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2014年5月30日 (金)

公認会計士の「不正との遭遇」と職業的懐疑心

本日(5月29日)の日経新聞ニュースによりますと、粉飾決算で会長らが逮捕されたインデックス社について、実は2007年の段階で、当時の会計監査人が架空循環取引を指摘していた(指摘によって同社は修正をしていた)と報じられています。当時、不適切な会計処理を指摘した監査人(監査法人)は、その年に監査契約打ち切り(正確には任期満了)となったそうですが、契約打ち切りを覚悟してでも、会計不正を許さなかった監査法人の姿勢は素晴らしいと思います。

ただ、この2007年の指摘問題については、当時から監査指摘事項書のような内部資料が流出していたもので、ここではリンクを貼りませんが、結構、業界では話題になっていましたね。なぜ監査法人作成資料が世に流出したのかはわかりませんが、不正リスク対応基準などが施行される以前から、監査法人さんが、指摘事項をきちんと書面にまとめることは「ごく普通に」やっておられたものと思いますし、まじめに不正監査に取り組んでおられた会計士さん方には、あたりまえの対応だったのかもしれません。

さて、このインデックス社の事例のように、会計不正事件が明るみにならなければ、なかなか会計監査人による不正の指摘といった事例には巡り会わないのですが、日本公認会計士協会さんは、5月23日、「監査業務と不正に関する実態調査」と題する会員アンケート調査の結果を公表しておられます。社会一般に対して、公認会計士が不正な財務報告とどのように対峙しているのか、その赤裸々な現実を公表したもので、いわゆる「期待ギャップ」を埋めるための第一歩として、たいへん評価すべき成果品だと思います。その調査結果から結果の評価・分析に至るまで、とても力のこもったものに仕上がっています。本年4月15日に当ブログでも結果概要が公表された段階で、「JICPA不正実態調査の読み方」と題して感想を述べさせていただきましたが、そのときの素朴な疑問に対しても、今回の報告書2頁で詳細に回答していただきました。

この実態調査の中で、なんといっても衝撃的なのは、マスコミでも取り上げられていたとおり、過去10年で、会計監査に携わっておられる中堅以上の会計士の皆様が、平均2件ほど不正と遭遇したと回答されておられることです。「ひとり平均で2件以上・・・、うーーん、結構多いのでは」といった感想を誰もが持たれると思います。もちろん、不正の内容としては、従業員の資産横領・流出という形態も多く、すべてが粉飾事案というわけではありません。しかし、会計監査人は、それほど不正を発見していながら黙っているのだろうか、それとも決算を修正させているのだろうか(たとえば先のインデックス事件のように)、将来の不正の危険については投資家に知らせる必要はないのだろうか、と若干の疑問を抱くところです。

それはともかく、4月の結果概要の公表時とは異なり、今回の正式版公表にあたっては、素直に最後まで読み、不正に立ち向かう公認会計士さんの赤裸々な姿に敬服しようと心に決めていたのですが、またまた(?笑)、どうしてもツッコミたくなってしまいましたので、一言だけ書かせていただきます。

先ほど、「ここ10年で一人当たり、会計監査人は平均2件の不正に遭遇している」との結果をご紹介しましたが、報告書8ページで紹介されている合計件数表を見ますと、一件も遭遇していない監査人が半分以上いらっしゃるのに対して、約3%の方が11件以上もの不正に遭遇していると回答されています(5件以上の方を合わせると、13%以上)。つまり、人数でいうと3分の2の会計監査人の方が、不正との遭遇は0または1回ということになります。また、「どうして不正と遭遇したのか」という、不正発見の端緒に関する質問に対しては、ダントツ(40%以上)で「証憑突合、文書の査閲等の監査手続きによる」ものと回答されています。つまり、偶然の出合い頭に不正に遭遇したのではなく、ご自身の疑惑解明に向けた対応によって不正に遭遇されている方が圧倒的に多いのです。

この結果から生じる素朴な疑問は、「このアンケートは、監査を担当する公認会計士の実力はすべて同じということを前提にしているのではないか?そもそも監査を担当する公認会計士にはそれぞれ実力の差があって、同じ事象を精査しても、不正に遭遇することができる会計士と、遭遇することが実力的に困難な会計士がいるのではないか?」といったところです。私、不正調査を本業としているものなので、ときどき会計士さんとお仕事をご一緒する機会がありますが、「不正調査」という会計監査とは若干異なる分野ではありますが、やはり公認会計士さんの実力の差というものは痛感するわけでありまして、不正との遭遇も、それなりの実力があるからこそ可能なのではないか、実力がなければ不正に遭遇すること自体ができないのではないか・・・とも思えるわけです。

誤解のないように、あらかじめ弁明いたしますが、私は「不正との遭遇が1件もない、ということは実力がない」ということを申し上げるつもりではありません。そうではなく、これほど不正との遭遇回数に差が生じるということは、たまたま財務報告に熱心な会社と、そうでない会社を担当した、という偶然だけでは済まない要素が、不正との遭遇回数には影響しているのではないか、と考えられるからです。そこに焦点を当てた質問がないかなあと探していたのですが、見当たりませんでした。

では、その実力の差とは一体なんだろうか?と考えますと、それは「とても頭が良い」とか「会計的素養に長けている」といった優秀さよりも、もっと泥臭いといいますか、基礎的なところといいますか、いわゆる職業的懐疑心をどれだけ発揮できるか・・・というところなんではないか、と思ったりするわけです(すいません、ここは全く門外漢なので、あくまでも素人的発想です)。優秀な弁護士といっても、それは法律構成が素晴らしいとか、切り返しの鋭い反対尋問で相手方証人をこてんぱんにやっつける、といった「頭の良さ」もあるかもしれませんが、私が訴訟の相手方にしたくない優秀な弁護士というのは、現場に出向いて丁寧に証拠を拾ってくるとか、関連判例をいくつも調べてくるとか、ともかく費用対効果を考えずに事件に勝つために人一倍汗をかくタイプの弁護士です。やはり会計士の方々の中にも、どんな事件でも職業的懐疑心を人一倍高めて、投資家のために熱心に重要な虚偽表示の可能性を検討するタイプの方々もいらっしゃると思いますし、そういった方こそ、不正監査というレベルでは実力者なのではないか・・・と考えるところです。

私の前著「法の世界からみた会計監査」の中でも、「なぜ弁護士には人気ランキングがあって、会計士にはないのか?」といったことを、まじめに検討してみましたが、会計士さんの実力というものは、図るモノサシがたくさんあって、いろんな角度から眺めると、ちがったランキングが出来上がってしまうものではないでしょうか。この実態調査報告書の最後のところで「不正と遭遇して、あなたはどのような顛末を迎えましたか?」という質問に、8%の会計士の方が「不正な会計処理は修正されなかったが、重要性の観点から最終的に無限定適正意見を表明した」と回答されています。これはとても危ないな・・と思います。自らのリスク管理に長けている会計士さんがこれを使うことについては何も言うことはありませんが、重要性の基準で、というのはおそらく経営者に何も言えない(勇気のない)自分を慰めるときにも使えてしまうような気がします。毅然とした態度をとり、たとえ契約を切られても「俺が会計基準だ」と言い切れるほどのかっこよさこそ、公認会計士の社会的使命を世間に印象付けるものではないかと思うところであり、そういったところを不正リスク対応基準が支える役割を果たせたらいいのではないか、と考えています(すいません、ひとこと・・・と言いつつ、また書きすぎてしまいました。今年も会計教育研修機構等でそれなりの貢献を果たしますので(笑)、どうか出入り禁止にはしないでくださいね>JICPAさま)

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2014年5月29日 (木)

誰にも迷惑をかけない粉飾決算のどこが悪いのか?

26126674_1世間を賑わせた粉飾事件をいろんな角度から眺める、というのはたいへん有意義なものと思います。山一證券の飛ばし→破たん事件については、当ブログでも過去にご紹介したように、監査を担当されていた伊藤醇さん、調査委員会の委員でいらっしゃった国廣正さんのご著書が有名ですが、最近はまた清武英利氏が「しんがり 山一證券最後の12人」を執筆されていて、お読みになった方も多いかもしれませんが、たいへん面白い内容です。

同族の名門企業の破たんとして、数年前に話題になりました岡山の林原社の粉飾決算事件についても、昨年8月に同社専務であった林原靖さんの著書を当ブログでもご紹介いたしましたが、同社の社長であった林原健さんの新刊「林原家-同族経営への警鐘」がまた発売され話題になっています。もうすでにいろんな書店さんで「ビジネス書部門ランキング1位」になっているようで、もはや紹介するまでもないかもしれませんが。

「林原家-同族企業への警鐘」 林原健著 日経BP社 1,620円(税込)

私もさっそく拝読いたしました。林原靖氏が書かれた本をご紹介したときにも書きましたが、だれがADR(裁判外での紛争処理手続き申請)の内部資料を新聞社にリークしたのか、という点は社長さんも「今でもわからない」と書いておられますが、もう一点、なぜ林原ほどの大会社が会計監査人を選任していなかったのか、という点については、かなり本書では踏み込んで説明されています(と同時に、なぜ弟さんの書かれた本では説明がされなかったのかが、なんとなく理解できました)。

ところで、上場会社であれば、不適切な会計処理を継続することは、株主に迷惑をかけることになりますので、法的にも、また道義的にも悪いことに異論をはさむ余地はありません。しかし、林原という名門企業、20年ほど前から粉飾を繰り返したことが調査委員会報告書には記載されていますが、非上場会社の場合はどうなのでしょうか。この点、弟の靖氏も、また兄である前社長の健氏も(健氏の場合は、明らかに、というわけではありませんが)100%、ほぼ同族で株を保有している株式会社で、粉飾はしていたけれども、金融機関から借りたお金で事業も順調に推移しており、借りたお金はきちんと返していた、倒産処理で判明したように、取引先にもほぼ100%弁済できていた、同族会社ではどこでもやっている・・・・・、このような状況で、なぜ粉飾決算をすることがそんなに悪いことなのか、このような状況で経営を止めた金融機関は(破たん処理を断行したことについて)どう考えるのか?といった疑問を呈しておられます。

たしかに金融機関を裏切る粉飾決算を行っていたものの、非常貸借対照表に基づく弁済率は(土地をたくさん保有していたこともあって)93%、経営は順調であったがゆえに長瀬産業さんが、同社の事業を巨額の買収費用をもって引き継いだというところをみると、「本当に林原社は破たん処理をやらなければならなかったのか」という(後出しジャンケン的発想ではありますが)疑問は残ります。ただ私が講演や書籍等で繰り返し述べておりますように、上場、非上場会社を問わず、リスク管理の本質は、企業価値算定にあたり、もはや「存在価値」ではなく「期待価値」が重視されつつあります。「何が起きているのか」ということ以上に、「これから何が起こるのか」という点にステークホルダーは関心を持っているのであり、期待価値に資するものでないリスク管理能力しか持ち合わせていない企業は、それだけでマイナス評価を受けてしまうのは、統合報告書(非財務情報と企業価値向上との関係記載)の有用性が議論されている現在において当然のことかと思います。

これだけグローバルに競争を展開しなければ利益が出せない時代において、経営判断のスピードは至上命題です。社長に経営判断および執行の権限を委譲して、トップダウンによるマネジメントを実践していかなければ競争に勝てないわけですから、コンプライアンス経営を担保するリスク管理能力についても、前向きの経営に活かす必要があります。ガバナンスや内部統制を整備することによる不正予防、発見には限界があることを、多くの人たちもある程度は理解しているはずです(リスク管理と企業の存在価値との関係)。国内、国外において、株式会社は激しい競争を繰り返しているわけですから、大きな不祥事は当然どこでも起きるはずです。では、その重大不祥事が発生する確率がこの会社にはどのくらいあるのか?・・・、これこそステークホルダーがリスク管理能力の「期待価値」として関心を向けるところです。

社長の暴走を止める力が本当にあるのかどうか、止める力があるとしても、効きが良すぎてビジネスチャンスまでも止めてしまうようなことがないかどうか、というまさに将来予測(期待価値)のための「リスク管理の見える化」が求められています。したがって、林原社のように、何十年もの間、取締役会が一度も開催されていない、監査役は身内で固められている、会社法上の大会社であるにもかかわらず会計監査人も設置していない、といったガバナンスの欠如が外から垣間見えたり、その結果として会計不正の事実が発覚してしまうと、たとえ現在の経営が順調であったとしても(存在価値に問題がないとしても)、将来にもっと大きな債務超過が発生した場合に、これを認知できない(期待価値)ということが起こりえます。

多額の融資を行っている金融機関にとって、将来の経営に黄色信号が灯る状況ともなると、たとえ結果的には「生かしておくべきだった」と評価されるような場面であったとしても、リスク管理の脆弱性や粉飾決算から、非常手段に出ざるを得ないと思いますし、スピード経営が求められ、社長への権限移譲がますます求められる時代となれば、この傾向はさらに強まるものと思います。ステークホルダーは、外からみえるリスク管理からしか、その企業の本質を洞察することはできないのです。

本書は、ガバナンスや内部統制、コンプライアンス経営に関心のある方にはお勧めの一冊ですが、後半部分には、同族企業ゆえに経営に難しい点に言及されていて、興味をそそります。研究部門と営業部門の対立、同族ゆえにはっきりとモノが言えない組織内力学など、(良い悪いは別として)同族企業が内包する経営リスクのようなものを知るうえで最良の一冊ではないかと思います。

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2014年5月26日 (月)

株主による組織再編等への差止請求とディスクロージャーの進展

本日(5月25日)の毎日新聞ニュースでは、経営統合や増資など重要な企業情報を発表前に報道された際の企業の情報開示が、以前より具体的な内容に変わりつつある、ということが、昨年の川崎重工、三井造船の経営統合を巡るリリースなどを題材にして詳しく報じられています(毎日新聞ニュースはこちらです)。経営統合や増資に関する情報は、とりわけ上場会社の一般株主(少数株主)にとっては投資判断に大きな影響を及ぼすものであり、証券取引所も、熱心に上場会社向けに指導をしているところです。

企業情報の開示制度(ディスクロージャー)は、金融商品取引法や証券取引所の自主ルールによって充実されていくようなイメージを持っていますが、現在国会で審議中の会社法改正との関連においても、今後の進展が注目されるところです。といいますのも、このたびの会社法改正では、現行会社法よりも広範に、株主の会社に対する差止請求権が認められることになるからです。とくに、これまでごく一部の組織再編にしか認められていなかったものが、(簡易組織再編を除き)広く組織再編等について認められることになります。たとえば吸収合併自体に反対の株主にとって、もし合併手続きに法令もしくは定款に違反する事由が認められれば、その差止を請求することができる、というものです。

この組織再編等への差止請求については、監査役による取締役の違法行為差止請求の場合とは異なり、取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反を根拠とすることはできないようです(そのような解釈が法務省担当者から示されています)。つまり対価が不当である、といった理由で組織再編行為を差し止めるということはできないことになります。もし対価が不当だとして合併に反対する株主は、これまでどおり株式買取請求権を行使して、会社側と協議が整わなければ、価格決定申立事件(非訟事件)を裁判所に提起しなけれならないということです。

しかし、対価の不当性を、これまでどおり株式買取請求権によって解決せよ、というのが会社法の姿勢であるならば、これを株主が適切に行使したり、裁判所が株式の公正価格を判断する(算出する)ために必要な情報が、会社から適時的確に開示されていることが前提になるはずです。つまり、会社が虚偽の情報を開示したり、出すべき情報をタイムリーに出さない、開示したとしても不明瞭な開示であり誤解を招く表現だった、という事態は、会社法上でも「法令違反」に該当する可能性が高いと思われます(たとえば東証の企業行動規範に違反する開示行為等)。

このように考えますのは、株式買取請求権の行使は、極力、会社と株主との情報の非対称性が排除されなければなりませんし、また価格決定申立事件に関する最高裁の最近の判決・決定に従うならば、裁判所が公正な価格を算定するためには、合併がなかった場合の株価を算定するだけではなく、合併によってどれだけシナジー効果が発生したのか(しなかったのか)を合理的な事情から判断する必要があるからです。

多数決原理によって、もはや組織再編はやむなしとして、退出のための法的ルールに従おうとしている(株式買取請求権を行使しようとしている)少数株主を、一方的に不利な状況に立たせる会社の行動は、事前規制によって(差止によって)排除するしか方法がないと思います。今回の会社法改正では、株主側が機会主義的行動によって株式買取請求権を行使することに、一定の制限を設けましたが、これと同じように、企業側の濫用事例を制御できるような法解釈も必要だと思います。企業再編時に、どれほどの情報開示が求められるかは、今回の毎日新聞ニュースにもあるように、時代の流れをよく見極めたうえで企業自身が判断しなければなりません。

改正法の法文を読みますと、今回の会社法改正で認められる株主の差止請求権の要件として、取締役の法令違反が求められているのではなく、会社自身の法令違反の存在が求められています。これはまさに会社に向けられた情報開示の義務違反を論じるにもふさわしい文言ではないでしょうか。価格決定申立事件が相変わらず急増している現在において、裁判所における(組織再編等における)企業価値算定の判断過程が、企業情報開示の在り方、ひいては株主による差止請求権行使の要件該当性にも影響を及ぼすようになれば、株主による差止請求権の行使についても、会社法における新たなエンフォースメント(少数株主による下からのエンフォースメント)になりうるのではないかとひそかに期待しています。

もちろん、株主の側からは、差止の訴えを本案とする組織再編行為等の差止仮処分命令の申立てがなされるのが実務ですから、裁判所による短時間での審理に耐えうるような「情報開示義務違反」の類型を検討する必要がありますが、株主による差止請求権が広範に認められるようになる今回の会社法改正は、けっしてM&A実務への影響が軽微だとは言えないように思います。

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2014年5月21日 (水)

会社法改正の議論から取り残されたD&O保険の現状

本日(5月20日)、化学メーカーである石原産業さんの、土壌埋め戻し材「フェロシルト」の不法投棄事件について、株主3人が元役員らに回収費用約489億円を会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の和解が大阪高裁で成立したそうです。和解内容は、元役員9人が計5000万円余の和解金を支払うこと、及びコンプライアンス上の不備があったことへの遺憾の意を表明すること、だそうです(ちなみに、地裁では元役員3名に対して損害賠償責任が認めるというものであり、双方から控訴されていました)。

先日の住友電工さんの株主代表訴訟における和解でもそうでしたが、「和解(和解勧告)に関する裁判所の所見」なるものは公表されないのですね。内部統制やコンプライアンス体制整備が問題とされた裁判として有名な神戸製鋼さんの株主代表訴訟では、和解を勧告するにあたり、「訴訟の早期終結に向けての裁判所の所見」と題する裁判所の見解というものが出されましたので、和解による終結ではあるものの、裁判所の一応の心証のようなものが垣間見えました。

株主代表訴訟が和解によって成立する場合に、とても重要な問題として、和解金の支払義務が認められた役員(元役員)について、D&O保険(会社役員賠償責任保険)が効くのかどうか、ということが挙げられます。最新号の旬刊商事法務でも「役員責任の会社補償とD&O保険をめぐる諸論点」と題する座談会記事が組まれており、D&O保険の実務に精通された方々による論点の解説がなされています。今回は対第三者責任との関係で、そして次回は株主代表訴訟との関係で解説がなされるようですが、きわめてタイムリーな話題ではないかと思います。

これだけ社外取締役の導入が喫緊の課題とされているにもかかわらず、社外取締役にとって極めて重要な問題である役員の賠償責任保険に関する運用状況があまり議論されていないというのも不思議な話です。まさに、この座談会の司会の方がおっしゃているとおり「これらの論点については会社法の世界では議論が止まっている」と思われます。

たとえば上記の石原産業さんのような株主代表訴訟が提起された場合、役員の方々が選任する代理人弁護士の着手金はどのように払われるのか、和解で終結した場合に、裁判所の公式な所見もなく、和解による解決金の支払いは(約款通りに)保険でカバーされるのか、なにか代理人弁護士側で、保険会社の支払い条件に合うような和解内容を検討する必要があるのか、といった問題です。以前少し書きましたが、最近は第三者委員会の報告書に沿って会社自身が元役員に対して責任追及訴訟を提起することがありますが、そこで認められた賠償額と、その後の株主代表訴訟で認められた追加賠償額との関係などにも関心が出てきます。

さらには、先日の住友電工さんの株主代表訴訟のように、海外不正に関する善管注意義務違反が問題となる場合、アメリカの刑事制度との関係で(たとえば刑事事件における証人適格の維持や弁護士秘匿特権の確保、行政当局との事実及び証拠の非開示合意などにより)元役員の故意、過失が存在しないことの立証方法を、日本の裁判所で提出できないケースも考えられます。こういったケースでは、どのような事情で和解に至ったのか、その経緯を保険会社に説明するにはどうすればよいのでしょうか。本来、こういったことは、社外取締役に就任するにあたり、きちんと保険の内容と支払に関する運用実務について理解しておきたいのですが、あまり関心が向けられていないのが現状です。

日本の成長戦略の一環としてガバナンス改革が唱えられている企業社会において、社外取締役が増える企業の先には、外国人機関投資家による株式保有が期待されているはずです。このようなM&Aをなぜ止めなかったのか、このような不祥事になぜ気がつかなかったのかと、社外取締役が矢面に立つケースが増えることは間違いないはずです。会社法を取り巻く法的環境が変化する中で、D&O保険の運用実務についても、(私も一生懸命勉強したいので)今後議論が進化することを期待しています。

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2014年5月19日 (月)

景表法への課徴金導入と企業の内部統制の整備・運用

昨年のメニュー偽装事件を受けた景表法(不当景品類及び不当表示防止法)等の改正法律案は、現在国会で審理中であり、まもなく改正法が成立する見込みです。消費者の生命、身体、財産の安全を確保するため、そこでは行政(監視体制の権限強化)、消費者(消費者基本法改正により、自己防衛のための商品表示に関するリテラシーを向上させ、自己防衛が困難な者については、情報の非対称性をできるだけ解消する)そして企業(内部統制システムの構築)それぞれに課題が与えられました。

そして、もっとも注目すべき景表法への課徴金制度導入については、とりあえず1年間、検討期間を設けることになっていましたが、消費者委員会(内閣府)における課徴金導入に関する議論が、いま急ピッチで進められています。中間とりまとめ案(「景品表示法上の課徴金制度の導入等の違反行為に対する措置の在り方」に関する中間整理)も4月に公表されており、その後の議論などを議事録等で拝見しておりますと、今後ますます企業の商品やサービスの表示に関する管理体制の構築が、極めて重要になることが窺えるところです。

まだ確定的ではないので、以下はあくまでも今後の景表法への課徴金制度導入の予想からの個人的意見にすぎませんが、景表法違反(有利誤認表示、優良誤認表示など、ただし不実証広告規制に関する表示ついては検討中)によって課徴金処分が発令される主観的要件として、「企業の故意または過失」が求められるようですが、議論の方向性として、この「故意または過失」の立証責任が、企業側に転換される可能性があります。これは企業側にとって極めて重要なポイントでして、もし主観的要件について立証責任が転換される、ということになりますと、企業側が適正な表示に関する管理体制の運用において問題がなかったことを合理的に説明することが求められることになります。

また、これも確定したものではありませんが、企業が被害者に対して任意に返金したことを課徴金制度において考慮する(課徴金算定金額から差し引く)という「自主返金制度」が検討されています。消費者側も、また一部の経済団体側も、この自主返金制度には、かなり歓迎ムードが漂っておりますので、この制度が実現する可能性もありそうですが、そうなりますと、景表法の基準に合わせて自主返金に関する社内ルールの制定などが必要になるはずです。ここまで企業の自律的な行動に配慮した事後規制はあまり聞いたことがありませんので、かなり期待をしております。

そして課徴金の減算・減免措置の導入です。いまの流れから行きますと、課徴金処分は、景表法上の排除措置命令と一連の手続きの中で判断されるそうですが、違法行為の抑止を目的とした行政制裁的な意味合いがありますので、平時における企業努力や、違法行為発見から再発防止まで、自浄能力が発揮されることで「違法行為の悪質性が低い」と判断されるのであれば、減算や減免の対象になることも考えられます(もちろん、今後の消費者庁の考え方など、いろいろと見解を聞いている必要はありますが)。課徴金制度が裁量行為ではなく、羈束行為を原則とするものであったとしても、こういった企業の努力が課徴金算定の判断基準に取り入れられるべきではないでしょうか。

なお、最後に申し上げますが、以上の見解は、課徴金処分が自律的行動に期待ができる「誠実な企業」にも適用されることを前提としています。弱者に迷惑をかけてでも収益獲得を図る「不届き者企業」のような悪質性の高い企業への事後規制手法として課徴金が適用される、という運用であればあてはまりません。そのあたりの、行政当局の運用に向けた方針がどうなるのか、今後の注目点かと思います。景表法は公益通報者保護法上の「通報対象事実」に該当しますし、都道府県の監督権限も強化されますので、今後は景表法違反事実への内部通報や内部告発も増えることは間違いありません。消費者行政と企業の内部統制システムの構築との関連性は、今後ますます強いものになりそうです。

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2014年5月14日 (水)

名誉毀損による損害賠償と第三者委員会調査

昨日(5月13日)の朝日新聞ニュースによりますと、福島県郡山市から除染事業を受注し、加盟業者に配分する業者団体「郡山市除染支援事業協同組合」が、事実と異なる報道で損害を受け、名誉と信用を傷つけられたとして、産経新聞社に約237万円の損害賠償と謝罪広告掲載を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こしたそうです。同組合が「事実と異なる」としているのは、同新聞3月19日付朝刊の「除染 使途不明3億円超か/郡山市発注/事業組合『裏金』?」という見出しの記事だそうでして、同組合は、「弁護士と公認会計士に依頼した調査の結果、使途不明金や裏金はなかった。記事で誤った情報が流布し、事実を明らかにするため対応せざるを得なくなった」として、弁護士報酬などを賠償するよう求めている、とのこと(朝日新聞ニュースはこちらです)。

サラっと読むと、なんの変哲もないような記事です。ただ、名誉毀損による損害賠償請求事件ですから、裁判では産経新聞さんの記事が事実なのかどうか、これから十分に審議されることになるはずです。だとしますと、なぜ、この期に及んで弁護士や会計士に依頼して真偽を確かめる必要があったのでしょうか。同組合としては、裁判上での有利な証拠を収集するために「不正調査目的」で依頼したわけでもないと思われますし、「事実無根のけしからん記事だ!」と、すぐに訴訟を提起すれば良いのに・・・と、少し疑問を抱くところです。

ただ、記事の最後のほうに、「事実を明らかにするために対応せざるをえなくなった」とあります。なるほど、つまり、この弁護士や会計士の依頼というのは、いわゆる第三者委員会的な業務を依頼したのでは、と推測されます。大手の新聞社に疑惑記事を掲載されて、同組合は有事に立ち至ってしまった、このままでは同組合の社会的信用が低下し、仕事の受注にも影響が出てしまい、ひいてはステークホルダーに多大な迷惑をかけてしまう、ということから、自社の身の潔白を証明するために第三者委員会を設置して(もしくは第三者的な調査委員を選任して)、潔白を明らかにした、ということでしょうか。つまり、損害額は237万円ということだそうですが、もし、この第三者委員会調査による報告がなければ、もっと信用毀損による損害額は増えていた、ということで、名誉毀損行為と第三者委員会調査の費用とは相当因果関係がある、と主張されているものと思います。

もし、原告側の主張が裁判で認められるようなことになると、不祥事発生時の第三者委員会の活動は、あくまでも原告側の訴訟準備活動(有利な証拠収集方法)ということだけではなく、有事に直面した企業の信用を維持するために不可欠の(必須とまでは言えなくても、相当程度有効な)企業行動であることを、裁判所も認めることになりそうです。うーーーん、なんか弁護士報酬等が損害の範囲内にあると、認定されるかどうかは微妙にも思うのですが、ともかく裁判所がどのように判断されるのか(そもそも、そこまで判断されずに済んでしまうのか)、興味深い提訴ではありますね。

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2014年5月12日 (月)

国際カルテル、身柄引き渡し条約の執行開始か?

先週に引き続き、アンチトラスト法違反に関する話題ですが、本日は備忘録程度の内容です。ちょうど1週間前の5月5日の日経法務インサイドにて「国際カルテル被告、海外で初の引き渡し 米の追及、日本も影響注視~企業、防止策の徹底 急務」と題する記事が掲載されていました。そういえば、4月16日、17日の朝日新聞ニュースにて、防振ゴム部品の価格調整の件で、日本のB社常務執行役員ら3名が、アンチトラスト法違反にて米国で起訴されたことが報じられていました。あとの1名の方は1年6か月の禁固刑を司法取引(有罪答弁合意)によって合意していますが、この3名の方々は、禁固刑の実刑に合意することを拒否した模様、とのこと。ちなみに実刑合意をした日本人は、これまで24名に上るそうです。

上記日経記事にもあるように、アンチトラスト法違反でDOJ(米国司法省)から捜査の対象とされ、訴追の方針が固まった場合、日本企業の役職員がとるべき選択肢はふたつです。ひとつは企業と同様、役職員個人も有罪合意答弁を行い、たとえば1年や1年半ほどの禁固刑を司法取引で合意すること、そしてもうひとつは禁固刑になるくらいなら、司法取引を拒否して、米国で最後まで裁判で争う、というものです。ただし、司法取引なら1年か1年半の禁固刑ですが、裁判で争うとなれば(無罪を勝ち取ればよいですが、仮に有罪が確定した場合)10年以下の禁固および1億円程度以下の罰金ということになります。弁護士費用もずいぶんと変わるかもしれませんね。

もう海外旅行もあきらめて、日本から出国しないとわりきるのであれば、後者の選択もあるかな、と考えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これまでは、身柄引き渡し条約の執行ということもなかったので、この選択も十分にありだと思っておりました。しかし、身柄引き渡し条約に基づく執行の可能性が上記日経記事のように高まったとすれば、かなり厳しい選択肢になりそうですね。今回はドイツ人社員ということでしたが、これが日本人の幹部社員ということになりますと、俄然召喚リスクは高まりそうです。前にも申しましたとおり、海外子会社において、実際にカルテルに関わった社員だけでなく、日本本社において、事件に関連するメールや電子文書を廃棄する、他の幹部職員に虚偽供述を指示する、といったことも、重大犯罪として捜査の対象となりますので、今後のDOJの執行状況についてはさらに注意をしておく必要がありそうです。

もちろん、不正防止の対策をとることと、万が一、カルテル行為が社内で判明した場合には速やかに自主申告することが重要であることは言うまでもありませんが。。。

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2014年5月 8日 (木)

住友電工カルテル株主代表訴訟にみるリニエンシーの威力

すでに各紙で報じられているように、ファイバーケーブル、ワイヤハーネスといった二つのカルテル事件に関する住友電工元役員さんら22名に対する株主代表訴訟について、5月7日、大阪地裁で和解が成立したようです。解決金5億2000万円、そして外部委員会の設置、再発防止策の策定といった条件も付せられているようですが、これまでの株主代表訴訟における和解金額としては過去最高とのこと。ちなみに、4年前の本件提訴に関するエントリーはこちらです(ご参考まで)

本件裁判では、原告株主の方々は、リニエンシー(自主申告制度)が機能していれば、総額88億円もの課徴金を納付せずに済んだにもかかわらず、他社に比して活用が遅れたのは、これを機能させるための内部統制システムの構築義務を怠ったのであり、この点において善管注意義務違反があったと主張されていたものと思います。和解金額の高額さに驚き、リニエンシー制度が機能しないとたいへんなことになる、と感じておられる方も多いのではないでしょうか。

私もニュースで知りえた事実くらいしか把握していませんし、和解という解決だったので、推測の域を超えませんが、たしかに経営者を震撼させる結末です。ただ、できればもう少し詳しい裁判の経過などを把握したほうがよさそうですね。内部統制構築義務といっても、おそらくレベルとしては、①公正取引委員会の立ち入りがなされる以前において、(つまり平時において)リニエンシーの運用チェックを含む「カルテル防止体制の整備」を怠っていたこと、②住友電工さんは、本件ファイバーケーブル事件における立入調査の前後に、合計4件ものカルテル調査を受けていたのであり、相当に社内でピリピリしていたにもかかわらず、リニエンシー制度の運用についての相応の注意を怠っていたこと(いわゆる黄色信号における不作為)、③本件ファイバーケーブル事件の立入調査を受けた後、すぐに事後申告制度を活用していれば30%の課徴金減額を受けることができたのに、それすら対応を怠っていたこと(いわゆるクライシスマネジメント上のミス)といったところで分けて考える必要がありそうです。

本件で和解に至った要因が、①の事情にあるとすれば、それこそ他社さんでも今すぐに内部統制の整備運用のチェックをしなければならないでしょうし、②または③の状況にあったとすれば、これは住友電工さん特有の事情に基づくところも大きいように思われます。ただ、いずれにせよ、リニエンシー制度は、普段からその(内部通報制度の改善等)運用チェックをしていなければ、たとえば③のような事態に、速やかに社内調査で事実を把握し、申請に必要な証拠をそろえることもできません。したがって、やはり内部通報制度をはじめ、平時からの内部統制システムの運用チェックが大切であることは言うまでもありません。

以上は、リニエンシー制度と内部統制の問題ですが、本件ではもうひとつ忘れてはならない問題があります。それは、手続法上の問題、つまり公正取引委員会の調査書類について、裁判所が公取委に文書提出命令を出していた点です。住友電工の元役員の方々は、カルテル事件において公正取引委員会でいろいろと供述をしているのですが、その供述調書を、本件代表訴訟で提出するよう、裁判所が公正取引委員会に命じました。どのような証拠書類が本件事件に関連するのかは、裁判所自身がインカメラ手続きで事前に精査し、その結果、段ボール3箱分ほどの書類が原告側に提出されたそうです。住友電工の元役員さんらは、公正取引委員会の審判手続きだからこそ、自由に供述していたことが推測され、後日の株主代表訴訟においても供述調書が証拠として使われるとは思ってもいなかったかもしれません。このあたりは、今後、いろいろなところで議論の対象になりそうです。

リニエンシーの遅延によって、経営者に高額の賠償責任が認められるかもしれない・・・という点が、このたびの和解によって世に示されたことの影響は大きいはずです。たとえ不祥事が発生したとしても、それをどうやって管理部門が早期に発見するか、そして事実関係を明らかにして、申請に必要な証拠をそろえるか・・・、これはまさに内部通報制度の運用上の工夫にかかっていると思います。これは日本における独禁法違反事件に限りません。アンチトラスト法違反事件では言うまでもなく、4月25日に公表された日本交通技術社の第三者委員会報告書18頁から19頁にも取り上げられているように、海外腐敗行為防止のためにも、政府主導の腐敗行為受付窓口の存在が紹介されています。海外のFCPA関連だけでなく、日本の手続きの上でも、こういった自主申告は有利に援用できるものと思います(ちなみに日本交通技術社第三者委員会の報告書では、海外不正行為に限っては、社員に内部通報義務を課すべき、としている点は注目に値します)。

本件カルテル事件の後、住友電工さんは、欧州裁判所主導によるカルテル事件の制裁手続きでは、一番最初に自主申告を行い、その結果、190億円ほどの制裁金を免れています。不正の早期発見にまじめに取り組めば、リニエンシーは機能する可能性が高いはずです。こういった重大裁判については、結果の重大性については知ることができても、では他社にとっての発生確率を知ることはなかなか困難です。先ほど①から③まで、どのような条件で善管注意義務違反が疑われたのか、さらに文書提出命令によって得られた証拠が、原告主張事実の立証にどれほど役に立ったのか、そのあたりの裁判所の心証など、どなたか事件に近い方による解説などもいただければ他社の参考にもなるかもしれませんね(和解の条件として、内容は公表しない・・・となっているのであれば無理かもしれませんが)。

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2014年5月 7日 (水)

裁判は、起こすところに意味がある

皆様、ゴールデンウィークはいかが過ごされましたでしょうか。私は諸事情ございまして、ブログ更新もお休みさせていただきました。ひさしぶりの更新です。

日曜9時のTBS池井戸ドラマ「ルーズベルト・ゲーム」の第2話、イツワ電機が青島製作所に知財訴訟を提起してきましたが、裁判は勝つためにやるのではない、起こすところに意味がある、と青島製作所の社長(主人公-唐沢寿明)が語っていましたね(実際、あの程度の裁判でマスコミに報じられるということはないと思いますが・・・(^^;  )。今後の展開が楽しみです。

さて、東京海上日動さんの社員の方が、会社を相手取り、不当な降格が行われたとして3000万円の損害賠償請求訴訟を提起したことが朝日新聞で報じられました(朝日ニュースはこちらです)。いわゆる保険金不払いは会社の指示だったにもかかわらず、上司から責任を押し付けられ、不当に降格処分になった」というもの(まさにルーズベルト・ゲーム第2話と同じようなお話ですね)。記事では、「訴状では『会社は組織ぐるみで不払いを隠しており、会見内容は虚偽である』と指摘している」と報じられています。

東京海上日動さんの名誉のために申し上げますが、もちろん、この記事だけでは、原告社員の方の主張の真偽はわかりません。ただ、最近の風潮から、こういった裁判、ホントに「起こすところに意味がある」といったことを考えてしまいます。とりわけ原告側の手持ち証拠が不足していて、立証責任を尽くすことが難しいケースでは、不当提訴にならないかぎりは、とりあえず裁判を起こしてみる、という戦術もありかな・・・と思います。

先日、海上自衛隊いじめ自殺問題の逆転高裁判決(正確には損害賠償額の大幅上積み)が出ました。高裁で逆転裁判が出たことについては、海上自衛隊側の裁判上での説明が虚偽であることを示す資料(アンケート用紙は紛失した→アンケート用紙は存在する)が内部告発で公表されたことによるところが大きかったものと思われます(なお、先日、この内部告発をされた隊員の方は、公益通報に該当する可能性があり処分されずに済むことになった、報じられていましたね)。組織から隠ぺいを指示された社員が、このように裁判で苦しんでいる仲間がいることを知り、良心に従い思い切って内部告発に動く、ということは十分に考えられます。

東京海上日動さんの件も、このような裁判が起こされ、組織ぐるみの保険金不払いに関する指示の有無が争点となった場合、内部告発によって明るみになる事実があるかもしれません(ニュースには原告代理人のお名前も掲載されていますね)。こういった裁判は、勝つか負けるかは別として、やはり起こすところに意味がある事件の典型ではないかと思います。

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