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2014年4月28日 (月)

グローバル企業の法務担当者必読!日本交通技術・第三者委員会報告書

ドラマ「ルーズベルトゲーム」の第一話(tbs 日曜夜9時)、興味深く視聴しました。「半澤直樹」とそっくり、ということよりも、ドラマ「白い巨塔」を想い出しました(笑)

さて、グローバル企業にとっての海外不正リスクといえば、アンチトラストと並び、海外における不正利益供与リスクが最大の悩みです。リスクの大きさは、日本企業にも、次第に周知されるようになっていますが、そのリスクが当社において、どれほどの確率で発生するものなのか、その不確実性が把握できないところに最大の問題があります(なぜ把握しにくいのかは、また別の機会にでも・・・)。

その、海外不正利益供与リスクの発生確率を把握するうえで、参考になる貴重な報告書がリリースされています。今年に入って、タマホーム事件、リソー教育事件、ノバルティスファーマ論文不正事件等について、秀逸な第三者委員会報告書が出されていますが、この報告書は、さらに特筆すべきものではないかと思います。日本交通技術社の行動を批判する、というよりも、そこで分析されている原因事実は、おそらくグローバル展開をしている企業のすべてにあてはまるのではないでしょうか。

国税庁の指摘により、海外政府機関に対するリベート問題が発覚した日本交通技術社は、4月25日、同社HPにおいて第三者委員会報告書を公表しました(外国政府関係者に対するリベート問題に関する第三者委員会報告書全文はこちらです)。ちなみに、同社はすでに不正競争防止法違反の疑いのある行為として、第三者委員会が認定した事実を、東京地検特捜部に報告したそうです。

同委員会は、日本交通技術社が、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンの3カ国の鉄道建設に関するコンサルタント業務の受注におけるリベートを支払った事実を認定しています。これだけ海外での贈賄行為が厳しく摘発され、重大なペナルティが課される時代であるにもかかわらず、なぜ日本企業は外国政府要員へのリベート支払がやめられないのか、この報告書で認定された事実を読むとよく理解できます。国際業務部門はブラックボックス化され、また相談を持ち掛けられた経理部でさえ、見て見ぬふりをせざるをえない状況に追い込まれてしまいます。私がこの報告書を読んでおそろしいと感じたのは、発端こそ海外案件を受注する営業担当者の行動だとしても、次第に国内の関係部署を巻き込み、決済を行う頃には組織ぐるみの不祥事になってしまう・・・という点です。

本件委員会も、経営トップまでの責任をかなり厳しく判断しているようです(「ようです」と書いたのは、あくまでも私が読んだ印象・・・ということです。)取締役会がリベートを容認していたのではないか・・・という点については、(取締役会構成員全員が、不祥事を公表しないという方針を決定したことについての)平成18年のダスキン事件株主代表訴訟判決の採用した論理が展開されているように思えます。監査役や社外取締役のモニタリング機能がなぜ発揮されなかったのか・・・という点についても触れています。

なぜ国際業務部門がブラックボックス化してしまったのか、なぜ経営者が抜本的な改革をなしえなかったのか、そのあたりの生々しい描写は、「自社でどれほどの贈賄リスクがあるか」その発生確率を考える上で参考になります。とりわけ特筆すべきは、本報告書の71頁以下で示されている、委員が役職員から聴取した発言内容の引用部分です。時間的制約のある第三者委員会の活動として、無理な事実認定を控え、その代わりにヒアリング内容を引用するという方針は、ぜひ他の第三者委員会報告書でも活用してほしいと思いました。長い報告書を読む時間がない方には、せめてここだけでもお読みいただくとたいへん参考になるのではないかと思います。そのうち、76頁で紹介されている役職員の方の発言内容をひとつだけ引用しますと、

・先方担当者からは、3回ほど(リベート提供の)要求を受けたが、3回とも断った。執務スペースだったので周りにも職員がいた。私は、当然日本に帰国することになった。上司から私は、日本に帰って来いという電話を受けた。その際、私を突然日本に帰国させる理由について特に告げられることはなかったが、説明がなくても、業務の提案を全く受け入れられなかったことと、先方担当者からのリベート要求を断ったことが理由だとわかった。私以外にリベートの要求を拒否したというJTC(日本交通技術社)社員の話を聞いたことはない。

なお、この報告書では、再発防止策として、リベート供与問題に対するリスク管理の手法が紹介されています。単に「賄賂を贈らない」という自社完結の精神論ではなく、相手先から要求された場合を想定しており、これは日本交通技術社だけでなく、海外不正リスクに悩むすべての日本企業にも参考になるところではないかと思います。日本の不正競争防止法違反だけでなく、FCPA、英国賄賂防止法など、全世界的に海外腐敗行為防止が喫緊の課題とされるなか、この報告書が日本企業に示すところは「他山の石」として、たいへん参考になるものと思います。

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2014年4月24日 (木)

顧問弁護士のインサイダー取引問題についての雑感

ジャスダック上場企業の顧問弁護士の方が、公募増資について知りえた事実をもとにインサイダー取引をやってしまった、取引によって得られた利益は20数万円、SESCが39万円の課徴金処分を勧告、という報道にはホントに驚きました。

規模の大きな会社ですし、委員会設置会社ということで、ガバナンスにも力を入れている会社だと思いますので、おそらくこの方が所属しているのは、比較的大きな法律事務所ではないかと思いますが、なぜこんなことになったのか、思案してもよくわかりません。企業法務に精通しておられるわけで、金商法やSCSEの最近の活動状況にも熟知されているはずですし、「少しくらいなら」という感覚だったとも思えません(利得額は数千万円・・・というほうが、なんとなくわかりやすいですね)。

この事件、審判で争われることはないと思いますが、素朴な疑問としてふたつほど。報道されているのは「顧問弁護士」とありますが、具体的に公募増資の情報をどこから入手されたのでしょうか。SESCのリリースでは「契約の履行に際し」とありますが、これは実際に会社の相談を受けていたご本人ということなのでしょうか。それとも別に直接担当されていた顧問弁護士の方がいらっしゃって、そこから情報を入手されていたのでしょうか。あるいは(年齢からの推測ですが)経営者と元々個人的にもおつきあいが深くて、通常の業務ルートではなく、別ルートで情報を入手されていたということはないのでしょうか。「契約の履行に際し」の解釈が、どうも私にはひっかかります。

もうひとつの素朴な疑問は、会社側は顧問弁護士との契約を解除した、と報じられていますが、これは会社が法律事務所との契約を解除した、という意味なのか、それとも、法律事務所の別の弁護士に新たに顧問を依頼して、当該弁護士のみ解除したということなのでしょうか。同業者として非常にショックな事件であるがゆえに、このあたりの事情を理解しなければ、なぜこんなことが発生したのか、理解に苦しむところです(そもそも顧問先会社の株式を保有している・・・というのも、なんとなく気持ち悪いのですが・・・まさか、どなたかをかばっている・・・ということはないのでしょうかね?うーーーん、ほんとに理解困難です)。

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2014年4月22日 (火)

株主総会における説明義務-社外役員の資質について

さて、毎年このシーズンになりますと、3月決算会社の定時株主総会を前にして、タイムリーな話題を提供しようと考えています。といいましても、総会担当のご専門家や株懇あたりでブイブイ言わしておられる担当者の猛者の方を「うーーん」と唸らせるような話題を提供できるほどの能力も持ち合わせておりません。<m(__)m>ということで、以下のお話は、ホントに素朴な疑問に対する自分なりの考え方にすぎませんのであしからず。

本日(4月21日)公表された「対日直接投資に関する有識者懇談会」報告書によりますと、政府としては、各企業に社外取締役を3分の1以上は置くように、と提言するそうです。会社法に独立社外取締役に関する定義を明確に規定し、そのうえで取締役の3分の1以上を社外独立取締役にするよう義務付ける、また取締役に研修制度を設置せよ、といった提言内容です。もはや各上場企業とも、社外取締役導入が待ったなしの状況ですが、だからといって、誰でもいいというわけではなく、おそらく人選に悩む企業も多いはずです。

ところで、社外取締役や社外監査役として、経営者や弁護士や会計士、税理士といった方々が選任されることが多いのですが、たとえば改選期にあたり、「この社外役員候補者は、●●という問題で、弁護過誤で敗訴しているらしいが(または、懲戒処分を受けたらしいが)、当社の候補者としてだいじょうぶなのか?」「その経営者の方は、週刊誌でずいぶんとプライベート問題で叩かれているが、当社の役員としてふさわしいのか」といった質問が出ることが予想されます。

そこで会社側としては(取締役側としては)、社外役員の本業におけるミスやプライベート問題については、そもそも社外役員としての活動とは無関係なので、回答することは控えても説明義務違反には該当しないのではなかろうか・・・との素朴な疑問が湧きます。今後ますます社外取締役の選任(改選)が増える中で、企業側にとって予想もしなかった社外役員の素顔が暴かれてしまうような場面も予想されるところかと思います。

最近発売されている株主総会想定問答集などでも、「社外役員の人選問題」として、問答数も充実しているのですが、「独立性に問題があるのでは?」「出席日数が少ないのでは?」といった、お行儀の良い質問が多く、あまり参考になりそうなものは見受けられません。

会社側としては、社外役員は正に外の人ですし、あまりカッコ悪い立場に立たせてはいけないとの判断から、社外役員としての活動とは関係のない質問については回答を控えるというスタイルで対応したいところです。しかし、よくよく考えてみますと、なぜその方を社外役員として迎えたかといえば、やはり本業におけるスキルが自社の企業価値向上に資するところがあるから、というところでしょうから、役員としてふさわしいかどうかは、(少なくとも一般株主の立場からみると)本業の能力やプライベートにおける品位ある行動なども、やはり選解任の重要なファクターになるように思われます。ということで、原則として回答する必要があるように思います。

たとえば、監査役解任時の「正当理由」の有無が争われた東京高裁昭和58年4月28日判決(判例時報1081号130頁)では、税理士である監査役さんが、監査職務としてではなく、自身の本業である税務においてミスを犯していたことが、解任の正当理由として認められています。ミスは個人的なものですが、監査役に就任したのは、その専門的識見に期待されてのことであり、株主の判断においても重要事項だと判断される、というものです。この事例は公開会社のものではありませんが、正当理由の有無を判断するにあたり、経営者と株主との信頼関係の大きさ(株主と経営との距離感)はそれほど大きな問題ではないと思いますので、大規模公開会社にも上記判例の考え方はあてはまるのではないでしょうか。

実際に質問が出た場合に、議長(代表取締役)が回答するのか、社外役員自身が回答するのかは状況次第だと思いますが、私自身も、なにか不祥事を起こしてしまった場合には、こういった質問により社外役員としての資質を問われることを覚悟しておきたいところです(まぁ、そういった事態になれば、辞任という選択肢をとることも考えられますが・・・)。

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2014年4月21日 (月)

コンプライアンス経営に活かせる公益通報制度を目指して

4月18日の福井新聞ニュースに、武生信用金庫における不正融資を巡る労使対立の現状が報じられています(福井新聞ニュースはこちらです)。10年以上にわたり、元役員が迂回融資を繰り返していた疑いがあることから、行員が社内のメールを入手し、これを証拠として監督官庁に不正を告発したそうです。一方、金庫側は、行員の内部資料の持ち出し行為について、不正アクセス禁止法違反により、刑事告訴したうえで解雇処分としています(なお、金庫側は、不正融資の有無について、第三者委員会を設置して調査中とのこと)。

この処分に反発した労組側は、このメール入手行為は、公益通報目的でアクセスしたのであるから行員の行動は正当な行為であり、不正アクセス禁止法違反の違法性は阻却されるものだと反論しています。実際に同金庫では、告発を受けて、監督官庁による大規模な検査が行われたようです。

現在進行形の事件なので、個別案件への詳細なコメントは控えますが、平成18年に施行された公益通報者保護法の存在が労働者の方々に周知されることにより、今度は、このような労使間でのむずかしい問題が増加しています。一般探索型の証拠入手(持ち出し行為)でも公益通報目的といえるのかどうか(合理的な疑いがなければ不正入手になるのではないか)、内部通報に期待ができない状況があるからこそ、外部への証拠流出行為の違法性が阻却されるのではないか(まずは内部へ通報手続きをとらなければ、もしくは内部通報への対応が期待できない合理的根拠がなければ証拠入手行為の違法性は阻却されないのではないか)等、民事法(労働者としての地位保全)と刑事法のクロスオーバーする論点が山積しており、現行公益通報者保護法の課題だと思います。

先週、消費者庁のHPよりリリースされましたが、このたび公益通報者保護法制度に関する有識者からのヒアリングが開始され、当職がアドバイザーに就任することになりました(消費者庁リリースはこちらです)。今年中に5回から6回程度、ヒアリングが実施され、その概要は消費者庁HPで公表されることになります。いろいろなご意見を伺い、消費者庁や消費者委員会における議論のたたき台になるものをご報告できれば、と思っています。とくに公益通報者保護法の制度運用が、企業の自律的行動(自浄能力の発揮)を支援できるような工夫を考えていきたいと思います。

4月13日の夜のニュースで、佐村河内氏のゴーストライターだった新垣氏が、佐村河内氏に妥協案を持ち掛けていたことを知りました。もはや世間をだまし続けることに耐えられない、このまま佐村河内さんが活動を続けることなく、フェードアウトしてほしい、との提案でした。しかし、佐村河内さんは、その提案に応じることはなく、あのような新垣氏のカミングアウトになってしまいました。つまり、佐村河内さんとしては、(妥協案による解決が良いか悪いかは別として)新垣氏の妥協案に応じていれば、このような事態にはなっていなかった可能性があります。

内部通報や内部告発に関与する者として、こういった事例はよく見受けられます。会社側が「内部通報以上のことは、どうせ何もできやしない」と高をくくっているところで痛い目に合ってしまいます。公益通報者保護法が、内部通報や内部告発を行う者の後ろ盾になれば、もう少し経営者についても、内部通報や告発に対する真摯な姿勢が期待できるのではないかと思います。雇用形態の多様化、流動化、外国人労働者の増加など、公益通報が増加する環境が高まる中、公益通報者保護法の制度改革に向けた立法事実の調査は喫緊の課題だと考えています。

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2014年4月18日 (金)

監査役・監査法人責任追及訴訟で検討すべき「相当因果関係」の壁

昨日のセイクレスト・社外監査役責任追及判決に関するエントリーには、たくさんのアクセスをいただきまして、ありがとうございました。とくに続編を書くつもりはなかったのですが、皆さまのご関心が高いテーマなので、気になったところを個人的な意見として記しておきます。

最近は、監査役さんや監査法人さんが、株主や管財人から責任追及訴訟を提起されて敗訴してしまう事例が散見されます。監査を担当する人たちが損害賠償責任を負う判決は衝撃的ですが、みなさんどこに関心が向くのか・・・といいますと、いわゆる「善管注意義務違反」(任務懈怠)がどのようにして認められたのか、というあたりの不作為(作為義務違反)の事実ですね。

しかし、本当は重要だと思うのですが、あまり関心が向かないのが監査役や監査法人の監査見逃し行為と損害との因果関係の相当性です。会社の役員や会計監査人が善管注意義務違反で損害賠償責任が成立するための要件としては、任務懈怠と損害の間に相当因果関係が認められなければなりませんが、この因果関係が、あまりにも容易に認められているのではないか・・・という疑問です。

監査法人が適切な監査(一般の会計監査人に求められる注意義務を尽くした監査)をしていても粉飾や資産流用といった会計不正を発見できるかといえば、かなり疑問です。また、監査役についても、社長を脅したり、違法行為差止請求権を行使(裁判外でも可能です)したとしても、普段から監査役の要求をまったく無視する社長であれば、不正を止めることは困難です。つまり、適切な監査を行っていたとしても損害は発生していたのだから、任務懈怠と損害との間には相当因果関係は認められない、という理屈は成り立つように思えます。

しかし裁判になってしまうと、裁判官は、もし監査法人が、もし監査役が、このような行動をとっていれば不正を早期に発見でき、損害を食い止めたことができた可能性が相当高いと判断されます。今回のセイクレスト裁判でも、監査役が社長以外の取締役に対して内部統制を構築するよう勧告する義務に違反があったとして損害賠償責任が認められていますが、監査役側も、きちんと因果関係を争っています。「監査役が勧告をしたとしても、社長はふだんから取締役らの言うことをきかなかった。だから勧告しても、取締役らが内部統制を構築したとは考えられないから因果関係は認められない」と主張しています。

これに対して、裁判所は

「過去に取締役らも、何度か社長に苦言を呈しており、規約なども策定した経験があるのだから、監査役が勧告することで取締役らが動く可能性は、相当程度認められる、また、適切なリスク管理体制が構築されていれば、社長の不正行為は止められた蓋然性が高い」

として、監査役の任務懈怠と損害との相当因果関係をあっさりと認めています。でも、本当にそんな簡単なものでしょうか?以下は本当に個人的な考えです。

春日電機の事件では、監査役と会計監査人が一致団結してようやく社長の不正行為を止めることができました。また、作為義務を尽くした常勤監査役が他の監査役から常勤を解かれてしまった例もあります。監査役が告発をして証券取引等監視委員会が動いたから不正行為が止まった例もあります。法律家は(裁判の性質上)絶対的真実を追及するクセがありますから、どうしてもストーリー性を重視します。ストーリーが矛盾なく時間的経過に沿って流れていれば真実に近いと考えます。しかしそのストーリーは、真実だと判断する者にとって好ましい事実にすぎないかもしれません。

最近の認知心理学や行動経済学の研究では、人間が事実を見誤るクセとして、①わかりやすいストーリーに乗らない事実は排除する、②悪い結果・良い結果の功績を、どうしても一部の人間の行動にのみ着目して判断する、③ある出来ごとの原因と結果の関係を、自分にとって好ましい(都合のよい)ように理解する、といった問題を指摘しています。たしかに、法律解釈では、軌範的な因果関係の見方が成り立つものと思いますが、もう少し「人間が事実を見誤るクセ」に着目して、社長の不正行為を止められなかった原因がもっとほかにもある、ということを監査法人、監査役が主張立証することも考えられてよいのではないかと思います。

監査役はこうあってほしい、監査法人はこうでなければならない、といった軌範的な意味はよくわかるのですが、不正行為の予防や発見にどれだけ有効か、といった実態的な意味合いがあまり理解されていない・・・これも期待ギャップかもしれませんが・・・、そういったあたりが、会社法のグレーゾーンとして残されているのではないかという気がします。法律家と一般の方々とでこれから議論すべき問題ではないでしょうか。

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2014年4月17日 (木)

社長を脅せば監査役の善管注意義務は尽くせるか-セイクレスト・社外監査役責任追及訴訟判決

またまた性懲りもなく(?)、公認会計士と会計不正問題の続きです。江頭憲治郎先生の名著「株式会社法(第4版)」440頁には、

取締役が監督(監視)義務を尽くすとは一体どういうことなのか、たとえば自己の業務執行権限外の事項に関し、会社の損害を疑わしめる事実を知った場合にはどこまで行動すべきなのか

という点について、

「(取締役の能力によって差はあるが)弁護士に相談する、事実を公表すると言って代表取締役を脅す、あるいは辞任する等しなければ任務懈怠もありうる」

と記されています。実際に、取締役ではなく、監査役の事例ですが、西武鉄道の常勤監査役さん(当時)は、有価証券報告書虚偽記載の公表にあたり、「すべてをきちんと公表しなければ、私が公表します」と執行部に迫り、他人名義株問題の事実がすべて公表されることに寄与しました。

さて、監査役が社長を脅すといえば、最近、監査役さん方にとって重要判決が出ています。金融・商事判例の最新号に、大手法律事務所の先生の判例評論が掲載されておりますが、平成25年12月26日、大阪地裁において、セイクレスト社の元監査役(非常勤・社外)の会社に対する損害賠償責任が認められました(←正確には、役員責任査定決定に対する異議の訴え事件です。判決全文は、金融・商事判例1435号42頁以下)。当ブログでも1年半ほど前に本事件を取り上げ、監査役さんにかなり厳しい意見を書かせていただきましたが、公認会計士である元非常勤社外監査役の方が、任務懈怠により、会社(破産管財人)に対して600万円以上(報酬2年分相当)の損害賠償責任が認められ、個人財産の保全処分まで受けているようです(ただし現在控訴審係属中)。

判決文からすると、この監査役さん(平成13年に監査役就任)は、善管注意義務違反の不正行為を繰り返す社長さんに対して、問題を指摘しておられたようで、善処しない場合には辞任する旨も述べています。当ブログで以前に指摘した現物出資の過大評価、会社から社長個人に対する不明瞭な貸付行為などから、監査役(3名)は、社長の行動には疑義があるものと意見を表明し、この貸付を実行する場合には、監査役は辞任することを考えていると表明しています。

しかし、セイクレスト社の監査役監査規程によると、取締役に善管注意義務があればこれを取締役会に勧告しなければならないとされており、裁判所は、(当該監査役さんは)辞任するなど脅しているけれども、規約どおりに取締役のリスク管理体制の構築義務違反があることを勧告する義務、および社長(代表取締役)の解任を求めて臨時株主総会を招集するよう勧告する義務を怠っていたとして、監査役に任務懈怠ありと認定しています(誤解をおそれずに、もう少しわかりやすく述べますと、社長以外の取締役の方々が、ボーっとしているので、「お前ら、ボヤっとせんと、社長が悪いことせんように、もっときちんと内部統制を構築せいや!」と叱咤激励しなければならない、それでも悪いことをするようだったら、取締役会で社長を解職するとか、取締役としての地位を解任するための臨時株主総会を招集するように提案しなければならない、ということだと思います)。

↑なお、監査役自身が、違法行為差止め請求を行う義務については否定されています。当時の監査役の認識内容からみて、差止めが認められるだけの根拠事実にアクセスできていなかったということが理由のようです。

おそらくこの判決の話題の中心は、「ここまで社長を脅していても、まだ監査役に任務懈怠が認められるのか」という点にあるかと思いますが(控訴審でもこのあたりが争点になるかと)、この裁判では他にも興味深い論点がありまして、日本監査役協会の策定している「監査役監査基準」がどこまで裁判規範たりうるか、という問題です。この裁判では、細かい解釈はあるかもしれませんが、実質的には監査役監査基準を、セイクレスト社の監査役の注意義務を判断する規範としています

↑なお、平成25年10月25日に東京地裁から出された、ニイウスコー監査役を被告とする金商法に基づく虚偽記載責任訴訟でも、日本監査役協会策定の監査役監査基準が、監査役の注意義務の内容を検討するにあたり、考慮すべきものである、とされているようです。なお、このニイウスコー事件では、監査役さんは相当の注意の抗弁が認められ、責任は否定されています。

また、監査役の過失と「重過失」との区別に関する論点にも触れられています。もし監査役さんに重過失が認められた場合には責任限定契約の適用が排除されますので、8000万円ほどの損害賠償責任が認められるところでしたが、本判決は過失は認められるが、重過失は認められないとして、報酬2年分の範囲で責任を認めるものとなりました。現在国会で審議中の会社法改正法案には、社外だけでなく常勤監査役さんも責任限定契約を締結できる規定が新設されますので、なぜ「重過失」にはならなかったのか、そのあたりはまた別途解説してみたいと思います。

↑ただ、あまり詳しく書きますと、社外監査役に就任する方がいなくなってしまうかも、なので、やめとくかもしれません(^^;

セイクレスト事件では、判決文に社長の善管注意義務違反の行動が詳細に記されており、その悪質な態様との総合的考慮のもとで社外監査役の責任が認められたのかもしれませんが、私からすれば、上場会社の社外監査役さんとしては、辞任するよりも、辞任をこらえて、厳しい意見を社長に述べるほうが一般株主のために尽くしているように思えます。にもかかわらず、簡単に辞任していれば免責される見込みがあるのに、会社と株主のために社長と対決しても免責されない・・・というのは、どうも結論的には若干疑問も感じるのですが、いかがなものでしょうか。いや、ひょっとすると、このセイクレスト責任追及判決の論旨からすると、簡単に辞任するような監査役さんにも、善管注意義務違反ありとの厳しい判断が下されるのかもしれません。このあたりは、私の読み込みが不足しているところもあるかもしれませんので、ご興味がある方は、判決文をご検討ください。

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2014年4月15日 (火)

JICPA「不正実態調査アンケート」結果の読み方

ちょうど1年前、市ヶ谷の日本公認会計士協会本部の地下ホールにて、弁護士代表のパネリストとして登壇させていただき、「第三者委員会制度問題」では弁明側に立ち、完全アウェーの気分を味わいましたが(笑)、また久しぶりに、協会に怒られそうなエントリーをひとつ(^^;

本日(4月14日)、日本公認会計士協会HPに、「監査業務と不正等に関する実態調査の集計結果について」と題するアンケート集計結果の概要(公表版)がリリースされています(引用は差し控えます)。A4で2枚程度の結果公表文ですが、回答者の半数が過去10年以内に不正と遭遇したことがあるそうです。内訳は粉飾が資産流用よりも多いそうですが、ここ3年ほどは資産流用事例が逆転しているとのこと。経営トップの関与も(そのうち)4割におよび、3分の1程度が外部協力者が存在していたそうです。不正リスク対応基準は確実に監査実務に影響している(6割)とのことですが、外部協力者の関与が多いということは、まだまだ不正リスク対応基準の見直しにもつながりそうな課題です。

この集計結果をみるかぎり、「おお!けっこう会計士の方々は不正を発見しているではないか!また、毅然たる態度によって会社に決算の修正をさせているではないか!」と読めます(不正を発見した場合の顛末に満足している、と回答されている会計士の方が63%も!これはスゴイ!)。

JICPAさんでは、この不正実態調査の結果について、今後の不正な財務報告への取り組みへ活用されるそうですが、ぜひぜひ回答率が7.5%だったことへの分析もよろしくお願いします( *´艸`)!公認会計士登録後10年を経過した会員に回答の依頼をされて、1000名程度の方からの回答があった、ということですが、なぜ回答率が7.5%だったのか?①コンサル業務のほうが楽しいので、過去10年までさかのぼっても監査証明業務を担当したことがない会計士が多いのか、②そもそも不正発見など、監査をするうえでなんらの興味も湧かないのか、③不正に遭遇したけれども、無視していたから回答することに気が進まなかったのか、④毅然とした態度をとったけれども、会社からの圧力に負けてしまったので、もはや忘れたいからなのか・・・。

すいません、これが回答率30%くらいなら、「ああ、忙しい人が多いから、これくらいだろうな」と思うのですが、かなり回答率が低いもので・・・・・(^^;;そういうところにどうしても関心が向いてしまうのです<m(__)m>どうか「出入り禁止」にはしないでくださいね( ゚Д゚);;

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2014年4月14日 (月)

業務上横領罪における「委託の趣旨」に反する行為

4月12日に、経理業務を受託した会社の社長らが、委託していた会社から3億8000万円を勝手に引き出したとして、同社長ら役職員5名が、業務上横領の疑いで警視庁に逮捕されたそうです(たとえば東京新聞ニュースはこちら)。容疑については5名全員が否認しているとのこと。うち2名は会計士や税理士資格を取得するための有名な専門学校の講師をしている公認会計士だそうです。

このような事件は、不正調査業務を担当する者としては、とても興味深いところです。委託会社の社長さんによる刑事告訴は2010年10月、逮捕は2014年4月ということで、実に告訴から3年半もの時間を要しています。また、3億8000万円は、この2010年10月の時点で資金移動があったそうです。さらに、テレビ朝日ニュースによると、3億8000万円以外にも4億円ほどの余罪があるものとされていますので、少なくとも8億円ほどの内部資金が被疑者らの会社に流出していたことになります。単純に被疑者らの会社の資金繰りが苦しかったために、勝手に資金を流出させたのであれば、告訴から逮捕まで、これほど時間を要するものでもないと思いますので、おそらく事案はかなり複雑なのではないでしょうか。

これは私の推測ですが、本件が業務上横領容疑(刑法253条)ということですから、単純に経理業務の委任事務を行っている中では起こりそうにもないので、なにか委託会社の社長さんに話を持ち掛けて、その結果、委託会社の社長さんから資金運用を任されていたのではないかと(いくつかのニュースでは、新しい会社を設立するにあたり、出資目的があったと報じられています)。容疑者らが横領を否認しているのは、そもそも資金運用に関する社長さんの依頼があって、その承諾を得ているから資金を移した、結果として資金運用が失敗に終わったのだから、業務上横領罪が成立するための「委託の趣旨に反した資金流用」は存在しない、ということからではないでしょうか。

余罪が4億円ある、と報じられているのも、これよりも前の段階で、なにか委託会社から運用を任されているような外形があって、こちらは逮捕事実になりえない可能性があるのかもしれません。社長さんは、社内メールによって被疑者らの不正な資金流用に気づき、刑事告訴に至ったと報じられていますが、これも何か委託していた趣旨とは異なる運用に気づいたのではないかと。このあたりは、社外の事業提携者の横領事件の成否を判断する不正調査業務においても、常に悩ましいところです。委託の趣旨とは何だったのか、その趣旨に沿って金員が使われていたのかどうか、委託者はその使用によって経済的合理性のある利益を獲得できていたのかどうか、というあたりを、金員の流れや移転先の口座名義などから丹念に立証していかなければなりません。

今回の事件でも、20代の女性社員まで5名も逮捕されていますが、おそらくトップ2名ほどを起訴するための供述が下から得られれば、下の人たちは不起訴で終わるというパターンではないでしょうか。そのためにも、この社員の方々の供述が「委託の趣旨に合致した資金運用があったのか」「被疑者らに領得意思はあったのか」という点を判断するにあたり、けっこう重要なポイントになるのではと予想しています。いずれにしましても、まだ断片的な報道からの推測の域を超えるものではありませんので、事実関係がもう少し報じられることを期待しています。

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2014年4月11日 (金)

リスクマネジメント実務の法律相談(新刊のご紹介)

022510帝国データバンクさんが4月7日にリリースされたところによると、コンプライアンス違反を原因として倒産した企業の件数が、この1年(調査開始以来)もっとも多かったそうです。毎度申し上げますとおり、この調査結果から、そもそも経営が苦しいからコンプライアンス違反をやってしまうのか、それとも本当にコンプライアンス違反が倒産への起爆剤になってしまうのかはよくわからないのですが、いずれにせよ、企業をみつめるステークホルダーの目は、厳しくなりつつあるのは事実ではないかと。

さて、これだけスピード経営が求められる時代に、もはやリスクマネジメントは後ろ向きの作業ではなく、「走りながら考える」、つまりトライ&エラーの思想で前向きに捉えなければビジネスで負けてしまいます。ただ、こういった思想は、「リスク管理」自体の巧拙がはっきりしますから、リスクを負うわけで、どうしても後ろ向きになりがちです。

不正リスクも同じことです。不祥事は起こしてはいけない、起こさない、という発想であれば、リスクマネジメントはブレーキ役です。でも、どこの会社でも不祥事はかならず起きる、起きたときにどうすべきか、という発想であれば、予防とともに早期発見や、有事対応の知恵が必要になります。

2週間ほど前に、日経新聞の一面広告で紹介されていましたので、すぐに購入いたしましたが、これはなかなか使える本です。判例や参考書籍などの引用も豊富なので、不正調査実務や、セミナーのネタ本としても良いかもしれません。

法律相談シリーズ33・リスクマネジメント実務の法律相談(青林書院 中村信男・笹本雄司郎・竹内朗 編著 3,600円税別)

本書は、早稲田大学の中村信男先生を中心に、気鋭の実務家の方々によって執筆されたリスクマネジメントの実務書です。いずれも実際にコンサルティングや有事対応の支援をご経験されていらっしゃる方々によるもので、内容はとてもわかりやすく、応用が効くものになっています。そしてなんといっても、「積極果敢なリスクテイクとビジネスチャンスの拡大」という点を念頭に置いている点が注目です。この視点が、今までのリスクマネジメントの本ではあまり意識されてこなかったように思います。

ざっと拝読いたしましたが、私のイメージでは、上場会社本体のマネジメントもさることながら、予算も人間も限られているグループ会社管理に使えるのではないかと思います。私個人としては、リスク管理の巧拙は人の能力、つまり人材に依存するところが大きいと感じています。そして、リスク管理担当者が自由に活動できる環境と、リスク管理の効率性をどう理解するかがとても大切です。大きな会社のように、お金も人も使える会社であれば良いのですが、限られた予算の中で、合格最低点の60点のリスク管理体制の構築を目指す、では60点のためには、どこから手をつけたら良いのか、また何かあったら、どこに優先順位を置くのか、といったことの手引きになることは間違いないと思います。

リスクマネジメントの歴史からフォレンジック、サイバー攻撃対策の最先端まで、私が存じ上げている著者の方は数名なのですが、おそらく各分野にお詳しい方が分担されて、このような大作となったものと思います(第4章の事案ごとのリスク管理は、丁寧に構成されている印象です)。リスクマネジメントできちんと成績を上げたい実務担当者の方、支援する側の専門職の方、いずれにも参考になるレベル感です。

こういったリスクマネジメントに関する本を読むと、(時々ですが)予算の潤沢な会社の「アリバイ工作」的な匂いにがっかりすることがあるのですが、本書は平時にも有事にも使えそうな知恵が満載です。経営者が何かあったときに、「ほら、内部統制はこうやって構築していましたよ」というお助け本ではなく、リスクが目の前にたくさん横たわっている新規事業の荒波を乗り切るときに「嵐を避ける知恵」として活用されてはいかがでしょうか。

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2014年4月10日 (木)

日本企業は手続的正義にどう対応すべきか?-海外不正リスク

(4月10日午前 追記)

世間の話題は某ユニットリーダーさんの記者会見で持ち切りですが、双方とも、たいへんな状況になっています。記者会見は残念ながら視ていないのですが、8日に提出された不服申立書の全文は(公開されていますので)読ませていただきました。科学的見地からの反論がないとか、法律家の支援には違和感があるとの声も聞こえてきますが、問題になっている社内ルールによれば、このままだとユニットリーダーさんは懲戒処分のうえ、ルール上「研究費を返せ」と言われる立場ですから、法律家の支援が必要なのは当然ですよね(笑)。

今後は憲法76条(法律上の争訟性)に関する問題をどう扱うのかな・・・と。理研さんは、チームリーダーさんの契約任期を更新されましたし、また、懲戒には譴責もあれば出勤停止や解雇処分もあるわけでして(これまでの学術研究不正に関する裁判例は「懲戒解雇処分」事例だと思います)、理研さん側も、このあたりの配慮をしてくるのではないかと(いえ、もちろん個人的な見解ですが・・・)

さてここからが本題ですが・・・、皆様ご承知のとおり、武田薬品工業さんが、糖尿病治療薬「アクトス」のがん発症リスク開示問題で、6200億円の賠償認定(評決)を受けた、と報じられています。もちろん、今後、連邦地裁の裁判官の判断が出ることになり、最終結論は先になりますが、陪審の判断とはいえ、これにはとても驚きました。武田さんは年末にも糖尿病新薬の研究開発を断念して2000億円以上の損失を抱えておられましたが、素人考えでも、ほんと、新薬の開発はたいへんだなぁと感じます。

今朝(4月9日)の日経新聞記事によると、もう少し詳しい内容が解説されていて、原告側は新薬の危険性を裏付けるべき証拠(電子メール)を、武田側が「わざと破棄した」と主張していたということで、地裁判事も「武田側は、メールを適切に保全していなかった」と認定したそうです。つまり医学的な見地から、副作用があるとか、安全性に疑問がある、といった判断内容ではなく、本来保全しておくべきメールが保全されていない、ということをもってこれだけ多額の懲罰的損害賠償請求が認められることになる、というのは驚きです。

トヨタ自動車さんの事例でも、米国市民に情報開示する時期が遅かったことが問題となり、最近のアンチトラスト事例では、証拠を隠したり、廃棄したことが司法妨害罪として、新たな司法取引のネタにされています。今年、米国のディスカバり制度が改正され、少し緩やかになるそうですが(海外案件を取り扱っている某弁護士の方からお聴きしました)、日本企業が海外不正リスクに直面したとき、このアメリカの手続的正義の司法制度にどれだけ対応できるのか、とても不安になりますね。

フォレンジックやディスカバり、また弁護士秘密特権やリニエンシーを含む米国刑事訴訟法の運用問題など、海外子会社リスクに直面する企業にとっては、手続的正義に関わる初動対応のミスが、莫大な損害賠償問題に発展することを、理解しておく必要がありますね。ここでもやはり予防と不正の早期発見に分けてコンプライアンス問題を考えることが肝要かと思います。

4月10日追記:フィナンシャルタイムズの翻訳記事「武田の米巨額賠償評決 一罰百戒の6200億円」が日経電子版有料サイトに掲載されており、さらに詳しく本件を報じています。

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2014年4月 8日 (火)

合法的内部告発制度は日本でも拡大適用なるか?

本日(4月7日)の日経法務面に、米国連邦最高裁が、取引先企業の社員にも、内部通報制度の適用がある、との判断を下したことが報じられていました。原審は会社側の主張を認めていたので、取引先企業の社員は逆転勝訴した、ということになります。本来、外部者による内部告発を法制度化すると、告発の適法性立証(真実と思料される相当な理由)には相当な証拠を外部者が保持する必要があるので、他社の内部資料を合法的に流出させることができる、ということが前提になります。しかし、それはちょっと行き過ぎだろう・・・ということで、原則としては取引先による内部告発は保護の対象にはならないだろうと思っていたのですが、米国では「合法的内部告発」というものが認められたのですね。

米国SOX法806条(内部通報者保護法)は、公開会社の社員が、監督権を有する法人や捜査機関等に公開会社の不正行為を申告することは合法的行為であり、事業主等から、解雇や不利益処分、脅しなどを受けないことが保障されています。また、この禁止事項に反する事業主等は刑事罰を科されます。しかし、この「社員」が、公開会社の社員だけなのか、それとも取引先企業の社員も含むのか(つまり、不正が発覚した企業からだけではなく、その取引先企業からの不利益処分も禁止する趣旨なのか)といった点が明らかにされていなかったようで、今回の連邦最高裁の判断は、この制度の運用に大きな影響を及ぼしそうです。なんといってもドットフランク法や不正請求防止法によって、高額の報奨金が別の会社の内部告発者に支払われることになります。

日本の下請会社の従業員が、発注元企業の不正を発見して、これを「発注元」に通報した場合は、公益通報者保護法で保護されるものと解されています。下請企業は不利益処分ができませんし、また発注元企業が、この下請企業に嫌がらせをすることも禁じられます(派遣社員の場合も同様です)。しかし、この米国の事例のように、取引先企業の社員が、取引先企業の不正を「取引先」に通報しても、労務の提供という事実関係はないので、公益通報者保護法の適用はありません。ヘルプライン規程で別途定めれば別ですが、こういったケースでは不正を見つけた取引先社員が、いきなりマスコミやネット掲示板、または監督官庁に内部告発を行う、というのが現状です。

昨年末の、コーナン商事さんで発覚した取締役不明朗リベート事件も、取引先からマスコミへの情報提供が発端だったと思います。今後、日本においても「合法的内部告発制度」の範囲を、公益通報者保護法の改正によって広めたほうが良いかどうかは、公益通報者保護法の重心を労働者の地位保全に置くか、コンプライアンス経営の促進に置くか等を含め、慎重な判断が求められるものと思います。また、現行の公益通報者保護法のように、一般法として規定すべきか、(米国法に倣って)法律を分けて、個別の不正行為ごとに内部告発者の保護要件を変えるべきか・・・という点にも配慮が必要かと思います(企業の法令違反行為に対して、課徴金という行政処分の活用が当たり前の時代になれば、課徴金の一部を内部告発者に報奨金として支払う・・・という議論も出てくるかもしれませんね)。

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2014年4月 7日 (月)

東証の開示規則改訂-開示注意銘柄制度の柔軟化

昨年、川崎重工業さんの社長解任劇を契機に、不明確な情報開示問題が盛り上がったことは記憶に新しいことと思います。2013年4月22日、川崎重工業さんは、三井造船さんとの経営統合に関するスクープ記事が報じられた際、「そのような事実はありません」と否定しておられました。ところが、件の解任劇によって経営統合が白紙に戻った時点で、「統合の可能性を検討しておりましたが、決定に至りませんでした」と開示されました。東証のCEOの方は「一般株主は、2カ月間、まちがった情報の下に置かれていた」と、この開示姿勢に強く懸念を示しておられました。

その後、シャープさんの公募増資の件について、これも機関決定前にスクープ報道がなされましたが、これに対してシャープさんは「未だ決定したものはありませんが、本日午後の取締役会で審議する予定となっており、具体的に何かきまりましたら明らかにします」との開示をされました。これに対しては、投資家やIR担当者の間で話題となり、「俺だったら、こんなに親切な開示はしないぞ」といった声も聞こえていましたが、当時のロイターさんの記事では、金融庁や東証が、このシャープさんの情報開示は模範開示例だと称賛されていたとのことでした。今年3月27日のベネッセHDさんの適時開示(経済界で著名な方が代表取締役に就任することがスクープされていました)などを読んでも、シャープさんと同じような記載内容です。

おそらく、このような流れの中で、ということかと思いますが、4月5日の朝日新聞朝刊記事でも紹介されていたように、東証さんは、企業情報開示について、不明確な情報への機動的な注意喚起を行うため、開示注意銘柄制度の柔軟な運用に関する規則変更に踏み切るようです(現在は意見公募中ですが、概要はこちらです)。おそらく企業統合や増資など、投資家の投資判断に重大な影響を及ぼす情報の開示に不明確なところがあれば、これに対して開示注意銘柄指定を含む、機動的な注意喚起を促すようにする、というもの。やはりロイターさんの当時のニュースは正しかった、ということですね。

不明確な情報開示は速やかに修正せよ、とのことですが、企業にとっては正確な情報を出したくても出せないこともありますね。川崎重工業さんのように、支配権争いがあるケース、不祥事が発生した企業のように、社内調査が十分でないケースなど、典型例かと思います。M&Aや資本政策に関する情報は、インサイダー情報に該当する可能性があり、そもそも社内でも正確な情報を把握している人数が限られているので、開示統制もむずかしいですね。ともかく、スクープ報道が出ないように情報管理を徹底することができれば良いわけですが。

といいましても、スクープ報道は(なぜか?)出てしまうわけでして、そのような重要情報を抱えていらっしゃる企業のご担当者の方は、旬刊商事法務2014号(2013年11月15日号)の池田祐久弁護士(ニューヨーク州弁護士、たしか日経の弁護士ランキングにも掲載されていた方ですね)の「スクープ報道対応のグローバル実務」の論稿をご参考にしてはいかがでしょうか。実務としてのベストプラクティス、ノーコメントアクションが使えない場面など、参考になります。ひとことで言えば、社内から情報が漏れてしまった以上は、これに対してきちんと対応しなければならない、ということかと。ちなみに「日本のユニクロが、米国の大手衣料Jクルー買収か?」とWSJが報じた際、ファーストリテイリングさんは、「憶測の記事については一切のコメントを控えます」と開示されていましたね。

いずれにしましても、上場会社だけをとりあげて、行為規制で(会社法で)縛れない分、開示規制が「実質的な行為規制」としても活用されつつある今日、開示に熱心な会社とそうでない会社の選別が、一般投資家の利益保護のためにも、これからますます明確になされていくものと思います。

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2014年4月 3日 (木)

STAP細胞論文疑惑-世の中の紛争を回避する「重過失」の魅力

この話題については知識不足のためツッコミにくいところがあり、またO研究リーダーの代理人もよく存じ上げている方なので(笑)、いずれの立場に立つわけでもなく、きわめて個人的な意見(感想?)のみ書いておきたいと思います。

O研究リーダーの論文に「ねつ造あり」と認定した調査委員会というのは、いわゆる理研さんの「ヘルプライン規程」に基づいて設置されたものですから、もともと独立性などはあまり関係がないものと思っておりました。なので、あらためて第三者委員会がO氏の論文に関する「不正行為」の有無について検討するために設置される、という点については当然かと思います。

また、理研ヘルプライン規程によれば、不正行為が認定された場合には、O氏は理研より研究費の全部または一部の返還を命じられることになりますし、今後の研究活動の可能性にも関わるものなので、O氏側が不服申立に至ることも当然かと。

もはや後戻りできないほど対立が激化してしまったわけですが、素朴な疑問として、なぜ理研のヘルプライン規程には「重過失」の概念がなかったのなぁと思います。もちろん文科省ガイドライン2006の不正行為の概念には重過失など規程されていないわけですし、当該ガイドラインに沿った形で整備されたことが予想されるのですが、理研側としても、こういった対立場面において「ねつ造」というのは故意の立証が必要になるわけですから、争われたらかなり厳しい立場に立たされるわけです。「論文取下げに同意した」と会見ではお話になってましたが、O氏側が「同意などしていない」とのことで、これも(理研側に立証方法が存在しない以上)争われれば「同意はなかった」ということになってしまいそうです。

故意に匹敵するほどの非難に値する注意義務違反(ミス)ということで「重過失」を活用できれば、理研側の立証も軽くなりますし、O氏側の名誉や将来性についても回復の余地を残すことになりますので、たとえ紛争になったとしても、どこかで引っ込みがつく隙間ができたのではないかと。O氏側にも実験ノートが少ないとか、資料の保存方法がずさんなど、指摘すべき点はありますので、「ついうっかり」よりもレベルの悪質な「うっかり」だと認定すれば、どこかで落ち着きどころはあったのかもしれません。社会に対する理研からの説明責任を果たせます。もちろんSTAP細胞の有効性については、別途じっくり研究調査を続ければよいと思います。

昨年のNPB(日本プロ野球機構)統一球問題の第三者委員会報告書を題材に、当ブログでも過去に2度ほど、この「重過失」概念の有効性について書きました。第三者委員会調査の謙抑的な権限行使、ステークホルダーへの説明責任の果たし方、委員会報告書の事実認定の限界などに配慮した場合、故意とは言えないけれども、責任においては故意に匹敵する程度の不正があったとして「重過失あり」と認定する妙味は、常にとは申しませんが、けっこう有用性があるのではないかと思います。

会社法上の役員さんの法的責任にも、この「重過失」の判断が大きく影響します(責任免除、責任限定契約、第三者責任、D&O保険の適用等)。しかし意外なほど、この「重過失」の効用については議論されていません。紛争の早期解決を図るためにも、いろいろなところで「過失」と「重過失」の差異について研究が進むといいなぁと思っております。

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2014年4月 1日 (火)

反社構成員ゴルフ場利用詐欺事件・最高裁無罪判決の射程距離

暴力団組員のゴルフ場利用に関する最高裁無罪判決(2014年3月28日最高裁第2小法廷)が様々なところで話題になっています(産経ニュースはこちらです)。組員のゴルフ場利用については、詐欺罪として全国の警察が摘発を行っており、3月も山形県警が強制捜査に踏み切りました。しかし最高裁は、組員によるゴルフ場利用の申し込みは詐欺罪の実行行為としての「欺罔行為」には該当せず、詐欺罪は成立しないとの判断を下しました(最高裁判決全文はこちら)。

組員が利用しているゴルフ場・・・という評判は(判決にもあるように)当該ゴルフ場の社会的信用を一気に悪化させ、業績にも多大な影響が及ぶおそれがあります。また、ゴルフコンペなどを許容していない限りは大きな問題にはならないとは思いますが、「利益供与」に該当してコンプライアンス違反という事態にもなりかねません。かといって、会員が同伴するビジターひとりひとりに「あなたは暴力団関係者ですか?」と確認することもむずかしいところで、この最高裁判決はゴルフ場経営者にとっては頭を悩ませるところではないでしょうか。

ただ、毎度申し上げているように、最高裁判決は基本的に極めて謙抑的な判断を下すものでありますので、この最高裁判決が結論として下している「暴力団関係者のゴルフ場利用については詐欺罪が成立しない」という判断が、現在もそのまま妥当するかどうかは別途検討する余地があると思います。現に昨日(3月31日)、同じ最高裁第2小法廷で下された同種判決では、暴力団組長のゴルフ場利用について、詐欺罪が成立して有罪が確定しています(こちらは4年ほど前の事例ですが、ゴルフ場側が、組長を同伴してきた会員に「誓約書」をとりつけていたようで、利用にあたり、明確に暴力団組員ではないことが条件とされていたようです)。

先の28日判決の事例では、本件被告人のゴルフ場利用申込は平成23年8月と9月になされています。しかし全国47都道府県でいわゆる「暴力団排除条例」が施行されたのは平成23年10月1日です。また、これに合わせて社団法人日本ゴルフ場事業協会が加盟ゴルフ場に対して対応策の実施を要請したのも同年10月11日付けです。つまり、本件事件が発生した直後から暴力団排除に対する社会の風がかなり変わっています。

上記最高裁判決の法廷意見(多数意見)を読むと、被告人に詐欺罪が成立しない理由のひとつとして「本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない」とあります。また「被告人は、他のゴルフ場使用を許可、黙認されていた例が多数あった」ことも挙げられています。つまり、世の中の環境が変われば、結論も変わりうることを最高裁の判決も認めているように思われます。

「欺罔行為」にあたるかどうかの判断についても、フロント担当者と被告人との間で、暴力団員ではないことの明示の意思表示はなかったことが示されていますが、たとえば世の中の風潮が「暴力団員がプレイをすることは断固拒否する」ということが徹底されていけば、「暴力団員でないこと」が黙っていても契約成立の当然の前提となるために、申告しないことが「相手をだます行為」と評価されることになろうかと思われます。これは、反社会的勢力との取引を開始した後に、取引を解消するための民事訴訟で「錯誤無効」が主張されているケースでも「要素の錯誤」の重要性認定にあたり、同様のことが言えるのではないでしょうか。

単純に条例が施行されたから・・・ということだけでは詐欺罪は認定されないかもしれませんが、その条例の施行により、「利益供与禁止」の風潮が生まれ、全国のゴルフ場の対応が徹底されてきたのであれば、たとえ申込の際に「暴力団員でないこと」の明示のチェックがなされなかったとしても、世の中の風潮の変化によって欺罔行為性が認定される、ということは十分にあり得ることだと思いますし、上記最高裁判決の射程距離もかなり制限的に理解しておくべきだと考える次第です(なお、もちろん上記最高裁判決からみて、会員に人物保証を求めることや、明示のチェック項目等を書面で残しておくことが望ましいのは申し上げるまでもありません)。

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