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2014年3月26日 (水)

トヨタ社のDOJ和解金支払いの合理性と役員の善管注意義務

2009年から2010年にかけて、アメリカで大規模リコールを余儀なくされたトヨタ社の急加速発信問題について、DOJ(米国司法省)との間で刑事訴追に関する司法取引が成立したそうです。12億ドルの和解金支払いと安全性向上のための独立監査の実行、その他の制約条件のもと、検察はトヨタ社に対する刑事訴追を取り下げることに合意したとのこと。

最近のアンチトラスト事件、FCPA(海外腐敗行為防止法違反)事件などを含め、日本企業が高額の和解金支払いによって米国司法省による刑事免責を受けるケースが増えていますが、よくわからないのが「これだけ和解金を支払う合理的な根拠はどこにあるのだろうか。日本で株主代表訴訟を提起された場合に、和解金支払いを決定した取締役会の構成員は善管注意義務違反にならないのだろうか」という点です。民事事件であれば、裁判の帰趨などからみて、和解金の金額の合理性を説明できるように思うのですが、まだ裁判にもなっていない段階で、しかも日本の最高裁も認めていない「司法取引」によって刑事免責を受けるわけです。このトヨタの件でも、検察側は

トヨタは実質的に3年間の保護観察下に置かれる。トヨタは安全性よりも経費削減を、真実よりも自社のブランド名を優先させた

と述べています(ロイター記事より)。もちろんこれは検察側のポジショントークだとは思うのですが、安全性より経費削減、真実よりも自社ブランドといった「トヨタ批判」のような言い方がなされますと、トヨタは何か隠しているのではないか、司法取引に至った過程を代表訴訟で明らかにすべきではないか、と考える人も出てくるのではないでしょうか。

そんなことを考えているところで、冷泉彰彦氏のニューズウィーク日本版コラム「トヨタが1200億円の和解金を支払った理由とは?」を読み、なるほど、こういった理由であれば代表訴訟にも耐えうるかも・・・と思いました。トヨタ車自体の安全性には問題がないと判断していたとしても、北米販売会社の問題を親会社がかぶり、大切な取引先、お客様のブライバシー問題を親会社がかぶり、そしてコンプライアンス違反で揺れるGMを横目に一気に営業上の攻勢をかけるタイミングを図るということで、高度な経営判断による和解金支払いの決定だったということのようです。親会社の業績が非常に好調であることも、こういった司法取引に応じた理由のひとつになるかもしれません。事件終結にあたり、「お客様第一」と社長さんが語ったそうですが、まさにお客様第一の問題解決であり、ブランドというよりも、トヨタネットワークの大切な資産を守ったとみることができそうです。

しかし逆に考えますと、アメリカや欧州における司法取引における制裁金支払いについては、その企業の置かれた立場や、法人役員の刑事訴追の可能性、企業業績、海外の司法手続きの特殊性等からみて、高額の和解金を支払うことに合理性が認められない(つまり最後まで争うことが法的に要求される)ケースも出てくるのではないでしょうか。どうしてそのような金額で司法取引(刑事免責)に至ったのか、ほとんど表には出てこない問題ですが、親会社取締役の善管注意義務を尽くすという意味においては、外部に説明できるような合理的な理由を準備しておく必要性があると思います。本日(3月25日)ブリヂストン社の株主総会においてカルテル事件の司法取引について詳細な質問が出たようですが(産経新聞ニュースはこちら)、このような質問は、今後いろいろな企業の総会でも飛んできそうです。

3月 26, 2014 商事系 |

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コメント

本当にトヨタが司法取引に応じた理由は分かりませんが、例えばDOJと本気で訴訟で白黒はっきりさせる場合、アメリカのディスカバリー手続に対応せざるを得ませんが、この費用やリスクは相当なものなのではないでしょうか。費用的にも相当な範囲のディスカバリー義務が生じますし、その意味でもしかしたら会社が関与しえないところで、制裁を下されるようなデータ損失が起きているかもしれません。

また、DOJから訴訟を提起されて訴訟に挑む場合、ディスカバリーにおける電子データを含めた書証提出義務が生じる中で、ハッシュ値を保ったままのメタデータ保全をしたうえでの情報開示が要求されたり、弁護士依頼者秘匿特権ではカバーされない会社の重要情報が米国の弁護士その他ディスカバリーベンダー、その下請企業、はたまたアメリカの行政や司法に開示さざるを得ないリスクなどが生じえると思います。またこれらも鑑みると、訴訟に関わって弁護士に支払う費用も、このくらいの規模の訴訟ですと10億円程度は済まされず、そういった様々なリスクを踏まえてご判断したのではないか、という気もいたします。

ジェイテクトがEUのカルテル制裁におけるリニエンシーにいち早く協力できているのも、そういった意味で、平時において社内でフォレンジックツールを利用したカルテル調査をしていたのではないか、とも想像できなくもなく、善管注意義務違反に対する取締役の義務も、グローバル化に伴い、アカウンタビリティさえつけば、様々な対処方法がでてきている時代に突入している気も素人ながら致しております。

投稿: Ceongsu | 2014年3月26日 (水) 22時40分

コメントどうもありがとうございました。ほかに数名の方からメールでご意見も頂戴しましたが、訴訟を継続する際の費用問題というのは大きいようです。しかしDOJから目をつけられること自体が大きなリスクですね。よく申し上げるとおり、裁判で勝てるかどうかということよりも、裁判の俎上に乗せられないためにどうするか、というところを真剣に考えないといけませんね。火のない所に煙は立たぬ、ということでしょうから。ディスカバリの実務については、いつも海外案件を手掛けている弁護士の方と、今度一緒に本を書きますので、そのときにでも私も少し勉強しようかと思っています。

投稿: toshi | 2014年4月 1日 (火) 01時15分

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