公益通報者保護法制は「漢方薬」である(松本先生の名言)
内閣府の調査によると、偽装表示や悪徳商法への対応など、消費者行政に不満を持つ国民は6割に上るとのこと(3月8日の日経新聞記事より)。とりわけ消費者に関心が高い規制項目は「食品の安全性」や「商品・サービスの偽装表示」だそうです。課徴金制度の導入など、消費者庁において景表法改正への取り組みが急ピッチで進んでいるのも、こういった消費者行政への不満に応えるための当局による姿勢の表れかと思います。
以前、当ブログでもお知らせしておりましたが、先週金曜日(3月7日)、福岡市で開催されました消費者庁主催シンポ「お客様と社員の声が企業を救う」に登壇させていただきました。九州まで遠征した甲斐がありまして、シンポでご一緒させていただいた独立行政法人国民生活センター理事長の松本恒雄先生(元一橋大学大学院法学研究科教授)の基調講演を拝聴する機会に恵まれました。消費者政策の歴史と手法から始まり、CSRとコンプライアンス、消費者相談問題、公益通報者保護制度(社員の声)まで、松本先生の消費者政策や企業コンプライアンスに関する意見、思想の一端に触れることができ、たいへん勉強になりました。
1960年代(行政規制によるハードローの時代)→1990年代(裁判所等での権利行使を通じた民事ルールの時代)→2000年代(市場を利用した消費者保護、ソフトローの時代)、規制緩和と標準化(仕様規格から性能規格へ→プリンシプルベースが規制の主流となる中で、企業は自分の頭でルールへの適合性を考えなければならない)、そして「気がついたら企業はステークホルダーから監視される時代になっていた」とのお話は、私がふだん漠然と考えてきたことが間違っていなかったことを確認するきっかけになりました。
なかでも法制度の「生みの親」でいらっしゃる松本先生の公益通報者保護法に関する解説は、なかなか他では聞くことのできない内容でした。以下、松本先生が解説されたなかで、とても印象的だった点のみご紹介したいと思います。ご紹介にあたり正確を期しているつもりですが、もし間違っているところがございましたら、これは当職の責任です。
1 偽装表示問題の頻発と中国ギョーザ事件の発覚が契機となり、当時の福田康夫首相の音頭で消費者庁が作られた。公益通報者保護法は、けっして内部告発を奨励するものではないが、国が「内部告発は決して悪いことではない」と宣言したことに、もっとも大きな意味があった。
2 公益通報者保護法は即効性が期待されるような「抗生物質」ではなく、企業社会の改革のためにジワジワと効いてくる「漢方薬」のようなものである。ソフトロー時代に活用される政策であるから、誠実な企業には効果があるが、そもそも不誠実な企業には効果は限定的である(不誠実な企業への消費者政策のためには別の規制が必要である)。
3 公益通報者保護法は通報先ごとに保護要件が異なり、とくに外部通報の場合には加重要件が存在するが、これは逆にみると、「社員が外部通報しても保護されないほどに企業自身が内部通報制度を作る」ことへのインセンティブとなりうる。加重要件は、このような企業の自浄能力発揮を目的に作ったものである。
4 通報イメージと告発イメージは異なる。通報イメージは内部への不正事実の申告を、そして告発イメージは、不正事実の外部への申告を念頭に置いたものである。
経産省や厚労省、金融庁あたりの規制手法とも重なるところだとは思いますが、消費者行政においても(誠実な企業に対する)企業の自立的行動を促すための施策と、(不届き者企業に対する)罰金、課徴金、民事における損害賠償制度の拡充等、不当な企業利益を吐き出させる施策とのバランスをどうとっていくのか・・・・・、このあたりが今後の行政によるコンプライアンス施策の要点ではないかと感じました(松本先生、どうもありがとうございました!<m(__)m>)。
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