伊藤忠関連会社元社員による6億円の横領事件と不正調査の実効性
オリンパス社の元社長ウッドフォード氏を招いた2012年のACFE年次カンファレンスにおいて、伊藤忠商事の方に内部監査の実情についてご発表いただきました。以前もブログに書かせていただきましたが、伊藤忠さんには一般の内部監査とは別に特別監査部隊(不正調査専門部隊)が30名ほどいらっしゃって、いわゆる不正調査に勤しんでおられる、とのお話に衝撃を受けた記憶があります。その伊藤忠商事さんの関連会社で、30代の経理担当者(出向者)による6億円規模の横領事件が発生し、関係者が逮捕された、とのニュースが報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。
子会社出向中とはいえ、70回にわたり自社の銀行口座から預金を引き出して、架空の請求書でごまかしていた・・・ということですから、「特別部隊を作ってみても、結局不正を見つけることは困難なのでは?そもそも特別部隊など役に立つの?」という疑問も湧いてくるところです。ただ、この規模の商社となると、一回あたりの損失額も巨大なものになります。たとえば2008年10月に同社で発生したモンゴルの資源会社へ建設機械や資材を販売した貿易取引では、1000億円近い架空取引が8年間にわたって行われており、担当課長が懲戒解雇された、と報じられていました。今回の事件は横領とはいえ、不正開始から7か月ということで、比較的短期間で発覚したようですし、金額的にも(子会社不正とはいえ)比較的少ないほうではないかと。
なんといっても「監査が迫ってきたので不正を自主申告した」とあります。社内調査における不正発見の手法としてはこれが理想ではないでしょうか。不正の疑惑があるところで、強制的な調査権限はないわけですから不正発見の手法にも限界があります。フォレンジックやヒアリング等を通じて、不正の証拠を固めていって、最終的には調査への協力という形で対象者が自主申告せざるをえない状況に持ち込むということです。見込み調査だけで犯人と断定して対象者を糾弾することは、たとえ真犯人であったとしても、その手続きに人権侵害が認められ、会社側が不法行為で訴えられるレピュテーションリスクがあります(実際に、真犯人から逆に不法行為責任を追及され、これが裁判で認められた事例もあります)。
海外子会社の経理担当社員の横領、しかも架空請求の相手方会社(こちらも海外子会社)の経理担当も兼任していた・・・という事案なので、内部統制にも限界が認められます。このような状況における親会社の不正調査手法として、100点だったのかどうかはわかりませんが、伊藤忠さんのニュースを読み、他の会社でも(特別部隊とまではいかないものの)CFE(公認不正検査士)の資格保有者が社内に一人か二人、いらっしゃったら、ずいぶんと早期発見のスキルにも違いが出てくるのではないか、と思いました。また、「この社内の雰囲気なら不正は隠せる・・・」という環境が少し変わるだけでも、(たまたま仕事でミスをしてしまった)まじめな社員の方々を不正行為者に変貌させない効果は随分と出てくるはずですよ。
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