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2014年3月28日 (金)

商事判例-紛争を避けるための知恵を学ぶ

旬刊商事法務の最新号(3月25日号)は、社外取締役ネタの論文、インタビュー記事がたいへん多く読み応え十分ですが、本日は商事判例に関するお話です。その最新号に掲載されている「商事判例便覧3099」に、商人間売買における商法526条(民法上の瑕疵担保責任の特則)の適用および他人物売買における売主側からの錯誤無効の主張(瑕疵担保責任の免責の抗弁)が否定された事例が掲載されています。

中古車売買のガリバー社(原告 買主)が、アプラスさんの関連会社(被告 売主)からオークション向けの中古車(中古価格で700万円相当のBMW)を購入したのですが、実はこの中古車が盗難車でナンバープレートも偽造されていたそうです。ガリバーさんは、その後、オークションルールによる盗難品処理のために多額の損害を発生させてしまいました。そこで、売主との間で民法561条(他人の権利売買における売主の担保責任)を根拠として清算しようとしたところ、売主側から、他人物売買における「権利の瑕疵」についても商法526条の適用がある、受領時にきちんと検査しなかったのだから担保責任を追及できない、たとえ526条の適用がないとしても、売主側としては、売買目的物の他人性について錯誤無効(民法95条)を主張できるから損害賠償債務は発生しない、と反論されたので裁判になってしまいました。

上の旬刊商事法務さんの判例便覧を読みますと、いかにも司法試験に出題されそうな事例であり、権利瑕疵に関する担保責任については、商法526条の特則の適用なし、錯誤無効の主張も、他人物売買に関する民法の規定との関係で許されないと要点が概説されているので、とりあえずは法律家としての法律解釈上の興味を満たす内容となっています。普通の法律家の感覚からすると、判断理由はまぁ妥当な解釈であり、原告であるガリバーさんが勝訴するのも当然のところだと思います。

ただこの判例は、旬刊商事法務を読むと「なるほど・・・」で終わり、ということなのですが、最近の判例時報2207号(2014年2月21日号)にも同判決が掲載されておりまして(50頁)、こちらには東京地裁平成25年6月6日判決として判決全文が掲載されています。そして判決全文を読むと、実は売主会社が裁判で主張していた過失相殺が一部認められていたことがわかります(原告ガリバーさんにも1割の過失が認められるので、請求金額もその分減額される、ということです)。

判例の重要論点だけを眺めていたときは、「なんでこんな紛争がとことんまで裁判になってしまたんだろうか。結論はほぼ読めているから、裁判になる前に決着がついたはずなのに」と思っていました。しかし上記判決文によると、そもそもガリバーさんも、売主側から交付された必要書類を精査しておけば盗難車とわかったのではないか、しかも原告は単なる買主ではなく、中古車取引のプロなんだから・・・という点に、一部過失が認められる根拠があるようです。

おそらくこの点が売主として、素直に清算に入れなかった原因ではないかと思います。「たしかに他人物だったかもしれないけど、オタクは中古車売買の専門家でしょ?自分で調べたらすぐわかったんじゃないの?そこまで言わなくても、せめて『これちょっと怪しいから、そちらで所有権について確認しておいてくれませんか?』くらい言ってくれたらよかったんじゃないの?」といったあたりがどうしてもひっかかってしまったのではないでしょうか。つまり裁判ではガリバーさんが勝訴したけれども、ガリバーさんがもう少しきちんと対応していれば、そもそも裁判にまで至らずに(双方が前向きに)処理が済んでいたのではないかと。

判決文には原告・被告間の契約書の条項内容についても詳細に記載されていましたが、双方にとっては過不足なくリスク管理に関する条項は記載されているようです。ただ、取引の現場におけるちょっとした相手に対する心遣いが足りなかったことが、裁判に発展し、引くに引けない信頼関係の毀損によって和解にも至らなかったということかと(なお、「心遣い」と書きましたが、本件対象となっている車両の使用者は反社会的勢力の疑いが濃かった人だったので、そのあたりも車両の調査について関係者が後ろ向きになってしまった要因かもしれません)。

弁護士は紛争が起きるからこそ報酬が得られるわけですが、そもそも企業にとっては後ろ向きの作業に多大な人的・物的資源を投下しなければならないリーガルリスクは極力回避したいところだと思います。法務部もしっかりして、代理人もしっかりしていても、こういった裁判が起きるわけですが、そもそも裁判が起きないようにするためにはどうすべきなのか、というところがコンプライアンス経営の要諦ではないでしょうか。最近、こういったリーガルリスクに着目して「どうすれば裁判にならないのか?紛争を早期に解決できるのか?」について意識されている法律家の本が何冊が出版されていますので、また追ってご紹介したいと思います。

3月 28, 2014 商事系 |

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