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2014年3月31日 (月)

「不祥事は起きる」を想定した内部統制システムの構築

おかげさまで当ブログもいよいよ10年目に突入することになりました。最近は平均しますと更新は3日に1回程度ですが、これからも楽しい話題を提供していきたいと思っておりますので、どうかご愛顧のほどをよろしくお願いいたします<m(__)m>

さて3月25日の日経朝刊記事に、「企業の経済不祥事、日本では内部者関与が8割」という見出しで、海外では内部者が関与する経済不祥事が全体の5割程度であるのに対して、日本ではなんと8割に及ぶということが報じられていました。海外では外部第三者からの攻撃が多いということの裏腹かとは思いますが、調査をしたPwC(プライスウォーターハウスクーパース)の担当者の方も述べておられるとおり、日本企業では内部関係者関与による犯罪への意識が十分でないことも理由のひとつかと思います。

毎度申し上げているとおり、日本では「不祥事は起きない。起こさないために何をすべきか」という出発点からコンプライアンス体制の構築を行う傾向にありますが、そろそろ「不祥事は起きる。起きたときどうするか」という出発点から体制構築を検討すべきだと思います。内部者への信頼度が高いことは決して悪いことではありませんが、あまりに「不祥事は起きない」と過信してしまいますと、実際に不祥事が発生した際に思考停止に陥り、早期発見が困難になります。先のPwCの調査結果でも、海外企業に比べて日本企業の不祥事被害額が極めて大きいのも、実際に不祥事が発生した場合の対応が遅すぎるところにも起因していると思います。

これまで職務分掌、内部牽制、ダブルチェックなど、内部統制システムの構築は、不祥事予防対策として論じられることが多かったように思います。しかしノバルティスファーマ事件は不正予防型の内部統制では不正の未然防止だけでなく、早期発見すら困難だということを露呈しました。この教訓から、厚労省は研究活動における不正データ取締法の検討に入ったそうです。組織の自立的行動に期待できない状況なのでしょう。そこで対策とされているのは、組織の研究開発に関する届出、記録の保存、利益相反行為に対するガイドライン策定、データ改ざんへの罰則とのこと。

こういった新たな対策は、罰則制定以外は不祥事が発生したことを想定したうえでの内部統制システムの構築です。現場を縛る非効率的な体制整備ではないけども、不正に関与した者はかならず罰せられるということを周知徹底することで、間接的に内部者による不正を予防しようというシステムかと思います。ノバルティス社の件だけでなく、東芝社の技術情報流出事件や丸紅社の海外FCPA案件、さらに横浜銀行のATM個人情報窃取事件などの内部者関与の経済不祥事についても、この「不祥事発生時を想定した内部統制システムの構築」の発想が求められるのではないでしょうか。

「不祥事が起きた時のことを考える」ことは、ほんとに経済不祥事が起きたときの企業の危機対応だけでなく、そもそも経済不祥事を未然に防止することにも役立つものと思います。不祥事対策は、予防と発見のバランスをどう確保するか・・・ということの試行錯誤の上に成り立つものと考えています。

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2014年3月28日 (金)

商事判例-紛争を避けるための知恵を学ぶ

旬刊商事法務の最新号(3月25日号)は、社外取締役ネタの論文、インタビュー記事がたいへん多く読み応え十分ですが、本日は商事判例に関するお話です。その最新号に掲載されている「商事判例便覧3099」に、商人間売買における商法526条(民法上の瑕疵担保責任の特則)の適用および他人物売買における売主側からの錯誤無効の主張(瑕疵担保責任の免責の抗弁)が否定された事例が掲載されています。

中古車売買のガリバー社(原告 買主)が、アプラスさんの関連会社(被告 売主)からオークション向けの中古車(中古価格で700万円相当のBMW)を購入したのですが、実はこの中古車が盗難車でナンバープレートも偽造されていたそうです。ガリバーさんは、その後、オークションルールによる盗難品処理のために多額の損害を発生させてしまいました。そこで、売主との間で民法561条(他人の権利売買における売主の担保責任)を根拠として清算しようとしたところ、売主側から、他人物売買における「権利の瑕疵」についても商法526条の適用がある、受領時にきちんと検査しなかったのだから担保責任を追及できない、たとえ526条の適用がないとしても、売主側としては、売買目的物の他人性について錯誤無効(民法95条)を主張できるから損害賠償債務は発生しない、と反論されたので裁判になってしまいました。

上の旬刊商事法務さんの判例便覧を読みますと、いかにも司法試験に出題されそうな事例であり、権利瑕疵に関する担保責任については、商法526条の特則の適用なし、錯誤無効の主張も、他人物売買に関する民法の規定との関係で許されないと要点が概説されているので、とりあえずは法律家としての法律解釈上の興味を満たす内容となっています。普通の法律家の感覚からすると、判断理由はまぁ妥当な解釈であり、原告であるガリバーさんが勝訴するのも当然のところだと思います。

ただこの判例は、旬刊商事法務を読むと「なるほど・・・」で終わり、ということなのですが、最近の判例時報2207号(2014年2月21日号)にも同判決が掲載されておりまして(50頁)、こちらには東京地裁平成25年6月6日判決として判決全文が掲載されています。そして判決全文を読むと、実は売主会社が裁判で主張していた過失相殺が一部認められていたことがわかります(原告ガリバーさんにも1割の過失が認められるので、請求金額もその分減額される、ということです)。

判例の重要論点だけを眺めていたときは、「なんでこんな紛争がとことんまで裁判になってしまたんだろうか。結論はほぼ読めているから、裁判になる前に決着がついたはずなのに」と思っていました。しかし上記判決文によると、そもそもガリバーさんも、売主側から交付された必要書類を精査しておけば盗難車とわかったのではないか、しかも原告は単なる買主ではなく、中古車取引のプロなんだから・・・という点に、一部過失が認められる根拠があるようです。

おそらくこの点が売主として、素直に清算に入れなかった原因ではないかと思います。「たしかに他人物だったかもしれないけど、オタクは中古車売買の専門家でしょ?自分で調べたらすぐわかったんじゃないの?そこまで言わなくても、せめて『これちょっと怪しいから、そちらで所有権について確認しておいてくれませんか?』くらい言ってくれたらよかったんじゃないの?」といったあたりがどうしてもひっかかってしまったのではないでしょうか。つまり裁判ではガリバーさんが勝訴したけれども、ガリバーさんがもう少しきちんと対応していれば、そもそも裁判にまで至らずに(双方が前向きに)処理が済んでいたのではないかと。

判決文には原告・被告間の契約書の条項内容についても詳細に記載されていましたが、双方にとっては過不足なくリスク管理に関する条項は記載されているようです。ただ、取引の現場におけるちょっとした相手に対する心遣いが足りなかったことが、裁判に発展し、引くに引けない信頼関係の毀損によって和解にも至らなかったということかと(なお、「心遣い」と書きましたが、本件対象となっている車両の使用者は反社会的勢力の疑いが濃かった人だったので、そのあたりも車両の調査について関係者が後ろ向きになってしまった要因かもしれません)。

弁護士は紛争が起きるからこそ報酬が得られるわけですが、そもそも企業にとっては後ろ向きの作業に多大な人的・物的資源を投下しなければならないリーガルリスクは極力回避したいところだと思います。法務部もしっかりして、代理人もしっかりしていても、こういった裁判が起きるわけですが、そもそも裁判が起きないようにするためにはどうすべきなのか、というところがコンプライアンス経営の要諦ではないでしょうか。最近、こういったリーガルリスクに着目して「どうすれば裁判にならないのか?紛争を早期に解決できるのか?」について意識されている法律家の本が何冊が出版されていますので、また追ってご紹介したいと思います。

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2014年3月26日 (水)

トヨタ社のDOJ和解金支払いの合理性と役員の善管注意義務

2009年から2010年にかけて、アメリカで大規模リコールを余儀なくされたトヨタ社の急加速発信問題について、DOJ(米国司法省)との間で刑事訴追に関する司法取引が成立したそうです。12億ドルの和解金支払いと安全性向上のための独立監査の実行、その他の制約条件のもと、検察はトヨタ社に対する刑事訴追を取り下げることに合意したとのこと。

最近のアンチトラスト事件、FCPA(海外腐敗行為防止法違反)事件などを含め、日本企業が高額の和解金支払いによって米国司法省による刑事免責を受けるケースが増えていますが、よくわからないのが「これだけ和解金を支払う合理的な根拠はどこにあるのだろうか。日本で株主代表訴訟を提起された場合に、和解金支払いを決定した取締役会の構成員は善管注意義務違反にならないのだろうか」という点です。民事事件であれば、裁判の帰趨などからみて、和解金の金額の合理性を説明できるように思うのですが、まだ裁判にもなっていない段階で、しかも日本の最高裁も認めていない「司法取引」によって刑事免責を受けるわけです。このトヨタの件でも、検察側は

トヨタは実質的に3年間の保護観察下に置かれる。トヨタは安全性よりも経費削減を、真実よりも自社のブランド名を優先させた

と述べています(ロイター記事より)。もちろんこれは検察側のポジショントークだとは思うのですが、安全性より経費削減、真実よりも自社ブランドといった「トヨタ批判」のような言い方がなされますと、トヨタは何か隠しているのではないか、司法取引に至った過程を代表訴訟で明らかにすべきではないか、と考える人も出てくるのではないでしょうか。

そんなことを考えているところで、冷泉彰彦氏のニューズウィーク日本版コラム「トヨタが1200億円の和解金を支払った理由とは?」を読み、なるほど、こういった理由であれば代表訴訟にも耐えうるかも・・・と思いました。トヨタ車自体の安全性には問題がないと判断していたとしても、北米販売会社の問題を親会社がかぶり、大切な取引先、お客様のブライバシー問題を親会社がかぶり、そしてコンプライアンス違反で揺れるGMを横目に一気に営業上の攻勢をかけるタイミングを図るということで、高度な経営判断による和解金支払いの決定だったということのようです。親会社の業績が非常に好調であることも、こういった司法取引に応じた理由のひとつになるかもしれません。事件終結にあたり、「お客様第一」と社長さんが語ったそうですが、まさにお客様第一の問題解決であり、ブランドというよりも、トヨタネットワークの大切な資産を守ったとみることができそうです。

しかし逆に考えますと、アメリカや欧州における司法取引における制裁金支払いについては、その企業の置かれた立場や、法人役員の刑事訴追の可能性、企業業績、海外の司法手続きの特殊性等からみて、高額の和解金を支払うことに合理性が認められない(つまり最後まで争うことが法的に要求される)ケースも出てくるのではないでしょうか。どうしてそのような金額で司法取引(刑事免責)に至ったのか、ほとんど表には出てこない問題ですが、親会社取締役の善管注意義務を尽くすという意味においては、外部に説明できるような合理的な理由を準備しておく必要性があると思います。本日(3月25日)ブリヂストン社の株主総会においてカルテル事件の司法取引について詳細な質問が出たようですが(産経新聞ニュースはこちら)、このような質問は、今後いろいろな企業の総会でも飛んできそうです。

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2014年3月25日 (火)

証券取引等監視委員会vs日本風力開発-バトル勃発(その3)

審判期日が延期のまま、マニアの方でさえ記憶の彼方に消えていきそうな月日が経過しておりますが、いよいよ明日(3月26日)、金融庁大審判廷において日本風力開発社の課徴金審判の第一回期日が開催されます。SESCの勧告からちょうど1年ですね、これは楽しみな審判です。金融庁への徹底抗戦を宣言し、国賠訴訟を提起した日本風力開発さんの答弁に注目が集まります。ちなみに記憶を喚起したい向きには、ちょうど一年前の当ブログのエントリー(その1 その2)、また証券市場の必殺仕事人(?)伊藤歩さんの検証記事(その1 その2)等をご覧ください。

ちなみに私は自身の本業でのバトルのほうで精いっぱいの状況でして(笑)、風力さんの審判事件にまでなかなか注視できないのですが、大審判廷での開催、整理券配布の予告がなされているので、やはり注目されている方は多いのでしょうね。どなたか審判を傍聴された方からのホットなご報告がなされることを期待しております<m(__)m>。金融庁側の主張立証、風力さん側の答弁内容いずれも注目です。あのビックカメラの役員さんの課徴金審判決定を超えるほどのバトルとなり、多くの事件の先例となるような決定が出されることになればいいですね。

そういえば3月24日付け朝日「法と経済のジャーナル」に、金融庁に出向されていた弁護士の方の「任期付公務員のお仕事」に関する手記が掲載されています。昨年6月、私も金融庁で100名ほどの任期付公務員の弁護士、会計士の皆様を前に講演をさせていただきましたが、ホント、私もあと10年(15年?)若かったらチャレンジしていたと思います(正直、うらやましい・・・)。なんといっても利害関係者の調整を図りつつ、権力を抑制的に行使するクセを体で覚える体験は、在野ではできないことです。本件バトルにつきましても、プロパー職員と任期付公務員の合同チームが、どういった根拠と証拠で審判に臨むのか、とても興味を覚えるところです。

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2014年3月24日 (月)

楽天市場二重価格問題と楽天の不正リスク管理の件

もうすでにいろいろなところで語られている楽天市場二重価格問題ですが、東京新聞ニュース日刊スポーツニュースなどによりますと、楽天市場に出店している店舗に対して、楽天社員が不適切な二重価格表示を指示していたことが報じられています。昨年のプロ野球楽天の日本一セールの際は、出店店舗側が勝手に不当な表示を行っていたとされていましたが、それ以前から楽天さんの社員によって二重価格が店舗側に推奨されていたそうです。ちなみに楽天側は、いまだこの事実は確認されておらず、「調査中」とのこと。上記記事からの推察ですが、今回の件が発覚した原因は、おそらく出店者側からの内部告発(マスコミに対する情報提供)によるものと思われます。

楽天さんは出店者に場所を貸している立場ですから、景表法違反という法令違反にはあたりませんので、この二重価格表示が景表法上の有利誤認に該当するかどうかは、あくまでも店舗側の問題です。詐欺罪という刑事法に該当するのであれば犯罪を教唆したことになりますが、ミートホープ事件における同社代表者が詐欺罪に問われたケース(有罪が確定)と比較しても、ちょっと詐欺罪の要件である「欺罔行為」が本件に認められる可能性は低いように思います。なので、楽天さんの広報が述べておられるように重大な内規違反があったかどうか、という点で社内調査が行われているものと思われます。

ただ、店舗側の売り上げが伸びれば楽天さんの手数料も増える関係にあるわけですから、日刊スポーツの記事にあるように「みんなやっているから」という理由で店舗側に違法行為を推奨するというのは(とうてい消費者の立場で事業を遂行しているとは言えず)重大なコンプライアンス問題です。このような記事が出た以上、楽天側としては、出店者側の言い分は間違っている(社員が不適切な表示を勧めた事実はない)、もしくは仮に社員側でそのような推奨事実があったとしても、これは社員独自の判断であって組織ぐるみの行動ではない、といった説明が求められます。この説明が十分な確証をもってできるかどうかが楽天さんの信用維持を目的とした有事の危機対応の核心部分になるはずです。

ところで、私は今回初めて知ったのですが、楽天さんの場合、楽天市場の出店者への指導を行うコンサルタント制度というのがある、ということです(「ECコンサルタント」というのですね。ちなみに元ECコンサルタントさんのブログというのも参考になります)。私はここにとても関心を抱きます。そもそもネットショッピングの二重価格表示というのは、出店者側としてはかなり誘惑的な販売方法です。楽天側に、このようにコンサルタントがいらっしゃるのであれば、常に「二重価格表示は違法なのかどうか」と店舗側から問い合わせを受けることが想定されます。不適切な二重価格表示など、昔から行っていた業者さんは結構多いと思いますし、誰でも「やれるものならやりたい」と考えるはずです。また、楽天側としても、二重価格表示によって出店者側の売り上げが伸びれば自社の収益向上にもつながります。したがって、楽天さんの店舗コンサルタント社員としては、違法行為の誘惑に負けないために、常にこのような質問に対する回答を用意しておくこと、誘惑的な回答に走らなかったことを示す証拠を残しておくことが普通に考えられるリスク管理です。

楽天さんとしては、こういった「言った」「言わない」の問題をはたして想定していたのでしょうか。想定していたとすれば、楽天さんの信用毀損を防ぐために、店舗側にどのような回答をされていたのでしょうか、また、(仮に適切な回答をしていたということであれば)それを書面やネット上のチェックシステムでどのように残していたのでしょうか。もしきちんと残していたとすれば、社員がどのように店舗側に対応していたのか、社内調査でも明らかになりますし、社員と店舗のどちらの言い分が正しいのか証拠をもって説明できるだけでなく、社内ぐるみの不正ではないことも明らかになります。楽天市場への出店店舗数が4万件ということで、ひとつずつ対応できるものではありませんが、せめて店舗側から相談を受けた場合だけでも、対応の記録を残していれば、十分なリスク管理が可能だったのではないでしょうか。

内部通報者の氏名を上司に公表したことについて、通報者の事前の承諾があったのか、なかったのか、その事実認定で敗訴が決定したのがオリンパス配転命令等無効確認事件の東京高裁判決(最高裁で確定)でした。会社側として、通常想定しうる通報者とのトラブルへの対応がなされていなかったことが致命的でした。今回の楽天さんの問題も、社内調査の際、単に社員が否定しているから「二重価格推奨についての社員の関与は確認できなかった」では誰も楽天さんの言い分を信用しないと考えます。やはり店舗コンサルタントという職種が楽天さんに存在する以上、当該社員には二重価格表示に関する質問がされることは十分に想定されるのですから、後日の出店者とのトラブルを回避するために、どの程度のリスク回避の手段がとられていたのか、そこが今後の報告の中で語られてほしいところです。

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2014年3月19日 (水)

上場子会社の独立社外取締役に就任しての感想

本日、株式会社ニッセンホールディングスの第44回定時株主総会におきまして、取締役に選任されました(2期目)。役員の体制は社内取締役6名、社外取締役5名(うち、独立役員届出は3名)です。なお、総会ではなく会社説明会のほうでしたが、「女性の活用状況」に関する質問が出たのはダイバーシティの認知度が高まったことからでしょうね。

ご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、今年1月、ニッセンはセブン&アイホールディングスグループの子会社(50.7%)となり、このたびの総会では、セブングループからは副社長(社内)と社外取締役2名が選任されました。セブングループ出身の社外取締役のお二人は、日本のネット流通(オムニチャネル戦略構想)のカギを握る有名な方々なので、これからも良い刺激を受けたいと思います。

ただ(これは一般論として、ですが)、親会社が存在する上場子会社の独立社外取締役というのは、かなり難しい立ち位置ですよね。49.3%の一般株主の利益の代弁者という地位を忘れず、かといって今後は大株主の経営を自社に活かしながら、株主総体としての利益向上を考えなければならないということになります。

もちろん業績が良ければ親会社の経営方針との軋轢は少ないものと思います(親会社と潜在的な利益相反にある一般株主の利益を不当に親会社が吸収するような行動について意見を述べることは当然ですが)。しかし業績が芳しくない場合には、微妙に社外取締役の立場と親会社の経営判断との間に意見の食い違いが生じる可能性が高くなります。東証のコーポレートガバナンス報告書で開示しなければならない「支配株主との取引に関する少数株主保護の指針の履行状況」ではちょっとわからないような、微妙な問題も含まれることになるのでしょう。理屈の上では、いつも仲良くさせてもらっている会社の顧問弁護士の方に相談できない状況・・・ということもあるのかもしれませんね。

会社法改正論議の中で、社外取締役の役割、機能というものが話題になっていますが、現実の世界では各社それぞれに社外取締役の役割、機能は異なるものだと確信しています。親会社を含め、会社側が求めるものを理解しつつも、社内で実務を積んで、社外取締役としての立ち位置を考えること、この制度を「お飾り」や「投資家へのアリバイ」にしないためには、どちらの立場からも「社外取締役の活かし方」を真剣に考えることが求められていると思います。

自社の状況について、ここで具体的に書くことはできませんが、ここ2,3カ月、長年築き上げられた企業文化の中に、他の企業文化が導入されることの驚きを目の当たりにしています。「外の風」がどのように社内の暗黙知に風穴を開けるのか、これをきちんと洞察することこそ、今の自分に課せられた社外取締役としての役割だと認識するところです。

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2014年3月17日 (月)

誠実な(まじめな)企業に向けられた消費者行政の本気度

すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、先週3月11日、消費者庁は景品表示法等の一部を改正する等の法律案を今国会に提出しています。3月14日には、同法案提出についての森担当大臣の所見が同庁HPにアップされています。以下、企業コンプライアンスとの関連でのみひとことだけ感想を述べておきます。

まずなんといっても、昨年12月26日の当ブログエントリーでも予想しておりましたとおり、景表法の改正では、第7条、第8条が大幅に改訂され、企業の内部統制に光があてられております。事業者には(商品やサービスの)表示等に係る適切な管理体制を整備することが義務つけられ、この体制整備に不備があれば助言・指導が行われ、それでも不備があれば「公表」というペナルティが課せられます。内部統制に問題があり、その結果として消費者に迷惑をかけたかどうかに関わらず、内部統制に不備があればペナルティを課されるとのこと。実際に迷惑をかけた場合には、「やり得は許さない」として課徴金処分が検討されるところですが、これはあと1年かけて検討し、必要な措置を講じる、とされています。

ここで重要なことは、景表法改正法案の中に、企業の自律的行動への期待が盛り込まれたことと同時に、消費者安全法の一部改正に関する法案も同時に提出されていることです。おじいちゃん、おばあちゃんに迷惑をかける不誠実な企業(フトドキ者企業)については情報管理を強化して(情報収集体制を強化して)、被害が現実化する前に徹底した事前規制を促進する、というもの。

つまり誠実な企業の不正については徹底した事後規制で、不誠実な企業の不正については徹底した事前規制で臨むという体制です。ちなみに景表法に基づく排除措置命令の発動権限を都道府県に付与し、また農水Gメンや証券取引等監視委員会も消費者のために動ける体制となるために、事後規制も徹底しています。まさに「消費者庁をなめるな!」体制の実現かと。

いくら調査活動が強化されたとしても、一般事業会社の商品・サービスの表示の適正性を調査機関が常に巡回して監視する、ということは不可能です。したがいまして、誠実な(まじめな)企業への規制においても(ピンポイントで対象企業を絞り込むための)消費者からの情報提供や消費者どうしの情報交換(SNSや風聞、噂)が活用されます。正確な情報であればあるほど、行政規制の実効性は高まりますので、消費者サイドにおいても商品やサービスを見分ける知見を高めておく必要があります。

森担当大臣の所見によると、今後は合理的な意思決定ができる消費者、市民社会の形成に寄与できる消費者の育成をめざす、とのこと。消費者教育等、消費者の自己責任の徹底を図ると同時に、誠実な企業と不誠実な企業を見分ける知見の向上についても施策が講じられることになりそうです。そうなりますと、誠実な企業の中で、不誠実な企業の仲間入りを果たすかどうかは、レピュテーションリスクを抱えるかどうか、つまり日頃からのコンプライアンス経営の徹底が問題となります。

まさに誠実な企業においては内部統制を整備し、これを運用できる実力が企業に問われるものであり、アベノミクスの成長戦略において、このような企業規制の手法は、金融庁や厚労省等の施策においても採用が目立ってきているのではないでしょうか。誠実な企業から不誠実な企業へと転落しないよう、社会の風を敏感に読みとる努力が必要だと思います。

「どうせ重大な不正に限っての対応でしょ?うちのようにリスク管理に金をかけている会社には関係ないでしょ」というお声が聞こえてきそうですが、安心はできないですよ。「おもてなし」が「偽装」へ、「視聴者への演出」が「やらせ番組」へ、そして適切な会計処理が「粉飾」へと変貌を遂げるのは、どれも競争社会における誠実な企業活動のなせるわざです。このたびの法改正が、名門企業の不祥事に端を発したものであることを肝に銘じておくべきです。知らず知らずのうちに、「気がついたら不祥事企業」になってしまうリスクこそ、経営トップが理解しておかねばならないものと考えています。

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2014年3月12日 (水)

監査役・会計監査人からみた会社法改正法案への懸念など

中央経済社「企業会計」4月号の特集として、「改正・会社法案への視座」と題する座談会が組まれておりまして、かなり長いのですが、とても刺激を受けました。平成17年改正会社法の作成時に法務省に在籍されておられた弁護士、会計士の方々、経団連の(おなじみ)A経済基盤本部長さん、今回の会社法改正に伴う経団連ひな型を作成する実務家の方々、そして著名企業の常勤監査役さんという、とてもユニークな顔ぶれです。

とくに監査役の会計監査人選任権に関連する話題、第三者割当増資の新規制と企業会計上の論点などは、あまりこれまで深堀りされていなかったところなので、「視座」というタイトルにふさわしく、とても新鮮です。今回は改正の対象ではありませんが、会計監査人の報酬決定権に関連する論点を含め、非常に勉強になりました。

コーポレートガバナンスに関連する会社法改正の論点については、やや残念なのが、この座談会が1月21日に収録された点です。その一週間後にキヤノンさんが、そして先日は新日鉄住金さんが社外取締役の選任予定であることを明らかにされました。「キヤノンさんが」「新日鉄さんが」という箇所は、もはや説得力がなくなってしまったところかと。しかし、そういった残念なところは全体のほんの一部でして、なかなか読みごたえ十分です。

監査等委員会設置会社への評価としては、最近は移行推奨派の方が多いようですが、やはり監査役、会計監査人の立場からは「ガバナンスがしっかりしていない会社が監査等委員会設置会社に移行することには懸念が残る」という立場です。常勤監査等委員が必須ではないことと相まって、私も監査等委員会設置会社への移行というのは、監査等委員に就任する社外取締役さんはかなり勇気が必要だなぁと感じておりますので、ほぼ監査役さん、会計監査人の方と同じ意見です。経営執行部からみても、常勤監査役に向いている方と、(たとえ監査等委員だとしても)取締役に向いている方とは少し違うように思うところから、人事面でもいろいろな配慮が必要になってくるのではないでしょうか。

座談会のハイライトをここでご紹介しますと、中央経済社の編集者の皆様に叱られそうなので、語られている論点やどなたかの発言を少しだけ書き留めておきますと・・・・・

「社外取締役を置くことが相当でない理由」の事業報告への記載に関する「経団連ひな型」を作成する立場の方々は、与党(自民党)審査という土壇場で入ってきた法案327条の2を前にしてどのようなお気持ちなのか?

取締役選任議案のない定時株主総会ですら、総会で「相当でない理由」の説明義務を負う会社側は、どのように「さらっと」説明することが考えられるのか?(「ムダ金を使いたくないから」というのは相当な理由にあたるか?笑)

会計不正事件と監査役の監査人選任権、報酬決定権(今回は改正対象ではありませんが)はどのように関係してくるのか?(監査役と会計監査人との連携問題、オピニオンショッピング、不正リスク対応監査基準などが関係してきます)

などなど。上記のハイライトには掲載しておりませんが、さすがハイレベルな会計専門誌とあって、監査等委員会設置会社における監査等委員に関する解説は、図表などを用いてたいへんわかりやすいものになっていまして、こちらもご一読をお勧めいたします。いずれにしましても、この5月に予定どおり会社法改正法案が成立した場合には、来年4月からの施行が見込まれます。ということは、3月決算の上場会社の場合には、今年6月の総会で社外取締役を一人以上導入しなければ、来年の総会で「相当でない理由」を説明しなければならないわけでして、各会社とも、これからたいへんな総会シーズンを迎えることになりそうです。

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2014年3月10日 (月)

公益通報者保護法制は「漢方薬」である(松本先生の名言)

内閣府の調査によると、偽装表示や悪徳商法への対応など、消費者行政に不満を持つ国民は6割に上るとのこと(3月8日の日経新聞記事より)。とりわけ消費者に関心が高い規制項目は「食品の安全性」や「商品・サービスの偽装表示」だそうです。課徴金制度の導入など、消費者庁において景表法改正への取り組みが急ピッチで進んでいるのも、こういった消費者行政への不満に応えるための当局による姿勢の表れかと思います。

以前、当ブログでもお知らせしておりましたが、先週金曜日(3月7日)、福岡市で開催されました消費者庁主催シンポ「お客様と社員の声が企業を救う」に登壇させていただきました。九州まで遠征した甲斐がありまして、シンポでご一緒させていただいた独立行政法人国民生活センター理事長の松本恒雄先生(元一橋大学大学院法学研究科教授)の基調講演を拝聴する機会に恵まれました。消費者政策の歴史と手法から始まり、CSRとコンプライアンス、消費者相談問題、公益通報者保護制度(社員の声)まで、松本先生の消費者政策や企業コンプライアンスに関する意見、思想の一端に触れることができ、たいへん勉強になりました。

1960年代(行政規制によるハードローの時代)→1990年代(裁判所等での権利行使を通じた民事ルールの時代)→2000年代(市場を利用した消費者保護、ソフトローの時代)、規制緩和と標準化(仕様規格から性能規格へ→プリンシプルベースが規制の主流となる中で、企業は自分の頭でルールへの適合性を考えなければならない)、そして「気がついたら企業はステークホルダーから監視される時代になっていた」とのお話は、私がふだん漠然と考えてきたことが間違っていなかったことを確認するきっかけになりました。

なかでも法制度の「生みの親」でいらっしゃる松本先生の公益通報者保護法に関する解説は、なかなか他では聞くことのできない内容でした。以下、松本先生が解説されたなかで、とても印象的だった点のみご紹介したいと思います。ご紹介にあたり正確を期しているつもりですが、もし間違っているところがございましたら、これは当職の責任です。

1 偽装表示問題の頻発と中国ギョーザ事件の発覚が契機となり、当時の福田康夫首相の音頭で消費者庁が作られた。公益通報者保護法は、けっして内部告発を奨励するものではないが、国が「内部告発は決して悪いことではない」と宣言したことに、もっとも大きな意味があった。

2 公益通報者保護法は即効性が期待されるような「抗生物質」ではなく、企業社会の改革のためにジワジワと効いてくる「漢方薬」のようなものである。ソフトロー時代に活用される政策であるから、誠実な企業には効果があるが、そもそも不誠実な企業には効果は限定的である(不誠実な企業への消費者政策のためには別の規制が必要である)。

3 公益通報者保護法は通報先ごとに保護要件が異なり、とくに外部通報の場合には加重要件が存在するが、これは逆にみると、「社員が外部通報しても保護されないほどに企業自身が内部通報制度を作る」ことへのインセンティブとなりうる。加重要件は、このような企業の自浄能力発揮を目的に作ったものである。

4 通報イメージと告発イメージは異なる。通報イメージは内部への不正事実の申告を、そして告発イメージは、不正事実の外部への申告を念頭に置いたものである。

経産省や厚労省、金融庁あたりの規制手法とも重なるところだとは思いますが、消費者行政においても(誠実な企業に対する)企業の自立的行動を促すための施策と、(不届き者企業に対する)罰金、課徴金、民事における損害賠償制度の拡充等、不当な企業利益を吐き出させる施策とのバランスをどうとっていくのか・・・・・、このあたりが今後の行政によるコンプライアンス施策の要点ではないかと感じました(松本先生、どうもありがとうございました!<m(__)m>)。

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2014年3月 7日 (金)

「気がつけば我が社も粉飾企業」と後悔しないための経営者の知恵

上記タイトルで、東京証券取引所主催セミナー「会計不正のリスクとガバナンス」の講師を務めさせていただき、2月の渋谷公会堂、3月4日の大阪銀行協会ホールと、無事終了しました。今回は上場会社の役員向けということで、関東と近畿延べ1400名ほどの役員さんやIRご担当者の皆様方に向けてお話させていただきました。地元大阪も400名近い方がお越しになり、やはり東証主催セミナーの認知度の高さを痛感しました。前の方から後ろの方までよく存じ上げている方がお見えになっていたので、とてもありがたいと感じました。

後悔すべきは、最近は拙ブログをお読みの方々に向けた講演が多かったので、「二次不祥事」などという言葉は聴講されている方に説明するまでもない・・・という「驕り」が私にあったことです。聴講された方々の感想として「二次不祥事というのがよくわからなかった、もっと具体的な例をあげて説明してほしかった」とのお声もチラホラでして、私のブログもご存じない方が多い中で若干反省をしております(大阪では若干修正できましたが)。

ただ、実務担当者向けの解説では「どうすれば粉飾を防止できるか」ということを述べるのに対して、経営者向けには「どうすれば粉飾企業にならないか」と問いかける意味はご理解いただけたのではないかと思っています。お伝えしたかったメッセージは「知識」ではなく事業経営に忙しい経営者に向けた「知恵」なのです。

今朝の朝日新聞記事でも、博報堂さんの製作映画に「やらせ」があったこと、監督さんがこれを認めたことが掲載されていましたが、たしかに冷静な第三者の目から見れば明らかに「やらせ」です。でも被災者の姿を描くことに懸命だった(熱くなっていた)監督さんの立場からすれば「この程度は演出だ」と本気で考えていたことも可能性としてはあります。真剣勝負に没頭している本人の思考回路としては十分にありうるところであり、だからこそ社外役員や監査役さんらの「第二思考回路」が不可欠だと思います。人の会社のケースでは粉飾がみえても、いざ自分の会社では見えてこない・・・それはなぜか?ということを私自身も考えていきたいと思っています。

なお、第三者委員会報告書から参考事例を紹介させていただきましたが、第三者委員会報告書の読み方というのは、やはり実際に報告書を書く立場になってみないとわからないことがたくさんあります(これは講演後にもうひとりの講演者である宇澤会計士さんとお話しているときに、宇澤先生もおっしゃっていました)。報告書を書く立場から、また委員会解散後のコンプライアンス委員に選任された立場から、会計不正事件や企業のガバナンスを眺めてみると、またマスコミ報道とは異なる真実がみえてきます。どんな企業が「粉飾企業」の仲間入りを果たしてしまうのか・・・グループ会社経営の諸課題を含めて、そういったことをまた何かの機会にまとめてお話できればと考えています。

とくに私自身、内部告発事案などに関わる機会が増えてきますと、「粉飾とすれすれのグレーゾーンでもがき苦しむ大企業」の担当者・担当役員の姿に、制度会計と向き合う経営者の思想が垣間見えてきます。その企業における監査役や監査法人の立ち位置も見えてきます(ホント、これは千差万別です!)まさに宇澤先生が講演でお話されていたように「粉飾はアート」だと思えてきますね。

ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました<m(__)m>。また、即興で(当日発生した)大証システム停止の事件を題材とした質問を会場に投げかけて、関西人らしい「つかみ」をやってしまったにもかかわらず、笑って流していただいた「太っ腹」の東証の皆様にも感謝申し上げます(もうお声がかからないかもしれませんが・・・・笑)。

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2014年3月 5日 (水)

入社受験料制度の継続を巡る「ドワンゴ社の乱」

ひさしぶりの「闘うコンプライアンス」シリーズです。動画投稿サイトを運営するドワンゴ社が2015年春採用の入社試験の応募者から受験料を徴収する制度を導入したことについて、厚生労働省は「学生の就職活動が制約を受ける恐れがある」などとして、16年春採用から取りやめるよう求めているそうです(概要を伝える中日新聞ニュースはこちら)。これに対してドワンゴ社は、「現段階では自主的に入社受験料制度を中止するつもりはなく、来年度も継続したいと考えています。」と、厚労省の助言については当面従わないことをリリースしています(ドワンゴ社のリリースはこちら)。

厚労省の要請は職業安定法48条の2に基づく(つまり法律に根拠を置く行政指導としての)口頭での助言ということのようです。職安法が(職業紹介、職業訓練だけではなく)労働者募集を規制する趣旨は「労働力需給取引の公正の確保」にあります。ニュース等では、労働者募集時における勧誘者の報酬受領の禁止(職安法39条)が問題とされているようですが、労働力取引(受給)の公正性が害するおそれのある場合に、企業の(労働者募集に関する)業務の適正を確保するために行われる行政指導なので、39条の「報酬」にあたるかどうか、ということよりも、このような入社受験料の徴収制度が労働力取引の公正を害するかどうか、という実質が問題となるのではないかと。

職安法2条は労働者の職業選択の自由を、また同3条は労働者募集(勧誘)にあたり差別的取扱い禁止を規定していますので、このような規定の趣旨に反するような業務をドワンゴ社がしないように(業務の適正を確保するための)指導・助言をします、というのが厚労省の考え方かと思います。なお、39条違反(報酬受領の禁止)の企業行動については、同法65条、67条で行為者、法人とも刑事罰の対象となっているので、憲法31条により「報酬」については明確が定義が求められるはずです(ちなみに「労働者募集取扱要綱」が、「報酬」の解釈基準を示していますが、ドワンゴ社の場合、受験料を「2525円」とした根拠、受験者の居住地域によって受験料をとらない扱いをしていることから、単純に「採用試験の手数料」には該当しないと思います)。

こういった職安法の解釈からしますと、ドワンゴ社が「今後は(入社受験料制度を廃止することなく)、平成25年度の結果をみながら厚労省とは意見交換を行ってまいります」とする見解は、職安法の制度趣旨との関係ではそれほど間違った対応ではないように思います。ただ、入社受験料を徴収した行為の私法上の有効性は別なので、2525円の受験料を支払った方との受験契約は、公序良俗違反(民法90条)により無効ではないかとの見解も聞かれそうです。職安法の制度趣旨は法規に基づく行政指導と業務改善命令、そして刑事罰によって担保されるのか(純粋な取締規定)、それとも前記職安法2条、3条により、私法上の効力にも影響を及ぼすものなのか。ドワンゴ社の入社受験料制度の私法的効力を維持することが、社会の「労働力取引の公正」を害することを助長するものであるならば、その効果を裁判所はどう考えるのか・・・、といったあたりが(憲法の私人間効力の理屈なども含めて)法律上も問題となりそうな気がします。

「闘う」という言葉の意味は本件では正確ではないかもしれませんが、企業コンプライアンスの視点からは今後のドワンゴ社のステークホルダーへの対応がとても興味深いところです。

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2014年3月 3日 (月)

裁判官の「クロ心証」を「灰色認定」で解決する極意

当ブログでも以前から注目していた裁判ですが、2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ました。大阪高裁は元社長ら取締役4人に計約1900万円の支払いを命じました。一審の大阪地裁は、原告側の請求を棄却していたので、原告側は逆転勝訴です(関連の記事はこちら。ただし、監査役と監査法人に対する請求は控訴棄却)。

上記記事によりますと、社長の不作為の任務懈怠(法令遵守体制の整備義務違反)について、他の取締役(実質的な名目的取締役とのこと)には「社長の違法行為に対する」監視義務違反があった、という法的構成のようです。監視義務の対象となるのは、普通は他の取締役の作為による不正行為ですが、社長の不作為が不正行為であることは、他の取締役にとっても明らかだった・・・ということなのでしょう。判決文を読んでいませんのであくまでも推測ですが、高裁の裁判官は元社長の故意(違法行為であることを認識しながら、違法な勧誘を社員らにさせていた)の心証を得ていたが、元社長さんが否認しているので、故意にも匹敵すべき「重過失」をもって損害賠償責任の根拠としたのではないでしょうか。

1月30日に最高裁判決の出た福岡魚市場事件株主代表訴訟(親会社役員の会社に対する損害賠償責任が認められた事例)においても、損害賠償請求権の否定理由については上告受理の時点で排除されています(民訴法318条3項)。つまり原審(控訴審)の判断理由が最高裁でも支持されたわけですが、原審(福岡高裁)が判断している内容などを精査してみると、どうも高裁の裁判官は「親会社である福岡魚市場の役員は、そもそも子会社不正を認識しつつ親会社のために活用していたのではないか、もしくは不正を知っていながら親会社の利益のために隠していたのではないか」との心証を得ていたように(判決文の書きぶりから)思われます(これはあくまでも私個人の推測ですが)。

企業経営者の善管注意義務違反や重過失を根拠付ける注意義務違反のレベル感がよく判例研究などで検討されますが、経営者の子会社管理のレベルや経営判断原則の適用範囲など、判例の射程距離を誤ると企業実務に良くない影響を与えてしまうおそれがあるように思います。私自身、経営者の内部統制構築義務違反の裁判例にはとても関心がありますが、貴乃花親方名誉毀損(講談社)事件で講談社社長が敗訴した事例、日本システム技術不正経理事件で同社社長が敗訴した一審、控訴審の事例などについて、会社法解釈のほうにばかり目がいってしまい、当初はずいぶんと判例を一般化して一般事業会社の取締役の行為規範と結び付けてしまいました(反省しております・・・)。しかし裁判官の心証形成過程などにも十分に配慮しなければ、その裁判例がどういった事例について妥当するのか、その射程距離を誤ってしまうことになります。

企業コンプライアンスの視点から最近の企業裁判を眺めますと、「これって経営者が関与しているか、組織ぐるみと言わざるを得ないよなぁ」と感じる事件について、経営者が関与を否認している場合の民事責任はどうなるのか・・・とても興味を覚えます。不正調査を本業とする身として、どこまでの証拠をそろえれば(役員や従業員が否認しても)民事・刑事事件において不正事実を立証できるか・・・ということを意識せざるをえません。とくに民事事件を担当する裁判官の場合には、「どう考えても経営者は悪意がありそうだが、証拠上明らかとはいえないので、本人は悪意だったとも言えそうな事情を重過失や過失の根拠事実の中に含ませよう」としているように思えます。

昨年11月、こちらのエントリーにてご紹介しましたが、NPB統一球問題に関する第三者委員会報告書なども、この「故意に匹敵する重過失」を研究するうえでとても有益な事実認定がなされています。もちろん「疑わしきは被告人の利益に」が妥当する刑事の世界では通用しませんが、民事賠償の世界では、こういった「疑わしきは取締役の不利益に」という理屈も成り立つことが多いのではないかと思います。

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