし、番組制作者ではなく、スポンサーという立場において社会問題にどうアプローチすれば社会的な価値を創造しつつ、長期的な視点で事業を成長させることができるのか、そこをきちんと社会に対して説明する必要があると思います。企業はレピュテーションリスクから逃れられない以上、いかにして社会と共生していくか、その方法を地道に考えることが求められています。企業不祥事のリスク対応を担当する者として、広報コンプライアンスの課題は社会的な批判から逃げることが最もマズイ行動であり、その批判を重大な問題として受け止めて逃げない姿勢を示すことが最も大切だと考えています。

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コメント

その説明は筋が通っているか、その「筋が通った」説明で(「筋」が会社の独りよがりではなくて)利害関係者(とりわけ消費者、視聴者)の納得感を得られるかということでしょうか。リスク回避すれば事故にはならないでしょうが、何でもかんでもリスク回避していたら何にもできなくできなくなるのも事実(何もしなければ何も起きない)、筋の通った説明責任を果たす、というのは難問なれど取り組まなければいけない問題ということを昨今痛感いたします。

投稿: 会計利樹 | 2014年1月29日 (水) 09時26分

会計利樹さん、コメントありがとうございます。結局、8社ともCMを下りてしまいましたね。それぞれの企業にも事情があると思うのですが、ぜひ、こういった経緯を踏まえまして、コンプライアンス問題として続編を書きたいと思います。

投稿: toshi | 2014年2月 3日 (月) 01時37分

ご無沙汰しております。
お分かりの上書かれておられるのかもしれませんが、各社とも広告枠(年間、もしくは数ヶ月間)契約を破棄したわけではなく、単に局側との調整でCMを放送しないことにしたに過ぎません。契約に重大な違反事項が発生したわけではありませんから(番組放送を中止したわけでもなく、内容を勝手に変更したわけでもない。番組内容については。事前に説明を受け承諾している)、破棄したくても出来ないはずです。

投稿: 機野 | 2014年2月 3日 (月) 14時11分

機野さん、ご無沙汰しております。たしかにそうですね。以前、広告代理店の不祥事を担当したことがありましたので、だいたいの流れは分かっているつもりなのですが、表現があいまいでした。また、ときどきご指摘いただけますと幸いでございます。

投稿: toshi | 2014年2月10日 (月) 15時10分

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