« 取締役の遵法経営義務の履行とその重過失について | トップページ | 起業のエクイティ・ファイナンス-磯崎哲也さんの新刊 »

2014年7月31日 (木)

当社は被害者?加害者?-彷徨う日本企業の広報コンプライアンス

消費者の生命、身体、財産の安全を脅かすような不祥事が続いています。先日のベネッセHDによる個人情報漏えい問題に続き、今度は上海の食品会社による期限切れ食材使用問題で日本マクドナルドHDが揺れています。数日前の決算発表では、同社CEOの方が計画よりも15~20%も売り上げが落ちてしまった・・・とのこと。中国の第三者検査機関の検査結果の信用性にも問題があったようですが、食材偽装問題による企業の業績悪化のダメージは相当なものです。

ところで先日、ベネッセの不正防止対策に関する雑感を述べましたが、広報コンプライアンス上の問題点は述べておりませんでした。詳しくは雑誌「広報会議」で書かせていただきますが、このベネッセの件にしても、日本マクドナルドの件にしても、広報コンプライアンス上で似たような問題があるように感じています。私のセミナー、講演を聴講いただいている方なら、すでにご存じかもしれませんが、こういった広報コンプライアンス上の問題への対応を誤り、私は過去に大失敗をしています(会社の方々にもご迷惑をおかけしました・・・)。今思い出しても顔から火が出るくらい恥ずかしいマスコミ対応でした。

ベネッセ社長の記者会見で、社長さんは記者さんから「御社は被害者なのですか?加害者なのですか?」と質問を受けました。たしか社長さんは「顧客にご迷惑をかけたという意味においては加害者です」と回答されたものと記憶しています。実際のところ、情報管理会社の社員が情報を流出させ、名簿業者がこれをジャストシステム社等に転売し、顧客名簿を買い付けた会社がこれを活用したわけですから、ベネッセ側からみれば被害者であることには間違いありません。ただ、たしかにベネッセ社に個人情報を預けた消費者側からみれば加害者です。私が過去に失敗したのは、いきなり「これは当社の責任ではなくA社の責任である。我々も被害者の一人なのだ」といった記者会見から始めてしまったところにありました(しかも法的な理屈をもって・・・)。被害状況がまだよく把握できない状況で、世間が一番知りたいことを後回しにして、自社のリーガルリスク回避に向けた対応を優先してしまいました。「そんな理屈はもっと後の話でしょ!いまは被害回復への御社の対応こそ消費者の関心事でしょ!」と多くの批判を浴び、もちろん最悪の結果になりました。ベネッセ社の危機対応として、このあたりの広報にはかなり腐心されているのではないでしょうか。

さらに問題なのは日本マクドナルド社の対応です。中国ではネット上で食品会社とグルになって消費期限切れの食材を使っていたのではないかとの疑惑が盛り上がっています。このようなときに、日本の消費者向けに謝罪していたのでは、「ほらみろ、やっぱり食品会社とグルだったではないか」と思われてしまいます。そこで、まずは「私たちはグルではありません!完全に騙された被害者です!」といった広報が必要になります。しかし、この広報を見た日本の消費者は「被害者ヅラするな!20年も仕入れていたのだろう!管理責任はどうなんだ!」といった対応をされてしまうので、すかさず「お客様にとって私たちは加害者です」と謝罪会見を開かなければなりません。

被害者か加害者か・・・、グローバル企業にとっての広報コンプライアンスはとても難しい局面があります。以前、仕事をご一緒させていただいたリスクマネジメント会社の方は、加害者としての立ち位置を維持しながらも、暗に「私たちも実は被害者なんです」という趣旨を理解していただくような雰囲気を醸し出すことが大切だといわれました。たしかに、そのような高等戦術も必要かもしれませんが、私は結局のところ、消費者に対して謝罪する意思があるのであれば、再発防止のためにいかに商品やサービスの「安心」を形として示していくか、という点にまい進するしかないのでは・・・と思っています。どんなに頑張ってみたところで不祥事は100%防ぐことは不可能です。ただ、事故を回避するためにどれだけ企業が努力しているのか、その姿を消費者に示して、安全よりも安心を提供するしかありません。安全認証機関があるのなら、その最高レベルの認証をとる、中国工場がアブないのであればタイの工場に仕入れ先を変える、海外工場に日本人管理者を一人常駐させる、といった「見える化」によって安心をお届けする以外に危機広報のキモは存在しないと思っています。

広報コンプライアンスの重要なポイントは、単に自社のリーガルリスクを最小限に抑えることではなく、不祥事は起こしたけれども、どうすればこれからもお客様でいてもらえるかを考えることだと思っています。

7月 31, 2014 企業不祥事を考える |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/60069227

この記事へのトラックバック一覧です: 当社は被害者?加害者?-彷徨う日本企業の広報コンプライアンス:

コメント

ご無沙汰です。同感です。原田氏の関与する・していた会社で、経営を揺るがす企業不祥事が起きたことに注目していました。

ベネッセの原田氏が「被害者」といったのは、企業経営者の立場でありながら、何より顧客の立場にたっていると考えていてのことでしょう。仮に原田氏が日本マクドナルドのCEOをしていたとしても同じように考え、顧客に無料券を配るなどお詫びのキャンペーンにでもうってでていたのでないでしょうか。

これに対して、米食肉大手OSIグループ傘下の上海の食品会社が保存期限切れの肉を偽装していた事件で、取引先だった日本マクドナルドやケンタッキーフライドチキンの経営者から出てきた言葉は、対照的でした。「われわれは被害者だ」と。すぐさま同工場との取引を停止し、別の工場から調達することを公表しました。明らかに原田氏とは異なり、企業経営者側の論理で、顧客のことは二の次と考えているのでしょう。

もともと国内では雪印、ミートホープなどすくなからず同種の事件は過去においても発覚していましたので、驚くべきではありません。しかし、経営者のスタンスはベネッセの件とは明らかに違ったものでした。企業経営者の多くは得てして自己保身に走り、誰かに責任を転嫁しがちです。自分たちは何十年も顧客を裏切り続けていた加害者であると早く表明してもらいたいものです。まーしないでしょうけどね。

この記事を読んで私は2012年2月のAIJ投資顧問による年金消失事件を思い出しました。このとき年金基金のほとんどがAIJという詐欺的な悪質な運用会社にだまされた「被害者」と言っていたのです。CSKなどいくつかの上場企業は特別損失を計上する見込みであると発表しました。CSKはリーマンショックで、本業ではない金融・不動産事業で1000億円を超える巨額損失を出し、結局住友商事グループ傘下に入りました。

原田氏のように「加害者」と考えて謝罪したのはほんのわずかです。これも年金の加入者や受給者、企業の立場に立てば、大切な老後資金を毀損した「加害者」であることは明らかです。ましてやAIJ側から飲食接待、ゴルフ、わいろなどがあれば、いわば共犯です。少なくともそうした利益供与を受けてAIJを採用していたとしていたら、純粋な被害者とはどう考えても言えないでしょう。

本来であれば、加入者や受給者、企業がそうした年金基金を徹底的に追及すべきところ、そうした動きも皆無でした。証券取引等監視員会も東京地検も年金基金はAIJに騙された被害者との認識で調査、捜査をして、立件。現在も刑事裁判が続いています。これは明らかにミスだったと言わざるを得ません。本来は両成敗すべきだったのです。AIJを紹介していた極悪な年金基金を見事に逃げ切らせています。

AIJ後、他の業者からの接待、ゴルフ、わいろの授受で年金基金も贈賄側も逮捕・起訴されています。この人たちははたして「被害者」といえるのでしょうか。こういう人たちが基金を解散に追い込みなかったことに隠ぺいしようとしている例がいかに多いか。基金が解散すれば、それまでの積み立てがパーです。国の分は国から支給されるから問題ないとはいえ、企業年金部分として積み立てた分は基金解散と同時になくなります。基金が解散して誰が一番得するのかといえば、国であり、後ろめたい年金基金です。被害者は加入者であり、受給者でありその企業です。

投稿: 年金ジャーナリスト | 2014年8月 2日 (土) 15時42分

訴訟大国のアメリカでは「当社にも責任があります、加害者です。」と言ったとたんに大勢の顧客から損害賠償請求訴訟が起こされそうです。
問題の製品を食べてもいない人でさえ、購入機会を失った損失について賠償しろと言ってきそうです。
日本マクドナルドの現在の社長さんはアメリカ人なので、その辺を心配したのではないでしょうか。一応「価値ある大事な顧客にお詫びします」とは言ってましたけど、、、。(それも英語で)
案の定、日本マクドナルドの業績は急落しましたね。タイ産に切り替えた材料の供給不足だけが原因ではなさそうです。社長のコメントを聞いて離れていった顧客も少なからずいたのではないかと。
もしベネッセの原田さんが現在も日本マクドナルドのCEOであったら、全く別の対応をされていたであろうことは、ベネッセでの対応を見れば明白でです。
日本マクドナルドの広報責任者は、日本人のメンタリティをもっとしっかりと社長さんに説明して理解してもらい、記者会見でのコメントも用意しておかれるべきでした。そうされたけど却下されたのかも知れませんが。
先生がおっしゃる通り、対応を誤ったための二次災害の方が大きいことは過去の例からも明らかです。
不幸にしてこのような事態がおきたとき、法務担当としても、広報担当と連携して慎重に対応するように心がけなければいけないと、二社の対応を見て改めて思った次第です。

投稿: チャック | 2014年8月 6日 (水) 15時51分

これ、質問が意地悪なんですよね。

加害者か被害者かという観点から答えるべきような問題ではなく、マスコミが失言を期待して答え難い質問を出しているだけです。白黒つけにくい事柄にイエス・ノーで答えさせて炎上を誘発するのはマスコミの十八番なので気をつけましょう。

こういう質問に対しては直球で答えないのが正解です。

加害者と言っても、被害者と言っても叩かれるだけです。現段階ではわからない部分が多いので調査中ですとか言ってはぐらかしつつ、心配を掛けたことだけは謝罪するというスタンスが良いのでは?

投稿: 中世ジャっプランド | 2014年8月 9日 (土) 12時05分

コメントを書く