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2014年4月17日 (木)

社長を脅せば監査役の善管注意義務は尽くせるか-セイクレスト・社外監査役責任追及訴訟判決

またまた性懲りもなく(?)、公認会計士と会計不正問題の続きです。江頭憲治郎先生の名著「株式会社法(第4版)」440頁には、

取締役が監督(監視)義務を尽くすとは一体どういうことなのか、たとえば自己の業務執行権限外の事項に関し、会社の損害を疑わしめる事実を知った場合にはどこまで行動すべきなのか

という点について、

「(取締役の能力によって差はあるが)弁護士に相談する、事実を公表すると言って代表取締役を脅す、あるいは辞任する等しなければ任務懈怠もありうる」

と記されています。実際に、取締役ではなく、監査役の事例ですが、西武鉄道の常勤監査役さん(当時)は、有価証券報告書虚偽記載の公表にあたり、「すべてをきちんと公表しなければ、私が公表します」と執行部に迫り、他人名義株問題の事実がすべて公表されることに寄与しました。

さて、監査役が社長を脅すといえば、最近、監査役さん方にとって重要判決が出ています。金融・商事判例の最新号に、大手法律事務所の先生の判例評論が掲載されておりますが、平成25年12月26日、大阪地裁において、セイクレスト社の元監査役(非常勤・社外)の会社に対する損害賠償責任が認められました(←正確には、役員責任査定決定に対する異議の訴え事件です。判決全文は、金融・商事判例1435号42頁以下)。当ブログでも1年半ほど前に本事件を取り上げ、監査役さんにかなり厳しい意見を書かせていただきましたが、公認会計士である元非常勤社外監査役の方が、任務懈怠により、会社(破産管財人)に対して600万円以上(報酬2年分相当)の損害賠償責任が認められ、個人財産の保全処分まで受けているようです(ただし現在控訴審係属中)。

判決文からすると、この監査役さん(平成13年に監査役就任)は、善管注意義務違反の不正行為を繰り返す社長さんに対して、問題を指摘しておられたようで、善処しない場合には辞任する旨も述べています。当ブログで以前に指摘した現物出資の過大評価、会社から社長個人に対する不明瞭な貸付行為などから、監査役(3名)は、社長の行動には疑義があるものと意見を表明し、この貸付を実行する場合には、監査役は辞任することを考えていると表明しています。

しかし、セイクレスト社の監査役監査規程によると、取締役に善管注意義務があればこれを取締役会に勧告しなければならないとされており、裁判所は、(当該監査役さんは)辞任するなど脅しているけれども、規約どおりに取締役のリスク管理体制の構築義務違反があることを勧告する義務、および社長(代表取締役)の解任を求めて臨時株主総会を招集するよう勧告する義務を怠っていたとして、監査役に任務懈怠ありと認定しています(誤解をおそれずに、もう少しわかりやすく述べますと、社長以外の取締役の方々が、ボーっとしているので、「お前ら、ボヤっとせんと、社長が悪いことせんように、もっときちんと内部統制を構築せいや!」と叱咤激励しなければならない、それでも悪いことをするようだったら、取締役会で社長を解職するとか、取締役としての地位を解任するための臨時株主総会を招集するように提案しなければならない、ということだと思います)。

↑なお、監査役自身が、違法行為差止め請求を行う義務については否定されています。当時の監査役の認識内容からみて、差止めが認められるだけの根拠事実にアクセスできていなかったということが理由のようです。

おそらくこの判決の話題の中心は、「ここまで社長を脅していても、まだ監査役に任務懈怠が認められるのか」という点にあるかと思いますが(控訴審でもこのあたりが争点になるかと)、この裁判では他にも興味深い論点がありまして、日本監査役協会の策定している「監査役監査基準」がどこまで裁判規範たりうるか、という問題です。この裁判では、細かい解釈はあるかもしれませんが、実質的には監査役監査基準を、セイクレスト社の監査役の注意義務を判断する規範としています

↑なお、平成25年10月25日に東京地裁から出された、ニイウスコー監査役を被告とする金商法に基づく虚偽記載責任訴訟でも、日本監査役協会策定の監査役監査基準が、監査役の注意義務の内容を検討するにあたり、考慮すべきものである、とされているようです。なお、このニイウスコー事件では、監査役さんは相当の注意の抗弁が認められ、責任は否定されています。

また、監査役の過失と「重過失」との区別に関する論点にも触れられています。もし監査役さんに重過失が認められた場合には責任限定契約の適用が排除されますので、8000万円ほどの損害賠償責任が認められるところでしたが、本判決は過失は認められるが、重過失は認められないとして、報酬2年分の範囲で責任を認めるものとなりました。現在国会で審議中の会社法改正法案には、社外だけでなく常勤監査役さんも責任限定契約を締結できる規定が新設されますので、なぜ「重過失」にはならなかったのか、そのあたりはまた別途解説してみたいと思います。

↑ただ、あまり詳しく書きますと、社外監査役に就任する方がいなくなってしまうかも、なので、やめとくかもしれません(^^;

セイクレスト事件では、判決文に社長の善管注意義務違反の行動が詳細に記されており、その悪質な態様との総合的考慮のもとで社外監査役の責任が認められたのかもしれませんが、私からすれば、上場会社の社外監査役さんとしては、辞任するよりも、辞任をこらえて、厳しい意見を社長に述べるほうが一般株主のために尽くしているように思えます。にもかかわらず、簡単に辞任していれば免責される見込みがあるのに、会社と株主のために社長と対決しても免責されない・・・というのは、どうも結論的には若干疑問も感じるのですが、いかがなものでしょうか。いや、ひょっとすると、このセイクレスト責任追及判決の論旨からすると、簡単に辞任するような監査役さんにも、善管注意義務違反ありとの厳しい判断が下されるのかもしれません。このあたりは、私の読み込みが不足しているところもあるかもしれませんので、ご興味がある方は、判決文をご検討ください。

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コメント

本日、アムスク株主総会決議取消判決。東京地裁。
http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65901266.html

投稿: 山口三尊 | 2014年4月17日 (木) 15時34分

三尊さん、おめでとうございます(まだ地裁段階ですが)。世間では、スチュワードシップコードの制定と併せて「モノ言う株主の復権」に話題が集中していますが、「モノが言いにくい一般株主が、どのようにモノが言えるようにすべきか」に尽力する方にも光があたるようにしなければいけませんね。三尊さんの会社法改正反対集会の様子をYOUTUBEで拝見した者としての感想です。消費者法は民事法、取締法のいずれからも、どんどん進化していますが、会社法では、一般的な少数株主保護法が制定されていないので、会社法の中で取り込まれることも不思議ではないはずですよね。なお、今回の決議取消の件、勝訴部分について勉強したいと思います。

投稿: toshi | 2014年4月19日 (土) 14時34分

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