起業のエクイティ・ファイナンス-磯崎哲也さんの新刊
本日の日経新聞ニュースによりますと、昨年の同時期と比較して未上場ベンチャー企業の資金調達額が2.4倍(リサーチ会社調べ)に達しているそうです。それもそのはず、(発表はもう少し先になりますが)こんな私でも、この秋から某社におきまして、ベンチャーキャピタリストの方々、起業経験者の方々とお仕事をさせていただくことになりました。ということで、前著「起業のファイナンス」と共に、本書でじっくり勉強させていただいております。ご存じ磯崎哲也さんの4年ぶり、まさにタイムリーな新刊書です。
起業のエクイティ・ファイナンス(磯崎哲也著 ダイヤモンド社) ←前著は日本実業出版社だったのですが、出版社が変わったのですね
江頭先生の「株式会社法(第5版)」をはじめ、今年は会社法関連の本がたくさん出版されていますが、会社法の基本書から「種類株式」を理解する、というのは極めてむずかしいのです。事業再生時のDES(デット・エクイティ・スワップ)におけるハイブリッド株式の活用、事業再編における全部取得条項付種類株式の活用、そして資金調達の場面における優先株式、取得請求権付株式の活用など、具体的な活用場面が頭に浮かんで、はじめて必要性・有用性が(少しだけ)理解できるようになります。
ただ、それは頭で理解しただけであり、使いこなすためにはやはり当事者の話を聴くことが大切です。磯崎さんの前著と本書との違いは、磯崎さんが「当事者」になってこの本を書かれたところです。だからこそ面白い。やはり人間、自分がお金を出して、リスクを背負ってはじめて見えてくるものってありますよね。本書では株主間契約、優先株式(みなし優先株式含む)、乙種普通株式(磯崎さんのネーミングですが)、サイバーダイン社の上場時に活用された議決権種類株式など、ベンチャー企業が資金調達を行うにあたり、活用できる資本政策の工夫が満載です。ベンチャー立ち上げの段階から、上場直前まで、関係者間での利害関係は千差万別ですから、本書で紹介されておられるのは、あくまでも「武器」です。種類株式は決して無機質なものではなく、いろんな人間模様の中で、ベンチャー企業への資金調達を可能にしてくれる魔法の武器です。使いこなせなければ意味がありません。武器だからこそ、「リスクを背負った当事者」として書かれた本はやはりおもしろい。コンサルタントや学者さんが書かれたものとは少し違います。
前著「起業のファイナンス」でも優先株式の紹介はされていましたが、今回はやはりベンチャー生態系が日本に根付くためには、単に優先株式を知っている人が増えるだけでなく、実際に使いこなせる人が増えることが必要ということで「ひな形」を含め、非常に熱心に解説されています。会社法の基本は「株主vs株主」「株主vs会社」「株主vs機関」における利害調整ルールを学ぶ点にあります(これは東大の神田教授の「会社法入門」にも書かれています)。株主平等原則が求められ、また「当事者間で好き勝手な内容の種類株式は作ったらあかんで」というルールが存在する中で、株主vs株主、株主vs会社の利害調整ルールを学ぶには、こういった生きた教材がおススメですし、ロースクール生なども会社法を学ぶには適材です。生きた教材になっているのは、やはり磯崎さんが当事者(ステークを持つ人)としてこの世界でリスクをとっているからだと思います。
しかし私のように会社の「病理現象」の中で仕事をしているのと違い、会社の「生理現象」に関わる仕事は活き活きしていてうらやましいです。いや、ひょっとするとそんな甘いものではなく、当事者となると、それこそベンチャーの社長解任とか、いろんな病理現象にも逃げずに直面しなければならないのかもしれませんね。
ところで、反社会的勢力排除のお仕事をしているときに、単価1億のところに登場する紳士淑女と、単価10億~100億のところに登場する紳士淑女は明らかに違いますが(笑)、ベンチャー生態系も、この先、日本でものすごく大きなパワーを持つようになると、やはり(お金の匂いを嗅いでやってくる人達による)「病理現象」も出てくるかもしれませんね(お金になるのなら、黙っていてもファイナンスに詳しい弁護士は登場します(^^; )。そんな「病理現象」も自律的に排除できるような逞しさに満ちたエクイティの世界になるといいですね。
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