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2014年5月21日 (水)

会社法改正の議論から取り残されたD&O保険の現状

本日(5月20日)、化学メーカーである石原産業さんの、土壌埋め戻し材「フェロシルト」の不法投棄事件について、株主3人が元役員らに回収費用約489億円を会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の和解が大阪高裁で成立したそうです。和解内容は、元役員9人が計5000万円余の和解金を支払うこと、及びコンプライアンス上の不備があったことへの遺憾の意を表明すること、だそうです(ちなみに、地裁では元役員3名に対して損害賠償責任が認めるというものであり、双方から控訴されていました)。

先日の住友電工さんの株主代表訴訟における和解でもそうでしたが、「和解(和解勧告)に関する裁判所の所見」なるものは公表されないのですね。内部統制やコンプライアンス体制整備が問題とされた裁判として有名な神戸製鋼さんの株主代表訴訟では、和解を勧告するにあたり、「訴訟の早期終結に向けての裁判所の所見」と題する裁判所の見解というものが出されましたので、和解による終結ではあるものの、裁判所の一応の心証のようなものが垣間見えました。

株主代表訴訟が和解によって成立する場合に、とても重要な問題として、和解金の支払義務が認められた役員(元役員)について、D&O保険(会社役員賠償責任保険)が効くのかどうか、ということが挙げられます。最新号の旬刊商事法務でも「役員責任の会社補償とD&O保険をめぐる諸論点」と題する座談会記事が組まれており、D&O保険の実務に精通された方々による論点の解説がなされています。今回は対第三者責任との関係で、そして次回は株主代表訴訟との関係で解説がなされるようですが、きわめてタイムリーな話題ではないかと思います。

これだけ社外取締役の導入が喫緊の課題とされているにもかかわらず、社外取締役にとって極めて重要な問題である役員の賠償責任保険に関する運用状況があまり議論されていないというのも不思議な話です。まさに、この座談会の司会の方がおっしゃているとおり「これらの論点については会社法の世界では議論が止まっている」と思われます。

たとえば上記の石原産業さんのような株主代表訴訟が提起された場合、役員の方々が選任する代理人弁護士の着手金はどのように払われるのか、和解で終結した場合に、裁判所の公式な所見もなく、和解による解決金の支払いは(約款通りに)保険でカバーされるのか、なにか代理人弁護士側で、保険会社の支払い条件に合うような和解内容を検討する必要があるのか、といった問題です。以前少し書きましたが、最近は第三者委員会の報告書に沿って会社自身が元役員に対して責任追及訴訟を提起することがありますが、そこで認められた賠償額と、その後の株主代表訴訟で認められた追加賠償額との関係などにも関心が出てきます。

さらには、先日の住友電工さんの株主代表訴訟のように、海外不正に関する善管注意義務違反が問題となる場合、アメリカの刑事制度との関係で(たとえば刑事事件における証人適格の維持や弁護士秘匿特権の確保、行政当局との事実及び証拠の非開示合意などにより)元役員の故意、過失が存在しないことの立証方法を、日本の裁判所で提出できないケースも考えられます。こういったケースでは、どのような事情で和解に至ったのか、その経緯を保険会社に説明するにはどうすればよいのでしょうか。本来、こういったことは、社外取締役に就任するにあたり、きちんと保険の内容と支払に関する運用実務について理解しておきたいのですが、あまり関心が向けられていないのが現状です。

日本の成長戦略の一環としてガバナンス改革が唱えられている企業社会において、社外取締役が増える企業の先には、外国人機関投資家による株式保有が期待されているはずです。このようなM&Aをなぜ止めなかったのか、このような不祥事になぜ気がつかなかったのかと、社外取締役が矢面に立つケースが増えることは間違いないはずです。会社法を取り巻く法的環境が変化する中で、D&O保険の運用実務についても、(私も一生懸命勉強したいので)今後議論が進化することを期待しています。

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