内部統制評価-会計監査人と第三者委員会にズレはあるか?
今年は「内部統制ブームの再来か」と、当ブログでは再三申し上げておりましたが(たとえば昨年12月のこちらのエントリー)、世間は予想どおりの展開になってきました。会社法改正(企業集団内部統制、運用チェックの法制化等)、景表法改正(製品表示の適正性を確保するための体制の整備)、取締役の法的責任論(住友電工株主代表訴訟等)、そして6月28日の日経朝刊でも報じられていました社会福祉法人改革です。株主総会型のガバナンスを社会福祉法人に義務化するとなりますと、記事にもあるように組織の内部統制への関心が高まるわけでして、もし厚労省が本気で進めるのであれば(成長戦略ですから本気だと思いますが)、一般社団法人の関係者と同様、会社法の勉強をする方が増えるでしょうね。
さて、もう少しマニアックな内部統制の話題になりますが、6月2日のエントリーでご紹介したJBRさん(東証1部)の連結子会社における不適切な会計処理の事件、迷える会計士さんもコメントされているように、せっかく第三者委員会の報告書を受領したにもかかわらず、その10日ほど後に、再度、別の第三者委員会によって再調査を行う旨、リリースされています(6月14日付けリリースはこちら)。従前の第三者委員会報告によっても、会計監査人の疑義が残っているとのこと。従前の第三者委員会報告書は、日弁連ガイドラインに準拠して調査を行う旨宣言されていますが、会計監査人(大手の監査法人さん)は、この弁護士主体による第三者委員会報告に満足できなかったのでしょうか?迷える会計士さんが言われるように、調査スコープに問題があったのでしょうか?
この従前の第三者委員会報告書によりますと、JBR社本体について、内部統制には問題はなかった(もしくは内部統制の限界)と結論付けています。内部監査についても、監査役監査についても、子会社の不正を見抜けなかったことについては「やむをえないものだった」というのが結論のようです。「やむをえなかった」ということが、たとえば取締役・監査役の会社法上の善管注意義務違反はなかったと捉えるのか、それとも、JBR社のJ-SOX法上の内部統制に「開示すべき重大な不備」はなかったと捉えるのか、そのあたりは明確ではありませんが、いずれにせよ、内部統制を無効化するような一部役職員の行動があった以上は、当時の組織の資源からみて内部統制には問題はなかったと判断されているようです。
しかし、JBRのリリースを読みますと、今回の連結子会社の不正については、会計監査人の指摘を受けて、過年度の決算訂正に踏み切ることが明確にされ、現実には6月16日付けで内部統制の訂正報告書も提出されています。自社には内部統制に開示すべき重要な不備があったとしています。また、会計監査人も、過年度決算の修正および内部統制の訂正報告書提出を前提に意見を述べています。
ところで、これまでの実務として、過年度決算の訂正を行う場合には、ほぼ同時に過年度の内部統制報告書の訂正も行います。つまり過年度において内部統制は有効とは言えなかった、と修正することで、会計監査人の適正意見をもらうのが実務です。そこで、先の第三者委員会の「内部統制には問題なし」との判断のもとで、過去の内部統制は有効ではなかった、とする訂正報告書は出せるのでしょうか?(会計監査人としてはどう判断するのでしょうか?)しかも、先の第三者委員会報告書では、内部監査や監査役監査の適正性を判断するにあたり、「会計監査人から問題ない(特に指摘すべき点はない)と言われていたので、やむをえなかった」とされています。このあたりは、会計監査人からみてどうなのでしょうか?
上記のJBRの事案は内部告発が会計監査人に届いたことが不正発覚の要因でした。JBRでは、さらに別の不正疑惑について会計監査人が疑義を呈しているようなので、ひょっとすると、(内部告発者の更なる要求などに基づいて)調査スコープの追加が必要となり、再度の第三者委員会設置に至った、ということかもしれません。ただ、これは私の主観的な意見にすぎませんが、内部統制の有効性に関する第三者委員会と会計監査人の判断の食い違い、不正発見に関する会計監査人の役割といったところの意見の相違などが、今回の「再度の第三者委員会設置」につながっているようにも思えます。後ろからは監査人に届く内部告発、そして前からは第三者委員会の意見・・・、不正リスク対応基準が施行されている最近の会計監査において、監査法人は厳しい状況に置かれることが増えてくるのかもしれません。
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