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2014年2月27日 (木)

ディスクロージャー専門家による「適時開示実務入門」

44951998112これだけ経営環境が激変する時代、競争に勝つための企業の経営判断にはスピードが求められます。経営者はできるだけ組織の暗黙知と自ら長年培ってきた知見によって事業を遂行したいわけでして、その結果として企業の業績を上げることで株主からの負託に応えたいと考えます。

しかし一方で、資金調達の面においても、また投資家や株主の投資判断の機会を確保するという面においても企業情報を正確に開示する必要もあります。このあたりのバランスをどう確保するか・・・ということは、上場企業の組織運営上の能力が試される場面だと考えます。

とりわけ法で決められた(ハードローとしての)情報開示ということであれば金商法のレギュレーションの問題として実務担当者に頑張ってもらわねばならないのですが、ソフトローとしての適時開示となりますと、投資家からみれば「経営者の誠実性」「組織としての誠実性」が試される絶好の機会であり、投資家や株主にとっても関心の高いところです。そのような企業における適時開示の実務を学ぶうえで、たいへん有益な本が、このたび出版されました。

「適時開示実務入門」鈴木広樹著 同文館出版 2200円税別)

上場会社の実務担当者においては、東証の適時開示ガイドブックを参照されている方が多いと思います。もちろんバイブル的な存在であることは間違いないのですが、非常に分厚い参考書であるために、適時開示の必要がある場合に書式等を参考にすることが多いのではないでしょうか。つまり「適時開示の必要があることはわかっているが、どう開示したらいいのだろう」というときに役立ちます。しかし「これって適時開示の必要はあるの?」といった「気づき」がなければガイドブックを開くことには至りません。

本書は本文150頁ほどですが、上場会社の適時開示の重要性を理解し、「気づき」(これって開示が必要な場面ではないのか?と気づくこと)を教えてくれる実務書です。「適時開示の実務入門」といったタイトルどおり、内容はたいへんわかりやすく、実務担当者や経営者向けに適示開示ルールの原則を教えてくれます。

著者の鈴木広樹氏は、証券会社のディスクロージャー管理部長、開示審査部長などを歴任され、現在は大学の先生をされておられます。多くのマニアックな投資家やディスクロージャー実務関係者が集まる某研究会にも参加され、最近清文社より「検証-裏口上場」なる超(?)マニアックな新刊書を出されたばかりです。

今回は一転して(?)非常にわかりやすい実務家、経営者向けの新刊書をお出しになられました。たとえば常務執行役員の方が、次期代表取締役内定含みで取締役に就任する場合、どの段階でこの事実を開示すればよいのか?公募増資やM&Aに関する機関決定の前にスクープ報道がなされた場合、会社としてはどのような開示を行うべきなのか、といった問題について「なるほど、原則から考えればそうなるよな」と思わずつぶやきたくなります。ところどころに、理解を進めるための知識が得られる「コラム」も掲載されています。

そもそも企業情報開示というものは、取締役からみて事実上の利益相反行為となるケースがあります。どうしても社内の論理を優先してしまい、後日「企業としての誠実性」に疑問が呈されてしまうこともあります(ときにはコンプライアンス問題にまで発展してしまいます)。そういったときに、このような本が適時開示の必要性を気づかせてくれて、また開示の時期や開示内容を決するためのモノサシの役割をはたしてくれるとありがたいですね。

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2014年2月25日 (火)

天竜川転覆事故-元社長の内部統制構築義務違反と刑事責任

もう2年半前の事件に関するものですが、本日(2月24日)静岡県警は、天竜川の川下り転覆事故に関する運営会社関係者5名について、業務上過失致死罪で書類送検をした、と報じられています(毎日新聞ニュースはこちらです)。たいへん痛ましい事故でしたが、事故から2年半かかってようやく書類送検に至ったのですね。この間、運輸安全委員会が平成24年12月に「会社は船頭らに対して教育や訓練をしておらず、安全管理上の問題があった」とする調査報告書を公表しており、また昨年2月には全遺族との補償交渉が合意に至っていました。

上記毎日新聞ニュースの記事によりますと、運営会社(天竜浜名湖鉄道)の元社長さんも、船頭さん達の訓練マニュアルを作成していなかった点において、安全管理体制の構築を怠ったとして、業務上過失致死罪で書類送検されているようです。別の朝日新聞ニュースの記事によると、元社長さんは「安全管理体制と安全管理の実態に不備があったのは間違いない。私の立場として現場の実態をしっかり確認すべきだった」と供述しているとのこと。

以前、パロマ工業社の社長さんもガス湯沸かし器の違法改造による死亡事故につき、業務上過失致死罪で有罪が確定しましたが、あの事件ではたくさんの死亡事故が発生していたにも関わらず、抜本的な安全対策をとらなかった点に経営者の過失が認められました。しかし、上記の天竜川川下りの運営会社の社長さんは、重大な事故が繰り返されていたわけでもなく、船頭さん達の訓練マニュアルを作成していなかったことが死亡事故との関係で「因果関係のある過失」の根拠事実とされているようです。

これまでも民事事件においては社長さんの安全管理責任が問われた事例はありますが、刑事事件において社長さんの内部統制構築義務違反が責任根拠となるものは、パロマ工業事件以外にはあまり記憶になく、かなり珍しいのではないでしょうか。安全確認や訓練に関するマニュアルを整備していながら、そのマニュアル通りに運営されていなかった、ということであれば、経営者にもなんとなく結果予見義務が認められそうです。しかし、そもそもマニュアルを作成していなかったということであれば、社長さんに重大事故に対する結果予見性があるといえるのかどうか。結果の重大性からさかのぼって後出しじゃんけんで結果責任を問うことになるのではないか、といった点がかなり微妙であり、検察庁の今後の捜査について議論の余地があるかもしれません。

JR福知山線事故における歴代社長さん達の刑事責任を問う裁判では、ご承知のとおり無罪判決が出ています(現在、3名の被告人について控訴係属)。もちろん重大な事故を発生させた経営責任は重いわけですが、刑事責任となると、結果の予見可能性や回避可能性が厳しく判断されます。本件でも、記事に掲載されていないような事情があれば別ですが、現場の安全責任者とまではいえない経営者について、はたして川下りによる死亡事故の予見可能性、結果回避可能性があるといえるものなのか注目されるところです。

ちなみにJR福知山線事故の遺族の方々は、個人責任追及に限界のある刑法を改正して「組織としての刑事罰」を認めるように勉強会を開始されたそうです。刑事法に両罰規定が存在する場合にのみ法人に刑事処罰が認められる現行法を改正して、法人そのものの不正行為を認めることについては、「組織構造的な欠陥」に目を向けることになり、再発防止という意味においても私は基本的に賛成です。ただそうなりますと、組織への捜査について法人に黙秘権が認められることになるかもしれず、真相究明が今以上に困難になることも予想されます。まだまだハードルは高そうです。

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2014年2月24日 (月)

食材偽装事件にみる企業コンプライアンスと行動経済学との接点

消費者庁の外食メニュー表示に関する指針(ガイドライン)案をみたホテルやレストラン業界から、「制限が厳しすぎてお客様の注文が減ってしまう」と、懸念が示されています(ガイドラインの内容を含め、行政当局の考え方については、消費者庁のこちらのページがたいへん参考になります。なお、企業からの懸念を示すものとして、たとえば2月21日のサンケイビジネスニュースはこちら)。

たしかに「ニジマス弁当」「アブラガニ」といった表示となると私も(いままでおいしく食べていた食材なのに)少し食欲が減退しそうな気がしますし、当局の景表法の解釈がすべて正しい(司法において、そのまま維持される)かどうかはわからないところもあります。したがって、企業側の言い分も理解できます。ただ、すでに農水Gメンの方々の併任発令もなされ、今後は積極的なメニュー表示の調査が行われることになりますので、外食産業としては十分なリスク管理が必要になりますね。

ホテル、レストランといっても、そもそもブランドはお店によって当然に異なるわけで、それぞれの価格帯に合ったメニュー表示の基準があってもよさそうなのですが、同庁のガイドラインをみると、いずれの店舗でも同一の判断基準でメニュー表示の適正性について判断されるようです(景表法上の「優良誤認」にあたるかどうかということは一般人を基準に判断することになるので当然といえば当然ですが)。

もちろんメニューの偽装が不適切な表示であり、言語道断であることは明らかです。しかし一方において、景表法を守りつつも、ブランドにふさわしい「おもてなし」としての演出をメニューに表示することが必要になるホテル、レストランも多いのではないでしょうか。お客様も楽しい雰囲気で食事をしたいはずです。そこでメニュー表示において、消費者庁のガイドラインに配慮しつつも、最近流行の行動経済学の考え方を参考に「おもてなし」の姿勢を前面に出すことが考えられます。※

※・・・これまでの経済学の理解なくして「行動経済学」の理解はありえない、というご主張もあるとは思いますが、まぁ、ここでは「行動経済学の本で一般的に語られている理論」くらいの意味です。

たとえば認知バイアスを利用した「本日のおススメ!」や、「わけあり」(どうして本商品は安いのか・・・という説明)といった表示を付する、現在志向バイアスを活用した「今だけオトク!」「季節限定」といった冠をつける(ただし景表法4条1項2号の「有利誤認」に該当しない程度に)、時間割引率を活用して「寒い冬だからこそ良質の脂をもう一品!」と表示する、決定麻痺という心理的バイアスを利用してメニュー商品をできるだけ絞るか、掲載に優先順位をつける、といった具合です。

要は景表法ガイドラインを遵守する以上、メニュー表示の「味気なさ」を何かでカバーしなければならないわけでして、そこに行動経済学や神経科学における認知バイアスを参考に、メニュー表示と口頭による説明をもって補完することが必要になるように思います。そもそも人によって「偽装」と「演出」の境界線は異なるわけでして、どんなに細かい社内ルールや行政ガイダンスを作ったとしても、現場で迷うことはなくなりません。おそらく現場で迷った社員の人たちは、仕事で忙しいうえに、「おかしい」と手を挙げることはしたくないので、いろいろな理由をつけて「このメニューと食材の差異は、・・・という理由から、たいした違いではない」と自分の判断を正当化するはずです。

ちなみに2月22日の朝日新聞朝刊(関西版)の経済面で、株式会社ロイヤルホテルの社長さんのインタビュー記事が掲載されていますが、エビの偽装を昨年6月に把握しながら、なぜ5か月も公表が遅れたのか?との質問に対して社長さんは「中華料理の慣習だと思い、当時はそんなに重く考えていなかった」と回答されています。社長さんが把握されてもこのような認識なので、今後も現場担当者としては「たいした違いではない」と自身の判断を正当化するはずであり、結果としてメニュー偽装はなくならないはずです。したがって、コンプライアンスの視点からは、ときどき「偽装」の境界線を越えることはあっても、そこから「許された演出」に戻ってこれる力が組織にあるかどうか、というところが大切だと考えています。

私はむしろメニュー表示ガイダンスといった狭い範囲での問題としてとらえずに、社員の応対やサービス・商品の説明、チラシの配布など、もっと広い範囲での広報活動を「お客様の立場で」考える機会とすればよいのではないかと思います。そのような場面で行動経済学の活用がひとつの工夫ではないかと。景表法ガイドラインに反するような表示があったとしても、それを自力で軌道修正できる力を養うほうがよほどリスク管理の面では適切ではないでしょうか。

前にも申し上げましたが、ホテルやレストランで「メニューと食材が異なることで企業の信用が毀損されるリスク」など、今回の事件が話題になる前には誰も考えていなかったわけです。著名なホテルやレストランも、昨年のプリンスホテルなどの偽装事件発覚を契機に調査したことから偽装を把握しているのです。むしろどれだけ「お客様の立場で」物事を考えられるか・・・という企業の基本姿勢の欠如が、メニュー偽装という形をとって顕在化したにすぎないのです。つまり、今後もこの「企業の基本姿勢」が変わらない限り、いまは誰も重大なリスクとは気づいていない問題によって企業不祥事が顕在化する、ということは十分に考えられます。ガイドラインの周知徹底によって何が適法なのか、何が違法なのか、ということをコンプライアンス経営で徹底するという方法も考えられますが、それよりも大切なのは、ホテルやレストランにおける「おもてなし」とは具体的にどのようなマーケティング戦略につながるのか・・・、そこを現場を含めて実践していくことが、最終的には不正リスクに対応できる組織力の向上につながるのではないかと考えています。

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2014年2月19日 (水)

「社外取締役を置くことが相当でない理由」のひな型はいずこに?

政府の成長戦略において、社会福祉法人や医療法人の内部統制の構築、ガバナンス改革、会計の透明性向上は喫緊の課題となっています。しっかり貯めこんだ内部留保を吐き出させてこれを活用し、津々浦々まで均質の行政サービスを展開させるための統廃合を進めるという施策が本気でどこまで実現されるのでしょうか。

ところで上場会社のガバナンス改革に関する政府の本気度も結構高いものがあり、ご承知のとおり、会社法見直し要綱から一歩進んだ会社法改正法案が審議されています。「これで社外取締役を入れなければ厚顔無恥な会社だ」と塩崎先生がおっしゃっておられるように、自民党が推進する上場会社のガバナンス改革には、まさに国内・国外からの投資を促進させるために、しがらみの中で社長の交代が進まない現実を(社外取締役制度の導入で)一気に変えようとの強い意気込みを感じます。

なお先日、キヤノンさんが社外取締役を選任すると発表され、「これで事実上義務化の流れが決まったかも」と思いましたが、よく考えてみると、キヤノンさんは昨年、社外取締役を選任しなかったことで、代表取締役さんの再選にたいへん多くの反対票が投じられましたので(他の役員が賛成率90パーセント以上の中で、代表者のみ72パーセント)、決して自民党案に屈したわけではなく、おそらく外国人保有比率の関係で導入を決断されたとみるのが筋ではないかと思い直しています。実際には、未だ社外取締役さんの選任を全く考えていない中小の上場会社さんも非常に多いわけですから、「厚顔無恥」と言われようとも、法的に義務化されない限りは導入しないと決めているところも多いと考えられます。

東証一部上場だけでなく、二部上場やJASDAQ上場会社も併せると、本当に独立性要件を満たす社外取締役を導入できる(適任者を見つけることができる)企業はかなり少ないわけで、改正会社法が施行されますと、(社外取締役を一人も選任しない上場会社にあっては)株主総会で説明できる程度の「社外取締役を置くことが相当でない理由」を、現実問題として考えなければなりません。これは当該上場会社だけではなく、株主総会の運営指導を担当する信託銀行さんにとっても頭の痛い問題ではないでしょうか。

そういった事情もあってか、最近の旬刊商事法務2023号(2014年2月5日号)に、株主総会指導では著名な信託銀行ご担当者の方々による論稿が掲載されていまして、改正会社法への実務対応のひとつとして「ひな型らしきモデル」が掲載されています。総会指導をされるご担当者の方にとっても他人事ではないはずで、こういった論稿をお出しになるのも意味があると思います。また、(まだ時期尚早ですが)藁をもすがる気持ちでお読みになるであろう上場会社担当者もいらっしゃるのではないかと(なお、念のために申し上げますが、論稿の著者の方々は、とくに社外取締役導入論について賛否を表明されているわけではなく、出来上がった制度を前提に、可能なgりの実務対応を検討されているにすぎません)。まだ今後、会社法規則などで詳細がつめられることになりますので、これがベストプラクティスというわけではありませんが、現時点においては、なかなかよく整理されていて参考になります。

ちなみに、私の責任で概要を紹介いたしますと、当社で社外取締役を置くことが相当でない理由は、当社には独立性を有し、社外取締役を置いた場合と同等の経営監督機能を発揮できる素晴らしい社外監査役が2名(以上)存在している(なぜならば・・・といった活動がされている)、一方、社外取締役を置いてしまうと、たとえば経営判断の迅速性が阻害され、・・・業務執行に支障が出ることが考えられるためである・・・、といった内容です(正確なところは上記商事法務を参照してください)。

ただ、読ませていただいた印象としましては、これまで同様「社外取締役を置くことが相当でない理由」というのを株主総会の役員選任議案審議の口頭説明で語ることは至難の業だなぁと感じました。当社の監査役2名(社外監査役)が独立・公正な立場にあり、社外取締役に匹敵するような活躍をしているので経営監視機能としての役割は十分に果たしている・・・と言いつつ、経営判断の迅速性を確保するためには社外取締役は有害だと述べることは、そもそも前半と後半で趣旨に矛盾が生じるおそれがあるように思いました。たとえ議決権を有していないとしても、経営監視機能を有する社外監査役さんがいるというのであれば、おそらく議決権を有しているときと同じように、その意向は無視できないわけですから、迅速な経営判断を阻害することになるわけで(むしろ阻害することに意味があるわけですから)一般株主から鋭いツッコミが入る予感がします(なお、ツッコミが入るということと、内容の問題点が法的な説明義務違反に該当するかどうか、という点は別です。私としては、法的責任の問題というよりも、ツッコミが入ったうえで取締役選任の議決権行使に影響が及ぶ・・・という経営責任の問題程度のものだと考えています)。

仮に前半の「社外監査役2名の存在は、社外取締役と同等の経営監視機能を発揮している」という点を強調するのであれば、社外取締役制度による経営監視とは別の独特の監視機能の有益性を語り、それは当社では(企業価値向上にとって好ましくない)社外取締役制度導入による経営監視機能とは異なることを説得的に述べる必要があるのではないでしょうか。たとえば取締役会による監督機能を強化することよりも、監査役による効率性監査を強調して、社外監査役は、社内取締役らが業務執行だけでなく、取締役会における監督機能を発揮しているかどうか、という点もチェックしている(まさに効率性監査)ということで、代表取締役の執行をダブルチェックするほうが当社にとっては望ましい・・・といった言い方がひとつの工夫になるのではないかと。

要は適任者を見つけにくい以上、社外取締役による監督機能の発揮と、これまで十分に機能していなかった社内取締役による監督機能の発揮とでは、どちらが企業価値向上に資するのか・・・という点で熟考した結果であるという姿勢を示すことがベターではないかと思うのですが、いかがなものでしょうかね。これなら後日、社外取締役の適任者が見つかったときにも、これまでの説明と矛盾が生じることにもならないと思うのですが。ただ、こんな感じでリスペクトを公表された監査役さん方は、かなりプレッシャーがかかりそうですね(笑)。

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2014年2月17日 (月)

リソー教育社の不適切会計処理にみる「不祥事企業の作られ方」

先週2月13日に、東証1部のリソー教育さんの不適切会計処理に関する第三者委員会報告書が公表され、興味深く読ませていただきました(その後、再発防止策や人事異動なども発表されています)。リソー教育さんは、首都圏で学習塾「トーマス」などを展開する個別指導塾で著名な上場会社ですが、約6年半にわたって売上金83億円を過大計上した粉飾決算の内容が第三者委員会の報告書で明らかになりました。なお、報告書とは別にネット上で公開されている会長さんのインタビュー記事なども併せ読みますと、同社には過去から大規模な「内部分裂と倒産の危機」があったそうで、このたびの不適切会計処理に至った経緯なども報告書には記述されていないような非常に複雑な事情があるように思いました。

また、売上至上主義がこれほど人事評価に連動しており、また評価対象となる授業数の計上に「いかさま」が横行していたわけですから、人事に不満を持つ講師や社員の方々が内部告発することは容易に想像がつくわけで(ただし報道されたものや同社リリースには内部告発があったとは記載されていません。あくまでも私の推測です)、そういった「告発リスク」というものを、現場の経営者はどのように感じておられたのか、とても関心があります。

本事例については、いろいろと論点がありますが、リソー教育さんの監査役の皆様は、これだけの不祥事進行にあたり、一体何をされていたのだろうか・・・と疑問を抱かざるをえません。報告書の後半に、常勤監査役の方に対して法的責任が発生する可能性について論じられていますが、これだけ組織ぐるみの不正が行われていた中で、監査役の皆様が不正にどう立ち向かっておられたのか、全く事実が記載されていないところが若干物足りないところです。とりわけ監査役と会計監査人の連携については、平成17年7月に公表されているにもかかわらず、昨年の証券取引等監視委員会による調査開始の時期まで、どういった連携がなされていたのか全く不明です。また常勤監査役さんと3名の非常勤社外監査役のみなさんとで、どのように会計不正問題に対応されていたのか、という点の記述もありません。これは大いに疑問です。ここが明確にならなければ、会長さんの責任や会計監査人の責任を論ずることもできないように思えます。

また、引き継ぎ前の監査法人さんが、リソー教育さんの会計事実の不正を発見し、抜本的な対策を会長さんに提言しているところは評価できるのですが、しかし最終的には監査を下りています。監査契約を解消するにあたり、引き継ぎ監査法人に不適切な会計処理に関する事実が伝えられ、その後別の監査法人さんが監査を担当することになりますが、会計事実をゆがめる行為が売上の過大計上につながっていることに監査法人担当者が気づかず、会社側の会計事実の歪曲行為が継続されることになります。

私が疑問に思うのですが、こういったケースで引き継ぎ前の監査法人も、後の監査法人も、全社的内部統制は有効だと認識していたのでしょうか?また、仮に有効だと認識していたのであれば、どのような合理的な理由によって有効だと判断されていたのでしょうか?そこは報告書には記載がありません。

7、8年ほど、こういった不適切な会計処理に関する第三者報告書はじっくり拝読していますが、そもそも「企業不祥事」と「不祥事企業」とは異なるということを確信するようになりました。粉飾決算は、最初から役職員が「粉飾をやろう」と決めて起こすケースは少ないわけで、さまざまな不正を起こすうちに、「たまたま粉飾という形で発覚しちゃった」というのが多くのケースです。一般的な不正予防対策は、この「粉飾をやろう」と決意して行った「まじめな会社」の場合には実効性がありますが、「たまたま粉飾企業になっちゃった」というコンプライアンス軽視の企業には実効性がないと思います。まじめな会社であっても、粉飾に限らず個別の不祥事は起こすわけで、一般的な「不祥事予防対策」は、このようなまじめな会社の起こす不祥事を予防するには効果的です。しかし不祥事を起こしやすい環境にある「不祥事企業」では、そもそも未然予防の対策を担保できる社内風土がありませんので、実効性もないわけです。私はこの「不祥事企業」の兆候は「全社的内部統制の不備」に顕れるものと考えています。

たとえばこれだけ社員の業績評価の根拠となる数値が、各教室で勝手に歪曲され、その歪曲された数値によって昇格する人たちが出てくるのですから、普段からどんな内部通報があったのか、とても興味があります。それとも通報がなかったのでしょうか。内部通報制度のチェックは、全社的な内部統制の有効性判断のひとつですが、同社で内部通報制度が有効に機能しているという評価はどのような理由によるものなのでしょうか(ちなみに第三者委員会は十分に社員に周知されていなかったとされています)。

このように「まじめな企業」なのか、「コンプライアンス軽視の企業」なのか、一般投資家は知りたいわけですが、いろいろな開示情報を総合して推察するしか方法はありません。その中で、やはり監査法人さんの出すシグナルは大きな意味があるわけで、残念ながらJ-SOXがその役割を果たしえないまま現在に至っているというのが現状です。もし内部統制報告制度が機能していないのであれば、ステークホルダーに対する説明責任を果たすべき第三者委員会報告書のなかで、投資家が「この会社は多額の返済金を抱えながらも今後事業を継続できるのかどうか」を判断するための有力な手掛かりを開示してほしいと思います。それは冒頭に示したとおり、監査役は何をしていたのか、監査法人は何をしていたのか、そして監査役と監査法人はどのように協働していたのか、という点です。もしモニタリングが機能していたのであれば、これから先も「自浄能力」を発揮できる企業として期待できますが、機能していないというのであれば、もはや自浄能力は何ら期待できないということになります。同社のリリースにあるように「経営トップは今後も頑張ります」ということで、今後も会長さんが君臨するのであれば、なおさら自浄能力がなければコンプライアンス軽視の風土は変わらないはずです。

これだけの企業を一代で築き上げられ、「親族は絶対に後継者にはしない」と公言されているカリスマ会長さんがいらっしゃるのですから、監査役さん方には厳しい監査環境があったかと想像します。しかし、監査法人と協働したり、内部監査部と協働することで、少しでも経営に対する進言を行い、残念ながら経営トップに受け容れられない結果となったとしても、「ああ、これだけ頑張っているモニタリング機関があるのか」と感じることができれば企業再生への期待は大きくなるはずです。そのあたり、有事に至った企業の社会的責任の一端として、なんとか開示されることを期待しています。

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2014年2月12日 (水)

法務部必読!!タマホーム第三者委員会報告書

月曜日(2月10日)の日経朝刊法務インサイドで「最近の不祥事発生時の第三者委員会報告書ってどうよ?」といった特集記事が組まれていましたが、いやいやどうして、核心に迫っている第三者報告書が二本、10日にリリースされています。

なかでもタマホームさんの連結子会社の不適切事実に関する第三者委員会報告書は読みごたえあり!です。ちなみにタマホーム社子会社の不適切事実については、こちらあたりがご参考になるかと。

最初に委員会が会社側とどんな交渉をしたのか、どのように独立性を維持したのかを、事実を適示して説明を加えているところから「おお!」と思わせます。フォレンジックの内容も参考になりますし、会社側が不穏な動きをしたのではないか・・・といった疑惑についても記載があります。また事実の認定の段階から、かなり委員の自由心証に基づく判断が記載されており、これは説得力が感じられます。全体を読むと、2009年のフタバ産業事件のときの第三者委員会報告書にどこか似ているような気が(上場会社取締役・監査役必読!!フタバ産業第三者委員会報告書)・・・。

法律実務家としての興味からすると、親会社取締役・監査役の責任を、子会社取締役・監査役と区別して、丁寧に論証されているところは参考になります。親会社役員の子会社管理について、日本システム技術事件最高裁判決、アパマンショップ事件最高裁判決の(取締役の責任を論じるにあたっての)射程距離を意識しながら、最近の福岡魚市場代表訴訟判決、平成13年の野村證券孫会社代表訴訟事件判決なども参考にして検証しておられる点はとても勉強になります。コンプライアンスの視点からは、社長案件の利益相反取引に見え隠れする「触れられないブラックボックス」の存在・・・、これはどこの企業にもある病巣ですが、ここによく光があてられています。

また、上場会社の法務部の与信審査なども詳しく論じられていて新鮮です。ホームページのソースコードから反社情報が飛び出してきた・・・なんて、なかなかおもしろいですね。雑誌FACTAの記事などが企業に及ぼす影響なども「なるほど」と思います。たいへん長い報告書ですが、最後まで法務部員の方々にはお読みいただき、どのような感想を持たれるか、お聴きしたいところです。法的責任に関する判断において、親会社の取締役、監査役の法的責任を厳しく認定している(表現としては「善管注意義務違反が認められる可能性が高い」等)点をみても、この報告書の「核心への切りこみ」がわかります。社長が知らぬ、存ぜぬを押し通してしまうと、「法的責任の判断は下せなかった」で逃げてしまう最近の第三者委員会報告書とは一味違います。

個人的には「疑わしきは会社の不利益に」という前提で書かれたもうひとつのリソー教育さんの第三者委員会報告書にもぜひ言及したいのですが、また別の機会にということで(さっそく朝日新聞「法と経済のジャーナル」で奥山記者が本件第三者委員会報告書を取り上げていらっしゃいますが、マスコミ的にはリソー教育さんの第三者委員会報告書のほうが関心が高いかもしれません)。とりいそぎ、速報版としてご紹介させていただきました。

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2014年2月10日 (月)

内部告発は市民を救う?-最近の企業不祥事の発覚要因として

(2月10日午前 追記・修正あります)

先週月曜日(2月3日)、大阪科学技術センターにて、消費者庁主催シンポ「お客様と社員の声が企業を救う」にパネリストとして登壇させていただきました。その際、あらためて「内部通報制度の充実は内部告発から企業を守る」と申し上げました。もちろん、内部通報をしたことによって(事実上)社内で不利益な取り扱いをされないことが必要ですし、不正を隠すためではなく、自浄能力を発揮するためであることを明確にすることが前提です。

食材虚偽表示事件において、消費者庁から排除措置命令を受けた阪急阪神ホテルズ社から、先日第三者委員会報告書が公表されました。その報告書の中でも「この事件が内部告発によって明るみとなったとの一部ネット上で噂になっていたので、あらためて調査したところ、内部告発によって事件が明るみになったものではなく、社内調査によるものであることを確認した」とありました。内部告発によって不祥事が明るみになったということになりますと、やはり自浄能力が発揮されなかったことを世間にさらしてしまうことになりかねません。企業のリスク管理という意味において、まさにお客様と社員の声が企業を救う時代だと思います。

ところで、最近報じられている不祥事の発覚については、はたして内部通報や独自の社内調査によるものなのか、それとも内部告発(第三者に対する情報提供)によるものなのか、よくわからないものがあります。ひょっとすると社員が通報したにもかかわらず、企業がこれを無視していたので、やむなく外部に告発した・・・という事例もあるかもしれません。たとえば東京海上日動さんの12万件にも及ぶ保険金不払いの件ですが、この件はどうなんでしょうか。金融庁からの調査指示があったとのことですが、こういったケースでは内部告発が行政当局に集まる例が多いと思います。金融庁から指示があった時期よりも、以前に東京海上日動さんのほうに通報があったのか、なかったのか、内部告発や内部通報があたりまえとなった時代ですので、そのあたりはたいへん知りたいところです。

また三菱地所さんが販売していた青山の分譲マンション契約解除の件ですが、これも2ちゃんねるマンションの契約者や所有者を中心とした書き込みのあるコミュニティサイト(「マンションコミュニティ」)の元ネタと最近の新聞報道とを比較してみると、かなり元ネタの信ぴょう性が高いように思えました。2ちゃんねるにどなたかが告発していることよりも、このような掲示板の書き込みを分譲マンション購入者が見つける時代になったことに驚きを感じます。いくら内部告発があったとしても、マスコミや利害関係者の目に留まらなければ社会的な反響にはならないわけですから、やはり内部告発のおそろしさを認識した事例かと思います(しかし、この掲示板の書き込みが見つけられなかったとしたら、契約者の方々は、そのままマンションは引き渡されたのでしょうね)。

追記 コメント欄のとおり、一部誤りについてご指摘を受けましたので、修正させていただきました。私が2ちゃんねるで閲覧したものは、二次情報だったようです。訂正してお詫び申し上げます<m(__)m>。

以前このブログでも「『裏』内部通報窓口」の存在を書いたことがありますが、企業の方々が内部通報つぶしに躍起になっているうちに、通報者が裏の通報窓口に告発してしまい、目も当てられない状況になってしまうことも考えられます。社員の通報に対しては真摯に対応され、不正は早期に発見、処理されることがリスク管理としても大切だと思います。企業は有事になったときに、なかなか有事であることを認めたがらない(そのことが二次不祥事を招くわけですが)・・・ということを肝に銘じておくべきです。

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2014年2月 6日 (木)

金融機関のITガバナンスの構築は社会的な責任である

横浜銀行のATMから利用客のデータを取得し、カードを偽造したうえで40口座(最大132口座)から計2600万円余りを引き出した犯人が逮捕されたそうです。犯人は横浜銀行のシステム保守管理を再委託されていた上場会社の部長級幹部社員とのこと。外部からの侵入ではなく、管理を担当する内部者(管理受託者)がデータを不正取得した、ということは、まさに銀行の管理責任が問われるものであり、平成25事務年度の金融モニタリング基本方針の中で問われている「ITガバナンス」の課題です。

ところで、先週土曜日(2月1日)に、東証1部上場の情報システム会社の元社長さんから、システム開発に関するお話を、1時間ばかりお聞きする機会がありました。その方は、若いころに銀行のATM開発に自ら携わった経験をお持ちの方です。最近はSE(システムエンジニア)の高齢化が進み、製品の販売サイクルの短期化と過酷な労働条件の中で、若いエンジニアが育たないといったお話でした。

私が「そもそもSEの技術は若い方に伝承されないのですか?」とお聞きしたところ、今のSEの方々の中で伝承すべき技術というものはない、との返答でした。というのは、今のSEにとっては開発スキルは二の次で、大切なのは「選ぶ力」だそうです。ユーザーの希望を聞いて、どういったシステムを選ぶのか、どういった最先端の技術を選ぶのかということのほうが重要とのこと。また、分業化が大切だそうで、ユーザーに近いところの「事務系SE」と開発に近いところの「技術系SE」とで役割分担を進めなければユーザーの希望をうまくシステム開発につなげることが困難だそうです。つまり技術は「属人性」が強いものであるために、おそらくブラックボックス化してしまい、開発担当者それぞれの責任は希薄化するのかもしれません。

金融機関のITガバナンスについても、金融機関側だけに責任を求めるのではなく、委託先、再委託先との間で、できるだけ少しずつリスク回避のための責任を分担することが効果の面において現実的ではないでしょうか。今回の事件の再委託先企業は、すでに「再発防止策を講じている」とのことですが、委託先にダブルチェックや権限分掌などの万全の不正予防体制を求めるのは厳しすぎるるように思います。そこで、金融機関には「通訳」に近い立場のSEが存在し、ダブルチェックとまでは言えないかもしれませんが、再委託先による不正を監視する立場の方が必要かと。

銀行側としては、まさに「ITガバナンス」の構築であり、担当者任せにしないことです。システム開発担当の銀行員というのは、中途採用の方も多いと思うのですが、(前職との関係で)委託先もしくはコンサルタント会社と不適切な関係でシステム開発を進めてしまったり、そもそも不必要に高額な契約を締結していないかどうか、本当に銀行の利益を最優先で開発がすすめられているのかどうか、きちんと把握しておく必要があります。こういったことを銀行側が把握するためにも、信頼のおける「通訳」の役割を担う方が、銀行側に求められるのではないでしょうか。

とりわけATMはいくら銀行の所有物とはいえ、もはや社会インフラであり、機能不全はまさに金融の信用を毀損することになります。銀行の社会的責任として、真っ先に取り組むべき信用リスク管理のひとつです。経営者自身が取り組まなければならない理由は、そこにあると思っています。

もちろんブラックボックスがすべてクリアにできるわけではありません。しかし粉飾事件が、取引先詐欺や贈賄、脱税など、そもそも経営者の「制度会計軽視につながるような遵法精神の欠如」に由来する場合が多いのと同じように、委託先社員の不正というものも、委託先との信頼関係のどこかにその予兆が出ていることがあります。そういった予兆を発見するには、個別のシステム管理や開発契約を進める上での信頼関係が構築されているかどうか、平時から「通訳」を介してチェックを行い、少しでも違和感を覚えたら、深度ある調査に移行する・・・ということから、ブラックボックスを少しずつ埋めていくことが必要ではないでしょうか。

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2014年2月 3日 (月)

海外不正リスク-社長が実刑を受ける時代の危機管理

今年の1月8日、トーマツリスク研究所が「企業のリスクマネジメント」に関する調査結果を公表されています。その中で、回答企業のうちもっとも多くの企業が最優先と回答しているのが「海外拠点の運営」だそうで、しかもそのうちの7割の企業が「リスク管理体制は適切に構築できていない」と回答しているそうです。最近の法律雑誌の特集なども、海外独禁法や賄賂禁止法、東南アジア諸国の刑事政策など、わが国企業の海外拠点における不正リスク対策が目につきます。

とりわけアンチトラスト法違反で、過去に26名ほどの日本企業社員が米国で服役していることは報じられているところですが、2月1日の朝日新聞ニュース、ロイター通信などが伝えるところによると、日本でもついに東証に上場する企業の経営トップがアンチトラスト法違反により、有罪答弁合意の末に刑に服することになりました。DOJ(米国司法省)がHPに開示している有罪答弁合意書(付属書)にカーブアウト(適用除外者)が白抜きで表示されていますので、事件を知る者にはなんとなくは予想がつくのかもしれませんが、おそらく日本の上場会社にとっては「ここまで来たか」というところではないでしょうか。

もちろん、米国の刑事司法が日本で執行することはできないので、実刑が下されても日本にとどまっているという選択肢はあります。ただ、身柄引き渡し条約による日本政府の動きなどから、自ら勧んで刑の執行を受けにいく、というほうが得策かもしれません(仮釈放制度もありますし、またどのような刑務所でどのように過ごすか・・・ということも、司法取引の内容になっているようです)。しかし、上場会社のトップはなぜ、1年や1年半もの間、刑務所で禁固刑を受けなければならなくなったのか、そのあたりの事情がわからない日本企業としては、まさに海外不正リスクについての危機管理が喫緊の課題であると思います。「なぜ経営トップが実刑になったのか、なぜ実刑となることに司法取引を行うのか・・・」という点が誰にもわからないのは、まさに米国法の手続き(ディスカバリィ、弁護士秘密特権、司法妨害に対する厳格な対応、集団訴訟、詳細な取引契約合意、刑事訴訟における証人適格等)によるものであり、ここが海外不正リスクを日本企業にわかりにくくしているところだと理解しています。そうです、当事者は誰にも事件をお話することはできず、また自由に記録に残すということもできないのです。

いずれにせよ、日本の経営者がこの重大なリスクを回避するために、日本でできる最低限度のことを知恵として身につけておく必要があります。このあたりは、すでに多くの法律雑誌等で紹介されていますので、いまさらここで述べる必要もありませんが、平時のリスク管理としては、(たとえばアンチトラストの場合)自動車部品関連企業の次にはどのような業界が狙われるのか、という点は、企業リスクの評価として大切ではないかと。また、「談合」や「賄賂」という日本語の概念で摘発対象行為をイメージをすることは避けるべきです。犯罪地についても同様で、どこでカルテルが行われても、米国や欧州で摘発される対象行為だと認識しておいたほうがよろしいと思います(ただし日本の公正取引委員会の動きとも関連します)。

また、有事の危機管理としては、いわゆる初動対応です。日本の経営者の最大のリスクはこの初動対応で「司法妨害行為」をやってしまうこと、「証人適格者」をみすみす失ってしまうことです。もちろん米国弁護士とのパイプも大切ですが、それ以前の問題として、「やってはいけないこと」だと認識できずに(ついつい)やってしまうことがある・・・ということに留意すべきではないでしょうか。それは、遠い海外拠点で発生した不正であるがゆえに、自分の立ち位置がわからないままの行動・・・というところに恐ろしさがあります。私は典型的なドメスティック弁護士なので、あまり詳しくはありませんが、ともかく海外不正リスク対策を経験された弁護士に、一度「適切な経営者初動対応シミュレーション」を指南してもらうということも検討されてはいかがでしょうか。

なお、最近のアンチトラスト法の日本企業摘発の状況をみるにつけ、民事・刑事両面において「コンプライアンスはブレーキ」ではなく「攻撃」のための武器であり、「他社への倍返し」の手段だと感じています(もちろん良い悪いは別にして、ということですが)。詳しい方はご存知だと思いますが、このあたりは、また別の機会にお話ししたいと思います。

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