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2014年4月18日 (金)

監査役・監査法人責任追及訴訟で検討すべき「相当因果関係」の壁

昨日のセイクレスト・社外監査役責任追及判決に関するエントリーには、たくさんのアクセスをいただきまして、ありがとうございました。とくに続編を書くつもりはなかったのですが、皆さまのご関心が高いテーマなので、気になったところを個人的な意見として記しておきます。

最近は、監査役さんや監査法人さんが、株主や管財人から責任追及訴訟を提起されて敗訴してしまう事例が散見されます。監査を担当する人たちが損害賠償責任を負う判決は衝撃的ですが、みなさんどこに関心が向くのか・・・といいますと、いわゆる「善管注意義務違反」(任務懈怠)がどのようにして認められたのか、というあたりの不作為(作為義務違反)の事実ですね。

しかし、本当は重要だと思うのですが、あまり関心が向かないのが監査役や監査法人の監査見逃し行為と損害との因果関係の相当性です。会社の役員や会計監査人が善管注意義務違反で損害賠償責任が成立するための要件としては、任務懈怠と損害の間に相当因果関係が認められなければなりませんが、この因果関係が、あまりにも容易に認められているのではないか・・・という疑問です。

監査法人が適切な監査(一般の会計監査人に求められる注意義務を尽くした監査)をしていても粉飾や資産流用といった会計不正を発見できるかといえば、かなり疑問です。また、監査役についても、社長を脅したり、違法行為差止請求権を行使(裁判外でも可能です)したとしても、普段から監査役の要求をまったく無視する社長であれば、不正を止めることは困難です。つまり、適切な監査を行っていたとしても損害は発生していたのだから、任務懈怠と損害との間には相当因果関係は認められない、という理屈は成り立つように思えます。

しかし裁判になってしまうと、裁判官は、もし監査法人が、もし監査役が、このような行動をとっていれば不正を早期に発見でき、損害を食い止めたことができた可能性が相当高いと判断されます。今回のセイクレスト裁判でも、監査役が社長以外の取締役に対して内部統制を構築するよう勧告する義務に違反があったとして損害賠償責任が認められていますが、監査役側も、きちんと因果関係を争っています。「監査役が勧告をしたとしても、社長はふだんから取締役らの言うことをきかなかった。だから勧告しても、取締役らが内部統制を構築したとは考えられないから因果関係は認められない」と主張しています。

これに対して、裁判所は

「過去に取締役らも、何度か社長に苦言を呈しており、規約なども策定した経験があるのだから、監査役が勧告することで取締役らが動く可能性は、相当程度認められる、また、適切なリスク管理体制が構築されていれば、社長の不正行為は止められた蓋然性が高い」

として、監査役の任務懈怠と損害との相当因果関係をあっさりと認めています。でも、本当にそんな簡単なものでしょうか?以下は本当に個人的な考えです。

春日電機の事件では、監査役と会計監査人が一致団結してようやく社長の不正行為を止めることができました。また、作為義務を尽くした常勤監査役が他の監査役から常勤を解かれてしまった例もあります。監査役が告発をして証券取引等監視委員会が動いたから不正行為が止まった例もあります。法律家は(裁判の性質上)絶対的真実を追及するクセがありますから、どうしてもストーリー性を重視します。ストーリーが矛盾なく時間的経過に沿って流れていれば真実に近いと考えます。しかしそのストーリーは、真実だと判断する者にとって好ましい事実にすぎないかもしれません。

最近の認知心理学や行動経済学の研究では、人間が事実を見誤るクセとして、①わかりやすいストーリーに乗らない事実は排除する、②悪い結果・良い結果の功績を、どうしても一部の人間の行動にのみ着目して判断する、③ある出来ごとの原因と結果の関係を、自分にとって好ましい(都合のよい)ように理解する、といった問題を指摘しています。たしかに、法律解釈では、軌範的な因果関係の見方が成り立つものと思いますが、もう少し「人間が事実を見誤るクセ」に着目して、社長の不正行為を止められなかった原因がもっとほかにもある、ということを監査法人、監査役が主張立証することも考えられてよいのではないかと思います。

監査役はこうあってほしい、監査法人はこうでなければならない、といった軌範的な意味はよくわかるのですが、不正行為の予防や発見にどれだけ有効か、といった実態的な意味合いがあまり理解されていない・・・これも期待ギャップかもしれませんが・・・、そういったあたりが、会社法のグレーゾーンとして残されているのではないかという気がします。法律家と一般の方々とでこれから議論すべき問題ではないでしょうか。

4月 18, 2014 商事系 |

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