「監査役で会社は変わる」新刊のご紹介
これは皮肉でもなんでもなく、改正を目前に控えた会社法(および会社法施行規則)に基づいて、キャノンキヤノンさんは「わが社にとって、社外取締役を導入することが相当ではない理由」をどのように開示するのか、とても楽しみにしておりました。おそらく、社外取締役を導入することに消極的な上場会社さんにとっても、消極派の旗手(と思われていた)であろうグローバル企業キャノンキヤノンさんの開示内容を手本にしたい、と期待しておられたところも多いと思います。(追記・・・・すいません、表記が誤っておりましたので訂正しております)
ところがなんと(?)、キャノンキヤノンさんが3月の株主総会で、社外取締役2名選任予定と開示されております。しかも理由が「いままで社外取締役制度にとくに反対していたわけではなく、いい人がいればと思っていた。このたびいい人に出会えたので・・・」とのこと(^^;;。。。(ええ?ホントにそうだったのですか・・・・?)とりあえず、この流れは大きいなぁと感じます。ちなみにキャノンキヤノンさんの社外取締役候補のお一人の方はトヨタ自動車の社外取締役にも就任されておられるようです。これからは「このたびめぐり会えたいい人」の争奪戦が始まるのかもしれません。
このところ、会社法改正の流れもあり、社外取締役制度に注目が集まっていますが、監査役さんもがんばっておられます。京セラコミュニケーションシステムの元常勤監査役でいらっしゃる西村毅(たけし)さんが、このたび自費出版にて「監査役で会社は変わる」と題する自らの研究成果を発表されました。冒頭の西山先生(九州大学法学部教授)の推薦の言葉がひときわ目をひきます。
監査役で会社は変わる(西村毅著 日経事業出版センター 1,800円)
西村さんは、三和銀行のご出身で、ニューヨーク支店の副支店長を経て、京セラコミュニケーションシステムの常勤監査役に就任されました。日本監査役協会でも同志社大学の先生方とガバナンス研究に携わっておられましたが、さらに現役の監査役から立命館大学法学部の大学院生に転身し、ガバナンス研究の道に進まれました。実は当ブログ開設当時から、某ネームにてコメントをいただいておりまして、私の煮え切らない監査役の理解について渇を入れていただいておりました。何度がお食事をご一緒させていただきましたが、ホントに(監査役制度に対する)熱い思いをお持ちで、(失礼ながら)私も、西村さんくらいの年齢になっても熱い気持ちを忘れずに仕事ができたらなぁ・・・と思っておりました。
さて、その西村さんが、大学院で研究された成果をまとめられたのが上記の一冊です。一般の学者の方とは少し異なり、銀行マンとして、また常勤監査役として、これまで精一杯実務で経験されてきた立場から「効率性監査」「従業員主権に基づくガバナンス」を説いておられます。この本の中で、西村さんは5名の「モノ言う監査役」さんを紹介しておられ、監査役として必要な資質について語っておられます(ちなみに、あのスティールパートナーズが取締役には反対票を入れたにもかかわらず、モノ言う某監査役さんには賛成票を入れていた会社がある、という事実は知りませんでした)。ダブルチェックする立場の監査役、効率性監査のための監査役という位置づけについては私も同感です。最近いろいろなところで、私は「第二思考回路の必要性」についてお話していますが、この「第二思考回路」こそ、効率性監査への私なりの考え方です。
従業員主権に基づくガバナンス、というところは、かなり思い切った内容ですが、株主利益の最大化を図るという会社法の枠組みを考えたときに、会社法の中に組み込むことのむずかしさは感じます。従業員主権的な発想は、利害関係者の利益調整の枠組みとは別に、経済法の領域で考えるべきではないか、といった意見もあるかもしれません。ただ、アクリフーズ事件やJR北海道事件のように、「どうすれば不祥事が防止できるのか」思考停止してしまいそうな問題が後を絶たない昨今、こういった経営の一画に従業員が責任を持つという発想は、今後の取り組みを考えるうえで参考にできるのではないかと思います。
ガバナンス論というと、社外取締役導入論ばかりが注目されていますが、西山教授が(推薦の辞において)「従業員と言葉を交わすこともない社外取締役が行う会社の管理は、・・・果たしてわが国の経営風土に適合するものでしょうか」と疑問を投げかけておられます。まさにこの言葉が、本書の内容をよく表現されています。西山先生が「本書は監査役、監査役スタッフそして、同僚である取締役の皆様にお勧めいたします」と述べておられますが、私も「会社を変えることができる」元気な監査役さんが増えることを期待しつつ、本書を推薦したいと思います(たぶん、日経事業出版センターさんのほうでお買い求めいただけるものと思います)。そもそも社長さんの「監査役人選」の意識を変えること、それが「監査役で会社が変わること」につながるのでしょうね。
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コメント
山口先生、ご無沙汰しております。
この度は当社(日本マネジメント総合研究所合同会社)の客員研究員に応募され就任致しました当社の西村の書籍をご紹介頂きありがとうございました。
事前に小職にて原稿をみておりましたが、まだまだ至らぬ点が多い中、温かいご推薦のお言葉につき、厚く御礼申し上げます。
取り急ぎ、御礼にて。
日本マネジメント総合研究所LLC 理事長 戸村智憲 拝
投稿: 戸村智憲 | 2014年1月30日 (木) 17時56分
(以下、重箱の隅)「キャノン」ではなく「キヤノン」です。なお、発音は「きゃのん」で、「富士フイルム」の発音が「ふいるむ」であるのと対照的。
投稿: skydog | 2014年1月30日 (木) 18時49分
戸村さん、こちらこそご無沙汰しております。本日、アマゾンで発売が開始されたようなので、リンクを貼っておきました。
skydogさん、たいへん失礼いたしました。社名を間違えるのはたいへん失礼なので、さっそく訂正しております。
投稿: toshi | 2014年1月30日 (木) 18時57分
「監査役で会社は変わる」の著者の西村です。toshiさん、この度は過分の推薦のお言葉を賜り、ありがとうございました。このブログで、これまで議論させていただいたことが、自分の思想形成に大きく役立っていると痛感します。ありがとうございます。
監査役監査基準第二条に監査役の職責として、「企業の健全で持続的な成長を確保する」ことと、「社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する」ことの2点が明記されています。本書は、この2点に焦点を当てて、正面から取り組んだものです。おそらく類書の中では、際立って特異な内容になっていると自負しています。経営者、監査役、監査役スタッフのできるだけ多くの方にご覧いただき、監査役業務のあり方を考えるよすがとしていただければと願っております。
なお、ガバナンスについては、グローバリズムとナショナリズムとのせめぎ合いを無視することはできません。ことに1990年代後半以降、米国流の株主主権主義が勢いを取り戻してきました。こうしたグローバリズムに立つ株主主権は、わが国の成長の源泉を蝕み、経済体質を大きく劣化させる懸念を孕んでいます。これまでこうした点が無視ないし軽視されてきたように感じますので、注意喚起の意味も込めて、本書を著した次第です。こうした点について、本書で詳しく論じていますので、是非ご一読をお願いいたします。
投稿: 西村毅 | 2014年1月31日 (金) 09時29分
西村さん、ご無沙汰しております。このたびは出版おめでとうございます。研究の成果ということで、じっくりと拝読いたしております。自費出版ということで、お読みになりたい方が不自由されていると思いますので、アマゾン等にできるだけ配本されるといいですね。
なによりも、監査役の皆様が元気になっていただける内容だと思います。監査役が活躍することで、社長の監査役人選にも影響が出るようになる・・・というのは納得です。今後とも当ブログをごひいきにお願いいたします。
投稿: toshi | 2014年2月 3日 (月) 01時34分
東証が2月5日に「独立性の高い社外取締役の確保に係る有価証券上場規定の一部改正について」を公表しましたね。私にはこれが「ソフトロー」として如何ばかりの効力があるかはわかりかねますが、今年は「このたびいい人に出会えた」企業さんが増えるのかもしれませんね。
(以下、東証HPより一部抜粋)
「独立性の高い社外取締役の確保に係る有価証券上場規定の一部改正について」
Ⅰ.(略)
Ⅱ.改正概要
1.取締役である独立役員の確保
上場会社は、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならないこととします。
Ⅲ.施行日
平成26年2月10日から施行します。
http://www.tse.or.jp/rules/regulations/b7gje6000000myd3-att/b7gje60000049vr3.pdf
投稿: 会計利樹 | 2014年2月10日 (月) 21時28分
以前、会社法改正案の責任限定契約対象の拡大がナンセンスだと書き込みしましたS.N.です。
昨年夏には東京の某セミナーの後でご挨拶させていただきました。
さて、ちょっと宣伝させてください。
取締役会の「監督」とは何でしょう?
http://kaishahou.hariko.com/torikai-kantoku.html
↑ に例題を掲げました。先生はじめ、先生のブログの読者の皆様にもお考えいただきたいと思います。
そして、私は常識外れの主張を展開しております。
「執行と監督の分離」と言いますが、世の中の会社はどうやってそれを実現しているのか・・・突き詰めると、「執行と監督の分離」っていうのはおかしいんじゃないか?
皆様、ぜひ反論してみてください。
投稿: S.N. | 2014年3月11日 (火) 23時50分
s.nさん、コメントありがとうございます。詳細な論文ですね。反論するかどうかはともかくとして、取締役会や監査役の機能論については最近の私の考えに近いように思います。論文のテーマからみて、いま日本監査役協会が懸賞論文(50万円)を募集していますが、いちど応募されてはいかがでしょうか。神田教授などが審査員ですし、それこそ有力な反論が得られるかもしれませんね。
投稿: toshi | 2014年3月14日 (金) 01時32分
先生、コメントありがとうございました。
実は、この論の元は、2年前にある懸賞論文のために作りました。
懸賞論文は、賞にならなければ「落選しました」通知だけで批判ももらえませんが出すだけ出してみます(既にWEBで発表しているので「未発表」要件にも該当しません・・・)。
私としては、賞など何でもよいので、広く問題提起して多くの人に考えてもらいたい一心なのですが・・・。
・「執行と監督の分離」って何か変
・委員会設置会社って本当にガバナンスがすぐれているんだろうか?
・取締役会の監督機能強化のためには取締役会決議事項を減らすべきだって何か変
・監査役は取締役に近づくべしっておかしいでしょ?
などと思う人は多くいらっしゃるはずだと思うのです。
大学教授陣は、自分の足元、教授会における「執行と監督の分離」を考えているとも思えませんので、あまり期待しません。
企業実務に近い方々になら、少なくとも結論は共感いただける気はしますがいかがでしょう?
投稿: S.N. | 2014年3月16日 (日) 09時33分
先々週あたりネット上を少々騒がせた、「ソニーを駄目にしたのはお前だとツイッター口撃されたので口撃した人の身元を探ってみたらソニーの元幹部社員や現役社員だったので実名をばらしたら向こうが慌てふためいた」事件で、その口撃対象となったソニー及びグーグル元重役の方がブログ等で書かれてますが、ソニーが駄目になった本当の理由の1つは「社長が連れてきた“お友達・社外取締役”による技術軽視、経営軽視」だと。
社外取締役は誰を選ぶかと同時に誰がどういう基準で選ぶか、が非常に重要なわけですが、株主総会で選ばれるという仕組み、建前があるゆえ、きちんと論議され切れてないように思います。
投稿: 機野 | 2014年3月17日 (月) 11時38分
>社外取締役は誰を選ぶかと同時に誰がどういう基準で選ぶか、が非常に重要なわけですが、株主総会で選ばれるという仕組み、建前があるゆえ、きちんと論議され切れてないように思います。
上場会社の中で、社外取締役選任基準を定める会社が増えているようですが、任意の指名報酬委員会がまじめに選定している会社と、機野さんが指摘されている「おともだちでも可」としている会社の差が大きいように感じますね。私が株主だったら、社外取締役さんに対して、この1年何をしたのか、取締役会出席以外で、どのような非業務執行面での貢献をしたのか、取締役会出席以外はされていないのであれば、取締役会でどう貢献されることを目指してきたのか(助言?機関投資家への説明責任?社長の交代を前提とした業績評価?)を、おひとりずつお聞きしたいです。
投稿: toshi | 2014年3月20日 (木) 12時22分