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2014年1月14日 (火)

一緒に失敗したからこそ社長にモノが言える弁護士

サントリーホールディングス社のビーム社買収のニュースには驚きましたね。1兆6000億円という日本でも最大規模の買収とのことですが、よく事前に情報が洩れませんでした。ここのところのサントリー社のグローバル展開はすごいスピードですね。2009年にキリンホールディングス社との経営統合が破談に終わったときは、あれだけ日経さんから批判されましたが、ひょっとするとサントリーHDの社長さんの最大の功労は、あの時点で事業統合を撤回したことではないかと(もちろん、撤回に向けてどのような力が働いたのかは知る由もありませんが・・・)。

さて、今朝(1月13日)の日経新聞(法務インサイド)に、弁護士資格を有する上場会社社長である松竹(東証1部)の迫本氏のインタビュー記事が掲載されていました。日本で弁護士資格を有する上場会社社長という方がどれほどいらっしゃるのか、私はわかりませんが、おそらく非常に珍しいのではないでしょうか。

記事の内容はとても興味をそそられますが、社外の弁護士に意見を求めた場合、

考えられる法的リスクを挙げたうえで、どうするかは経営判断だと言われがち。しかし会社はもう少し踏み込んで一緒にリスクをとるぐらいの助言を求めている。米国では映画制作に出資するなど事業に深く関わる弁護士が多い

とのこと。かなり耳の痛いお話ですが、社外の弁護士に対する経営者の意見としては、世間でよく聞かれるところです。われわれ弁護士の立場からすると、事業に関与することについての弁護士法上の問題や、多数の案件を抱えている法律家として、そのうちの一件で問題を抱えてしまいますと、職務に対する専心義務を尽くすことができなくなり、他の多くのクライアントに迷惑をかけてしまう、という(もっともらしい)言い訳、さらには弁護士としての信用を落としてしまうと同じ事務所の他の弁護士にも迷惑をかけてしまうという(内向きな)言い訳なども浮かんでくるかもしれません。

「弁護士の助言」といいましても、レギュレーション(業界における特殊な規制)に関する助言と、経営全般に及ぶリスクマネジメントに関する助言とは異なります。レギュレーションについては、迫本社長もおっしゃっておられるように、どんなにリスクが大きなビジネスでも「法の許す範囲で」行うことが前提なので、法律の専門家として発言は比較的しやすいものと思います。たとえ有能な法務部が存在しても、法令遵守のレベル感(世間並み、業界並み)という感覚は、やはり外部の弁護士から知りたいところかと。

ここからは私の経験からということで、一般化はできないかもしれませんが、ビジネスリスクマネジメントに関する助言となると、かなりむずかしいですね。実際、M&Aの8割は失敗するわけですし、またビジネスが成功するかどうかは理屈や論理ではなくてセンスや感覚、たぐいまれな知見に秀でた社員の存在、それを支えるガッツある組織等に依拠するところが多いと思います。ましてや法令違反の伴わない企業不祥事リスクともなると、社外の常識と社内の常識が食い違っていたなどというのは、「後だしジャンケン」に近いものでして(笑)、重大なリスクとしてあらかじめ認識しておくことは至難の業です。ということで、私は最近「トライ&エラー」によるリスク管理ということを推奨しており、経営判断よりも前に認識できるリスクよりも、判断後に初めて認識できるリスクのほうが多いので、リスクの顕在化を早くみつける体制作りを推奨しています。

企業としての投資判断が失敗に終わった場合、トラブルに見舞われた場合、紛争で負けないようにするための判断と、そもそも紛争に巻き込まれないための判断は異なります。これは「リスクをとってみなければわからない」わけでして、銀行さんに顔を向けるのか、株主様に顔を向けるのかによっても判断は変わります。本当に効率的なリスクマネジメントは、トライ&エラーでいくべきだと思うのですが、「トラブルが起きることを前提に物事を考えるなど、とんでもない」「最初から社員を信頼しないなど、もってのほかではないか!」と怒られることもあります。

社長に「なにがなんでも成功させる!」「失敗など絶対にしないし、させない!」という意気込みがあるからこそ、経営判断後に顕在化するリスクを乗り越えて事業を成功に導くわけですし、しんどくても社員みんながついていくわけです。ただ、ひとつ言えることは、社長と一緒にリスクをとって、一緒に失敗した経験を持たないと、「社長、ここで撤退する勇気を持ちましょう」と意見を言っても通らないのではないかと。

アメリカのようにプロの経営者がたくさんいらっしゃるならいざしらず、一社員から上ってきた日本の経営者の方の場合、「あとは経営判断であり、会社が考えること」と冷静にお話をして、それ以上踏み込まない人の意見には、おそらく社長は耳を傾けないはずです。一緒に失敗をして、一緒に恥をかいた立場にいるからこそ、社長も人の意見を聞いて、「撤退」という新たなリスクをとる覚悟をするものと思います。

最後になりますが、先の迫本社長さんが、インタビュー記事の中で、

利益を最大化するために、ぎりぎりまで踏み込んだ強気の経営判断を下す際、弁護士としての経験が生きている

と述べておられますが、このあたり、たいへん興味があるものの、少々イメージが湧きにくいので、もう少し具体的に詳しくお聴きしてみたいところです。

1月 14, 2014 商事系 |

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