社外取締役が不祥事防止に機能するには条件がある
昨日、一昨日と、企業不祥事(企業の危機対応)についていろいろと書き連ねましたが、企業が有事に至ったときに社外取締役は機能するのだろうか・・・ということは、よく議論されるところです。一昨年のオリンパス事件の際、3名の社外取締役の方々が、不祥事防止には機能しなかったと言われています。日頃は社長と懇意にしていることから、有事になってもモノが言えない、ということでは社外取締役としての役割は果たせないことは間違いありません。
しかし、社外取締役が有事にモノが言える方がいらっしゃるとしても、そもそも「有事意識」を他の取締役さんと共有できなければモノが言いたくても言えません。私が仕事でいろいろな取締役会をみていて感じるのは、「取締役会で議論すべき事項が、本当に取締役会に上程されているのだろうか」という点です。私はどんなに素晴らしいコーポレートガバナンスを構築している企業であったとしても、この役員会への上程事項に問題があればガバナンスは機能しないと思っています。これは不祥事防止という意味でも、また企業価値向上という意味でも、社外取締役や社外監査役が有事意識を共有して議論しなければならないことが、本当は上程されていないのではないか、社外役員や監査役会に「つつかれそうな事項」は、執行役員会議や常務会等で議論されているのではないか、という問題です。
企業不祥事を世間に公表すべきかどうか・・・という問題など、まさに社内の取締役にとっては利益相反行為です。その公表の是非を社外役員を含めて論議すべきであるにもかかわらず、社内調査の結果が別の会議体で報告され、社長決裁で済まされるということは十分にありうるところです。したがって、本来は①独立取締役が参加するに至った時点において、きちんと取締役会上程基準が見直されているか、②誰がどのような責任において上程基準の判断を決しているのか、③その判断についてはPDCAによって検証される機会が確保されているのか、という点はとても重要だと考えます。こういった取締役会上程基準が健全に運用してこそ、社外取締役は有事意識を共有することが可能となるために、不祥事防止や企業価値向上のための経営判断において有効に機能するものと思います。
本来、取締役会にきちんと議題が上程されているかどうか、といったことは社外取締役自身が気をつけていなければならないことですが、ガバナンスの「見える化」という視点からすると、社外取締役が取締役会の充実に寄与するためには、常勤監査役の存在も大きいと思います。取締役会以外の重要会議に参加し、また社内で発生している問題にもアクセスしうる立場にあるので、取締役会への上程基準の運用に不審な点があれば、常勤監査役から問題提起がなされる可能性があります。会社法改正によって新設される監査等委員会設置会社では、常勤の監査委員たる社外取締役は任意設置となりますが、本当に利益相反行為に関する取締役会の判断が確実になされるためにも、私は常勤の監査委員の存在が不可欠だと思います。もちろん管理部門の取締役さんが信用できない、というわけではなく、そういった保障装置の存在は、外から見ても安心できるガバナンスだからです。
今回は取締役会への審議事項、報告事項の上程基準について述べましたが、同じような状況は親会社による子会社管理にも言えると思います。子会社管理といっても、実際に下から上がってこなければ管理できないと思います。今後、財務情報だけでなく、非財務情報についても企業価値創造との結びつきが開示される機会が増えてくるものと予想しています。監査役制度や内部監査制度などが、当社のビジネスモデルが抱えるリスク管理にどう役に立ち、それがなぜ企業の売上向上、原価管理、そして経費節減に役立つのか、報告責任が求められます。ガバナンスの「見える化」「言える化(説明できること)」が益々問われる時代になるものと理解しています。
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コメント
先日ACFE(日本公認不正検査士協会)主催のセミナーに参加したのですが、不正リスクアセスメントにおいては「ノーチェックの状況で起こり得る不正を徹底的に洗い出す」リスクの網羅的な洗い出しが重要との知見を得ました。ただ、網羅性を確保する、ということは「気付いていないことに気付くか」といったニワトリが先か、タマゴが先か、の類に似ている気がして、私はいつも悩ましく感じています。社外取締役・社外監査役(社外役員)の方々は、ふだんは会社にいない中で、上程されなかったリスクのような「知らなかったこと」について、善管注意義務違反や忠実義務違反?(知らなかったことは問題ではないのかということ)が追及されうるかも(最終的に責任を問われるか否かは別だと思いますが)というのは、かなり胃の痛いこととお察しいたします。
会社経営の管理監督というのはそれ自身が高度な倫理観と義務感を求められる職業だと思います。とりわけ社外役員においては、現状はある程度「伝手を頼って」というケースが多いのではと思うのですが、独立性も強く求められるとなると、今後「プロフェッショナル社外役員(プロ社外役員)の人材育成・人材プールの仕組み」「プロ社外役員の人材紹介・人材派遣業務」「社外役員を育成・派遣する専門会社の設立(モノ言うプロ社外役員の育成?)」なんていうアイディアも出てきたりするのかと邪推してしまいます。(唐突ながら。)
投稿: 会計利樹 | 2014年1月29日 (水) 09時14分