日本企業は手続的正義にどう対応すべきか?-海外不正リスク
(4月10日午前 追記)
世間の話題は某ユニットリーダーさんの記者会見で持ち切りですが、双方とも、たいへんな状況になっています。記者会見は残念ながら視ていないのですが、8日に提出された不服申立書の全文は(公開されていますので)読ませていただきました。科学的見地からの反論がないとか、法律家の支援には違和感があるとの声も聞こえてきますが、問題になっている社内ルールによれば、このままだとユニットリーダーさんは懲戒処分のうえ、ルール上「研究費を返せ」と言われる立場ですから、法律家の支援が必要なのは当然ですよね(笑)。
今後は憲法76条(法律上の争訟性)に関する問題をどう扱うのかな・・・と。理研さんは、チームリーダーさんの契約任期を更新されましたし、また、懲戒には譴責もあれば出勤停止や解雇処分もあるわけでして(これまでの学術研究不正に関する裁判例は「懲戒解雇処分」事例だと思います)、理研さん側も、このあたりの配慮をしてくるのではないかと(いえ、もちろん個人的な見解ですが・・・)
さてここからが本題ですが・・・、皆様ご承知のとおり、武田薬品工業さんが、糖尿病治療薬「アクトス」のがん発症リスク開示問題で、6200億円の賠償認定(評決)を受けた、と報じられています。もちろん、今後、連邦地裁の裁判官の判断が出ることになり、最終結論は先になりますが、陪審の判断とはいえ、これにはとても驚きました。武田さんは年末にも糖尿病新薬の研究開発を断念して2000億円以上の損失を抱えておられましたが、素人考えでも、ほんと、新薬の開発はたいへんだなぁと感じます。
今朝(4月9日)の日経新聞記事によると、もう少し詳しい内容が解説されていて、原告側は新薬の危険性を裏付けるべき証拠(電子メール)を、武田側が「わざと破棄した」と主張していたということで、地裁判事も「武田側は、メールを適切に保全していなかった」と認定したそうです。つまり医学的な見地から、副作用があるとか、安全性に疑問がある、といった判断内容ではなく、本来保全しておくべきメールが保全されていない、ということをもってこれだけ多額の懲罰的損害賠償請求が認められることになる、というのは驚きです。
トヨタ自動車さんの事例でも、米国市民に情報開示する時期が遅かったことが問題となり、最近のアンチトラスト事例では、証拠を隠したり、廃棄したことが司法妨害罪として、新たな司法取引のネタにされています。今年、米国のディスカバり制度が改正され、少し緩やかになるそうですが(海外案件を取り扱っている某弁護士の方からお聴きしました)、日本企業が海外不正リスクに直面したとき、このアメリカの手続的正義の司法制度にどれだけ対応できるのか、とても不安になりますね。
フォレンジックやディスカバり、また弁護士秘密特権やリニエンシーを含む米国刑事訴訟法の運用問題など、海外子会社リスクに直面する企業にとっては、手続的正義に関わる初動対応のミスが、莫大な損害賠償問題に発展することを、理解しておく必要がありますね。ここでもやはり予防と不正の早期発見に分けてコンプライアンス問題を考えることが肝要かと思います。
4月10日追記:フィナンシャルタイムズの翻訳記事「武田の米巨額賠償評決 一罰百戒の6200億円」が日経電子版有料サイトに掲載されており、さらに詳しく本件を報じています。
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