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2014年2月 3日 (月)

海外不正リスク-社長が実刑を受ける時代の危機管理

今年の1月8日、トーマツリスク研究所が「企業のリスクマネジメント」に関する調査結果を公表されています。その中で、回答企業のうちもっとも多くの企業が最優先と回答しているのが「海外拠点の運営」だそうで、しかもそのうちの7割の企業が「リスク管理体制は適切に構築できていない」と回答しているそうです。最近の法律雑誌の特集なども、海外独禁法や賄賂禁止法、東南アジア諸国の刑事政策など、わが国企業の海外拠点における不正リスク対策が目につきます。

とりわけアンチトラスト法違反で、過去に26名ほどの日本企業社員が米国で服役していることは報じられているところですが、2月1日の朝日新聞ニュース、ロイター通信などが伝えるところによると、日本でもついに東証に上場する企業の経営トップがアンチトラスト法違反により、有罪答弁合意の末に刑に服することになりました。DOJ(米国司法省)がHPに開示している有罪答弁合意書(付属書)にカーブアウト(適用除外者)が白抜きで表示されていますので、事件を知る者にはなんとなくは予想がつくのかもしれませんが、おそらく日本の上場会社にとっては「ここまで来たか」というところではないでしょうか。

もちろん、米国の刑事司法が日本で執行することはできないので、実刑が下されても日本にとどまっているという選択肢はあります。ただ、身柄引き渡し条約による日本政府の動きなどから、自ら勧んで刑の執行を受けにいく、というほうが得策かもしれません(仮釈放制度もありますし、またどのような刑務所でどのように過ごすか・・・ということも、司法取引の内容になっているようです)。しかし、上場会社のトップはなぜ、1年や1年半もの間、刑務所で禁固刑を受けなければならなくなったのか、そのあたりの事情がわからない日本企業としては、まさに海外不正リスクについての危機管理が喫緊の課題であると思います。「なぜ経営トップが実刑になったのか、なぜ実刑となることに司法取引を行うのか・・・」という点が誰にもわからないのは、まさに米国法の手続き(ディスカバリィ、弁護士秘密特権、司法妨害に対する厳格な対応、集団訴訟、詳細な取引契約合意、刑事訴訟における証人適格等)によるものであり、ここが海外不正リスクを日本企業にわかりにくくしているところだと理解しています。そうです、当事者は誰にも事件をお話することはできず、また自由に記録に残すということもできないのです。

いずれにせよ、日本の経営者がこの重大なリスクを回避するために、日本でできる最低限度のことを知恵として身につけておく必要があります。このあたりは、すでに多くの法律雑誌等で紹介されていますので、いまさらここで述べる必要もありませんが、平時のリスク管理としては、(たとえばアンチトラストの場合)自動車部品関連企業の次にはどのような業界が狙われるのか、という点は、企業リスクの評価として大切ではないかと。また、「談合」や「賄賂」という日本語の概念で摘発対象行為をイメージをすることは避けるべきです。犯罪地についても同様で、どこでカルテルが行われても、米国や欧州で摘発される対象行為だと認識しておいたほうがよろしいと思います(ただし日本の公正取引委員会の動きとも関連します)。

また、有事の危機管理としては、いわゆる初動対応です。日本の経営者の最大のリスクはこの初動対応で「司法妨害行為」をやってしまうこと、「証人適格者」をみすみす失ってしまうことです。もちろん米国弁護士とのパイプも大切ですが、それ以前の問題として、「やってはいけないこと」だと認識できずに(ついつい)やってしまうことがある・・・ということに留意すべきではないでしょうか。それは、遠い海外拠点で発生した不正であるがゆえに、自分の立ち位置がわからないままの行動・・・というところに恐ろしさがあります。私は典型的なドメスティック弁護士なので、あまり詳しくはありませんが、ともかく海外不正リスク対策を経験された弁護士に、一度「適切な経営者初動対応シミュレーション」を指南してもらうということも検討されてはいかがでしょうか。

なお、最近のアンチトラスト法の日本企業摘発の状況をみるにつけ、民事・刑事両面において「コンプライアンスはブレーキ」ではなく「攻撃」のための武器であり、「他社への倍返し」の手段だと感じています(もちろん良い悪いは別にして、ということですが)。詳しい方はご存知だと思いますが、このあたりは、また別の機会にお話ししたいと思います。

2月 3, 2014 刑事系 |

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コメント

海外営業担当者OBとして一言。これからの企業防衛策は、実は殆どないと思う。念のために、企業法務関係者が、過去の海外案件・契約書を洗い直し、法務チェックを行う。また、進行中の海外案件については、法務担当者が、自衛上の「ガイドライン」を文章化して、社内へ公表すること。

投稿: snowbees | 2014年2月20日 (木) 18時43分

snowbeeさん、コメントありがとうございます。新聞報道だとデンソーさんの常務執行役員の方も実刑の司法取引をされたそうですね。海外不正自体のリスク洗い出しも必要ですが、このような司法妨害についてのリスクもかなりこわいなぁと感じています。メールの削除や電子書類の削除ということは諸事情から「やってしまう」こともあるような気がします。

投稿: toshi | 2014年2月28日 (金) 01時10分

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