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2014年2月19日 (水)

「社外取締役を置くことが相当でない理由」のひな型はいずこに?

政府の成長戦略において、社会福祉法人や医療法人の内部統制の構築、ガバナンス改革、会計の透明性向上は喫緊の課題となっています。しっかり貯めこんだ内部留保を吐き出させてこれを活用し、津々浦々まで均質の行政サービスを展開させるための統廃合を進めるという施策が本気でどこまで実現されるのでしょうか。

ところで上場会社のガバナンス改革に関する政府の本気度も結構高いものがあり、ご承知のとおり、会社法見直し要綱から一歩進んだ会社法改正法案が審議されています。「これで社外取締役を入れなければ厚顔無恥な会社だ」と塩崎先生がおっしゃっておられるように、自民党が推進する上場会社のガバナンス改革には、まさに国内・国外からの投資を促進させるために、しがらみの中で社長の交代が進まない現実を(社外取締役制度の導入で)一気に変えようとの強い意気込みを感じます。

なお先日、キヤノンさんが社外取締役を選任すると発表され、「これで事実上義務化の流れが決まったかも」と思いましたが、よく考えてみると、キヤノンさんは昨年、社外取締役を選任しなかったことで、代表取締役さんの再選にたいへん多くの反対票が投じられましたので(他の役員が賛成率90パーセント以上の中で、代表者のみ72パーセント)、決して自民党案に屈したわけではなく、おそらく外国人保有比率の関係で導入を決断されたとみるのが筋ではないかと思い直しています。実際には、未だ社外取締役さんの選任を全く考えていない中小の上場会社さんも非常に多いわけですから、「厚顔無恥」と言われようとも、法的に義務化されない限りは導入しないと決めているところも多いと考えられます。

東証一部上場だけでなく、二部上場やJASDAQ上場会社も併せると、本当に独立性要件を満たす社外取締役を導入できる(適任者を見つけることができる)企業はかなり少ないわけで、改正会社法が施行されますと、(社外取締役を一人も選任しない上場会社にあっては)株主総会で説明できる程度の「社外取締役を置くことが相当でない理由」を、現実問題として考えなければなりません。これは当該上場会社だけではなく、株主総会の運営指導を担当する信託銀行さんにとっても頭の痛い問題ではないでしょうか。

そういった事情もあってか、最近の旬刊商事法務2023号(2014年2月5日号)に、株主総会指導では著名な信託銀行ご担当者の方々による論稿が掲載されていまして、改正会社法への実務対応のひとつとして「ひな型らしきモデル」が掲載されています。総会指導をされるご担当者の方にとっても他人事ではないはずで、こういった論稿をお出しになるのも意味があると思います。また、(まだ時期尚早ですが)藁をもすがる気持ちでお読みになるであろう上場会社担当者もいらっしゃるのではないかと(なお、念のために申し上げますが、論稿の著者の方々は、とくに社外取締役導入論について賛否を表明されているわけではなく、出来上がった制度を前提に、可能なgりの実務対応を検討されているにすぎません)。まだ今後、会社法規則などで詳細がつめられることになりますので、これがベストプラクティスというわけではありませんが、現時点においては、なかなかよく整理されていて参考になります。

ちなみに、私の責任で概要を紹介いたしますと、当社で社外取締役を置くことが相当でない理由は、当社には独立性を有し、社外取締役を置いた場合と同等の経営監督機能を発揮できる素晴らしい社外監査役が2名(以上)存在している(なぜならば・・・といった活動がされている)、一方、社外取締役を置いてしまうと、たとえば経営判断の迅速性が阻害され、・・・業務執行に支障が出ることが考えられるためである・・・、といった内容です(正確なところは上記商事法務を参照してください)。

ただ、読ませていただいた印象としましては、これまで同様「社外取締役を置くことが相当でない理由」というのを株主総会の役員選任議案審議の口頭説明で語ることは至難の業だなぁと感じました。当社の監査役2名(社外監査役)が独立・公正な立場にあり、社外取締役に匹敵するような活躍をしているので経営監視機能としての役割は十分に果たしている・・・と言いつつ、経営判断の迅速性を確保するためには社外取締役は有害だと述べることは、そもそも前半と後半で趣旨に矛盾が生じるおそれがあるように思いました。たとえ議決権を有していないとしても、経営監視機能を有する社外監査役さんがいるというのであれば、おそらく議決権を有しているときと同じように、その意向は無視できないわけですから、迅速な経営判断を阻害することになるわけで(むしろ阻害することに意味があるわけですから)一般株主から鋭いツッコミが入る予感がします(なお、ツッコミが入るということと、内容の問題点が法的な説明義務違反に該当するかどうか、という点は別です。私としては、法的責任の問題というよりも、ツッコミが入ったうえで取締役選任の議決権行使に影響が及ぶ・・・という経営責任の問題程度のものだと考えています)。

仮に前半の「社外監査役2名の存在は、社外取締役と同等の経営監視機能を発揮している」という点を強調するのであれば、社外取締役制度による経営監視とは別の独特の監視機能の有益性を語り、それは当社では(企業価値向上にとって好ましくない)社外取締役制度導入による経営監視機能とは異なることを説得的に述べる必要があるのではないでしょうか。たとえば取締役会による監督機能を強化することよりも、監査役による効率性監査を強調して、社外監査役は、社内取締役らが業務執行だけでなく、取締役会における監督機能を発揮しているかどうか、という点もチェックしている(まさに効率性監査)ということで、代表取締役の執行をダブルチェックするほうが当社にとっては望ましい・・・といった言い方がひとつの工夫になるのではないかと。

要は適任者を見つけにくい以上、社外取締役による監督機能の発揮と、これまで十分に機能していなかった社内取締役による監督機能の発揮とでは、どちらが企業価値向上に資するのか・・・という点で熟考した結果であるという姿勢を示すことがベターではないかと思うのですが、いかがなものでしょうかね。これなら後日、社外取締役の適任者が見つかったときにも、これまでの説明と矛盾が生じることにもならないと思うのですが。ただ、こんな感じでリスペクトを公表された監査役さん方は、かなりプレッシャーがかかりそうですね(笑)。

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コメント

「社外取締役を置くことが「相当である」理由」を開示させることこそ
株式会社の統制にとって有益な気がします。

社外取締役制度は、「免罪符」や「印籠」ではないと思います。
(というと、ルターや御老公に怒られそうな気が致しますが)

投稿: snow_angel | 2014年2月21日 (金) 08時39分

「ハコ」よりも「経営監視機能が強化されれば目的は達せられる」ということが重要だとすれば、案外「社外取締役がいないこと」を株主総会で説明して理解を得られるかということをいろいろ会社側が考え答えを出すべきという点では、監査役さんにプレッシャーがかかる場合も含めて、社外取締役さんが選任されない場合でも実効性があるケースも出てくるのかもしれませんね(そうであってほしいという希望も込めて)。

投稿: 会計利樹 | 2014年2月21日 (金) 20時04分

議論があるなかで、為政者、官僚の「意思」「決定事項」として、「罰則こそ作らないけど、とにかく、もう、社外取締役を置きなさい、置くんでっせ!」と婉曲に言っているわけであって、この段階で社外取締役を置かなくてもいいという抜け道を探し出す努力というのは全くもって噴飯物ではありますまいか。逃げ道がまだ残っているようなことを語るのは、一種のミスリードであるようにさえ思います。「政府や証券取引所が何を決めようが、うちは従いません!」と堂々と公言して叛旗を翻すのであれば、それはそれで一種の見識かもしれませんが(笑)。

投稿: 機野 | 2014年2月24日 (月) 10時02分

会社は株主自治が原則(タテマエ)だったと思いますので、「設置しない理由」を株主が承認すれば問題ないということになると思います。ただし、その場合、
①「そんな会社、投資しないよ」と株主を止める(その会社の株価が下がる)ケース
②株主が決議時に反対する(そもそも総会で承認されない、または、反対比率が高くなる)ケース
などなど、会社側に不利のケース(経営側が株主の理解を得られないケース)が出てくると私は思います。磯野様のご指摘の通り、「明確なソフトロー」(ソフトローを明確・不明確と言えるのかの議論は置かせていただきまして…)ですので、方向性としては選任になるのかなと。

ただ、私は選任された人が実効性のある職務執行をすることが最も重要だというのが今回の主旨であると考えています。

投稿: 会計利樹 | 2014年2月24日 (月) 20時14分

「導入反対派は社外取締役を置くことが相当でない理由を説明せよ」というのは悪魔の証明にも見えるが、いかがだろう。

投稿: takazawa | 2014年2月24日 (月) 23時21分

皆様ご意見ありがとうございます。2月の旬刊商事法務は3回連続でこの話題に関する論文掲載がありましたね。塩崎先生の質問に対して谷垣法務大臣が「事実上の義務化といってよい」と回答されていますので、皆様がご指摘のとおり社外取締役を導入しないことについてはかなりしんどい状況にあることは間違いないでしょう。ただ、かなり多くの会社が「置かないことを相当とする理由」のひな型的モデル(?)を待望しているのも事実。また違反したからといってほんとに総会決議取消の理由になるかどうかも解釈上問題が残っています。外国人保有比率が低い会社さんとしては、まだまだのんびりムードといったところが現実なのでしょうね。

投稿: toshi | 2014年2月28日 (金) 01時05分

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