業務上横領罪における「委託の趣旨」に反する行為
4月12日に、経理業務を受託した会社の社長らが、委託していた会社から3億8000万円を勝手に引き出したとして、同社長ら役職員5名が、業務上横領の疑いで警視庁に逮捕されたそうです(たとえば東京新聞ニュースはこちら)。容疑については5名全員が否認しているとのこと。うち2名は会計士や税理士資格を取得するための有名な専門学校の講師をしている公認会計士だそうです。
このような事件は、不正調査業務を担当する者としては、とても興味深いところです。委託会社の社長さんによる刑事告訴は2010年10月、逮捕は2014年4月ということで、実に告訴から3年半もの時間を要しています。また、3億8000万円は、この2010年10月の時点で資金移動があったそうです。さらに、テレビ朝日ニュースによると、3億8000万円以外にも4億円ほどの余罪があるものとされていますので、少なくとも8億円ほどの内部資金が被疑者らの会社に流出していたことになります。単純に被疑者らの会社の資金繰りが苦しかったために、勝手に資金を流出させたのであれば、告訴から逮捕まで、これほど時間を要するものでもないと思いますので、おそらく事案はかなり複雑なのではないでしょうか。
これは私の推測ですが、本件が業務上横領容疑(刑法253条)ということですから、単純に経理業務の委任事務を行っている中では起こりそうにもないので、なにか委託会社の社長さんに話を持ち掛けて、その結果、委託会社の社長さんから資金運用を任されていたのではないかと(いくつかのニュースでは、新しい会社を設立するにあたり、出資目的があったと報じられています)。容疑者らが横領を否認しているのは、そもそも資金運用に関する社長さんの依頼があって、その承諾を得ているから資金を移した、結果として資金運用が失敗に終わったのだから、業務上横領罪が成立するための「委託の趣旨に反した資金流用」は存在しない、ということからではないでしょうか。
余罪が4億円ある、と報じられているのも、これよりも前の段階で、なにか委託会社から運用を任されているような外形があって、こちらは逮捕事実になりえない可能性があるのかもしれません。社長さんは、社内メールによって被疑者らの不正な資金流用に気づき、刑事告訴に至ったと報じられていますが、これも何か委託していた趣旨とは異なる運用に気づいたのではないかと。このあたりは、社外の事業提携者の横領事件の成否を判断する不正調査業務においても、常に悩ましいところです。委託の趣旨とは何だったのか、その趣旨に沿って金員が使われていたのかどうか、委託者はその使用によって経済的合理性のある利益を獲得できていたのかどうか、というあたりを、金員の流れや移転先の口座名義などから丹念に立証していかなければなりません。
今回の事件でも、20代の女性社員まで5名も逮捕されていますが、おそらくトップ2名ほどを起訴するための供述が下から得られれば、下の人たちは不起訴で終わるというパターンではないでしょうか。そのためにも、この社員の方々の供述が「委託の趣旨に合致した資金運用があったのか」「被疑者らに領得意思はあったのか」という点を判断するにあたり、けっこう重要なポイントになるのではと予想しています。いずれにしましても、まだ断片的な報道からの推測の域を超えるものではありませんので、事実関係がもう少し報じられることを期待しています。
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