誠実な(まじめな)企業に向けられた消費者行政の本気度
すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、先週3月11日、消費者庁は景品表示法等の一部を改正する等の法律案を今国会に提出しています。3月14日には、同法案提出についての森担当大臣の所見が同庁HPにアップされています。以下、企業コンプライアンスとの関連でのみひとことだけ感想を述べておきます。
まずなんといっても、昨年12月26日の当ブログエントリーでも予想しておりましたとおり、景表法の改正では、第7条、第8条が大幅に改訂され、企業の内部統制に光があてられております。事業者には(商品やサービスの)表示等に係る適切な管理体制を整備することが義務つけられ、この体制整備に不備があれば助言・指導が行われ、それでも不備があれば「公表」というペナルティが課せられます。内部統制に問題があり、その結果として消費者に迷惑をかけたかどうかに関わらず、内部統制に不備があればペナルティを課されるとのこと。実際に迷惑をかけた場合には、「やり得は許さない」として課徴金処分が検討されるところですが、これはあと1年かけて検討し、必要な措置を講じる、とされています。
ここで重要なことは、景表法改正法案の中に、企業の自律的行動への期待が盛り込まれたことと同時に、消費者安全法の一部改正に関する法案も同時に提出されていることです。おじいちゃん、おばあちゃんに迷惑をかける不誠実な企業(フトドキ者企業)については情報管理を強化して(情報収集体制を強化して)、被害が現実化する前に徹底した事前規制を促進する、というもの。
つまり誠実な企業の不正については徹底した事後規制で、不誠実な企業の不正については徹底した事前規制で臨むという体制です。ちなみに景表法に基づく排除措置命令の発動権限を都道府県に付与し、また農水Gメンや証券取引等監視委員会も消費者のために動ける体制となるために、事後規制も徹底しています。まさに「消費者庁をなめるな!」体制の実現かと。
いくら調査活動が強化されたとしても、一般事業会社の商品・サービスの表示の適正性を調査機関が常に巡回して監視する、ということは不可能です。したがいまして、誠実な(まじめな)企業への規制においても(ピンポイントで対象企業を絞り込むための)消費者からの情報提供や消費者どうしの情報交換(SNSや風聞、噂)が活用されます。正確な情報であればあるほど、行政規制の実効性は高まりますので、消費者サイドにおいても商品やサービスを見分ける知見を高めておく必要があります。
森担当大臣の所見によると、今後は合理的な意思決定ができる消費者、市民社会の形成に寄与できる消費者の育成をめざす、とのこと。消費者教育等、消費者の自己責任の徹底を図ると同時に、誠実な企業と不誠実な企業を見分ける知見の向上についても施策が講じられることになりそうです。そうなりますと、誠実な企業の中で、不誠実な企業の仲間入りを果たすかどうかは、レピュテーションリスクを抱えるかどうか、つまり日頃からのコンプライアンス経営の徹底が問題となります。
まさに誠実な企業においては内部統制を整備し、これを運用できる実力が企業に問われるものであり、アベノミクスの成長戦略において、このような企業規制の手法は、金融庁や厚労省等の施策においても採用が目立ってきているのではないでしょうか。誠実な企業から不誠実な企業へと転落しないよう、社会の風を敏感に読みとる努力が必要だと思います。
「どうせ重大な不正に限っての対応でしょ?うちのようにリスク管理に金をかけている会社には関係ないでしょ」というお声が聞こえてきそうですが、安心はできないですよ。「おもてなし」が「偽装」へ、「視聴者への演出」が「やらせ番組」へ、そして適切な会計処理が「粉飾」へと変貌を遂げるのは、どれも競争社会における誠実な企業活動のなせるわざです。このたびの法改正が、名門企業の不祥事に端を発したものであることを肝に銘じておくべきです。知らず知らずのうちに、「気がついたら不祥事企業」になってしまうリスクこそ、経営トップが理解しておかねばならないものと考えています。
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コメント
景品表示法関連でまた問題となりそうな事案が出てきましたね。
不当表示 楽天複数社員が指示 元値つり上げ割引装う
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014032090071252.html
投稿: 迷える会計士 | 2014年3月20日 (木) 11時18分
ホントですね。内部告発事案であること、規制の対象がネット通販大手であり、「フトドキ者」とは一般に認識されていない企業に関するものであるところから大きな話題になりそうです。例の高級マンションのずさんな配管工事が発覚した際の三菱地所さんの対応との比較で考えてみたいと思います。
投稿: toshi | 2014年3月20日 (木) 12時13分