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2014年4月 1日 (火)

反社構成員ゴルフ場利用詐欺事件・最高裁無罪判決の射程距離

暴力団組員のゴルフ場利用に関する最高裁無罪判決(2014年3月28日最高裁第2小法廷)が様々なところで話題になっています(産経ニュースはこちらです)。組員のゴルフ場利用については、詐欺罪として全国の警察が摘発を行っており、3月も山形県警が強制捜査に踏み切りました。しかし最高裁は、組員によるゴルフ場利用の申し込みは詐欺罪の実行行為としての「欺罔行為」には該当せず、詐欺罪は成立しないとの判断を下しました(最高裁判決全文はこちら)。

組員が利用しているゴルフ場・・・という評判は(判決にもあるように)当該ゴルフ場の社会的信用を一気に悪化させ、業績にも多大な影響が及ぶおそれがあります。また、ゴルフコンペなどを許容していない限りは大きな問題にはならないとは思いますが、「利益供与」に該当してコンプライアンス違反という事態にもなりかねません。かといって、会員が同伴するビジターひとりひとりに「あなたは暴力団関係者ですか?」と確認することもむずかしいところで、この最高裁判決はゴルフ場経営者にとっては頭を悩ませるところではないでしょうか。

ただ、毎度申し上げているように、最高裁判決は基本的に極めて謙抑的な判断を下すものでありますので、この最高裁判決が結論として下している「暴力団関係者のゴルフ場利用については詐欺罪が成立しない」という判断が、現在もそのまま妥当するかどうかは別途検討する余地があると思います。現に昨日(3月31日)、同じ最高裁第2小法廷で下された同種判決では、暴力団組長のゴルフ場利用について、詐欺罪が成立して有罪が確定しています(こちらは4年ほど前の事例ですが、ゴルフ場側が、組長を同伴してきた会員に「誓約書」をとりつけていたようで、利用にあたり、明確に暴力団組員ではないことが条件とされていたようです)。

先の28日判決の事例では、本件被告人のゴルフ場利用申込は平成23年8月と9月になされています。しかし全国47都道府県でいわゆる「暴力団排除条例」が施行されたのは平成23年10月1日です。また、これに合わせて社団法人日本ゴルフ場事業協会が加盟ゴルフ場に対して対応策の実施を要請したのも同年10月11日付けです。つまり、本件事件が発生した直後から暴力団排除に対する社会の風がかなり変わっています。

上記最高裁判決の法廷意見(多数意見)を読むと、被告人に詐欺罪が成立しない理由のひとつとして「本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない」とあります。また「被告人は、他のゴルフ場使用を許可、黙認されていた例が多数あった」ことも挙げられています。つまり、世の中の環境が変われば、結論も変わりうることを最高裁の判決も認めているように思われます。

「欺罔行為」にあたるかどうかの判断についても、フロント担当者と被告人との間で、暴力団員ではないことの明示の意思表示はなかったことが示されていますが、たとえば世の中の風潮が「暴力団員がプレイをすることは断固拒否する」ということが徹底されていけば、「暴力団員でないこと」が黙っていても契約成立の当然の前提となるために、申告しないことが「相手をだます行為」と評価されることになろうかと思われます。これは、反社会的勢力との取引を開始した後に、取引を解消するための民事訴訟で「錯誤無効」が主張されているケースでも「要素の錯誤」の重要性認定にあたり、同様のことが言えるのではないでしょうか。

単純に条例が施行されたから・・・ということだけでは詐欺罪は認定されないかもしれませんが、その条例の施行により、「利益供与禁止」の風潮が生まれ、全国のゴルフ場の対応が徹底されてきたのであれば、たとえ申込の際に「暴力団員でないこと」の明示のチェックがなされなかったとしても、世の中の風潮の変化によって欺罔行為性が認定される、ということは十分にあり得ることだと思いますし、上記最高裁判決の射程距離もかなり制限的に理解しておくべきだと考える次第です(なお、もちろん上記最高裁判決からみて、会員に人物保証を求めることや、明示のチェック項目等を書面で残しておくことが望ましいのは申し上げるまでもありません)。

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コメント

たとえ暴力団の身分を隠してプレーしたとしても、対価は払ったのだから、詐欺罪の財産的損害はないですね。暴力団禁止の風潮のなかで、ゴルフ場になにがしかの「迷惑」はかかったでしょうけど、それは民事の損害賠償の問題。理論をこねすぎて詐欺罪を拡大させすぎだと思います。ストレートに適用できる犯罪を立法化してそれを使うべきです。

投稿: JFK | 2014年4月 6日 (日) 22時50分

JFKさん、コメントありがとうございます。ここのところ、最高裁第二小法廷で、立て続けに暴力団排除関連の判決が出ていますね。総括すると、企業に排除措置の徹底を求め、自助努力をしているところには警察が協力する、といったメッセージがあるように感じています。

投稿: toshi | 2014年4月13日 (日) 01時04分

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