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2014年7月28日 (月)

取締役の遵法経営義務の履行とその重過失について

3月の こちらのエントリーでご紹介しましたように、今年2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料相当額など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ています。一審の判決とは異なり、控訴審は逆転で元社長ら4名の取締役に対して、遵法経営義務違反、監視義務違反による重過失を認めたわけですが、その判決全文が(もう2か月ほど前のことになりますが)金融商事判例1441号に掲載されているので、ようやく全文を読み通しました。

遵法経営義務の内容ですが、特定商取引法に違反する解約金清算方法が最高裁判決によって無効と宣言されるまで、これを是正するための内部統制を構築する義務と捉えられているようです。具体的には東京都からの指導があったり、いくつもの苦情が申し立てられていたことが、大きく影響しているものと思います。さらに、「重過失あり」とされた根拠は、そういった指導があり、また消費者団体から何度も解約金清算方法は違法だと指摘されていたにもかかわらず、最高裁が明確に違法と認定するまで、何度も(違法と思料される清算方法を)繰り返していた点に求められています。

この「取締役の遵法経営義務」というものですが、取締役を名宛人とする法令であっても、また会社自身を名宛人とする法令であっても、取締役としては同じく法令を遵守しながら経営をしなければならない、ということであり、遵守すべきか否かという点には経営判断原則が適用されることもない、ということだと理解しています。ただ、遵守すべき「法令」が明確な場合であればよいのですが、このNOVAの事件のように「法令違反かどうか、最高裁まで争いたい」という場合でも、後日遵法経営義務違反となり、場合によっては経営者に重過失まで認められる・・・ということは、企業側からみると、やや脅威に感じるのは私だけでしょうか。実際この裁判では、取締役側も「経産省の通達の趣旨にしたがって解約金清算方式を採用していたのだから、最高裁では逆転判決が出ることを期待していた。そのことに何の非難もされるべきではない」と主張していたのですが、高裁はこの主張を「取締役に重過失がなかったことの根拠にはならない」として、全面的に否定しています。

ちなみに監査役の方々に対しては、いわゆる「黄色信号理論」によって請求は棄却されていますが、他の取締役の方々に監視義務(重過失あり)が認められているにもかかわらず、何故監査役さん方には黄色信号が点滅していた、と認定されなかったのか、やや疑問を感じるところです。やはり、裁判官にはまだまだ監査役の具体的な実務というのが理解されていないのかもしれません。

行政からの指導、消費者団体からの警告、下級審における敗訴・・・ということが重なった場合、経営者としてはこれに従わねば遵法経営義務違反(善管注意義務違反)となる可能性があるとするならば、会社法上で求められる行為規範と最近のコンプライアンスの考え方が、かなり接近してきているのではないかと感じるところです。本事件は現在上告(上告受理申立)中ということで、まだ確定しておりませんが、平成12年の野村證券損失補てん事件最高裁判決の内容に近いものとして、(第一審と判断が異なるところもあり)もう少し話題になっても良いのではないかと思いました。

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