企業法務関係者にお勧め!-「法務の技法」(芦原一郎氏)
ここのところ終電の時間までに仕事が終わらず、深夜タクシーでの帰宅が続いておりまして、ブログの更新すらままならないのですが、この本だけはご紹介したく、「そんなヒマがあったらはよ資料提出せんかい!」と、クライアントからお叱りを受けることを覚悟で(笑)ブログを更新いたしました。
法務の技法(芦原一郎著 2014年6月初版 中央経済社 3,200円税別)
現在は組織内弁護士(社内弁護士)の数が1000名を超えたそうですが、著者の芦原先生はまだ社内弁護士の数が少なかったころからお名前は存じておりました(現在の肩書はチューリッヒ保険、チューリッヒ生命ジェネラルカウンセル)。雑誌「ビジネス法務」に連載されていたものに、大幅に項目を増やして一冊にまとめられた本でして、ほぼ「書下ろし」のご著書です。これまでの「社内弁護士」としての経験やノウハウを一冊の本にまとめられたものです。
法務担当者のノウハウを学ぶ・・・というと、優秀な弁護士による100点満点のモデル回答が満載かと思いきや、そうではありません。私が本書にたいへん共感したのは、まさに法務担当者としての合格点を具体的な事例から示そうと努力されている点です。つまり、組織における法務の位置づけを十分に認識したうえで、他の部署や取引先、相手先との信頼関係を考えながらどう対応すべきか・・・という、まさに現実論に立脚したノウハウが詰まっています。
たとえば社内不正の疑惑が生じた場合、法務担当者による社内調査が求められるわけですが、ごり押しで糾弾してしまっては調査に協力もしてくれませんし、また社内での関係も壊れてしまいます。そこで、どのように調査対象者(対象部署)と接することが、相手方の協力も得やすく、また信頼関係も破壊されずに所期の目的を達成できるか、そのノウハウなどは「なるほど」と思わず頷いてしまいます。また、相手を説得することよりもあきらめさせるクレーム処理のノウハウ、有事の記者会見等で「無罪」ではなく「執行猶予」を狙うためのノウハウ、1分間のエレベータ会話において上司を説得する話し方(三段論法の活用)など、まさに現実論に立脚した解決を志向する具体策などは、まさに共感を覚えるところであり、社内の法務担当者にとってもたいへん参考になるのではないかと思います。法務部の文書の書き方なども、これまであまり考えたことがなかったようなハッとさせるお話なども盛り込まれており、私もこのブログで実践してみようかな・・・と考えたりしています。
今週号の「アエラ」で、DeNAの南場智子さんが「夫の看病のために第一線から退き、後方支援に回った時に、はじめて法務や経理の重要性を知った。この人たちが難しい会社のリスクを管理してくれているのだと実感した」と書いておられましたが、本書からも、法務の輝きは他の部署との「すりあわせ」の中で生まれてくるものだと実感します。著者も語っているとおり、この本のとおりやれば御社の法務が輝く・・・というのではなく、法務の活かし方は個々の会社ごとに異なります。そこで、「なるほど、と思ってもらえるだけでなく、自分でも使ってみようと思える知恵」が記されていると考えたほうがよいと思います。それぞれの法務担当者が、自社における法務の位置づけを認識したうえで、本書のノウハウを参考に工夫してみる・・・、そういったことの参考書として本書は活用できるのではないでしょうか。また、私のように社外から法務担当者とお付き合いする立場の者にもたいへん参考になる一冊です。
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コメント
山口先生
著者の芦原です。
お会いしたこともお話したこともないのに、こんなにお褒めいただいて、とても恐縮しています。
ここでは、本音ベースでの話を褒めていただいたように思いますが、それこそ我が意を得たり、非常にうれしいコメントです。
というのも、本書は、自分の経験やノウハウを自分自身が忘れてしまう前に形にしてしまい、後輩につなげていきたい、と思って執筆したからです。日本組織内弁護士協会(JILA)でも、社内弁護士業務に関する勉強会(ゼミ)を主宰し、指導していますが、同じ会社内はおろか、同業者(社内弁護士)を見まわしても、弁護士として納得できるような十分なノウハウが蓄積されておらず、当然のことながら承継されていないからです。
私は、自分のような社内弁護士の見ている「ガバナンス」は、会社法の想定する「ガバナンス」と違うものであると感じています。
会社法のガバナンスは、投資家を底辺とする逆三角形で、三角形の頂点には経営を委託された経営者がいます。投資家が上、逆三角形の下の頂点部分が経営者です。この逆三角形を規律するのは会社法です。
他方、経営者を頂点とする三角形が同時に存在します。それは、経営者が経営を行うために自らのチームを作り、運営するものです。三角形の上のとんがった部分が経営者。この最上部の頂点が、会社法の逆三角形の再下部の頂点と重なります。この三角形の中に、様々な部門が設けられこのチームを支配する三角形を規律するのは労働法です。この労働法の枠の中で、様々な部署を作り、機能分担を行っています。この三角形の中で、上部から下部に人事権を含む権限の委譲が行われ、チーム全体として統制されているのです。
会社法を分析して、ガバナンスのあり方を自己完結的に論じる向きもありますが、そこには自ずと限界があります。会社法は所詮、株主の経営者に対するコントロールに関するものにすぎず、経営者が自分のチームをどのように規律するかについて、内部通報制度のような例外を除けば、原則として関与しないからです。
経営論に近い発想と思います。経営者が、自らのチームをどのように効率的に、しかし安全に運営するのか、という問題は、労働法の人事権の行使に裏打ちされたものであり、例えばコンプライアンスを徹底させるための工夫は、会社法を睨んでも出てくるものではなく、むしろ労働法やその運用から学ぶべきものなのです。
いずれ、そんな「組織論と機能論」について、検討してみたいと思っています。一度、NBLに「法務部の機能論と組織論」を連載しましたが、今回、「社内弁護士という選択」に続いて「法務の技法」を出版し、社内弁護士としてのノウハウについて一区切りつけることができたと思っていますので、その成果を踏まえ、再度練り直したいと思っています。
山口先生のブログを拝見していると、その際、参考になりそうなヒントがたくさんちりばめられているように思います。
今後、これを機会に山口先生にいろいろなことをご教授いただきたいと思いますので、一方的なお願いで恐縮ですが、どうかよろしくご指導、お願いします。
あしはら
投稿: 芦原一郎 | 2014年7月27日 (日) 10時14分