刑事捜査に日本版司法取引導入か?-法制審の方向性
今朝(6月24日)の読売新聞のトップ記事では「司法取引導入了承へ-経済・組織犯罪で」とあり、法制審がわが国にも司法取引の捜査手法を導入することを容認したことが報じられています。証人に刑事責任を追及しないと約束したうえで証言をさせる刑事免責制度や被疑者が他人の犯罪を申告した場合に起訴を見送るといった協議・合意制度が検討されている、とのこと。独禁法違反事件ではリニエンシー制度に関連して(事実上)刑事免責制度に近い運用がされていますが、日本版司法取引の導入は、たいへん注目すべきニュースです。
取調べの可視化導入による立件の困難性への対応・・・ということのようですが、最近の刑事司法の国際共助からすると、あるべき方向性かもしれません(ただし日弁連は反対の意向を示しています)。司法取引による捜査手法が諸外国でも導入されているのであれば、司法共助の視点から、これに準じる制度を日本にも導入する、という流れは自然ではないかと。詐欺事件や薬物事件など、海外の主犯格による犯罪から日本の安全を守るための国際共助はますます求められるところだと思います。
捜査当局としては、主犯格をピンポイントで摘発したいわけですが、振り込め詐欺などでもなかなか摘発が困難な状況にあります。他人に銀行預金通帳やカードを交付する目的で、銀行支店の行員に対して預金口座の申し込みを行う行為について、最高裁は「たとえ自分の口座を作る手続きであったとしても、後日自分で使うのではなく、他人に使わせるために銀行と契約をする行為は、『人を欺く行為』である」として詐欺罪の成立を肯定しましたが(平成19年7月17日決定 刑集61巻5号521頁)、学説にはこれに反対の方も多く、かなり微妙な事案です。しかしそれでも、主犯格まで処罰するためには、末端の関与者も(詐欺罪として)捕捉する必要性が高いということでしょうか。司法取引制度が導入されますと、こういった事案において、機動的かつ柔軟に、主犯格のみを立件するためには有用かと思います。
ただ、経済犯罪や組織犯罪に限定して導入されるようなので、業務上過失致死傷罪などが問題となるケースには適用されないようです。航空管制官ニアミス事件最高裁判決や、JR福知山線脱線事故における歴代トップの責任追及事件のように、組織としての構造的欠陥が問題となるケースでは活用は困難なようです。現場の責任者に刑事免責を約束して、本当の事故原因はどこにあったのか、どのような人為的ミスが本当の原因なのか、正直に証言してもらうことが、事故の再発防止に役立つのではないかと思います。このような組織の構造的欠陥を解明するためにも、刑事免責制度の活用場面が広がればいいのですが(これはこれで、また人権上の問題や、偽証横行のおそれ等が課題としてあるのでしょうね)。
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