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2014年4月28日 (月)

グローバル企業の法務担当者必読!日本交通技術・第三者委員会報告書

ドラマ「ルーズベルトゲーム」の第一話(tbs 日曜夜9時)、興味深く視聴しました。「半澤直樹」とそっくり、ということよりも、ドラマ「白い巨塔」を想い出しました(笑)

さて、グローバル企業にとっての海外不正リスクといえば、アンチトラストと並び、海外における不正利益供与リスクが最大の悩みです。リスクの大きさは、日本企業にも、次第に周知されるようになっていますが、そのリスクが当社において、どれほどの確率で発生するものなのか、その不確実性が把握できないところに最大の問題があります(なぜ把握しにくいのかは、また別の機会にでも・・・)。

その、海外不正利益供与リスクの発生確率を把握するうえで、参考になる貴重な報告書がリリースされています。今年に入って、タマホーム事件、リソー教育事件、ノバルティスファーマ論文不正事件等について、秀逸な第三者委員会報告書が出されていますが、この報告書は、さらに特筆すべきものではないかと思います。日本交通技術社の行動を批判する、というよりも、そこで分析されている原因事実は、おそらくグローバル展開をしている企業のすべてにあてはまるのではないでしょうか。

国税庁の指摘により、海外政府機関に対するリベート問題が発覚した日本交通技術社は、4月25日、同社HPにおいて第三者委員会報告書を公表しました(外国政府関係者に対するリベート問題に関する第三者委員会報告書全文はこちらです)。ちなみに、同社はすでに不正競争防止法違反の疑いのある行為として、第三者委員会が認定した事実を、東京地検特捜部に報告したそうです。

同委員会は、日本交通技術社が、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンの3カ国の鉄道建設に関するコンサルタント業務の受注におけるリベートを支払った事実を認定しています。これだけ海外での贈賄行為が厳しく摘発され、重大なペナルティが課される時代であるにもかかわらず、なぜ日本企業は外国政府要員へのリベート支払がやめられないのか、この報告書で認定された事実を読むとよく理解できます。国際業務部門はブラックボックス化され、また相談を持ち掛けられた経理部でさえ、見て見ぬふりをせざるをえない状況に追い込まれてしまいます。私がこの報告書を読んでおそろしいと感じたのは、発端こそ海外案件を受注する営業担当者の行動だとしても、次第に国内の関係部署を巻き込み、決済を行う頃には組織ぐるみの不祥事になってしまう・・・という点です。

本件委員会も、経営トップまでの責任をかなり厳しく判断しているようです(「ようです」と書いたのは、あくまでも私が読んだ印象・・・ということです。)取締役会がリベートを容認していたのではないか・・・という点については、(取締役会構成員全員が、不祥事を公表しないという方針を決定したことについての)平成18年のダスキン事件株主代表訴訟判決の採用した論理が展開されているように思えます。監査役や社外取締役のモニタリング機能がなぜ発揮されなかったのか・・・という点についても触れています。

なぜ国際業務部門がブラックボックス化してしまったのか、なぜ経営者が抜本的な改革をなしえなかったのか、そのあたりの生々しい描写は、「自社でどれほどの贈賄リスクがあるか」その発生確率を考える上で参考になります。とりわけ特筆すべきは、本報告書の71頁以下で示されている、委員が役職員から聴取した発言内容の引用部分です。時間的制約のある第三者委員会の活動として、無理な事実認定を控え、その代わりにヒアリング内容を引用するという方針は、ぜひ他の第三者委員会報告書でも活用してほしいと思いました。長い報告書を読む時間がない方には、せめてここだけでもお読みいただくとたいへん参考になるのではないかと思います。そのうち、76頁で紹介されている役職員の方の発言内容をひとつだけ引用しますと、

・先方担当者からは、3回ほど(リベート提供の)要求を受けたが、3回とも断った。執務スペースだったので周りにも職員がいた。私は、当然日本に帰国することになった。上司から私は、日本に帰って来いという電話を受けた。その際、私を突然日本に帰国させる理由について特に告げられることはなかったが、説明がなくても、業務の提案を全く受け入れられなかったことと、先方担当者からのリベート要求を断ったことが理由だとわかった。私以外にリベートの要求を拒否したというJTC(日本交通技術社)社員の話を聞いたことはない。

なお、この報告書では、再発防止策として、リベート供与問題に対するリスク管理の手法が紹介されています。単に「賄賂を贈らない」という自社完結の精神論ではなく、相手先から要求された場合を想定しており、これは日本交通技術社だけでなく、海外不正リスクに悩むすべての日本企業にも参考になるところではないかと思います。日本の不正競争防止法違反だけでなく、FCPA、英国賄賂防止法など、全世界的に海外腐敗行為防止が喫緊の課題とされるなか、この報告書が日本企業に示すところは「他山の石」として、たいへん参考になるものと思います。

4月 28, 2014 独立第三者委員会 |

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コメント

いつも参考にさせていただいています。

ななめ読みですが、早速全文一通り読みました。私もかつてODAのコンサルタントをしていた(しかも担当部門の責任者であった時期も)ことがあり、ここに書かれていた人達の心情というか、陥る心理的なわな、特に「「引くに引けない」心理」(p86)はある程度わかります。それでもなお、何とか踏みとどまることができなかったのか、という思いも抱きます。JTCの国際部門は黒字の年もあったけれども、ならせばかなりの赤字のようです。冷静に外から見れば、危ない橋を渡って、赤字を出して、何をやっているだかわからないですよね。この一歩引いて俯瞰する姿勢がガバナンスなのかな、と思います。

以下、特に印象に残った点
P.85「しかし、仮に国税局が海外でのリベートに「理解」をした事実があるとすれば、その対応に問題がなかったとは言えないであろう。」
よくぞ、踏み込んで書いてくれました。

P.86「この点を問いたださなかった社外取締役に強い非難を加えることは困難であろう。」
強い非難はともかく、「無能」であるか「やる気がない」かのいずれであったことは間違いないように思います。国税調査で多額の追徴があるのに(しかも重加算税のはず)その内容を質問しないようなら、いてもいなくても同然といっては言い過ぎでしょうか?

外国公務員への贈賄罪は、日本では適用事例が極端に少ないと批判されていますので、間違いなく刑事事件とされるのでしょうね。

投稿: Beaver | 2014年4月29日 (火) 15時45分

ご意見ありがとうございます。昨日、日経に高巌さんの「経済教室」論稿が掲載されていましたね。海外贈賄事件の心構え、とても参考になりますし、この報告書にも紹介されているガイダンスをきちんと勉強しようと思いました。後半の記述、まことにそのとおりで、実は質問はされていたのではないか、とも思ったりしております。あくまでも推測ですが・・・他山の石とさせていただきます

投稿: toshi | 2014年5月 2日 (金) 00時25分

日経の高巌さんの「経済教室」は私も読みました。(非常にタイムリーでした。)開発コンサルタントの大先輩(今も現役)の方にこの調査報告書の件を教えて、一読された感想を伺いましたが、「今どき、こんなことをやっている会社がまだあるなんて、ビックリした。」とのことでした。

投稿: Beaver | 2014年5月17日 (土) 23時21分

私はFCPAはそれほど詳しくありませんが、アンチトラストについては、経営者自身がどれだけリスクを認識しているか(法務担当者まかせにしていないか)によってリスクが顕在化したときの対応にも異なることを体験しています。FCPAリスクも、もう少し周知されたほうがいいですね。

投稿: toshi | 2014年6月 1日 (日) 10時49分

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