STAP細胞論文疑惑-世の中の紛争を回避する「重過失」の魅力
この話題については知識不足のためツッコミにくいところがあり、またO研究リーダーの代理人もよく存じ上げている方なので(笑)、いずれの立場に立つわけでもなく、きわめて個人的な意見(感想?)のみ書いておきたいと思います。
O研究リーダーの論文に「ねつ造あり」と認定した調査委員会というのは、いわゆる理研さんの「ヘルプライン規程」に基づいて設置されたものですから、もともと独立性などはあまり関係がないものと思っておりました。なので、あらためて第三者委員会がO氏の論文に関する「不正行為」の有無について検討するために設置される、という点については当然かと思います。
また、理研ヘルプライン規程によれば、不正行為が認定された場合には、O氏は理研より研究費の全部または一部の返還を命じられることになりますし、今後の研究活動の可能性にも関わるものなので、O氏側が不服申立に至ることも当然かと。
もはや後戻りできないほど対立が激化してしまったわけですが、素朴な疑問として、なぜ理研のヘルプライン規程には「重過失」の概念がなかったのなぁと思います。もちろん文科省ガイドライン2006の不正行為の概念には重過失など規程されていないわけですし、当該ガイドラインに沿った形で整備されたことが予想されるのですが、理研側としても、こういった対立場面において「ねつ造」というのは故意の立証が必要になるわけですから、争われたらかなり厳しい立場に立たされるわけです。「論文取下げに同意した」と会見ではお話になってましたが、O氏側が「同意などしていない」とのことで、これも(理研側に立証方法が存在しない以上)争われれば「同意はなかった」ということになってしまいそうです。
故意に匹敵するほどの非難に値する注意義務違反(ミス)ということで「重過失」を活用できれば、理研側の立証も軽くなりますし、O氏側の名誉や将来性についても回復の余地を残すことになりますので、たとえ紛争になったとしても、どこかで引っ込みがつく隙間ができたのではないかと。O氏側にも実験ノートが少ないとか、資料の保存方法がずさんなど、指摘すべき点はありますので、「ついうっかり」よりもレベルの悪質な「うっかり」だと認定すれば、どこかで落ち着きどころはあったのかもしれません。社会に対する理研からの説明責任を果たせます。もちろんSTAP細胞の有効性については、別途じっくり研究調査を続ければよいと思います。
昨年のNPB(日本プロ野球機構)統一球問題の第三者委員会報告書を題材に、当ブログでも過去に2度ほど、この「重過失」概念の有効性について書きました。第三者委員会調査の謙抑的な権限行使、ステークホルダーへの説明責任の果たし方、委員会報告書の事実認定の限界などに配慮した場合、故意とは言えないけれども、責任においては故意に匹敵する程度の不正があったとして「重過失あり」と認定する妙味は、常にとは申しませんが、けっこう有用性があるのではないかと思います。
会社法上の役員さんの法的責任にも、この「重過失」の判断が大きく影響します(責任免除、責任限定契約、第三者責任、D&O保険の適用等)。しかし意外なほど、この「重過失」の効用については議論されていません。紛争の早期解決を図るためにも、いろいろなところで「過失」と「重過失」の差異について研究が進むといいなぁと思っております。
| 固定リンク
コメント