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2014年6月23日 (月)

会社法改正法案成立-社外取締役への期待というけれど・・・

すでに皆様ご承知のとおり、6月20日に会社法改正法案が成立しました。日曜日の日経新聞の社説でも取り上げられ、社外取締役制度の導入問題に焦点をあてて「企業統治の質を競え」とありました。日経だけでなく、どの新聞でも、上場会社における社外取締役の増員問題が話題の中心です。

ただ、コーポレートガバナンスの向上・・・という意味で社外取締役の導入が推奨されることは世間で語られているとおりだと思いますが、会社法を取り巻く環境を考えた場合、社外取締役の責任についても今後検討されてもよいのではないかと考えています。いやむしろ、社外取締役を増員せよ、といった風潮の中で、社外取締役の法的リスクをも承知の上で就任しなければ痛い目に合うのではないか、と危惧します。

まず、会社法改正のグレーゾーンとして当ブログでも取り上げた「特別支配株主の売渡請求」の課題です。特別支配株主の少数株主への株式売渡代金の支払い担保は、結局のところ対象会社の取締役の「承認」問題に委ねられることになりました。特別支配株主が存在する対象会社の社内取締役には実質的に「承認」の可否を検討することは期待できないわけで、当然社外取締役に負荷がかかります。M&Aにおいて、この制度はおそらく多用されることになりそうですから、非常に厳しい立場に立たされる社外取締役さんが増えるはずです。

また(これも当ブログで再三申し上げてきたところですが)、監査等委員会設置会社という機関設計を選択することは、スピード経営に資することが言われていますが、逆に言えば監査等委員会委員たる社外取締役にとっては、よほどしっかりと社長を監視しなければ、暴走を未然に止めることはできず、また不祥事発覚時において法的責任を問われるリスクも増えるものと予想されます。社外取締役として、内部監査部門の人員を厚くすること、内部監査部門のスキルを向上させることを会社側に要求し、その連携を図ること(内部統制監査)は大前提であり、社長さんが監査の重要性を十分に理解しておられる場合は別として、これまでの(常勤監査役制度を前提とした)社外監査役の雰囲気で社外取締役を引き受けることはできないものと考えています。

そしてなんといっても「株主との対話の時代」の到来です。6月17日の朝日新聞ニュース(電子版)でも報じられていましたが、リソー教育社の粉飾決算について、元株主ら7名が虚偽記載責任を問う裁判を提起したそうです。株主との対話はガバナンスや内部統制がしっかりしていることが前提なので、何か問題が発生して株価が下落した場合、開示責任を問う裁判は今後も増えるものと予想しています。上場会社にとって、情報開示は役員の利益相反行為になることが多いのはどなたでもご承知のとおりです。誰だって会社や役員にとって都合の悪いことは隠したり、少し歪めて開示したくなります。それを「ありのままに伝えなければ」と意見を述べることができるのは社外役員しかいないかもしれません。普段はKYはご法度ですが、社内常識が蔓延している状況では、あえて社外取締役はKYにならなければいけないかも?ということです(まあ、当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

社外取締役制度の「期待ギャップ」(会社と株主との期待認識の食い違い)が今後は間違いなく発生すると思います。リーガルリスクを少しでも減らすためには、各社が「当社では社外取締役に何を期待しているのか」きちんと機関投資家や一般の投資家に説明することが求められるのでしょうね。もちろん「ひな型」が通用するほど甘いものではありません。

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コメント

はじめまして。

突然でたいへん恐縮ですが、実務上よく分からない点があります。
3月決算の会社(社外取締役不在、監査役会設置会社、公開大会社)が来年6月総会で監査等委員会設置会社へ移行する場合、或いは社外取締役選任議案を上程する場合、その総会において「置くことが相当でない理由」の説明は必要なのでしょうか?
3月末時点で不在なのだから説明は必要というのが模範解答かも知れませんが、実務上は茶番のように思えてなりません。

宜しくお願い致します。

投稿: 後悔会社法務担当 | 2014年6月23日 (月) 14時39分

社外役員を選任する理由でも書いておけばいいでは?

3月末では社外がいなかったけど、総会後には社外役員が着任するケースでは、「置くことが相当でない理由」として書くと、非常に紛らわしいので止めたほうがいいでしょう。

投稿: 名無し | 2014年6月24日 (火) 19時40分

 法律の専門家である公務員出身者が退職後すぐに社外取締役に就任するケースが多いと思うのですが、こうしたケースでは、山口先生のご懸念があてはまりそうですね。報酬を受領することに対応するリスクがどのようなものかを考えると、社外役員が割に合うかどうか、難しいですね。
 監査等委員会設置会社については、ガバナンスが緩すぎるし、自己監査問題(自分が賛成した議案について、後に監査した結果不備や問題が発見された・・・・この場合、監査等委員たる取締役は詰んでしまわないか。)等、いろいろ問題があると思いますが、いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2014年6月30日 (月) 10時39分

後悔会社法務担当さんのご質問には、(もはやご存じかもしれませんけれど)「旬刊 商事法務」2040号15~16ページに掲載されている法務省大臣官房参事官の坂本三郎さんのご発言が回答になると思います。

本日(8月29日)の記事中の『もはや「社外取締役を入れるかどうか」ではなく「社外取締役をどう機能させるか」に議論が移っています』は全く同感ですけれど、その議論をどれだけの会社が共有しているかは心許ない気がします。(この件については、同誌2038号に掲載されている東京大学教授の藤田友敬さんの論考が非常に刺激になりました)

投稿: skydog | 2014年8月29日 (金) 19時17分

skydogさん、コメントありがとうございます。
ご紹介のあった旬刊商事法務(2040号)の座談会記事、繰り返し読みました。
また、坂本三郎参事官の解説会にも参加させていただきました。

「あっさり」というのが新たな悩みです。苦笑

投稿: 後悔会社法務担当 | 2014年9月 1日 (月) 17時08分

後悔会社法務担当さんへ

「月刊 監査役」9月号に7月14日に行われた坂本三郎さんの後援会の速記録が掲載されていたので読んでみました。「旬刊 商事法務」2040号の座談会がいつ行われたのかが分からないのですが、内容は「商事法務」の方が先を行っていますね(例えば15ページ最後の6行~16ページ最初の4行)。

平成25年度に社外取締役が増加したのは、「商事法務」2038号の藤田先生の論考の注49にある「無難な社外取締役を1名選任することで、説明義務を回避するという本末転倒な選択」が行われた可能性も否定できないと思いますので、平成26年度はバランスを取るために、「あっさり」=「ひな形が許容される」のではないかとも想像しているのですが、甘い考えなんでしょうかね。

本論からは外れますが、藤田先生の注43「海外投資家の監査役制度への理解が高まれば問題が解消するわけではない」は、夜郎自大に陥っている自分に氷水が浴びせられたような気がしました。

投稿: skydog | 2014年9月 3日 (水) 19時23分

ボッケルマンでした。「後援会→講演会」「平成25年度→平成26年度」「平成26年度→平成27年度」です。失礼しました。

なお藤田先生の注49は平成27年度についての記述ですが、平成26年度にも同様の思惑が働いていた可能性があるんじゃないかと考えて、文言を借用したものです。

投稿: skydog | 2014年9月 4日 (木) 17時47分

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