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2014年3月12日 (水)

監査役・会計監査人からみた会社法改正法案への懸念など

中央経済社「企業会計」4月号の特集として、「改正・会社法案への視座」と題する座談会が組まれておりまして、かなり長いのですが、とても刺激を受けました。平成17年改正会社法の作成時に法務省に在籍されておられた弁護士、会計士の方々、経団連の(おなじみ)A経済基盤本部長さん、今回の会社法改正に伴う経団連ひな型を作成する実務家の方々、そして著名企業の常勤監査役さんという、とてもユニークな顔ぶれです。

とくに監査役の会計監査人選任権に関連する話題、第三者割当増資の新規制と企業会計上の論点などは、あまりこれまで深堀りされていなかったところなので、「視座」というタイトルにふさわしく、とても新鮮です。今回は改正の対象ではありませんが、会計監査人の報酬決定権に関連する論点を含め、非常に勉強になりました。

コーポレートガバナンスに関連する会社法改正の論点については、やや残念なのが、この座談会が1月21日に収録された点です。その一週間後にキヤノンさんが、そして先日は新日鉄住金さんが社外取締役の選任予定であることを明らかにされました。「キヤノンさんが」「新日鉄さんが」という箇所は、もはや説得力がなくなってしまったところかと。しかし、そういった残念なところは全体のほんの一部でして、なかなか読みごたえ十分です。

監査等委員会設置会社への評価としては、最近は移行推奨派の方が多いようですが、やはり監査役、会計監査人の立場からは「ガバナンスがしっかりしていない会社が監査等委員会設置会社に移行することには懸念が残る」という立場です。常勤監査等委員が必須ではないことと相まって、私も監査等委員会設置会社への移行というのは、監査等委員に就任する社外取締役さんはかなり勇気が必要だなぁと感じておりますので、ほぼ監査役さん、会計監査人の方と同じ意見です。経営執行部からみても、常勤監査役に向いている方と、(たとえ監査等委員だとしても)取締役に向いている方とは少し違うように思うところから、人事面でもいろいろな配慮が必要になってくるのではないでしょうか。

座談会のハイライトをここでご紹介しますと、中央経済社の編集者の皆様に叱られそうなので、語られている論点やどなたかの発言を少しだけ書き留めておきますと・・・・・

「社外取締役を置くことが相当でない理由」の事業報告への記載に関する「経団連ひな型」を作成する立場の方々は、与党(自民党)審査という土壇場で入ってきた法案327条の2を前にしてどのようなお気持ちなのか?

取締役選任議案のない定時株主総会ですら、総会で「相当でない理由」の説明義務を負う会社側は、どのように「さらっと」説明することが考えられるのか?(「ムダ金を使いたくないから」というのは相当な理由にあたるか?笑)

会計不正事件と監査役の監査人選任権、報酬決定権(今回は改正対象ではありませんが)はどのように関係してくるのか?(監査役と会計監査人との連携問題、オピニオンショッピング、不正リスク対応監査基準などが関係してきます)

などなど。上記のハイライトには掲載しておりませんが、さすがハイレベルな会計専門誌とあって、監査等委員会設置会社における監査等委員に関する解説は、図表などを用いてたいへんわかりやすいものになっていまして、こちらもご一読をお勧めいたします。いずれにしましても、この5月に予定どおり会社法改正法案が成立した場合には、来年4月からの施行が見込まれます。ということは、3月決算の上場会社の場合には、今年6月の総会で社外取締役を一人以上導入しなければ、来年の総会で「相当でない理由」を説明しなければならないわけでして、各会社とも、これからたいへんな総会シーズンを迎えることになりそうです。

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コメント

 山口先生、「3月決算の上場会社の場合には、今年6月の総会で社外取締役を一人以上導入しなければ、来年の総会で「相当でない理由」を説明しなければならない」とありますが、おそらくは経過措置などで、来年の6月に社外取締役選任議案を上程すれば、「相当でない理由」の説明は不要になるのではないかと予想しております。そうしないと、法の遡及適用のような状態になるように思えます。
 それより、社外取締役の要件(会社法)より独立役員の要件(有価証券上場規程)の方が厳しくなる見込みがあることの方が、実務上は影響が大きい(上場会社としては、会社法が重く有価証券上場規程が軽い、とは言えないので。)と思いますが、いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2014年3月14日 (金) 11時31分

 連続ですみません。浦和レッズサポーターによる差別的垂れ幕事件で、垂れ幕を張った本人が、「ゴール裏は自分たちのエリア。他の人たち、特に外国人が入って来るのは困る」などと説明したということだそうです。
 これは、社外取締役反対論の意見と似ているような気がします。「ゴール裏」を「会社」に、「外国人」を「社外取締役」に置き換えると、「会社は自分たちのエリア。社外者、特に社外取締役が入って来るのは困る」となります。いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2014年3月14日 (金) 22時34分

kazuさん、コメントありがとうございます。とくに前半の部分についてはたしかにそのとおりかと思いますので、経過措置等出ましたら、また注意喚起の意味で広報させていただきます(もし情報がありましたらご教示いただけますと幸いです)。

投稿: toshi | 2014年3月19日 (水) 01時53分

会社法改正の施行期日は、「公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。(附則第1条)」となっていますが、同附則第2条で「第2条 この法律による改正後の会社法(以下「新会社法」という。)の規定(罰則を除く。)は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に生じた事項にも適用する。ただし、この法律による改正前の会社法(以下「旧会社法」という。)の規定によって生じた効力を妨げない。」となっているので、先生が「来年の総会で「相当でない理由」を説明しなければならない」といわれているのは正しいような気がしますがいかがでしょうか。

投稿: 庄屋ん | 2014年3月24日 (月) 08時48分

庄屋んさん、コメントありがとうございます。会社法は民事ルールなので、施行前における遡及的適用の例外が認められるということでしょうね。参考にさせていただきます。
なお、6月の総会で社外取締役を入れる予定の会社にとって、3月末時点で導入しない「相当な理由」を書く、というのも、なんかおかしな感じがしますね。

投稿: toshi | 2014年3月27日 (木) 01時23分

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