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2014年4月 8日 (火)

合法的内部告発制度は日本でも拡大適用なるか?

本日(4月7日)の日経法務面に、米国連邦最高裁が、取引先企業の社員にも、内部通報制度の適用がある、との判断を下したことが報じられていました。原審は会社側の主張を認めていたので、取引先企業の社員は逆転勝訴した、ということになります。本来、外部者による内部告発を法制度化すると、告発の適法性立証(真実と思料される相当な理由)には相当な証拠を外部者が保持する必要があるので、他社の内部資料を合法的に流出させることができる、ということが前提になります。しかし、それはちょっと行き過ぎだろう・・・ということで、原則としては取引先による内部告発は保護の対象にはならないだろうと思っていたのですが、米国では「合法的内部告発」というものが認められたのですね。

米国SOX法806条(内部通報者保護法)は、公開会社の社員が、監督権を有する法人や捜査機関等に公開会社の不正行為を申告することは合法的行為であり、事業主等から、解雇や不利益処分、脅しなどを受けないことが保障されています。また、この禁止事項に反する事業主等は刑事罰を科されます。しかし、この「社員」が、公開会社の社員だけなのか、それとも取引先企業の社員も含むのか(つまり、不正が発覚した企業からだけではなく、その取引先企業からの不利益処分も禁止する趣旨なのか)といった点が明らかにされていなかったようで、今回の連邦最高裁の判断は、この制度の運用に大きな影響を及ぼしそうです。なんといってもドットフランク法や不正請求防止法によって、高額の報奨金が別の会社の内部告発者に支払われることになります。

日本の下請会社の従業員が、発注元企業の不正を発見して、これを「発注元」に通報した場合は、公益通報者保護法で保護されるものと解されています。下請企業は不利益処分ができませんし、また発注元企業が、この下請企業に嫌がらせをすることも禁じられます(派遣社員の場合も同様です)。しかし、この米国の事例のように、取引先企業の社員が、取引先企業の不正を「取引先」に通報しても、労務の提供という事実関係はないので、公益通報者保護法の適用はありません。ヘルプライン規程で別途定めれば別ですが、こういったケースでは不正を見つけた取引先社員が、いきなりマスコミやネット掲示板、または監督官庁に内部告発を行う、というのが現状です。

昨年末の、コーナン商事さんで発覚した取締役不明朗リベート事件も、取引先からマスコミへの情報提供が発端だったと思います。今後、日本においても「合法的内部告発制度」の範囲を、公益通報者保護法の改正によって広めたほうが良いかどうかは、公益通報者保護法の重心を労働者の地位保全に置くか、コンプライアンス経営の促進に置くか等を含め、慎重な判断が求められるものと思います。また、現行の公益通報者保護法のように、一般法として規定すべきか、(米国法に倣って)法律を分けて、個別の不正行為ごとに内部告発者の保護要件を変えるべきか・・・という点にも配慮が必要かと思います(企業の法令違反行為に対して、課徴金という行政処分の活用が当たり前の時代になれば、課徴金の一部を内部告発者に報奨金として支払う・・・という議論も出てくるかもしれませんね)。

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