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2014年8月29日 (金)

日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの理事に就任いたしました(お知らせ)

今週号の日経ビジネスの特集は「戦う取締役会-プロ経営者を育てる『社外の目』」、ということで、(会社法改正等について若干誤記があるものの)コーポレートガバナンスへの関心の高さが窺われるものでした。もはや「社外取締役を入れるかどうか」ではなく「社外取締役をどう機能させるか」に議論が移っています。連日、生命保険各社による「株主エンゲージメント方針」や議決権行使結果が公表され、スチュワードシップコードの実践も本格化してくるのでしょうね。

さて、本日はお知らせです。8月27日、特定非営利活動法人日本コーポレートガバナンスネットワークの第11回通常総会が開催されまして、(自民党の塩崎先生の基調講演の後)当職が新任理事として選出され、これをお請けいたしました。当ネットワークの前身である社外取締役ネットワークの時代から約9年ほどお世話になっておりましたが、今度は微力ながら日本企業のガバナンス向上のためにお役に立てるよう尽力したいと思っています。

ちなみに今週月曜日には、日本CSR普及協会近畿支部主催の研究会にて、森本滋先生(京都大学名誉教授、日本取引所グループ社外取締役)から、社外取締役制度(具体的には「非業務執行役員たる社外取締役と業務執行関与のグレーゾーン」について貴重なご意見をいただき、疑問点がひとつ解消されました。企業価値を向上させるための社外取締役の関与の在り方については、まだまだたくさんの疑問点がありますが、自身の経験や有識者の方から得た知見等をもとに、私なりに考えがまとまったところから、(本当に拙い意見にすぎませんが)またブログ等で明らかにしていく予定です。

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もうひとつお知らせです。月刊金融ジャーナルの9月号は監査役特集「監査役の潜在力」というものでして、私も他業種の監査役実務の現状の紹介を、主に金融業界の方々に向けて書かせていただきました。現役監査役の方にはやや物足りない(といいますが、いつもブログで述べているようなことが内容です)かもしれませんが、監査役制度に詳しい他の執筆者の方々のご論稿もたくさん掲載されておりますので、ご興味がございましたら、ご一読のほど宜しくお願いいたします。

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2014年8月27日 (水)

ついに出た!消費者庁・課徴金制度の衝撃(景表法改正案)

本日(8月26日)、景表法の改正草案(パブコメ案)が出ましたね(内閣府消費者委員会へ提出 消費者庁課徴金検討委員会のリリースはこちらです)。昨年のカネボウ美白化粧品事件、一連のメニュー偽装事件の総決算、といった印象を持ちました。

商品やサービスの不当表示(不実証広告も原則として含む)について、売上の3%(売上集計は過去3年分)を課徴金として賦課するというもので、自主申告した場合には半額を減算、被害者返金や国民生活センターへの寄付で3%を超える場合には課徴金免除。ただし不当表示防止のために相当な注意を尽くしていた場合には(例外として)課徴金は課さないことがある、とのことです。軽微基準(課徴金算定額が150万円以下の場合は除外)もあります。

今般の消費者行政の集大成のような草案です。自主申告した場合には半額に減算、ということは、内部通報制度の運用に努力した企業、消費者の声に耳を傾けた企業に有利ということになります。また、主観的要素については企業側からの立証が求められていますので、要するに景表法7条に基づく内部統制システムをきちんと構築していたことを証明すれば免除される可能性がある、ということになります(コンプライアンス・プログラムですね)。

また目玉としての自主返金制度の新設があります。他の省庁による課徴金制度と違い、消費者庁管轄の課徴金制度は企業の自浄能力の発揮によって(かなり厳しい条件が付されていますが)課徴金処分を免除されることになります。かなり思い切った制度なので、今後様々な意見が各界から寄せられるものと推測されます。つまり、企業はうっかり不当表示をやってしまうことはあるけれども、自浄能力を発揮できた企業と、そうでない不誠実企業とが手続きにおいてはっきりと区別されることになりそうです(もちろん、行政の判断は不当、ということで「闘うコンプライアンス」を選択することもできます)。

この課徴金制度が企業規制の上で理屈が通っているかどうかはまだまだ検討しなければなりません。しかしながら、これで板東消費者庁長官が、今後は消費者教育の推進を徹底すると就任会見で述べておられたこととつながってきますが、それはまた別途詳細に解説したいと思います。当ブログで毎度申し上げておりますが、この行政手法は、今後他省庁による企業規制にも多用されることは間違いないと思います。企業は「誠実な企業」から「不誠実な企業」に色分けされないためにも、経営者主導で速やかに内部統制システムの構築を見直す必要がありそうです。

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2014年8月25日 (月)

弁護士秘匿特権という経済インフラ

8月23日の日経朝刊「大機小機」に「秘匿特権という経済インフラ」なる記事が掲載されています。弁護士とのやりとりが情報開示の対象から除外されるという制度が、企業と弁護士とのコミュニケーションを深化させ、遵法経営義務を果たすことが可能となるばかりか、とるべきリスクの評価も明確になるため、積極的なスピード経営の推進にも役立つとされています。

弁護士秘匿特権は、米国法にもEU法にも類似の制度がありますが、日本では明確に規定されていません。独禁法違反規制などにおいて、当局による国際協調が強まるなか、秘匿特権が認められていない日本は非常に不利な状況に置かれるため、「経済インフラ」として国際水準に合わせていくべきだと主張されています。

私も同意見なのですが、そもそも弁護士秘匿特権が認められる場合と認められない場合とでは、たとえば独禁法違反事件の容疑を受けた場合にどの程度の差が生じるのか(どの程度の不利益が発生するのか)、わかりやすい事例が示されなければ理解が進まないのではないかと考えています。

ここからは広告になってしまいますが、もうすぐ「国際カルテルが会社を滅ぼす」(主題)という本を同文館出版から出します(国際カルテル事件の最先端で、海外の規制当局と、日々闘っておられるベーカー&マッケンジー法律事務所の井上朗弁護士らとの共著です)。その本の中でも、日本企業が弁護士秘匿特権(及びWork Product)を活用できた場合と、そうでない場合との比較、米国法上とEU法上での秘匿特権の範囲等についても言及し、秘匿特権がいかに企業にとって不可欠な道具であるかを解説しています。

大機小機では、日本国内における法整備の問題(インフラ)として秘匿特権を捉えていますが、まずは国際カルテル事件や民事訴訟のディスカバり手続きにおける「秘匿特権リスク」を日本企業が知ることが大切かと思います。上記の本は、9月ころに発売される見込みですので、また近日中に本書の「はしがき」とともに、正式にご紹介したいと思います。

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2014年8月22日 (金)

木曽路・メニュー偽装事件-安全よりも安心を提供すべし

私もよく法事で利用させていただいている外食「木曽路」さんですが(すき焼き美味しいですよね)、松阪牛、佐賀牛と称して別の国産和牛を提供していたということが発覚。ご承知のとおり、8月15日には謝罪会見が行われたそうです。 東洋経済ニュースが記者会見の様子を詳しく報じています。20日には同社の社長さんは松阪市の市長さんのところへ出向いて謝罪をされ、「ブランドを守り、食の安全の向上に努めてこられた農家の方に申し訳ない」と述べられたそうです。

新聞報道などから、料理長主導でメニュー偽装を画策していた、とされていますが、偽装が認められた各店舗の店長は関与を否定しているとのこと。しかし原価率を下げて利益を伸ばすためにやったとすると、なぜ店長ではなく料理長なのだろう・・・、と素朴な疑問が湧きます。そのあたり、やはり記者会見でも記者の質問が飛んだようで、上記記者会見のニュースによると、会社側は「とくに料理長からは動機は聞いていない」として「原価率という予算を守ることも料理長の責任だった」と述べておられます。しかし動機もきちんと判明せず、そもそも牛肉のブランドを偽るという行動は、むしろ料理長のプライドとは相反する行動だと思われるので、ますます疑惑が深まっているように思います。店舗の最高責任者である店長が、購買についてまったく関与していないとは考えられません。

木曽路さんとしては、今後第三者委員会の設置も検討しているそうですが、今後設置される第三者委員会には以下の点をぜひ明らかにしていただきたいと思います。ここでシロだとすれば、組織ぐるみや不正隠しという二次不祥事はなかったとして、とりあえず消費者も「安心」できるのではないでしょうか。

まず店長関与の点です。118店舗のなかの3店舗だけで偽装が行われていたとなると、おそらく組織関与の可能性は薄いと思います。そこで、むしろ店長レベルでの関与が疑われるわけですが、神戸ハーバーランド店の店長、北新地店の店長、そして刈谷店の店長それぞれの「つながり」はないのでしょうか?たとえば神戸店の店長が、それ以前に北新地や刈谷の店長だった、刈谷店の店長が北新地や神戸の店長と引継ぎを行っていた、といった事実です。記者会見では、牛肉のトレーサビリティを熱心に調査していたとありますが、この3店舗の店長のトレーサビリティこそ明らかにすべきです。そこになんらかの「つながり」が認められる場合には、店長がメニュー偽装に関与していた可能性はかなり強くなるはずです。

以前、私が第三者委員会委員として関与した性能偽装事件のケースでは、こういった特定の支店長が不正に関与したことが判明し、支店長と取引先との不透明な金銭の受渡しが明らかになったケースがありました。

そしてもうひとつ。今回のメニュー偽装は、大阪市消費者センターの二度にわたる抜き打ち調査が発端となって判明したそうですが、これは船場吉兆事件とまったく同じパターンです。つまり内部告発による可能性があります。船場吉兆事件では、最初に従業員の方が内部通報をしたのですが、会社側が何も対応されなかったので、福岡市の保健局に告発したことが発端でした。今回も、従業員の方が大阪市消費者センターに告発した可能性がありますが、はたして(抜き打ち調査よりも以前に)社内に内部通報はあったのでしょうか。それともまったく寝耳に水の抜き打ち調査だったのでしょうか。これも牛肉の安全というよりも、牛肉を提供する外食産業の「安心」にかかわる調査であり、ぜひとも第三者委員会によって明らかにしていただきたい点です。

メニュー偽装発覚後の広報対応のまずさも指摘されていますが、これはまた危機広報について連載中の雑誌「広報会議」のほうで私見を述べたいと思います(記者会見での発言について、あえて申し上げるならば、質問への回答者がコロコロ変わること、「偽装はしたが、提供した牛肉は悪くない」と釈明することは、気持ちは理解できるのですが、かなりマズイと思います。こういった発言は、監督責任のある行政を本気にさせてしまいます)。外食産業の企業不祥事は、ともかく自浄能力があるところを消費者に示し、「安心」を提供することが危機対応の重要なポイントです。たとえば上記のような点を自ら調査し、二次不祥事にまで及んだものではない、ということを世間に示したうえで、最終的な社内処分、再発防止策の公表に及ぶべきだと考えるところです。

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2014年8月20日 (水)

不正行為ガイドライン・世の中の紛争を回避する「重過失」の魅力-その2

STAP細胞騒動が激化した4月3日、当ブログで「STAP細胞-世の中の紛争を回避する『重過失』の魅力」と題するエントリーを書きました。文科省や理研の不正行為ガイドラインに「重過失」の文言がなぜ加えられていないのだろうか、「重過失」概念が明記されていれば、このような紛争をもっとソフトに終わらせることができるのに・・・と(感想を)述べました(4月3日のエントリーはこちらです)。

ところで、8月14日に読売新聞が報じたところですが、STAP細胞の論文問題など相次ぐ研究不正を受けて、「日本学術会議」(会長=大西隆・東京大名誉教授)は、不正行為の具体例や発覚時の対応方法について、初の統一基準を作ることを決めたそうです。基準には、論文の盗用や画像の切り貼りなどを不正の具体例として挙げ、故意でなくても「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務」を怠った場合は、不正と判断するとのこと(読売新聞ニュースはこちらです)。文科省HPにおける議事録要旨にも、不正行為ガイドラインに「重過失」概念を採り入れるべき、と明記されています。

私のブログをお読みになったから・・・では(もちろん)ないと思いますが、不正行為の認定にあたり、当然「重過失」概念を導入すべきだと思います。たしかに「限りなくクロに近いグレー」と断定される方は不満が残るかもしれませんが、とりあえず早期に紛争を収束させるメリットは組織にも研究者にもあります。ましてや先端技術のように専門的分野における「クロかシロか」という問題は、事実認定や法律解釈だけではっきりするものではないと思います。いわばクロかシロかはっきりさせることができない(もしくははっきりさせるのにたいへんな時間を要する)という場合には、「重過失認定」でとりあえず決着をつける・・・という手法はとても魅力的ではないでしょうか。

ちなみに8月中旬に出版されました商事法務「会社法コンメンタール機関(3)」では、会社法429条1項(役員等の損害賠償責任)の解説として「悪意・重過失」の解説がなされています(吉原和志東北大教授によるご解説)。取締役の第三者責任を論ずるにあたり、結局のところは個別具体的な事案ごとに重過失の有無を検討しなければならないのですが、最近の民法学における過失責任主義の考え方の変遷に伴い、会社法429条1項の悪意・重過失の理論上の意味を再考する価値はありそうだ・・・と述べらています。実務家としても、なかなか興味深いところです。

※ 本文とは全然関係ありませんが、この「会社法コンメンタール機関(3)」に私の論文が初めて引用され、名前が登載されました(*^^)v

「重過失」がなかったということを、取締役のほうが積極的に立証(反論?)しなければならないとすると、結構むずかしい局面が考えられます。過失よりも悪質性の高いものが重過失という考え方から出発すると、取締役に有利に働きそうですが、「悪意に準じるものが重過失」というアプローチからすると、けっこう取締役に不利な場面も想定されそうです。いずれにしても、あまり学術的にも研究がされてこなかった「重過失」概念は、上記不正行為ガイドライン策定の場面のように、実務的には魅力的な活用が考えられますので、さらに研究課題とすべきではないかと考えています。

以前、取締役はどのような場面でどのような行動をとると重過失ありと認定されるか、ということを「企業不祥事」から学ぶ役員セミナーを募集させていただいたところ、おかげさまであっという間に限定5社のご応募をいただき、すべて対応させていただきました。好評でしたので、(テーマは同じものですが)また秋から冬にでも、あと5社程度ですがやらせていただこうかと思っていますので、また9月下旬ころに募集させていただきます。<m(__)m>

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2014年8月18日 (月)

ガバナンス変革期における内部統制の課題(年次大会のお知らせ)

(本日のエントリーは転載不要でございます。)

当ブログで昨年来申し上げておりますとおり、企業(組織)の内部統制に再び光が当てられる時代が到来しました(と自分では感じております。)。厚労省(社会福祉法人の内部統制整備義務違反へのペナルティ)、文科省(研究機関に対する内部統制構築要請およびその違反行為へのペナルティ)、消費者庁(景表法に基づく企業に対する商品表示の適正化のための内部統制構築義務)、経産省(個人情報管理のための内部統制ガイダンスの作成)、金融庁(モニタリング基本方針の実施要請)、警察庁(オリコ第三者委員会報告書を契機とした反社会的勢力排除のための体制整備指針の見直し-ただしこれは予想の段階です)等、各省庁で企業の自律的行動に依拠する規制手法を採用する流れが加速化しています。10年ほど前は、会社法や金商法上での話題であった内部統制システムの構築問題も、いまや多くの分野で議論、活用されるようになっています。

こういった内部統制に依拠した企業規制が新設されるときに、常に問題となるのが原則主義と細則主義とのせめぎ合いです。行政は企業の自律的行動に期待して、プリンシプルベース(原則主義)による規制手法としての内部統制システムの整備を要求するのですが、企業側は「どうしたらよいのかわからないから、ガイダンスを作ってほしい」「経済団体でひな型を作ってほしい」との要望が出てきます。そして企業側の要望を一部採用して、ルールベース(細則主義)に基づいてガイダンスやひな型が出来ると、今度は「現場をガチガチのルールで縛る内部統制」「費用に見合う効果のない内部統制」「やらされ感の漂う内部統制」と揶揄され、批判の対象になります。

もうそろそろこの流れは断ち切って、各企業がそれぞれの企業の実態に合った内部統制の構築を検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。なぜこのように申し上げるかといえば、2008年のJ-SOX施行以降、毎年「仮説、検証」をまじめに繰り返している企業と、単に制度対応のためだけにルーチンワークを繰り返している企業とでは、内部統制システム構築の実力差が明確に出てきたように思われるからです(この話は話し出すと長くなりますので、また講演等でお話させていただきます)。

例えばベネッセ事件を契機に、企業に個人情報管理を行うための体制作りが要請されるようですが、御社は高いお金をかけて物理的な防止体制を構築するのでしょうか、それとも物理的な防止体制(予防型)よりも「不正は絶対に見つける」という姿勢を社内外に示すことで防止体制を構築するのでしょうか(発見型)。それぞれ長所短所があると思いますが、なぜその防止体制を御社はとるのか、自身の企業の状況から合理的な説明が必要かと思います。

企業の儲けにつなげるリスク管理の発想は、すでに金融機関ではリスクアペタイト・フレームワークとして実践されているところですが、まさに内部統制は「あえてリスクをとりに行くためのシステム」(トライ&エラーの思想)として検討される時代になりつつあります。「どれだけのリスクなら、顕在化することを承知の上でゴーサインを出すか」、リスクをとりにいくためのシステムであるがゆえに、自社のリスクの見直しだけでなく、「機会」の把握、つまり社会の変化と内部統制との整合性を各企業において精査することが求められます。

ということで(かなり前フリが長くなってしまい恐縮ですが・・・)、今年の日本内部統制研究学会のテーマは「ガバナンス変革期における内部統制の課題」として、とりわけガバナンス改革の議論がさかんな時期に、内部統制の課題を検討します(日本内部統制研究学会の広報はこちらです)。今年は東京開催ということで市ヶ谷の法政大学キャンパスです。

最近は会社法の世界でも、内部統制システムというのは、単に経営管理の手法ではなく、経営者自身をも縛る統制環境全般を指すものと捉えられています。社外取締役を一人以上選任する、といった外形的なことに注目するのではなく、当社において、社外取締役には何を求めるのか、またその目的達成のためには、具体的に社外取締役は何をすればよいのか、本当はそのあたりの議論が「(長期的成長を視野に入れた)株主との対話」で求められるのではないでしょうか。

また監査役と会計監査人の連携と言われますが、その連携の手法は各企業によって異なるはずです。監査費用も監査人の報酬も、決して潤沢だとは言えない状況であるならば、リスクアプローチによって「やれるだけのことをやった」と言えなければ善管注意義務を尽くしたことにはなりません。効率性と有効性をどう折り合いをつけるために連携したのか、各企業ごとに合理的な説明が求められるはずです。

統一論題報告では、このあたりをメインに据えて、議論をしていきます。日銀の碓井茂樹氏(金融機関のガバナンス問題等)、仰星監査法人の南成人会計士(経営者に求められる不正リスク要因のコントロール等)、甲南大学の伊豫田隆俊教授(ガバナンス変革期における内部統制の課題と不正リスク対応基準等)を中心に、ご報告いただきます。

個別のテーマとしても、興味深いものが満載です。遠藤元一弁護士のFCPA(海外腐敗行防止法)リスクと内部統制態勢、清水惠子会計士の「日本の企業文化と内部統制」、森本親治会計士の「社外役員の実効性向上における内部統制の重要性」、雑賀努氏の「中堅上場企業における内部監査の有効性と効率性の両立への取り組み」といったところが自由論題です(どれも楽しみです。なお、公表されているパンフレットと一部内容が異なりまして、津崎会計士のご発表は中止となりましたのでご了承ください)。また研究部会報告では、「新COSOにおけるERMの位置づけと活用に関する研究」の成果を、部会長の神林氏(プロティビティLLC代表)にご報告いただきます。

そしてなんといっても、日本内部統制研究学会に初登場の冨山和彦氏の基調講演「ガバナンス変革期における取締役会と独立取締役の役割」は楽しみです。冨山氏の最新刊「ビッグチャンス」でもガバナンス問題について熱く語っておられますが、冨山氏が日本企業の内部統制についてどう感じておられるのか・・・(おそらく・・・な意見かもしれませんが)、あまりご著書などでも語られたことがありませんので、たいへん興味があります。なお冨山氏には、私が司会をさせていただくシンポにも登壇いただく予定です。

8月30日(土)、法政大学市ヶ谷キャンパスにて開催いたします。学会員の方も、そうでない方も、これからの日本企業の内部統制にご興味がございます方は、ぜひともご参加くださいますようお願いいたします。(お申し込みはリンク先の日本内部統制研究学会のHPからお願いいたします)。

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2014年8月11日 (月)

監査等委員会による利益相反取引の事後承認

江頭憲治郎先生の「株式会社法(第5版)」を読むまで(恥ずかしながら)気づいていなかったのですが、会社法の見直し要綱から会社法改正法案までの間に、監査・監督委員会設置会社という仮称が監査等委員会と正式変更されたこと以外にも、監査等委員会設置会社に関する条文が若干修正されていたのですね。

会社と取締役との間における利益相反取引について、監査等委員会による承認があれば、利益相反取引に賛成した取締役らの任務懈怠推定条項の適用が排除されるのですが(改正会社法423条4項)、見直し要綱では「事前の承認」となっていたのが、会社法改正法案では単なる「承認」に変わっており、そのまま改正会社法が成立しています。最近出版されている会社法改正に関する解説本等でも、このあたりの修正に気づかずに、そのまま「監査等委員会による事前の承認があれば・・・」と解説されているものもありますので注意が必要です。

なぜ要綱の段階で「事前の承認」が必要とされていたのが、会社法では「承認」とされたのかはわかりません。利益相反取引に対する取締役会の承認に関する会社法356条1項の文言が、単純に「承認」とされていることに合わせたのかもしれません。江頭「株式会社法」では、この356条の取締役会の承認は、事後承認も認められないわけではない、とされているので、監査等委員会による承認にも事後承認の余地がある、ということでしょうか。

では監査等委員会による利益相反取引に対する承認手続きについても、356条の解釈と同様に事後承認を認めてよいのでしょうか。そもそも利益相反取引への承認については、取締役会による場合には取締役の善管注意義務の履行に関わるものであり、また承認なき利益相反取引の私法上の効力(有効か?無効か?)にも関わります。しかし、監査等委員会設置会社においても、取締役会の承認手続きは必要とされており(現行会社法356条に関する改正はありません)、これを前提として監査等委員会の承認に関する規定が設けられているので、監査等委員会による承認がなくても(つまり経営陣が監査等委員会の承認をとらなくても)、利益相反取引に関与する取締役の善管注意義務の履行は問題とならず、また取引自体の効力にも影響はしません。

つまり、監査等委員会の承認の法的効果は、単純に利益相反取引に関与する取締役の任務懈怠の推定を排除するものであり、そのような関与取締役らの行動が善管注意義務違反ではないことを確認させて、関与取締役らの行動に慎重さを求めるにすぎないものと思われます。そうであるならば監査等委員会による利益相反取引に対する承認手続きは事後承認では無意味となり、少なくとも実際の利益相反取引が実行されるまでになされる必要があるのかもしれません。また、仮に事後承認でも可、ということになると、利益相反取引によって会社に損害が発生することが明らかになってから、経営陣が社外取締役らに働きかけえて、免責を得るために監査等委員会による事後承認を得る、という弊害を招く可能性もあるかもしれません。

このように考えると、会社法356条における取締役会の承認と、会社法423条4項の監査等委員会の承認とは、その解釈を異にするものとして、監査等委員会による承認は「事前の承認」に限るとすることにも合理性があるように思います。よくよく考えてみると、監査等委員である取締役は、利益相反取引に関わる取締役(相手方である取締役は無過失責任なので除外されますが)の善管注意義務違反の有無を判断して、関与取締役らの法的責任追及を排除できる立場に立つもので、裁判官に準ずるほどのスゴイ権力の持ち主ではないでしょうか。責任追及訴訟の場面において、株主からの取締役提訴請求を受けて、提訴の可否を判断する監査役以上の強力な権限だと思います。

いずれにしても、毎度申し上げておりますとおり、監査等委員会設置会社の社外取締役に就任するということは、指名委員会等設置会社に移行するくらいにガバナンス改革を覚悟した経営陣の下でなければ、かなりリーガルリスクが高いなぁと感じる次第です。

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2014年8月 7日 (木)

動き出した中国独禁法による日本企業調査-国際カルテル摘発か?

たしか6月10日のロイターニュースが第一報だったかと思いますが、いよいよ中国(国家発展改革委員会)が独禁法違反容疑で日本企業12社の調査を終え、今後制裁処分の検討に入る、ということが8月6日、各メディアで一斉に報じられています。これまで欧州裁判所による独禁法制裁の運用を研究してきた中国にとって、日本企業はたいへん美味しいターゲットです。中国では商業賄賂に関する摘発も検討されているところですから、日本企業も本腰を入れてコンプライアンス・プログラムの実践を法務担当任せではなく、経営者レベルで開始しなければならないと思われます。

国際カルテル事件の摘発は、中国だけでなく、シンガポールやインド、そしてロシアでも検討されているので、今後はますます全世界レベルで日本企業がターゲットにされる可能性が高いと思われます。さらにおそろしいのはDOJ(米国司法省)の更なる日本企業叩きです。これから12月にかけて、これまで以上にショッキングな事例が複数報道されることが予想されます(米国のアンチトラスト法違反事件の最前線で活躍されている法律実務家の方は、すでにこういった事例と闘っておられるようです)。日本の「正義」ははたして諸外国で通用するのでしょうか、それとも諸外国には日本企業が想定できないような「別の正義」が横たわっているのでしょうか。

ともかく平時のコンプライアンス・プログラムの実践、有事のリニエンシー、アムネスティプラスの実践、情報管理体制の確保というところが、重要な課題ですね。報道される国際カルテル事件の大きさに驚いて思考停止に陥るよりも、、そういった摘発が自社にも及ぶのか、知恵を働かせて、その発生可能性を合理的に検討することが大切だと思います。使える知恵を養うことが肝要かと。

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2014年8月 4日 (月)

起業のエクイティ・ファイナンス-磯崎哲也さんの新刊

028254thumb208xauto24617本日の日経新聞ニュースによりますと、昨年の同時期と比較して未上場ベンチャー企業の資金調達額が2.4倍(リサーチ会社調べ)に達しているそうです。それもそのはず、(発表はもう少し先になりますが)こんな私でも、この秋から某社におきまして、ベンチャーキャピタリストの方々、起業経験者の方々とお仕事をさせていただくことになりました。ということで、前著「起業のファイナンス」と共に、本書でじっくり勉強させていただいております。ご存じ磯崎哲也さんの4年ぶり、まさにタイムリーな新刊書です。

起業のエクイティ・ファイナンス(磯崎哲也著 ダイヤモンド社) ←前著は日本実業出版社だったのですが、出版社が変わったのですね

江頭先生の「株式会社法(第5版)」をはじめ、今年は会社法関連の本がたくさん出版されていますが、会社法の基本書から「種類株式」を理解する、というのは極めてむずかしいのです。事業再生時のDES(デット・エクイティ・スワップ)におけるハイブリッド株式の活用、事業再編における全部取得条項付種類株式の活用、そして資金調達の場面における優先株式、取得請求権付株式の活用など、具体的な活用場面が頭に浮かんで、はじめて必要性・有用性が(少しだけ)理解できるようになります。

ただ、それは頭で理解しただけであり、使いこなすためにはやはり当事者の話を聴くことが大切です。磯崎さんの前著と本書との違いは、磯崎さんが「当事者」になってこの本を書かれたところです。だからこそ面白い。やはり人間、自分がお金を出して、リスクを背負ってはじめて見えてくるものってありますよね。本書では株主間契約、優先株式(みなし優先株式含む)、乙種普通株式(磯崎さんのネーミングですが)、サイバーダイン社の上場時に活用された議決権種類株式など、ベンチャー企業が資金調達を行うにあたり、活用できる資本政策の工夫が満載です。ベンチャー立ち上げの段階から、上場直前まで、関係者間での利害関係は千差万別ですから、本書で紹介されておられるのは、あくまでも「武器」です。種類株式は決して無機質なものではなく、いろんな人間模様の中で、ベンチャー企業への資金調達を可能にしてくれる魔法の武器です。使いこなせなければ意味がありません。武器だからこそ、「リスクを背負った当事者」として書かれた本はやはりおもしろい。コンサルタントや学者さんが書かれたものとは少し違います。

前著「起業のファイナンス」でも優先株式の紹介はされていましたが、今回はやはりベンチャー生態系が日本に根付くためには、単に優先株式を知っている人が増えるだけでなく、実際に使いこなせる人が増えることが必要ということで「ひな形」を含め、非常に熱心に解説されています。会社法の基本は「株主vs株主」「株主vs会社」「株主vs機関」における利害調整ルールを学ぶ点にあります(これは東大の神田教授の「会社法入門」にも書かれています)。株主平等原則が求められ、また「当事者間で好き勝手な内容の種類株式は作ったらあかんで」というルールが存在する中で、株主vs株主、株主vs会社の利害調整ルールを学ぶには、こういった生きた教材がおススメですし、ロースクール生なども会社法を学ぶには適材です。生きた教材になっているのは、やはり磯崎さんが当事者(ステークを持つ人)としてこの世界でリスクをとっているからだと思います。

しかし私のように会社の「病理現象」の中で仕事をしているのと違い、会社の「生理現象」に関わる仕事は活き活きしていてうらやましいです。いや、ひょっとするとそんな甘いものではなく、当事者となると、それこそベンチャーの社長解任とか、いろんな病理現象にも逃げずに直面しなければならないのかもしれませんね。

ところで、反社会的勢力排除のお仕事をしているときに、単価1億のところに登場する紳士淑女と、単価10億~100億のところに登場する紳士淑女は明らかに違いますが(笑)、ベンチャー生態系も、この先、日本でものすごく大きなパワーを持つようになると、やはり(お金の匂いを嗅いでやってくる人達による)「病理現象」も出てくるかもしれませんね(お金になるのなら、黙っていてもファイナンスに詳しい弁護士は登場します(^^; )。そんな「病理現象」も自律的に排除できるような逞しさに満ちたエクイティの世界になるといいですね。

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