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2014年7月31日 (木)

当社は被害者?加害者?-彷徨う日本企業の広報コンプライアンス

消費者の生命、身体、財産の安全を脅かすような不祥事が続いています。先日のベネッセHDによる個人情報漏えい問題に続き、今度は上海の食品会社による期限切れ食材使用問題で日本マクドナルドHDが揺れています。数日前の決算発表では、同社CEOの方が計画よりも15~20%も売り上げが落ちてしまった・・・とのこと。中国の第三者検査機関の検査結果の信用性にも問題があったようですが、食材偽装問題による企業の業績悪化のダメージは相当なものです。

ところで先日、ベネッセの不正防止対策に関する雑感を述べましたが、広報コンプライアンス上の問題点は述べておりませんでした。詳しくは雑誌「広報会議」で書かせていただきますが、このベネッセの件にしても、日本マクドナルドの件にしても、広報コンプライアンス上で似たような問題があるように感じています。私のセミナー、講演を聴講いただいている方なら、すでにご存じかもしれませんが、こういった広報コンプライアンス上の問題への対応を誤り、私は過去に大失敗をしています(会社の方々にもご迷惑をおかけしました・・・)。今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしいマスコミ対応でした。

ベネッセ社長の記者会見で、社長さんは記者さんから「御社は被害者なのですか?加害者なのですか?」と質問を受けました。たしか社長さんは「顧客にご迷惑をかけたという意味においては加害者です」と回答されたものと記憶しています。実際のところ、情報管理会社の社員が情報を流出させ、名簿業者がこれをジャストシステム社等に転売し、顧客名簿を買い付けた会社がこれを活用したわけですから、ベネッセ側からみれば被害者であることには間違いありません。ただ、たしかにベネッセ社に個人情報を預けた消費者側からみれば加害者です。私が過去に失敗したのは、いきなり「これは当社の責任ではなくA社の責任である。我々も被害者の一人なのだ」といった記者会見から始めてしまったところにありました(しかも法的な理屈をもって・・・)。被害状況がまだよく把握できない状況で、世間が一番知りたいことを後回しにして、自社のリーガルリスク回避に向けた対応を優先してしまいました。「そんな理屈はもっと後の話でしょ!いまは被害回復への御社の対応こそ消費者の関心事でしょ!」と多くの批判を浴び、もちろん最悪の結果になりました。ベネッセ社の危機対応として、このあたりの広報にはかなり腐心されているのではないでしょうか。

さらに問題なのは日本マクドナルド社の対応です。中国ではネット上で食品会社とグルになって消費期限切れの食材を使っていたのではないかとの疑惑が盛り上がっています。このようなときに、日本の消費者向けに謝罪していたのでは、「ほらみろ、やっぱり食品会社とグルだったではないか」と思われてしまいます。そこで、まずは「私たちはグルではありません!完全に騙された被害者です!」といった広報が必要になります。しかし、この広報を見た日本の消費者は「被害者ヅラするな!20年も仕入れていたのだろう!管理責任はどうなんだ!」といった対応をされてしまうので、すかさず「お客様にとって私たちは加害者です」と謝罪会見を開かなければなりません。

被害者か加害者か・・・、グローバル企業にとっての広報コンプライアンスはとても難しい局面があります。以前、仕事をご一緒させていただいたリスクマネジメント会社の方は、加害者としての立ち位置を維持しながらも、暗に「私たちも実は被害者なんです」という趣旨を理解していただくような雰囲気を醸し出すことが大切だといわれました。たしかに、そのような高等戦術も必要かもしれませんが、私は結局のところ、消費者に対して謝罪する意思があるのであれば、再発防止のためにいかに商品やサービスの「安心」を形として示していくか、という点にまい進するしかないのでは・・・と思っています。どんなに頑張ってみたところで不祥事は100%防ぐことは不可能です。ただ、事故を回避するためにどれだけ企業が努力しているのか、その姿を消費者に示して、安全よりも安心を提供するしかありません。安全認証機関があるのなら、その最高レベルの認証をとる、中国工場がアブないのであればタイの工場に仕入れ先を変える、海外工場に日本人管理者を一人常駐させる、といった「見える化」によって安心をお届けする以外に危機広報のキモは存在しないと思っています。

広報コンプライアンスの重要なポイントは、単に自社のリーガルリスクを最小限に抑えることではなく、不祥事は起こしたけれども、どうすればこれからもお客様でいてもらえるかを考えることだと思っています。

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2014年7月28日 (月)

取締役の遵法経営義務の履行とその重過失について

3月の こちらのエントリーでご紹介しましたように、今年2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料相当額など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ています。一審の判決とは異なり、控訴審は逆転で元社長ら4名の取締役に対して、遵法経営義務違反、監視義務違反による重過失を認めたわけですが、その判決全文が(もう2か月ほど前のことになりますが)金融商事判例1441号に掲載されているので、ようやく全文を読み通しました。

遵法経営義務の内容ですが、特定商取引法に違反する解約金清算方法が最高裁判決によって無効と宣言されるまで、これを是正するための内部統制を構築する義務と捉えられているようです。具体的には東京都からの指導があったり、いくつもの苦情が申し立てられていたことが、大きく影響しているものと思います。さらに、「重過失あり」とされた根拠は、そういった指導があり、また消費者団体から何度も解約金清算方法は違法だと指摘されていたにもかかわらず、最高裁が明確に違法と認定するまで、何度も(違法と思料される清算方法を)繰り返していた点に求められています。

この「取締役の遵法経営義務」というものですが、取締役を名宛人とする法令であっても、また会社自身を名宛人とする法令であっても、取締役としては同じく法令を遵守しながら経営をしなければならない、ということであり、遵守すべきか否かという点には経営判断原則が適用されることもない、ということだと理解しています。ただ、遵守すべき「法令」が明確な場合であればよいのですが、このNOVAの事件のように「法令違反かどうか、最高裁まで争いたい」という場合でも、後日遵法経営義務違反となり、場合によっては経営者に重過失まで認められる・・・ということは、企業側からみると、やや脅威に感じるのは私だけでしょうか。実際この裁判では、取締役側も「経産省の通達の趣旨にしたがって解約金清算方式を採用していたのだから、最高裁では逆転判決が出ることを期待していた。そのことに何の非難もされるべきではない」と主張していたのですが、高裁はこの主張を「取締役に重過失がなかったことの根拠にはならない」として、全面的に否定しています。

ちなみに監査役の方々に対しては、いわゆる「黄色信号理論」によって請求は棄却されていますが、他の取締役の方々に監視義務(重過失あり)が認められているにもかかわらず、何故監査役さん方には黄色信号が点滅していた、と認定されなかったのか、やや疑問を感じるところです。やはり、裁判官にはまだまだ監査役の具体的な実務というのが理解されていないのかもしれません。

行政からの指導、消費者団体からの警告、下級審における敗訴・・・ということが重なった場合、経営者としてはこれに従わねば遵法経営義務違反(善管注意義務違反)となる可能性があるとするならば、会社法上で求められる行為規範と最近のコンプライアンスの考え方が、かなり接近してきているのではないかと感じるところです。本事件は現在上告(上告受理申立)中ということで、まだ確定しておりませんが、平成12年の野村證券損失補てん事件最高裁判決の内容に近いものとして、(第一審と判断が異なるところもあり)もう少し話題になっても良いのではないかと思いました。

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2014年7月24日 (木)

「お家騒動」の背後にあるもの-大塚家具創業家社長解任に思う

家具インテリア大手の大塚家具さんの創業家社長さん(創業者のお嬢様)が、取締役会で解職されたそうで、父親である創業者の方が社長に復帰されるようです(リリースを読むと、代表取締役を解職され、社長職も解任されたそうです)。そういえば今年5月にも、伊勢の赤福さんで、創業家会長の長男である社長さんが、会長である父親から、株主総会で取締役たる地位を解任されました。いわゆる「お家騒動」といわれるものですが、なぜ親子で経営権をめぐる骨肉の争いを繰り広げる・・・ということになるのでしょうか。普通に考えてもなかなか理解しにくいところです。

大塚家具さんや赤福さんがそうである、とは申しませんが、ときどき創業家親子で社長解任劇が起きる場合、社長に就任させた身内の蔭にひそむ「番頭さん」やコンサルタントの方が気に食わない・・・ということが発端となります。創業者の方は、自身が選任した新社長さんですから、そんな簡単に解任させることはないと思います。むしろ新社長の権限を借りて社内で勢力を増す番頭格の幹部の方や、社外の顧問のような方が、徐々に社内で勢力を拡大するケースがあります。そういった方が勢力を拡大すると、昔から創業者の方に仕えていた人たちは、いろんな不正不満を会長さん(創業者)にぶつけます。そんなところから、創業者としては、とりあえず一度「支配権の歪み」を直しておこうと考えて、社長解任を断行する、ということになるのではないかと(いえ、どの事例がそうだ、といったものではなく、あくまでも私の推測にすぎません・・・・・)。

もちろん業績が悪化したり、社風が崩壊したり、ということから、事業の行く末を案じて社長解任に至るという(まじめな?)ケースもあります。ただ、京都の一澤帆布さんのように、兄弟間での純粋なお家騒動ならまだしも、親子間ということになりますと、社内に存在していた派閥争いや出世争いといった「社内力学の歪み」が原因となることも十分に考えられるように思います。いずれにしましても、こういった事情は、経営トップが語りたがらないので、いろんな風評が立つわけでして、企業価値が低下しないように、本業で頑張るしかないですね。

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2014年7月23日 (水)

監査等委員会設置会社への移行に関する検討ポイント

最新号のビジネスロージャーナル9月号は、「会社法改正を契機に考えるガバナンス体制の見直し」という特集が組まれていますが、その中に実務家の方による「監査等委員会設置会社への移行によるコーポレートガバナンス」という比較的長い論稿が掲載されています。この論稿ですが、監査等委員会設置会社への移行を検討されている企業のご担当者の方にはぜひとも目を通していただきたいと思えるほど、よく整理されています。現時点における対象企業のガバナンスの状況をまず認識したうえで、監査等委員会設置会社を導入する際の長所・短所を検討するというスタンスはまことに当を得たものと思います。

上記論稿で述べられていることは、7月16日、東京の会計教育研修機構(大手町フィナンシャルタワー金融ビレッジ)で「会社法改正とコーポレートガバナンスの強化策」と題する講演をさせていただ際、そこで私がお話した内容に非常に似ています。よく、監査等委員会設置会社は「第三の機関設計」として、監査役会設置会社、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)を比較して、どの機関設計が優れているか、といった議論がなされます。また、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社との比較において、監査役会設置会社からの移行が検討されることもあります。

しかし、こういった比較対照は、監査等委員会設置会社を解説する場合には、あまり意味がないように思っておりました。というのも、この監査等委員会設置会社は、取締役会の機能をアドバイザリーモデルと捉えるか、モニタリングモデルと捉えるか、という点の選択に強く影響を受けるものであり、移行を検討している会社の取締役会の「現状における特徴」の分析抜きには考えられないからです。むしろ、現時点での検討としては、委員会設置会社(指名委員会等設置会社)にすべきか、監査等委員会設置会社にすべきか、という選択であれば合理的だと思います(なぜなら取締役会の特色として、モニタリングモデルが定着している会社であることが前提となっているからです)。

もちろん、現実問題としては、社外役員の数を増やさずに機関投資家や議決権助言会社からの批判をかわす方策として、監査役会設置会社の社外監査役が「横滑り就任」することへの検討がなされている企業が多いと思います。しかし、社長を筆頭にヒエラルキーが構築されている取締役会の雰囲気を持つ日本企業にとって、内部統制を活用した監査等委員会の活動はあまり期待できませんし、むしろ権限委譲による社長の暴走に「お墨付き」を与えるだけで終わってしまうのではないかと推測します。いや、それどころか、社外監査役のままであれば責任を問われたり、裁判に被告として巻き込まれずに済んだものを、社外取締役に就任したがために過度のリーガルリスクを負ってしまう社外役員の方も間違いなく増えるものと予想しています。

会社側は、費用負担が少なくて済みますし、慣れ親しんでおられる方々が、そのまま社外取締役に就任されるわけですから、おそらく真剣に移行を検討されているところもあるかとは思います。ただ、現時点における上場会社の取締役会の大半は社長のヒエラルキーの元で動いているわけでして、ここで監査等委員会設置会社へ移行する会社が、どこまでガバナンス向上に熱心かは未知数だと思ってしまいます。

日本再興戦略、会社法改正等により、社外取締役導入についての話題が豊富ですが、もし5年後に「社外取締役を導入してもガバナンスは変わらないし、企業価値向上には役に立たないね」といった意見が大勢を占めるようになると、次のガバナンスの議論は間違いなくアドバイザリーモデルからモニタリングモデルへの取締役会の在り方に移るはずです(日本取締役協会さんあたりは、すでにこの点について深い研究が行われているようですが・・・)。そのときにこそ、監査等委員会設置会社という第三の機関設計を用意した意味が明確になるのではないでしょうか。社外取締役導入論→社内取締役・社外取締役が構成するモニタリングモデルの取締役会制度の構築→監査等委員会設置会社への移行・・・という流れが、今回の会社法改正の中で進行していくものと予想しています。

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2014年7月22日 (火)

遅まきながらベネッセHD個人情報漏えい事件への雑感

(7月22日 夕方 追記あり)

企業不祥事としては、今年の代表的な事件となるであろうベネッセホールディングス社の個人情報漏えい問題(不正競争防止法違反事件)ですが、なかなか犯人逮捕までは事実関係も把握できなかったので、ブログでのコメントは差し控えさせていただきました。ようやく第三者委員会の設置も決まり、まだまだ新事実が出てくるものとは思いますが、現時点までに判明しているところからの感想を述べさせていただきます。あくまでも個人的な意見でございます。

今回のベネッセの問題を企業コンプライアンスの視点から考えますと、大きく分けて内部統制と危機広報の問題が検討すべきポイントだと思います。そのうち、危機広報に関する論点は、現在連載中の月刊誌「広報会議」で述べることとしまして、ここでは内部統制に関連する論点だけ触れておきます。

もう当ブログでも何度も申し上げておりますので、とりたてて新しい意見ではないのですが、内部者による情報漏えい対策について考えるべきことは、「不祥事は起こしてはいけない」という発想で対応するのか、「不祥事は起きる」という発想で対応するのか、御社はどっちですか?という点に尽きると思います。アクリフーズ社の食品農薬混入事件の第三者委員会報告書(最終版)でも明らかにされたように、社員の故意による農薬混入を完全に防止することは困難だったとしても、昨年12月の農薬混入までの半年間に13件ほどの「異物混入」の事実が判明していた(もちろん、これらの異物混入が誰の仕業かは不明なのですが)ということですから、もう少し早くリスクへの感度を上げることはできなかったのかどうか・・・ということが焦点となりうるのです。

「当社において、不祥事は起こしてはいけない」という発想が強くなりますと、情報管理をどこまで徹底するか、という事前規制と、社員教育や厳格なペナルティということに配慮することになります。もちろん不正の防止という点は大切ですし、社員教育も委託業者を含めて徹底することも必要でしょうが、はたして企業の費用対効果…という点からみて本当に徹底管理は可能なのでしょうか。それだけ徹底すれば現場での情報活用に時間と手間を要することになり、営業面で他社には遅れをとることになり、情報管理にとんでもない経費もかかります。また、どうしても管理ルールに反するような運用を許容せざるをえない場面も出てきますので、ルールに例外的処理が増えて、ブラックボックスを許容する雰囲気が蔓延することにもなりかねません。

「不祥事は当社でも起きる」という発想で考えるのであれば、たとえば個人情報漏えい事件は発生することを前提として、ではいかに早期に情報流出の事実を発見するか、という点にリスク管理の重点を置くことになります。ベネッセの事件においても、犯人が最初に情報を流出させてから、会社が気が付くまでに約半年を要したとされ、もっと定期的にアクセス情報やコピー履歴をチェックしていれば早期に発見できたのではないか、と報じられています。つまり内部統制システムの整備は十分に行われていたのですが、内部統制システムの運用面に問題があった、という典型的な例です。

ベネッセの事例では、犯人逮捕後に判明したことですが、犯人は670万件の個人情報をコピーして名簿業者に売却した後、さらに2000万件の情報をスマホにコピーしていました。しかし、会社が情報流出に気づき、社内調査を始めたことを犯人が知ったことから、その2000万件については名簿業者に売却するのをあきらめたと報じられています(なお、本日の追記をご参照ください)。つまり、不正の早期発見はさらなる不正を予防するという意味でも大きな意義を有していたことになります。ホワイトカラーによる会社資産流出事件特徴は、最初はバレないかどうか不安なために、ほんの少し流出させ、バレないとわかるや大胆な手口に発展していくというものです。したがって、今回のベネッセの例でも、もし定期的なチェックをもって早期発見が可能だったとすれば、もっと被害は少なくて済んだ可能性があります。

「不祥事は必ず起きる」という発想での内部統制は、どうしても性悪説に立った対策となるために経営者の賛同が得にくいのが実際のところです。また、内部統制の運用面を重視するので、たいへん地道な努力が求められます。しかし、他社とのし烈な競争を繰り広げている会社が、スピード経営を犠牲にしてでも「情報漏えいを完全に防ぐための徹底した情報管理」など、掛け声としては素晴らしいとしても、ほとんど不可能ではないでしょうか。収益を上げながらも、顧客の安全に配慮するのであれば、自社でも不祥事は起きることを前提に、いかにして安全被害を最小限度に抑えるか・・・というバランス感覚を持つことが必要です。そうでなければ、いつまでたっても「掛け声だけのコンプライアンス」という思考停止状態からは抜け出せず、不祥事のたびに社長が謝罪会見を繰り返す・・・ということになってしまう気がします。

7月22日夕方 追記

本日のベネッセ発表によると、実際に個人情報が漏えいしたのは760万件ではなく、2260万件であったとのこと。「最大でも2070件」と発表していたのですが、それ以上の漏えいが確認されたそうです。なぜ、いまごろになって数字が訂正されるのか???また、このこと自体が問題視されそうですね。

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2014年7月18日 (金)

DNA親子関係不存在確認請求事件最高裁判決に対する雑感

本日はビジネス法務とはまったく関係のないお話で恐縮ですが、DNA親子関係不存在確認請求事件の最高裁判決(3件)が出まして、その判決全文が最高裁のHPで読めましたので、やや雑感めいたものを備忘録として記しておきます。

過去に当ブログでも何度かつぶやきましたが、「やはり金築裁判官はすごいな・・・」と(^^;

個人的には櫻井裁判官の補足意見に与するところですが、私は昨年12月10日に出た性同一性障害の方の嫡出推定を認めた事件「戸籍訂正許可申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」の最高裁判決と比較すれば、このたびの法廷意見(多数意見)の判決(結論)は明らかだと思っておりました。つまり12月の判決が3対2で性別変更をされた方の主張を認めたのであれば、今回は全員一致で多数意見の判断が出るだろうと予想していました。

しかし今回の金築判事、及びこれに同調する白木裁判長が反対意見を表明されるとは予想外でした。そしてよく読むと、なるほど、昨年12月の最高裁判決の法廷意見(多数意見)の判断理由と論理的に矛盾せずに今回は反対意見を述べておられるのですね。さらに、法の解釈を超えるので立法に委ねる、とはせずに、解釈論として裁判所による個別解決を図るべき、とする理由をみると、司法権と立法権の役割分担にまで検討が加えらており、まさにミクロとマクロの双方の視点において最高裁判事にふさわしい判断理由が示されています(うーーーん、これは法律実務家として、何度も読んで勉強させていただきます!)ただ、子供の出自が明らかになっていない場合に、科学的な証明をもって子供にそれを告げることがはたして子供の幸福といえるかどうか・・・、このあたり「人として」意見が分かれるようにも思えますし、多数説になりきれない説得力の欠如があるのかもしれません。

私のような最高裁で弁論をしたこともない一介の弁護士が言うのもなんですが、昨年12月の裁判も3対2、そして今回の裁判も3対2・・・。こんな厳しい裁判を、大法廷で15人の裁判官で判断できないものでしょうか?もし15人で昨年12月の裁判が審理されていれば、結論が変わっていた可能性はありますよね。そして、その結論次第では今回の裁判のマジョリティも変わっていたかもしれません。司法事務の問題を私自身がわかっていないからかもしれませんが、ふと、そんな素朴な疑問が湧いてまいりました。

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2014年7月16日 (水)

オムロン社画像情報無断使用事件における同社の説明責任

オムロンさんといえば、関西でも(日本でも?)有数のコンプライアンス経営推進に熱心な会社です。私のような者の講演にも、同社の関係者の方が頻繁にいらっしゃいます。CSR経営推進の会合等でも主幹事(?)的な役割を果たしておられるように記憶しています。そういったことから、同社子会社の不祥事を伝える7月12日の朝日新聞朝刊トップ記事には驚きました。同社子会社が、施設管理者の許可なく人物画像情報を無断で利用し、また商業施設において、人物画像情報処理システムの開発のために、無断で撮影を繰り返し、これを利用していたと報じられました。親会社であるオムロン社は12日付けで、この問題についてHP上で事実関係を説明し謝罪をされています(同文章はこちらです)。個人情報保護法違反という「法令違反」に該当するものではありませんが、いわゆる「不適切な画像情報処理」として、ここ数年問題になっているところです。

不審人物を割り出すためのセンサー開発、ということで、その社会的意義が高い研究だったようですが、総務省の外郭団体から2億5000万円を受領していたということで、やはり不祥事としては決して小さな事件ではないと思います。画像情報の無断撮影等の事実を確認し、この点について謝罪をされることは理解できるのですが、私としては本当に説明責任を果たすべき点は別にあるのではないか、という気がしています。

というのも、本件の発覚は朝日新聞のスクープ記事です。他の全国紙やニュースが、オムロンさんの事件を後追いするまで、かなりの時間を要しました。こういったニュースの出方をみますと、おそらくオムロンさん(もしくは同子会社)の社員による内部告発(マスコミへの第三者提供)が行われた可能性があります。オムロンさんは当初、朝日記者による取材に対して、無断画像情報使用の事実関係を否定されていました。しかしその後、どのような理由かはわかりませんが、一転して事実関係を認め、さらに時間が経過した後に、商業施設における無断撮影の事実も明らかにされました(たとえば、こちらの朝日新聞有料版ニュースの記事をご参照ください)。こういったケースでは、告発者の手元資料の存在が明らかになるにつれて、事実関係を認めざるを得ない状況に至ってしまったのではないか、との推測が働きます。

普段から、コンプライアンス経営に真摯に向き合っておられるオムロンさんの件なので、この事件がこれ以上大きく報じられることはないと思いますが、普通の企業であれば、これはツッコミどころ満載の「二次不祥事」として大いにマスコミに取り上げられる事態になるものと思います。不特定多数の人たちを、研究のために無断撮影して活用した、ということも不祥事ですが(一次不祥事)、むしろ、外部から指摘を受けて、これを否定し、その後更に追及されて一転して事実関係を認める・・・という経緯は、組織ぐるみで不祥事を隠ぺいしようとしたのではないか、と疑われてもやむをえない「二次不祥事」だと思います。もし自浄能力を発揮して、徹底した社内調査によって不祥事を発見した、ということであれば、約1カ月半もの間、新聞社から指摘を受けた事実をなぜ否定し、そして認めるに至ったのか、自らのHPにて明確に説明すべきかと。

こういったケースで、もっともおそろしいのが「取材を受けたけど、この程度のことで公表するに値するのか?」といった感覚です。いわゆる「社内と社外の温度差」というものです。わざと隠した・・・ということであれば再発防止は容易ですが、この程度で問題になるのか?といった感覚は、正直申し上げて再発防止には相当程度の組織体質の変革が求められます。

人は有事になると、平時では考えられないほど思考停止に陥ります。社内の暗黙知(社内力学)によって、意思決定できる人の方しかみえなくなり、その最終決定者が自分たちに好ましい判断を下してくれれば誰も文句は言いません。今回のオムロンさんの例がこれに該当するかどうかは不明ですが、同様のことは他社でもよく起こるところであり、まさに「コンプライアンス経営はむずかしい」といえます。有事に至った企業として、果たして社内と社外の温度差をどう埋めるのか、また埋めることができる人が存在するのか、そのあたりの問題解決の姿勢に、一次不祥事で止めることができ、不祥事企業と言われずに済む企業かどうかの境界があるように思われます。

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2014年7月14日 (月)

もうひとつの不正競争防止法違反事件の立件-日本交通技術社事件

不正競争防止法に関する最新の話題といえば、もちろんベネッセコーポレーション社による顧客名簿情報漏えい事件ですね。刑事捜査が進行していますので、この後の展開が注目されるところです。ところでもうひとつ、不正競争防止法に関する重要な事例として日本交通技術社の外国公務員贈賄事件(不正競争防止法18条)の立件が挙げられます。政府のODA事業を受注する見返りにベトナム等の政府要員に不正にリベートを支払ったとされる事件です。私はどちらかといいますと、こちらの事件のほうに関心を抱いています。

7月10日、建設技術コンサルタント会社である日本交通技術社の前経営トップをはじめ、3名の幹部が東京地検によって(外国公務員贈賄の公訴事実によって)起訴されました。経営トップが外国の政府要員に対して不正な利益を供与した、と認定された内容は、以前当ブログでも紹介しました同社第三者委員会報告書を丹念にお読みいただくと、おおよそ判明いたします。「いまどき、こんな不正をやっている会社もあるのか」と驚かれる方も多いかもしれませんが、同報告書に付記されている社員アンケート調査結果などを読みますと、海外進出企業であれば、どこも同様のリスクを抱えていることがわかります。また、ファシリテーション・ペイメントに関する日本企業の理解を促進させるべきである、といったことも同報告書で提言されています。

ところで、この日本交通技術社事例が注目すべき点は、OECDや国連が、日本政府の不正競争防止法18条による摘発が少なすぎることへ不満を抱いていることです。2011年のOECD対日審査でも、当該改正法が施行されてから、わずか2件しか有罪確定事件が存在しないこと(九電工事件とPCI事件)が「重大な懸念」とされています。また昨年11月の国連腐敗防止条約締結国会議でも、日本政府の摘発への怠慢として厳しく質問が出ています。とりわけ(OECD対日審査では)日本における公益通報者保護制度が全く機能していないのではないか?との疑念が出され、今後の同法制度の改正への期待が寄せられているところです。

そのような状況の中で、(もちろん有罪が確定すれば、ということですが)3例目の立件が、この日本交通技術社の事例ということでして、とりわけ経営トップ(だった方)が起訴されることは大きな衝撃です。しかし、極めて摘発数が少ないことには変わりありません。OECDの条約発効後から2010年12月までに各国がOECDに報告した外国公務員贈賄罪による処罰者の人数は、アメリカ48人、ドイツ30人、ハンガリー27人、イタリア21人、韓国13人・・・とのことですから、いくら日本企業の海外ビジネスに対する姿勢が清廉だとしても、今後も海外からプレッシャーをかけられることは間違いないと思います。つまり、今後も日本交通技術社事件と同様、不正競争防止法の適用される事例が増えることが予想されるところです。

今回は国税調査が発端となって地検の捜査に至りましたが、今後は海外の現地法違反によって政府要員が贈賄罪で摘発され、その裏返しで日本企業の摘発が開始される場面が増えるものと考えられます。外国公務員への不正な利益供与を防止するための内部統制システムの構築等、ここでもコンプライアンスプログラムの実施が強く求められるところです。

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2014年7月10日 (木)

株主総会開催15分前に議案を一部撤回した上場会社

昨日(7月8日)は、日本公認会計士協会近畿会の主催行事「公認会計士の日 記念講演会」ということで、近畿会本部におきまして講演をさせていただきました。昨日の東京会主催のほうでは小泉純一郎元首相が講演をされていましたので、ずいぶんと格が違いますが(すいません・・・・)、おかげさまで満席の中で講演をさせていただきました。関係者の皆様には懇親会までたいへんお世話になりまして、厚く御礼申し上げます。

さて、(昨日の講演テーマとは全く関係ございませんが)今年も3月決算の上場会社の株主総会シーズンが終了しました。いろいろなところで総会の話題が総括されておりますが、大要としては株主との対話がさらに進んでいることが窺われました。社外取締役の導入企業が74%にまで及び(東証1部上場会社の場合)、買収防衛策の継続議案が否決された企業が現れ、さらに①独立性に問題がある、②役員会への出席率が低いといった理由から社外役員への極めて多くの反対票が投入された事例が目立っていました。ちなみに代表取締役や当該社外取締役が改選期にない会社の場合、新任の社内取締役さんの選任議案に批判票が投じられるケースもあるようで(たとえば2名の新任取締役候補がいらっしゃる場合には、どちらかの取締役さんに反対票が投じられるとか・・・・これはISSやグラスルイスの方針なのでしょうか?)、えらい「とばっちり」を食らった新任取締役さんもいらっしゃったようです。

総会ネタの中で世間の(というかマニアックな方々の?)注目を集めたのは、やはりソーシャルエコロジープロジェクトさんの総会のようですね。本日(7月9日)の日本証券新聞では、伊藤歩さんが「特報!上場会社で取締役がいない状態」と題して、ソーエコさんの特集記事を書かれており、たいへん面白い内容なので、そちらをお読みいただければ・・・と(相変わらず伊藤さんはよく勉強されていて、頭が下がります)。

そのような中で、私個人としては、今年の株主総会の特筆すべき事例として、セイノーホールディングスさんの6月26日付け「定款一部撤回のお知らせ」を挙げたいと思います。今後、タイムリーに無議決権優先株式を発行できるよう「定款の一部変更に関する議案」を上程していたところ、株主からの反対により、総会当日の直前(9時45分)に定款の一部撤回に関する議案を撤回したことが報じられています。もちろん特別決議を要する議案であり、可決されるハードルは高いわけですが、株主総会の当日に(しかも総会の直前に)臨時取締役会を開催して、議案の撤回を決議する(そして適時開示としてリリースを行う)というのは、おそらく総会担当者にしてみればたいへん神経を使う出来事だったと想像します。

無議決権優先種類株式の発行といいますと、2008年にソフトバンク社が種類株式発行に係る定款の一部変更議案を上程したのですが、こちらも総会の直前に議案を撤回しています。やはり現実的に議決権の価値が高いものと認識されていること、市場における流動性が極めて限られていること等から、この優先的種類株式を発行するための準備行為(定款変更)には合理的理由を見出すことはむずかしいということでしょうか。サイバーダイン社のように、新規上場の際に発行したケースはありますが、流通市場では(普通株式の株価への影響などから)賛同を得にくい、ということかと。

セイノーホールディングス社の場合、買収防衛策の継続についての承認は3分の2以上の株主からの承認(64.6%前日集計分)をスレスレのところで得られなかったので、想像するに、本定款一部変更議案にみる、無議決権株式の発行に関する株主の意思については、当日の朝まで賛否が判明しなかったのかもしれません。様々なエクイティの手法を駆使して資金調達を図りたいとの真摯なお気持ちで議案を上程されたものと思いますが、現在の日本の証券市場はまだまだ種類株式には厳しい姿勢のようです。

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2014年7月 8日 (火)

グローバルビジネスにおける不正リスク(ACFE第5回カンファレンス)

20140701_flm_jconf_speakers昨年、一昨年と超満員で盛り上がりましたACFE JAPANの年次カンファレンスですが、今年もいよいよカンファレンスのテーマが公開され、お申し込み受け付けが開始されました。

第5回ACFE JAPANカンファレンス「グローバルビジネスにおける不正リスク」

皆様、ただの海外不正リスクの講演会ではございません。アンチトラストやFCPAにより、日本企業の摘発を(昨年まで)行っていた米国司法省(DOJ)元刑事局高官ラニー・ブルーアー氏をメインゲストに迎え、「なぜ日本企業を摘発するのか」「どうしてこの業界を狙い撃つのか」「何を基準に司法取引に及ぶのか」といった点を中心に、摘発する側の論理を披露していただく予定です。ちなみにブルーアー氏は、現在、古巣の大手法律事務所に戻っており、フランクに日本企業の悩みにも答えていただけるそうです。

また、FCPA対応実務に詳しい茅野みつる氏(伊藤忠商事執行役員 弁護士)にもご講演をいただく予定です(当ブログ的には、昨日のエントリーを若干後悔しているところです・・・・)。日本企業が「なぜ海外の政府要員に不正な利益を供与してしまうのか」、その生々しい実情は、先日の日本交通技術社の第三者委員会報告書でも明らかになってきましたが、まだまだ日本ではFCPA対応実務について誤解している企業も多く、逆にビジネスチャンスを逃していることもあるようです。海外不正リスクへの正しい理解のためにも、このたびのカンファレンスは楽しみなセクションの連続です。

そしてもうひとつ、手前みそになりますが、第1セクションのご紹介をさせていただきます。私と、もうひとりH氏(略歴秘匿)が登場いたします。H氏は某著名企業の法務や監査を担当してきた方でして、日経新聞等でも大きく報じられた反トラスト法違反事件で社長と二人三脚で、これまで海外対応を担当されてきた方です。彼が担当してきた反トラスト法違反事件は、すでに●●年ほど、摘発から時が経過しています。つまり、ほぼすべての訴訟対応が終了しているわけでして、事件の開始から終結までを経験した、日本でも数少ない法務マンです。海外で服役したカルテル実行者の刑期中のお世話もされていた方です。もちろん現役社員ということで、略歴は秘匿させていただきますが、彼の経験談を生で聴けるのは、これが最初で最後かもしれません。私と彼との「掛け合い」を元に、海外不正リスク対応実務に精通された結城大輔弁護士に解説をしていただく、という流れになります。

最後の締めのパネルディスカッションは、総括として八田進二教授をモデレーターとして、濱田理事長、ブルーアー氏、結城弁護士に海外不正リスク対応に関する意見交換をしていただきます。なぜか私の名前もありますが、おそらく議論の中の極めてニッチな部分だけを担当することになると思います(^^;;。

海外不正リスクへの対応は、企業にとって大変関心の高い分野です。しかも、摘発する側の論理を学ぶ機会というのも、おそらく日本では初めてではないでしょうか。このような貴重な機会なので、今年もすぐに満員になることが予想されます。ご興味、ご関心がございます方は、お早めにACFEのHPよりお申し込みください。10月10日(金)午後1時より、お茶の水のソラシティ・カンファレンスセンターで開催いたします。どうぞお楽しみに!!

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2014年7月 7日 (月)

伊藤忠関連会社元社員による6億円の横領事件と不正調査の実効性

オリンパス社の元社長ウッドフォード氏を招いた2012年のACFE年次カンファレンスにおいて、伊藤忠商事の方に内部監査の実情についてご発表いただきました。以前もブログに書かせていただきましたが、伊藤忠さんには一般の内部監査とは別に特別監査部隊(不正調査専門部隊)が30名ほどいらっしゃって、いわゆる不正調査に勤しんでおられる、とのお話に衝撃を受けた記憶があります。その伊藤忠商事さんの関連会社で、30代の経理担当者(出向者)による6億円規模の横領事件が発生し、関係者が逮捕された、とのニュースが報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。

子会社出向中とはいえ、70回にわたり自社の銀行口座から預金を引き出して、架空の請求書でごまかしていた・・・ということですから、「特別部隊を作ってみても、結局不正を見つけることは困難なのでは?そもそも特別部隊など役に立つの?」という疑問も湧いてくるところです。ただ、この規模の商社となると、一回あたりの損失額も巨大なものになります。たとえば2008年10月に同社で発生したモンゴルの資源会社へ建設機械や資材を販売した貿易取引では、1000億円近い架空取引が8年間にわたって行われており、担当課長が懲戒解雇された、と報じられていました。今回の事件は横領とはいえ、不正開始から7か月ということで、比較的短期間で発覚したようですし、金額的にも(子会社不正とはいえ)比較的少ないほうではないかと。

なんといっても「監査が迫ってきたので不正を自主申告した」とあります。社内調査における不正発見の手法としてはこれが理想ではないでしょうか。不正の疑惑があるところで、強制的な調査権限はないわけですから不正発見の手法にも限界があります。フォレンジックやヒアリング等を通じて、不正の証拠を固めていって、最終的には調査への協力という形で対象者が自主申告せざるをえない状況に持ち込むということです。見込み調査だけで犯人と断定して対象者を糾弾することは、たとえ真犯人であったとしても、その手続きに人権侵害が認められ、会社側が不法行為で訴えられるレピュテーションリスクがあります(実際に、真犯人から逆に不法行為責任を追及され、これが裁判で認められた事例もあります)。

海外子会社の経理担当社員の横領、しかも架空請求の相手方会社(こちらも海外子会社)の経理担当も兼任していた・・・という事案なので、内部統制にも限界が認められます。このような状況における親会社の不正調査手法として、100点だったのかどうかはわかりませんが、伊藤忠さんのニュースを読み、他の会社でも(特別部隊とまではいかないものの)CFE(公認不正検査士)の資格保有者が社内に一人か二人、いらっしゃったら、ずいぶんと早期発見のスキルにも違いが出てくるのではないか、と思いました。また、「この社内の雰囲気なら不正は隠せる・・・」という環境が少し変わるだけでも、(たまたま仕事でミスをしてしまった)まじめな社員の方々を不正行為者に変貌させない効果は随分と出てくるはずですよ。

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2014年7月 3日 (木)

企業法務関係者にお勧め!-「法務の技法」(芦原一郎氏)

9784502107214_240ここのところ終電の時間までに仕事が終わらず、深夜タクシーでの帰宅が続いておりまして、ブログの更新すらままならないのですが、この本だけはご紹介したく、「そんなヒマがあったらはよ資料提出せんかい!」と、クライアントからお叱りを受けることを覚悟で(笑)ブログを更新いたしました。

法務の技法(芦原一郎著 2014年6月初版 中央経済社 3,200円税別)

現在は組織内弁護士(社内弁護士)の数が1000名を超えたそうですが、著者の芦原先生はまだ社内弁護士の数が少なかったころからお名前は存じておりました(現在の肩書はチューリッヒ保険、チューリッヒ生命ジェネラルカウンセル)。雑誌「ビジネス法務」に連載されていたものに、大幅に項目を増やして一冊にまとめられた本でして、ほぼ「書下ろし」のご著書です。これまでの「社内弁護士」としての経験やノウハウを一冊の本にまとめられたものです。

法務担当者のノウハウを学ぶ・・・というと、優秀な弁護士による100点満点のモデル回答が満載かと思いきや、そうではありません。私が本書にたいへん共感したのは、まさに法務担当者としての合格点を具体的な事例から示そうと努力されている点です。つまり、組織における法務の位置づけを十分に認識したうえで、他の部署や取引先、相手先との信頼関係を考えながらどう対応すべきか・・・という、まさに現実論に立脚したノウハウが詰まっています。

たとえば社内不正の疑惑が生じた場合、法務担当者による社内調査が求められるわけですが、ごり押しで糾弾してしまっては調査に協力もしてくれませんし、また社内での関係も壊れてしまいます。そこで、どのように調査対象者(対象部署)と接することが、相手方の協力も得やすく、また信頼関係も破壊されずに所期の目的を達成できるか、そのノウハウなどは「なるほど」と思わず頷いてしまいます。また、相手を説得することよりもあきらめさせるクレーム処理のノウハウ、有事の記者会見等で「無罪」ではなく「執行猶予」を狙うためのノウハウ、1分間のエレベータ会話において上司を説得する話し方(三段論法の活用)など、まさに現実論に立脚した解決を志向する具体策などは、まさに共感を覚えるところであり、社内の法務担当者にとってもたいへん参考になるのではないかと思います。法務部の文書の書き方なども、これまであまり考えたことがなかったようなハッとさせるお話なども盛り込まれており、私もこのブログで実践してみようかな・・・と考えたりしています。

今週号の「アエラ」で、DeNAの南場智子さんが「夫の看病のために第一線から退き、後方支援に回った時に、はじめて法務や経理の重要性を知った。この人たちが難しい会社のリスクを管理してくれているのだと実感した」と書いておられましたが、本書からも、法務の輝きは他の部署との「すりあわせ」の中で生まれてくるものだと実感します。著者も語っているとおり、この本のとおりやれば御社の法務が輝く・・・というのではなく、法務の活かし方は個々の会社ごとに異なります。そこで、「なるほど、と思ってもらえるだけでなく、自分でも使ってみようと思える知恵」が記されていると考えたほうがよいと思います。それぞれの法務担当者が、自社における法務の位置づけを認識したうえで、本書のノウハウを参考に工夫してみる・・・、そういったことの参考書として本書は活用できるのではないでしょうか。また、私のように社外から法務担当者とお付き合いする立場の者にもたいへん参考になる一冊です。

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