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2014年1月28日 (火)

不祥事発生時における行政当局と企業との「有事意識」のズレ

マルハニチロ系列のアクリフーズ社冷凍食品農薬混入事件において、アクリ社の契約社員が逮捕されたのを受けて、マルハニチロ社、アクリフーズ社の社長さん方が引責辞任されるそうです。今後どのような事実が判明するのかわかりませんが、外部からは私物を持ち込めない、包装室へは原則として関係従業員以外は立ち入りができない、としていたアクリフーズ社の説明が事実に反するものだったことから、ともかく現場のセキュリティに問題があったということは否めないようです。

しかしアクリ社の場合、農薬混入の事実公表の時点から、どうも公表内容と事実とのズレが目立ち、行政当局との信頼関係が維持できなかったようです。企業不祥事を発生させた場合、初動対応として、いかに監督官庁との信頼関係を築けるかという点が、その後の不祥事の広がりに影響します。最近大きく報じられた企業不祥事を、この「行政当局との信頼関係」という視点からまとめたのが以下の図表です。いずれの事件においても、初動対応において、行政当局との信頼関係が維持できなかったことがわかります。

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こうやって図にしてみると、信頼関係を維持できなかった要因として、企業と行政との間に、不祥事発生時点における「有事意識」の差が大きいことが推定されます。行政が「一大事」と考えているのに対して、企業は、少なくとも現場レベルでは、それほど有事の意識を持っていなかったのではないかと思われます。JR北海道が16%もの現場社員が「データ改ざんを自らやったことがある」と回答している点や、アクリフーズ社の社員も、「とんでもない量を食べなければ人体に影響はない」といった発言をしていたことなどからも、そもそも事件の重大さ、事態の深刻さに対する意識がなかったことがわかります。

ただ、この行政と企業との有事意識のズレが生じているのは、おそらく規制緩和(規制改革)の中で、行政規制の手法が事後規制に移行しつつあるからではないかと。一般企業で不祥事が発生した場合、その対応については、行政は最後の最後まで企業の自助努力に期待するのが事後規制社会における行政の対応です。そして、もはや自助努力に期待していては、被害の収束が困難と判断するや否や、今度は手のひらを反して事前規制(国民に被害が及ぶのを未然に防止する)の目的を達成するために積極的に企業経営に干渉します。

不祥事を起こした企業側において、こういった最近の行政規制の変遷に気づかないでいると、上記の事例のように不祥事発生の初動対応時において行政当局との意識のズレを生じさせます。そのことが、行政当局を本気にさせてしまい、非常に厳しい対応が、企業に向けられることになります。目の前で発生した出来事を認識したときに、経営トップが「これはわが社にとって一大事」と、どの時点で気が付くのか・・・・・、ここはひょっとすると「人の素質、才能」に関わる問題なのかもしれません。

企業が自浄能力を発揮することの重要性はよく説かれるところですが、これは「有事である」と企業自身が認識すれば、ということが前提となります。今回のアクリフーズ社の事件の経緯を丹念に眺めていますが、今のままでは、他の食品会社における同種事件の未然防止の教訓となりうるのか、そもそも従業員どうしで性悪説にたって監視して、本当に美味しいものが作れるのか、とても疑問に思うところです。更なる事実解明をまって、検討してみたいと思います。

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