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2014年6月30日 (月)

内部統制評価-会計監査人と第三者委員会にズレはあるか?

今年は「内部統制ブームの再来か」と、当ブログでは再三申し上げておりましたが(たとえば昨年12月のこちらのエントリー)、世間は予想どおりの展開になってきました。会社法改正(企業集団内部統制、運用チェックの法制化等)、景表法改正(製品表示の適正性を確保するための体制の整備)、取締役の法的責任論(住友電工株主代表訴訟等)、そして6月28日の日経朝刊でも報じられていました社会福祉法人改革です。株主総会型のガバナンスを社会福祉法人に義務化するとなりますと、記事にもあるように組織の内部統制への関心が高まるわけでして、もし厚労省が本気で進めるのであれば(成長戦略ですから本気だと思いますが)、一般社団法人の関係者と同様、会社法の勉強をする方が増えるでしょうね。

さて、もう少しマニアックな内部統制の話題になりますが、6月2日のエントリーでご紹介したJBRさん(東証1部)の連結子会社における不適切な会計処理の事件、迷える会計士さんもコメントされているように、せっかく第三者委員会の報告書を受領したにもかかわらず、その10日ほど後に、再度、別の第三者委員会によって再調査を行う旨、リリースされています(6月14日付けリリースはこちら)。従前の第三者委員会報告によっても、会計監査人の疑義が残っているとのこと。従前の第三者委員会報告書は、日弁連ガイドラインに準拠して調査を行う旨宣言されていますが、会計監査人(大手の監査法人さん)は、この弁護士主体による第三者委員会報告に満足できなかったのでしょうか?迷える会計士さんが言われるように、調査スコープに問題があったのでしょうか?

この従前の第三者委員会報告書によりますと、JBR社本体について、内部統制には問題はなかった(もしくは内部統制の限界)と結論付けています。内部監査についても、監査役監査についても、子会社の不正を見抜けなかったことについては「やむをえないものだった」というのが結論のようです。「やむをえなかった」ということが、たとえば取締役・監査役の会社法上の善管注意義務違反はなかったと捉えるのか、それとも、JBR社のJ-SOX法上の内部統制に「開示すべき重大な不備」はなかったと捉えるのか、そのあたりは明確ではありませんが、いずれにせよ、内部統制を無効化するような一部役職員の行動があった以上は、当時の組織の資源からみて内部統制には問題はなかったと判断されているようです。

しかし、JBRのリリースを読みますと、今回の連結子会社の不正については、会計監査人の指摘を受けて、過年度の決算訂正に踏み切ることが明確にされ、現実には6月16日付けで内部統制の訂正報告書も提出されています。自社には内部統制に開示すべき重要な不備があったとしています。また、会計監査人も、過年度決算の修正および内部統制の訂正報告書提出を前提に意見を述べています。

ところで、これまでの実務として、過年度決算の訂正を行う場合には、ほぼ同時に過年度の内部統制報告書の訂正も行います。つまり過年度において内部統制は有効とは言えなかった、と修正することで、会計監査人の適正意見をもらうのが実務です。そこで、先の第三者委員会の「内部統制には問題なし」との判断のもとで、過去の内部統制は有効ではなかった、とする訂正報告書は出せるのでしょうか?(会計監査人としてはどう判断するのでしょうか?)しかも、先の第三者委員会報告書では、内部監査や監査役監査の適正性を判断するにあたり、「会計監査人から問題ない(特に指摘すべき点はない)と言われていたので、やむをえなかった」とされています。このあたりは、会計監査人からみてどうなのでしょうか?

上記のJBRの事案は内部告発が会計監査人に届いたことが不正発覚の要因でした。JBRでは、さらに別の不正疑惑について会計監査人が疑義を呈しているようなので、ひょっとすると、(内部告発者の更なる要求などに基づいて)調査スコープの追加が必要となり、再度の第三者委員会設置に至った、ということかもしれません。ただ、これは私の主観的な意見にすぎませんが、内部統制の有効性に関する第三者委員会と会計監査人の判断の食い違い、不正発見に関する会計監査人の役割といったところの意見の相違などが、今回の「再度の第三者委員会設置」につながっているようにも思えます。後ろからは監査人に届く内部告発、そして前からは第三者委員会の意見・・・、不正リスク対応基準が施行されている最近の会計監査において、監査法人は厳しい状況に置かれることが増えてくるのかもしれません。

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2014年6月25日 (水)

刑事捜査に日本版司法取引導入か?-法制審の方向性

今朝(6月24日)の読売新聞のトップ記事では「司法取引導入了承へ-経済・組織犯罪で」とあり、法制審がわが国にも司法取引の捜査手法を導入することを容認したことが報じられています。証人に刑事責任を追及しないと約束したうえで証言をさせる刑事免責制度や被疑者が他人の犯罪を申告した場合に起訴を見送るといった協議・合意制度が検討されている、とのこと。独禁法違反事件ではリニエンシー制度に関連して(事実上)刑事免責制度に近い運用がされていますが、日本版司法取引の導入は、たいへん注目すべきニュースです。

取調べの可視化導入による立件の困難性への対応・・・ということのようですが、最近の刑事司法の国際共助からすると、あるべき方向性かもしれません(ただし日弁連は反対の意向を示しています)。司法取引による捜査手法が諸外国でも導入されているのであれば、司法共助の視点から、これに準じる制度を日本にも導入する、という流れは自然ではないかと。詐欺事件や薬物事件など、海外の主犯格による犯罪から日本の安全を守るための国際共助はますます求められるところだと思います。

捜査当局としては、主犯格をピンポイントで摘発したいわけですが、振り込め詐欺などでもなかなか摘発が困難な状況にあります。他人に銀行預金通帳やカードを交付する目的で、銀行支店の行員に対して預金口座の申し込みを行う行為について、最高裁は「たとえ自分の口座を作る手続きであったとしても、後日自分で使うのではなく、他人に使わせるために銀行と契約をする行為は、『人を欺く行為』である」として詐欺罪の成立を肯定しましたが(平成19年7月17日決定 刑集61巻5号521頁)、学説にはこれに反対の方も多く、かなり微妙な事案です。しかしそれでも、主犯格まで処罰するためには、末端の関与者も(詐欺罪として)捕捉する必要性が高いということでしょうか。司法取引制度が導入されますと、こういった事案において、機動的かつ柔軟に、主犯格のみを立件するためには有用かと思います。

ただ、経済犯罪や組織犯罪に限定して導入されるようなので、業務上過失致死傷罪などが問題となるケースには適用されないようです。航空管制官ニアミス事件最高裁判決や、JR福知山線脱線事故における歴代トップの責任追及事件のように、組織としての構造的欠陥が問題となるケースでは活用は困難なようです。現場の責任者に刑事免責を約束して、本当の事故原因はどこにあったのか、どのような人為的ミスが本当の原因なのか、正直に証言してもらうことが、事故の再発防止に役立つのではないかと思います。このような組織の構造的欠陥を解明するためにも、刑事免責制度の活用場面が広がればいいのですが(これはこれで、また人権上の問題や、偽証横行のおそれ等が課題としてあるのでしょうね)。

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2014年6月23日 (月)

会社法改正法案成立-社外取締役への期待というけれど・・・

すでに皆様ご承知のとおり、6月20日に会社法改正法案が成立しました。日曜日の日経新聞の社説でも取り上げられ、社外取締役制度の導入問題に焦点をあてて「企業統治の質を競え」とありました。日経だけでなく、どの新聞でも、上場会社における社外取締役の増員問題が話題の中心です。

ただ、コーポレートガバナンスの向上・・・という意味で社外取締役の導入が推奨されることは世間で語られているとおりだと思いますが、会社法を取り巻く環境を考えた場合、社外取締役の責任についても今後検討されてもよいのではないかと考えています。いやむしろ、社外取締役を増員せよ、といった風潮の中で、社外取締役の法的リスクをも承知の上で就任しなければ痛い目に合うのではないか、と危惧します。

まず、会社法改正のグレーゾーンとして当ブログでも取り上げた「特別支配株主の売渡請求」の課題です。特別支配株主の少数株主への株式売渡代金の支払い担保は、結局のところ対象会社の取締役の「承認」問題に委ねられることになりました。特別支配株主が存在する対象会社の社内取締役には実質的に「承認」の可否を検討することは期待できないわけで、当然社外取締役に負荷がかかります。M&Aにおいて、この制度はおそらく多用されることになりそうですから、非常に厳しい立場に立たされる社外取締役さんが増えるはずです。

また(これも当ブログで再三申し上げてきたところですが)、監査等委員会設置会社という機関設計を選択することは、スピード経営に資することが言われていますが、逆に言えば監査等委員会委員たる社外取締役にとっては、よほどしっかりと社長を監視しなければ、暴走を未然に止めることはできず、また不祥事発覚時において法的責任を問われるリスクも増えるものと予想されます。社外取締役として、内部監査部門の人員を厚くすること、内部監査部門のスキルを向上させることを会社側に要求し、その連携を図ること(内部統制監査)は大前提であり、社長さんが監査の重要性を十分に理解しておられる場合は別として、これまでの(常勤監査役制度を前提とした)社外監査役の雰囲気で社外取締役を引き受けることはできないものと考えています。

そしてなんといっても「株主との対話の時代」の到来です。6月17日の朝日新聞ニュース(電子版)でも報じられていましたが、リソー教育社の粉飾決算について、元株主ら7名が虚偽記載責任を問う裁判を提起したそうです。株主との対話はガバナンスや内部統制がしっかりしていることが前提なので、何か問題が発生して株価が下落した場合、開示責任を問う裁判は今後も増えるものと予想しています。上場会社にとって、情報開示は役員の利益相反行為になることが多いのはどなたでもご承知のとおりです。誰だって会社や役員にとって都合の悪いことは隠したり、少し歪めて開示したくなります。それを「ありのままに伝えなければ」と意見を述べることができるのは社外役員しかいないかもしれません。普段はKYはご法度ですが、社内常識が蔓延している状況では、あえて社外取締役はKYにならなければいけないかも?ということです(まあ、当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

社外取締役制度の「期待ギャップ」(会社と株主との期待認識の食い違い)が今後は間違いなく発生すると思います。リーガルリスクを少しでも減らすためには、各社が「当社では社外取締役に何を期待しているのか」きちんと機関投資家や一般の投資家に説明することが求められるのでしょうね。もちろん「ひな型」が通用するほど甘いものではありません。

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2014年6月18日 (水)

総会出席者が足りず、役員選任議案が審議未了となった事例

本日の参議院法務委員会でも会社法改正法案の審議がなされなかったようで、実質、あと委員会は1日しかありません。ということは最終日に強行突破?で法案成立ということになるのでしょうか?個人的な事情ですが、ここで会社法改正法案が成立しなければ、不都合なことがいろいろとあるもので・・・(^^:頼みますよ、ほんまに・・・。

さて、株主総会ネタが続きますが、本日(6月17日)の適時開示で「かなり痛いニュース(>_<)」を見つけてしまいました。任期満了となる取締役について、東証マザーズの某社定時株主総会にて新たに取締役の選任議案を上程しようとしたところ、株主総会当日になって出席株主数が定足数に満たない事態となり(しかもかなり少ない)、結局取締役が選任できなかった、とのリリースが出ています(すいません、ご興味のある方は、ご自身で適時開示から探してください)。ちなみに、定款で定時株主総会の定足数は排除されているものと思いますが、役員選任議案については、議決権行使株式数の3分の1以上の出席が(定款で排除されていても)定足数になります。

会社は今後、臨時株主総会を開催して、新たに取締役選任議案を上程するとのことで、それまでは取締役が不在ということで、会社法346条1項により「権利義務取締役」(新たに取締役が選任されるまで、そのまま退任取締役が残って仕事をすること)によって対応するそうです。

なんでこんなミスが発生するのか?・・・と一瞬あきれそうになったのですが、ひょっとすると単なるミスではなく、大株主を交えての社内での支配権争いが存在するのではないか、といったことも想像してしまいました(多くの包括委任状を持っていた大株主が突如欠席したとか・・・)。もちろん、単なる想像なので、もし準備不足によってこのような事態となるのであれば、やはり定時株主総会の準備は周到にやっておかねば「要らぬ憶測」を呼ぶことになりますので注意が必要ですね。

ところで同社は定時株主総会を終了して、改めて臨時株主総会を開催することとなるため、本日で取締役の方々が(任期満了で)退任されることになりましたが、後日、継続会として定時株主総会を続行する、ということはできないのでしょうかね?定足数が足りなくても株主総会は一応成立して開催しているわけで、継続会開催の決議は定足数に関係なく成立するようにも思えるのですが・・・議案の審議ができなかった以上、総会としての同一性が否定される、ということなんでしょうかね?(ひょっとして私の考えに基本的なミスがあるかもしれないので、あくまでも単なる疑問ということで)。

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2014年6月16日 (月)

株式会社による株主の議決権行使禁止の仮処分命令申立

いよいよ株主総会シーズン到来、ということで、今年も総会ネタを少しばかりご紹介したいと思います。

伊豆シャボテン公園のカピバラ虹の広場のオープンや、伊豆ぐらんぱる公園の新アトラクションの紹介など、心温まる適時開示で和ませていただいているソーシャル・エコロジー・プロジェクト社(JDQ)ですが、この心温まるリリースに挟まるように、6月11日、同社が株主の議決権行使を禁止する旨の仮処分命令申立を(東京地裁へ)行った旨、開示されています(開示リリースはこちらです)。また、同日、この仮処分の相手方株主が、東京地裁に対して、株主総会における検査役選任の申立を行っていることが明らかにされ、同社と一部株主の間におけるバトルが本格化している模様です(注-このバトルの内容や、紛争の対象とされている不動産の権利関係などは、以前からいろいろと話題になっていましたが、ここでは取り上げません)。

株式の帰属をめぐって株主間または会社と株主間で紛争が生じ、議決権行使の禁止が仮処分で争われる、という事例は比較的わかりやすいと思います。しかし、会社自身が、「当該株主が議決権を行使することは、株主共同利益を害するものであり、権利濫用にあたる」として、自社の株主による議決権行使の禁止を求めるような仮処分というのは、あまり聞いたことがないかもしれません。

株主による議決権行使の制限といえば、昭和56年商法改正前までは、株主総会の議題に対して、特別利害関係を有する株主の議決権行使が禁じられていましたが、同商法改正によってこの規定は廃止されています。株主が私利私欲のために議決権を行使することは、むしろ当然のことであり、たとえ議題に対して利害関係があったとしても議決権は制限されてはならないという理由だったと思います(現行法では、特別利害関係者が議決権を行使することで著しく不当な決議がなされた場合にのみ、決議取消事由となる可能性があるだけです)。また、このたびの会社法改正においても、実現はしませんでしたが、会社法制の見直し要綱の段階では、金商法規制違反株主に関する議決権行使の差止請求に関する条文の導入が検討されていました。ということで、株主の基本的な権限である議決権も、その行使が制限される場合がある、という考え方は、あながち間違いではないように思います。

ただ、それは立法論としてであり、解釈論として「株主共同の利益を害する権利濫用」というのは想定されるのでしょうか。株主総会で基準日における株主が議決権を行使することは、株主としての重要な権利行使であることは間違いないので、この議決権が会社法の解釈によって制限される、ということは果たしてありうるのか、という疑問が生じます。この点、過去には、権利濫用として議決権行使が仮処分命令によって制限された事例はあるようです。たとえば国際航業事件決定(昭和63年6月28日東京地裁決定)では、会社が申立人となり、株主に対して議決権行使の禁止を命じた仮処分が下されています(おそらく権利濫用ということで認められたものかと)。

また、株主総会の議事進行を妨害するおそれのある株主に対しては、会社が株主総会への出席禁止の仮処分を命じた例(東京三菱銀行事件-京都地裁平成12年6月23日)などもあります(なお、この事案は相手方株主のブログなどが公開されていますが、そこで公開されている事件の概要からしますと、かなり特殊な事案だと思われます)。

なお、会社が株主の議決権行使の禁止を求める仮処分の前例があるとしても、満足的仮処分に該当するはずですから、被保全権利や保全の必要性については厳格に審査されるように思います。保全の必要性については、上記ソーエコさんのリリース等でも詳細に述べられていますが、被保全権利はどうなっているのか、よくわかりません。会社法では議決権行使を差し止めることができるような規定はありませんし、総会決議取消権についても、会社自体には決議取消訴訟における原告適格は認められていません(国際航業事件や三菱東京銀行事件でも、このあたりは明確にはされていないようです)ので、仮処分命令申立事件の被保全権利は一体何なのか、釈然としないところがあります。

このように会社と一部株主との間で、議決権行使の是非が問題となっていますと、株主総会当日の議事進行についても影響が出てくるかもしれません。たとえば議決権行使の判断については議長に権限がありますので、総会議長が適正な議事進行を行っているかどうか、検査役を選任してチェックをしてもらいたい、というのが株主側の意向だと思われます。ただ、過去にも、こういった検査役選任が権利濫用に該当する、として検査役の選任を認めなかった事例もあるようなので(岡山地裁決定昭和59年3月7日)、会社側としても、こちらも争う、ということになるのでしょうね。いずれにしましても、株主総会シーズンに入り、こういった紛争は、企業法務的には興味深く見守りたいところです。

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2014年6月13日 (金)

会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン(その2)

6月2日の当ブログ「会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン」については、たいへん多くのアクセスをいただき、ありがとうございました。この問題は、前川参議院議員の質問書、そして本日の委員会の審議と、まだまだ議論が続いているわけですが、やはり本日(6月12日)の参議院法務委員会の小川議員と谷垣法相との質疑応答をネット中継で拝見しているかぎり、前回のエントリーで抱いた疑問が解消しておりません。

日本企業の機動的な事業再編を後押しするために、株式売渡請求制度という「これまで会社法になかった」キャッシュアウト手法を認めること自体には、私も賛成します。ただ、少数株主が新たな制度のために受忍しなければならないのは、特別支配株主の一方的な請求意思だけで少数株主たる地位を奪われてしまうことと、一定の日(取得日)をもって株主の地位が移転してしまうことまでだと思います。しかし、新たな制度が認められるからといって、支配株主側の不払い不能のリスクを少数株主側が負うことを正当化する理由はどこにもありません。これまでも会社法はキャッシュアウトを認めてきましたが、これは会社と株主との利益移転に関するものであり(したがって、買収対象企業が支払義務を負担する)、支配株主と少数株主との利益移転という場合とはまったく状況が異なります。

ということで、小川議員は「特別支配株主が株式売渡代金を支払わない場合には、対象会社がその不払いについて法定保証する規定を設けたらどうか」と提案されています。私は前回のエントリーで同時履行関係を確保するために、供託制度のようなものを認めたらどうかと書きましたが、基本的には同じような発想だと思います。これに対して、法務省民事局は会社法の建付けと合致しないということで、提案は採用できない、との結論だそうです(谷垣法相の答弁より)。その理由は、株主と債権者との関係では、債権者を優先するのが会社法のタテマエであり、株主に対して会社が支払保証を行うということを法定することは、この債権者優先というタテマエに反することになるから、とのことだそうです(これも谷垣答弁より)。

しかし、この法務省の拒絶理由については、私はよく理解できません。株主と債権者との優先関係というのは、会社が倒産した場合のことを指すのであり、特別支配株主と少数株主との関係には採用されないのではないか(これが小川議員の反論)といったこともありますが、そもそも取得日をもって強制的に株主の地位が変動するのであれば、支払義務の不履行に関する法律関係では少数株主は「債権者」と同等に扱ってよいのではないでしょうか。(取得日に保証効果が生じるのではなく、一定の支払遅延が生じた場合に法定責任として効果が生じる、とすればよいのでは?)むしろここで債権者と株主との優劣関係を持ち出してくることの合理性がよくわかりません。

また、会社法429条の第三者に対する損害賠償責任規定は、通説判例によると、損害を受けた第三者を特に保護すべきとの見地から認められた法定責任であるとしています。そのような法定責任規定がすでに存在するのであれば、特別支配株主の支払遅延リスクを対象会社側に負担して、少数株主を特別に保護するための法的責任として保証規定を設けることも、これまでの会社法の建付けとは矛盾することはないと思います。これは、特別支配株主による株式売渡請求を会社側が承認する制度設計になっていることとも、とくに矛盾するものではないと考えます(そもそも特別支配株主が株式の売渡を請求しているにもかかわらず、子会社取締役が拒否することは困難ですが、たとえ善管注意義務の問題だと捉えたとしても、対象会社の取締役による特別支配株主の資力確認について、少数株主側が対象会社の取締役の悪意・重過失を立証することは至難の業だと思われます)。

そもそも法務省側が「少数株主側の保護は講じられている」理由として掲げられている「対象会社取締役会の承認」についても、これは特別支配株主側から提案された売渡価格が適正かどうかを判断するために作られた制度だと思いますので、はたして「特別支配株主が支払うつもりがあるかどうか」という内心の問題にまで踏み込んで判断することは想定されていないのではないでしょうか。かりに想定されていたとするならば、今度は資力も十分に存在し、残高証明まで提出しているにもかかわらず、これを承認しない場合には、逆に特別支配株主の側から「会社が企業価値を向上させる機会を奪った」として善管注意義務違反に基づく代表訴訟を提起されることになるかもしれません。しかし、これでは「どっちに転んでも訴訟リスクを背負う」ということになり、対象会社の取締役の行為規範にはなりえないように思われます。

私個人としては、成長戦略を後押しする会社法改正法案は、ぜひとも今国会中に成立させていただきたいのですが、やはりM&Aを推し進める企業側の利益だけでなく、公益実現のための犠牲として締め出される少数株主保護のバランスを図らなければ、むしろ成長戦略を後押しすることにはならないと考えますが、いかがなものでしょうか。

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2014年6月11日 (水)

役員解任議案の理由開示と名誉毀損に基づく不法行為の成立

本日(6月10日)の日経新聞夕刊のトップに「企業育てる株主の台頭-対話で経営改善促す」として、機関投資家のスチュワードシップコード導入に関連する記事が掲載されています。今後、機関投資家を中心として、役員選任議案に対する議決権行使等を通じた「企業統治への株主コントロール」が進むことになりそうです。

ところで、社外役員が増えたり、モノ言う監査役が増えたりしている中で、会社側から役員の解任に関する議案が上程されることがあります。正当な理由なく解任された役員の損害賠償請求が裁判所で認容されることは当然ですが、「株主との対話」を実りのあるものにするためには、解任理由が明確にされる必要があり、その適否に関する法律問題はまったく別に考えなければなりません。会社側が主張する解任理由と、これに反対する役員側の意見が株主側に正しく伝わらなければ、いくらスチュワードシップコードが設定されたとしても絵に描いた餅になってしまいますが、そこで浮上してくる法律問題が「役員解任理由に対する名誉毀損の成否」です。

会社側から役員解任議案が上程されるのはまだ良いのですが、最近の傾向(流行?)として、監査役や社外取締役の解任議案が株主提案権として出てくることがあります。おそらく会社側が大株主または緊密な関係にある株主と意思を通じて、株主側から解任議案上程に関する臨時株主総会の招集請求をしてもらい、または定時株主総会における株主提案権を行使してもらっって解任を通すというものです。これだと会社と役員の対立関係が明確にならないので、名誉毀損によって会社が訴えられるリスクが少なくなりそうです。しかし、「株主との対話」が求められる時代となれば、株主提案に対しては、きちんと会社側も一般株主のために解任議案への賛否だけでなく、その理由についても説明すべきだと思いますので、やはり名誉毀損問題については、株主提案による解任議案上程の場合にも検討しておくべきではないでしょうか。

たとえば「モノ言う監査役」さんが、社長や大株主(親会社)からみれば「うるさいなぁ、あいつ、なんかはきちがえているのと違うか?」「あれだけ『御用監査役』でいいと言ってたのに、何考えてるんだ」と、煙たい存在になってしまい、結局、言うことをきかない監査役ならいっそのこと解任してしまおう、といった事例が散見されます。こういった場合、たとえば株主総会の招集通知に●●監査役の解任の件、といった議題が書かれて、参考書類にはその解任理由が記載されています。たとえば監査役解任議案は特別決議が必要ですが、前にも述べたとおり、定款で株主総会の定足数が3分の1あたりにまで緩和されていますと、わずか全体の22%程度の株主の賛同で解任議案が通ってしまいます。

解任議案が可決されるかどうかは別として、その解任理由には「●●監査役は、監査役としての資質に欠け、その能力不足が著しいため」とあります。弁護士や会計士の社外監査役の場合ですと、このような「資質に欠け」「能力不足」と書かれますと、本業にも影響が出ます。当然、「けしからん!会社を名誉毀損で訴えてやる!謝罪公告の掲載も求めてやる!」といったことになります(もちろん常勤監査役さんも、社会的名誉を害されたとして提訴することもあります)。こういったケース、果たして会社に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求、謝罪公告要求は認められるのでしょうか?

このあたりの問題について、社名は伏せますが、東京地裁平成24年4月11日判決(判例タイムズ1386号253頁)が詳しく示していまして、参考になります。「解任理由」ではありませんが、取締役の善管注意義務違反を指摘する監査役監査報告への会社側の反論文(適時開示リリース)が、果たして(名誉毀損の成立要件たる)事実の適示にあたるのか、それとも意見表明(論評)にあたるのか、仮に意見表明にあたるとすれば、公正な論評なのかどうか、公正な論評にあたるのであれば、どのような目的に出た意見表明なのか、その表明された表現方法に行き過ぎた表現はないか、といったことが様々な角度から検証されています。

株主との対話が求められる時代となれば、なぜ当該取締役、監査役を解任するのか、当該取締役、監査役はどう反論するのか、といったことは(株主への判断資料を提示するために)個別具体的に事実を示して理由を述べることが求められるはずです。とくに社外取締役が増えて、取締役会がモニタリングモデルへと変遷していくのであれば、社外役員と経営トップとの軋轢も増えてくるはずです。したがいまして、会社側、対立する役員側、双方とも、どういった表現方法で、どういった意見や事実を述べておけば名誉毀損によって刑事・民事の責任を問われないのか、リスク管理の一環として少し理解しておいたほうが良いかもしれません。①事実だけを述べて解任理由とする場合、②意見とともに、その意見に至った事実を指摘して理由とする場合、③意見だけを述べる場合等、名誉毀損に基づく損害賠償、謝罪広告要求は、その成否について「場合分け」しながら判断する必要があり、結構むずかしいところなので、顧問弁護士の方々と一度相談されたほうが良いかもしれませんね。

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2014年6月 9日 (月)

第三者委員会報告書格付け委員会は、会社も格付けしている?

企業不祥事が発生(発覚)した際に、独立公正な委員によって構成される第三者委員会が設置され、事実調査、原因究明、再発防止策の提言といった役割を、不祥事企業が同委員会に委ねる実務慣行が定着しています。しかし「独立公正」といっても、どうも報告書の内容は会社寄りであり、到底「第三者」によるものとは言えないようなものも散見されます(ちょっと控えめな表現ですが・・・)。そういった中で、第三者委員会報告書の信用性が揺らいできているのではないか、とのことで、このたび有志の方々による「第三者委員会報告書格付け委員会」が設立され、第1弾として、みずほ銀行の(反社会的勢力癒着問題に関する)特別委員会報告書(公表版)が審査対象となりました。

この「みずほ銀行の特別調査委員会報告書」への格付け委員会委員の皆様の評価がとても厳しいこと(合格ラインギリギリというもの)が、一部の話題になっています。こういった格付け委員会自体への批判的意見や、委員会の運営に対する批判など、(もちろん賛同意見もありますが)そういった意見を拝聴していて、やや格付け委員会が誤解されているところもあるのではないかと思いましたので、(格付け委員会とは何の関係もない立場で)若干コメントさせていただきます。

まず、なによりも、この報告書格付け委員会が発足したのは、委員有志の方々の積極的な意思からではなく、ずいぶんと前から、一部のステークホルダーより、「第三者委員会の報告内容はあまりにも玉石混交である。日弁連で格付けできないか?」といった意見が強く出されていた、という経緯によるもの、と思われます(これは、私も以前から、そのような声が強くなっていることは承知していました。だからこそ大阪弁護士会では、日本公認会計士協会近畿会と合同で「独立第三者委員会委員の推薦名簿登録制度」を発足させました-残念ながらあまり機能していませんが・・・)。こういった要請に対して、(当時)この格付け委員会の委員でもある方は、「ご指摘はもっともだが、弁護士が弁護士を評価するというのは難しい・・・、ましてや弁護士会がそのような評価機関を作るというのは困難・・・」といった意見があったことも事実です。

ただ、第三者委員会制度が(任意の機関であるとはいえ)世間的に認知されるに従い、「日弁連作成の第三者委員会ガイドラインに準拠している」と報告書の中で宣言しつつも、その準拠性に首をかしげたくなるような報告書が目立つようになり、このような報告書が、第三者委員会制度自体の信用を低下させるのではないか、といった危惧感を生むようになりました。このような背景から、今回の格付け委員会が発足した、というのが現実ではないかと認識しています(したがいまして、たしかに格付け委員会の委員の方々の顔ぶれは、タレント揃いと言えそうですが、第三者委員会制度への危機感から発足されたというものであり、決して売名行為や人気とり、世間的な話題提供のための委員会ではありません)。

さらに誤解が多いのは「他人が作成した報告書を評価できるほどの能力があるのか、そもそも格付けできるほどの客観的な評価基準はあるのか、自分たちが委員になった報告書を他人に評価してもらってはどうか」といった意見も聞かれるところです。たしかに委員会報告書の巧拙を、この格付け委員会が評価するのであればこのような意見が当たっているかもしれません。しかし、この委員会は「日弁連ガイドラインへの準拠性」を問題にしており、報告内容の巧拙は問題にされていないようです(もし、報告書の巧拙を問題とするのであれば、たとえば監査に携わる監査法人の会計実務家にも委員として加わってもらうはずです)。したがって、まずこの格付け委員会を批判するのであれば、現行の日弁連「企業不祥事発生時における第三者委員会ガイドライン」の内容を十分理解したうえで、ガイドライン自体が第三者委員会の信用性確保のためのベストプラクティスとして適切ではないことの批判を加えること、又は、ベストプラクティスであることを認めるとしても、その「準拠性」とはどういったものであるのか、持論を展開し、そのうえで個別の委員の意見を批判することが筋ではないかと思います。

ちなみに、「本報告書は日弁連のガイドラインに準拠しているものではない、なぜなら・・」として、日弁連ガイドラインに準拠しない合理的な理由を説明しながらも、その報告書の内容は、ステークホルダーにとっても非常に満足のいく第三者委員会報告書も(ときどき)公表されているわけでして、この格付け委員会も、かならずしも日弁連ガイドラインに準拠しているものだけが素晴らしい報告書というわけではない、ということを認めておられるようです。要は、第三者委員会報告書といいつつ、本当に公正独立な立場が堅持され、報告書の信用性が担保されているのかどうか、そこが格付け委員会の最大の関心事ではないかと思われます。

たしかに格付け委員会が「素晴らしい」と評価をする第三者委員会報告書が、今後も登場することへの期待感はあります。ただ、どんなに素晴らしい委員会報告書を書こうとしても、最終的に、その委員会を設置するのは会社側の経営判断です。自分たちに厳しい意見が出されることが予想されれば、もっとユルい報告書を書きそうな委員候補者を探すことになるかもしれません(いわゆるオピニオンショッピング)。そのようなユルい委員会の報告書によって、企業としては、一時の逆風がやむのを待てばよい・・・という考え方もあるかもしれません。つまり、私個人の考えとしては、厳しい意見を書かれそうなメンバーに、あえて第三者委員会設置を依頼したのか、あるいは一時の逆風をしのぐためだけに、(信用性が十分に担保されていないような)ユルい報告書の作成を第三者に依頼したのか、そのあたりを広く議論することが、この格付け委員会の主たる目的ではないかと思います。所詮、第三者委員会制度はソフトローの世界ですから、その評価はステークホルダーに委ねられます。ただ、委員会報告書の影響力を考えた場合に、これを活用するステークホルダーの方々に有益な前提知識を持っていただくための取り組みは、ソフトローである以上は当然に誰かが行わなければならない、ということだと思います。

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2014年6月 6日 (金)

上場会社に社外取締役(複数?)導入を迫る5本の矢

ひさしぶりの企業統治のお話ですが、ついこの間まで「社外取締役の義務付けの是非」といった議論がなされていましたが、最近のニュースなどを読んでいますと、もはや複数導入や活用論、独立性基準の開示、役員研修導入にまで話題が及んでいます。ひょっとすると、このまま取締役会制度の価値観が変わりそうな勢いですね。

最近の調査結果によると、東証1部の6割の会社が既に1名以上の社外取締役を選任済みということですが、まだまだ上場会社に対する社外取締役導入を迫る外圧は続きそうな気配です。上場会社が社外取締役導入に動かざるをえないのは、①会社法改正法案、②コーポレートガバナンスコードの策定(日本再興戦略)、③スチュワードシップコードの策定といったところへの対応だとは思うのですが、本日の日経新聞でも報じられているように、④海外機関投資家の直接要求というのもあるのですね(私は存じ上げませんでした。ちなみに、主要な大会社に対してのみ、ということですが)。社外取締役の複数導入等を進めなければ2017年以降、総会における取締役選任議案について反対票を投じるとのことです。

さて、ここまでのインセンティブは比較的わかりやすいのですが、私はもうひとつ、「5本目の矢」が存在するのでは・・・と推測します。それは、⑤もうすぐ打ち出される政府の「新成長戦略」に盛り込まれる「金融機関のガバナンス改革」です。緊急構造改革プログラムの一環として上場銀行、持株会社には1名以上の独立社外取締役を導入することが求められるようですが、これは単に金融機関のガバナンスを改革することが目的ではなく、金融機関の融資先企業のガバナンスチェックに力を入れるための基礎固めが本来の目的ではないかと。自分のところに社外取締役が存在しないのに、融資先のガバナンスチェックなど偉そうに言えない、ということでしょうか。

前にも当ブログで述べましたが、金融庁が直接監督できるところを活用して、直接手を突っ込めない上場会社のガバナンス改革に影響を及ぼすということの一環です。機関投資家、格付け会社、監査法人と並び、銀行等の金融機関にも(上場会社の)コーポレートガバナンス改革を促進する役割を期待する、ということではないでしょうか。

外国人の株式保有比率が高い企業を中心に、「せめて外見だけでも欧米並みに・・・」といった後ろ向きのアリバイ工作的発想で社外取締役導入論が語られていた時期もありましたが、もはや企業として社外取締役に何を期待しているのか、どう活用するのか、社外取締役はどういった形で自社に貢献しようとしているのか、といった実質論が語られる時代になりつつあります。旬刊商事法務5月合併号(2032号)に、社外取締役の人材紹介で有名なプロネッド社の酒井氏が「社外取締役の役割を踏まえた取締役会の運営実態に関する調査」という論稿を発表されていますが、ご一読をお勧めいたします。アンケート回答企業について、社外取締役が有効に機能した事例や、社外取締役が有効に機能するための工夫などが、かなり具体的に紹介されており、社外取締役を真剣に有効活用しようと悩んでいらっしゃる企業の姿が読み取れます。

「社外取締役を入れると企業不祥事を防止できるか」「社外取締役を入れると企業価値が向上するか」といった漠然とした抽象的な話ではなく、個別の会社の社外取締役さんは、どんな社内情報に関心を向けているのか、非業務執行役員間でどのようなコミュニケーションを図ろうとしているのか、ラインの方々へ「モノ申す」環境作りの工夫はどのようにしているか(たとえばスタッフや任意の委員会の活用等)、管理会計、制度会計上の数値をどのように活用しようと考えているのか、といったあたりが、その会社の社外取締役の「期待価値」になってくるのではないでしょうか。社外取締役としても、やっぱり「お飾り」ではなく、本気で会社に貢献したいですよね。あくまでも個人的な意見ですが。。。

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2014年6月 4日 (水)

会計不正事件-別のところで火の手が上がる内部告発の脅威

内部通報・内部告発の脅威をまざまざと感じさせる粉飾事件が本日付けの第三者委員会報告書で明らかになっています。会計不正事件にご興味がある方で、もしお時間がありましたらご一読をお勧めいたします(JBR「第三者委員会調査報告書受領のお知らせ」 )。

「こんな不正が行われている」と、JBR社の会計監査人のところへ内部告発があったので、その監査法人が念のため、調査をしてみると、内部告発の対象となっていた不正は認められないものの、子会社の代表者と親会社から派遣されていた管理責任者とがグルになって粉飾をしている疑惑が発覚、急いで第三者委員会の設置を要請して、今回の不正発覚に至ったというものです。ちなみに、第三者委員会は、念のため内部告発の対象とされた事実についても調査をしてみましたが、そっちは特に不正とは言えないとの判断です。

全く別の事実について内部告発がなされたにも関わらず、その告発が契機となって、親会社の連結決算に重要な影響を及ぼす粉飾が発見されたというのは珍しいと思いますが、しかし、監査法人に対する内部告発がなければ、このような重大な会計不正事件が発覚しなかったわけです。このように誤謬ではなく、不正による粉飾が(発覚されないままに)世の中にはたくさん存在するのであり、幹部役員が内部統制を無効化するような粉飾について、これを明らかにするためには(やはり)内部通報や内部告発しか方法はないということでしょうか。

このような事例をみると、子会社不正を親会社が見抜くことのむずかしさを痛感します。ただ「火のない所に煙は・・」といいますか、たとえ財務報告の信頼性に影響を及ぼすとまでは言えないような告発でも、当該企業の「会計監査軽視の風土の顕れ」を示すものとして、きちんと対応しておいたほうが良い・・・という教訓にはなりそうですね。また、第三者委員会報告書では詳しく述べられていませんが、何度も子会社化することに難色を示していた親会社が、なぜ、当該会社を連結子会社化したのか、そのあたりを仔細に検討してみると、親会社として当該子会社の会計報告を特別に注視しておくべき問題点がなかったかどうか、疑問点が浮かび上がってくるのかもしれません。

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2014年6月 2日 (月)

会社法改正の難問-特別支配株主による株式売渡請求制度のグレーゾーン

毎週楽しみに視ている池井戸ドラマ「ルーズヴェルトゲーム」ですが、来週はいよいよ青島製作所の支配権を争うための委任状争奪戦に突入するようですね。50.1%の株主からの委任をとりつけるドラマが繰り広げられそうな予感がします。

ところで、現在国会で審議されている会社法改正法案において、90%以上の株式を保有する大株主(特別支配株主)が、少数株主を排除するための制度が新設されることはご承知の方も多いと思います。社外取締役制度の導入問題と同様、企業の新陳代謝を図り、キャッシュアウト(少数株主の締め出し)を容易にして日本企業の成長に資するための経済再興戦略(アベノミクス)を支援する制度だといわれています。

この特別支配株主による株式売渡請求制度が、一方的に少数株主の利益を阻害するものであり、どうもこのままでは会社法が成立しないのではないか・・・との疑念も一部で生じているようです(正確には「株式等」売渡請求制度でして、新株予約権についても売渡請求の対象となりますが、ここでは株式売渡請求、と単純化しておきます)。もちろん、このまま国会で採決をすることも十分に考えられますが、先日の参議院法務委員会会議録を読みますと、法務大臣や法務省担当者の方から明確な回答が得られていないように思われます。

株式売渡請求制度は、90%以上の株を保有している大株主(単独もしくはグループ全体で90%以上を保有している株主)が、公正な価格を提示して、他の株主の保有する株式を、一方的な意思表示によって一括して買い上げる制度でして、他の少数株主は、この請求があればこれに従わざるを得ません。企業側(大株主側)にとっては、このスピードがとても魅力です。少数株主側において、大株主の買い上げる価格に問題があると思えば、取得日前に裁判所による価格決定の申立手続きが必要です。しかし、取得日には株式が勝手に大株主に移転してしまうので、その後は大株主の支払義務だけが残ります。きちんと大株主が買取代金を支払ってくれればよいのですが、支払ってもらえる担保は法律上規定されていません。本来、モノの売買では、同時履行の双務性があるはずなのに、モノだけ先に渡すことを強制されて、代金支払いが担保されないということは、少数株主保護に欠けるのではないか…という点が国会でも問題にされています。

この制度は、上場会社にあってはキャッシュアウトの有効策として、また、非公開会社においては、事業承継の円滑化のための方策として、今回の会社法改正の重要なポイントになっていますが、たしかにアベノミクスを支える改正とはいえ、公益と少数株主の利益とのバランスを適切に図っているかどうかはやや疑問があるように思えます。上記法務委員会会議録において、法務省民事局長さんは「支払い義務が尽くされない場合には、少数株主は解除権を行使すればよい」と回答されていますが、少数株主がはたして解除権を行使できるかどうかは会社法の解釈上明らかではなく、売渡株式の取得無効を争う訴訟等との関係も明確ではありません(なお、この問題については、弥永真生教授が「企業法制の将来展望2014年版」に掲載された論文にて詳細に検討されていて参考になります)。また、買取代金を支払うかどうかを会社側が判断する(つまり大株主が信用できるかどうかを対象会社の役員が判断する)ために、事前の対象会社の承認制度がある、とも説明されますが、特別支配株主が存在する会社の取締役が、支配株主の意に反して「承諾しない」と決定することはほぼ考えられないため、これも説得的とは言えません。

つまり、株式売渡請求制度は、特別支配株主の一方的な行為によって、少数株主の財産権が奪われてしまう可能性が残されています。現に2007年、東証マザーズに上場していた株式会社モックは、10株を1株とする株式併合によって、8割の少数株主の権利を一方的に消滅させ、その補償となるはずの(少数株主への)買取代金の支払いを遅延させ、結局、2009年にこれを支払わないままに破産してしまうという事件も発生しています。モックの場合には、会社自身による買取代金の支払義務が問題となりましたが、今回の特別支配株主による株式売渡請求制度は、支払債務者は会社ではなく、支配株主です。かりにM&Aで、ある会社の株式を90%保有したとしますと、これを(言葉は悪いですが)キレイにして、別の会社に高額で売却できるとするならば、とりあえず売渡請求制度を活用して、少数株主を排除して(100%子会社にして)、高額で売却した後は、支配株主たる法人を勝手に清算してしまう・・・ということも十分に考えられます(対象会社の、「承認」を行った取締役の善管注意義務など論じてもほとんど意味はないように思います)。

また、特別支配株主による株式売渡請求制度には、取得日前までであれば、支配株主側から売渡請求を一方的に撤回することが認められています(ただし、対象会社の撤回に関する承認が必要ですが、これも当然承認されるはずです)。なぜ撤回が認められるかといいますと、支配株主が買取代金の支払に支障を来すケースや、予想に反して多数の少数株主から価格決定申立がなされたケースなどにおいては、支配株主に撤回の機会を付与するほうが、積極的な売渡請求権行使に資する、と考えられたからです。しかし、会社法が、売渡請求権を行使する支配株主側の「信用不安」を最初から想定しているのであれば、この信用不安に対する少数株主側の対抗措置を全く考慮していない・・・というのは、あまりにも株主間のバランスを失しており、会社法の基本原則(関係当事者間の権利調整ルール)としての株主の平等的取扱いを無視したものではないでしょうか。ここではむしろ少数株主の保護について、大株主側の信用不安に対する措置を講じなければ、むしろ市場に海外資本を流入するというアベノミクスの施策の方向性にも反するような気がします。

私は「素朴な疑問」を呈するだけの市井の一弁護士にすぎませんので、立法の手当ては優秀な方々がお考えいただくことですが、新設される(株式売渡請求制度における価格決定申立手続きに関する)179条の8、第3項を一部改訂して、特別支配株主が公正と認める価格を仮払いできる制度を、むしろ公正と認める価格の一律仮払義務を認めるような制度にすべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。たしかに取得日直前の少数株主を確定する作業は、短期間にはむずかしいかもしれませんが、その場合にはとりあえず供託制度などを用いて、その支払いを確認することに、対象会社の「承認」制度の意味が出てくるように思います。こういった少数株主保護は、上場会社のキャッシュアウトの場面だけでなく、会社の事業承継に伴う相続争いの場面においても、その紛争を回避するためには必要な措置だと思うのですが。

これまでも全部取得条項付種類株式を活用したキャッシュアウト、略式組織再編を活用したキャッシュアウトなどで同様の効果は認められているから・・・という理由で、このまま法改正をしてしまうことも考えられますが、このたびの特別支配株主による売渡請求は、会社と株主ではなく、株主と株主という利益移動の違いがありますので、現行法と同様に解する、というのは少し乱暴な議論のように思います。むしろ、このたびの会社法改正は、上からのエンフォースメントはソフトロー(コンプライオアエクスプレイン、東証ルール、ガバナンスコードなど)、下からのエンフォースメントはハードロー(差止制度の新設、買取請求権の要件明確化、開示規制の拡大等)という建付けになっていますので、売渡請求権行使時における少数株主保護もこれに沿った形で明確に説明できるようにすべきだと考えます。

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