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2014年2月27日 (木)

ディスクロージャー専門家による「適時開示実務入門」

44951998112これだけ経営環境が激変する時代、競争に勝つための企業の経営判断にはスピードが求められます。経営者はできるだけ組織の暗黙知と自ら長年培ってきた知見によって事業を遂行したいわけでして、その結果として企業の業績を上げることで株主からの負託に応えたいと考えます。

しかし一方で、資金調達の面においても、また投資家や株主の投資判断の機会を確保するという面においても企業情報を正確に開示する必要もあります。このあたりのバランスをどう確保するか・・・ということは、上場企業の組織運営上の能力が試される場面だと考えます。

とりわけ法で決められた(ハードローとしての)情報開示ということであれば金商法のレギュレーションの問題として実務担当者に頑張ってもらわねばならないのですが、ソフトローとしての適時開示となりますと、投資家からみれば「経営者の誠実性」「組織としての誠実性」が試される絶好の機会であり、投資家や株主にとっても関心の高いところです。そのような企業における適時開示の実務を学ぶうえで、たいへん有益な本が、このたび出版されました。

「適時開示実務入門」鈴木広樹著 同文館出版 2200円税別)

上場会社の実務担当者においては、東証の適時開示ガイドブックを参照されている方が多いと思います。もちろんバイブル的な存在であることは間違いないのですが、非常に分厚い参考書であるために、適時開示の必要がある場合に書式等を参考にすることが多いのではないでしょうか。つまり「適時開示の必要があることはわかっているが、どう開示したらいいのだろう」というときに役立ちます。しかし「これって適時開示の必要はあるの?」といった「気づき」がなければガイドブックを開くことには至りません。

本書は本文150頁ほどですが、上場会社の適時開示の重要性を理解し、「気づき」(これって開示が必要な場面ではないのか?と気づくこと)を教えてくれる実務書です。「適時開示の実務入門」といったタイトルどおり、内容はたいへんわかりやすく、実務担当者や経営者向けに適示開示ルールの原則を教えてくれます。

著者の鈴木広樹氏は、証券会社のディスクロージャー管理部長、開示審査部長などを歴任され、現在は大学の先生をされておられます。多くのマニアックな投資家やディスクロージャー実務関係者が集まる某研究会にも参加され、最近清文社より「検証-裏口上場」なる超(?)マニアックな新刊書を出されたばかりです。

今回は一転して(?)非常にわかりやすい実務家、経営者向けの新刊書をお出しになられました。たとえば常務執行役員の方が、次期代表取締役内定含みで取締役に就任する場合、どの段階でこの事実を開示すればよいのか?公募増資やM&Aに関する機関決定の前にスクープ報道がなされた場合、会社としてはどのような開示を行うべきなのか、といった問題について「なるほど、原則から考えればそうなるよな」と思わずつぶやきたくなります。ところどころに、理解を進めるための知識が得られる「コラム」も掲載されています。

そもそも企業情報開示というものは、取締役からみて事実上の利益相反行為となるケースがあります。どうしても社内の論理を優先してしまい、後日「企業としての誠実性」に疑問が呈されてしまうこともあります(ときにはコンプライアンス問題にまで発展してしまいます)。そういったときに、このような本が適時開示の必要性を気づかせてくれて、また開示の時期や開示内容を決するためのモノサシの役割をはたしてくれるとありがたいですね。

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