木曽路・メニュー偽装事件-安全よりも安心を提供すべし
私もよく法事で利用させていただいている外食「木曽路」さんですが(すき焼き美味しいですよね)、松阪牛、佐賀牛と称して別の国産和牛を提供していたということが発覚。ご承知のとおり、8月15日には謝罪会見が行われたそうです。 東洋経済ニュースが記者会見の様子を詳しく報じています。20日には同社の社長さんは松阪市の市長さんのところへ出向いて謝罪をされ、「ブランドを守り、食の安全の向上に努めてこられた農家の方に申し訳ない」と述べられたそうです。
新聞報道などから、料理長主導でメニュー偽装を画策していた、とされていますが、偽装が認められた各店舗の店長は関与を否定しているとのこと。しかし原価率を下げて利益を伸ばすためにやったとすると、なぜ店長ではなく料理長なのだろう・・・、と素朴な疑問が湧きます。そのあたり、やはり記者会見でも記者の質問が飛んだようで、上記記者会見のニュースによると、会社側は「とくに料理長からは動機は聞いていない」として「原価率という予算を守ることも料理長の責任だった」と述べておられます。しかし動機もきちんと判明せず、そもそも牛肉のブランドを偽るという行動は、むしろ料理長のプライドとは相反する行動だと思われるので、ますます疑惑が深まっているように思います。店舗の最高責任者である店長が、購買についてまったく関与していないとは考えられません。
木曽路さんとしては、今後第三者委員会の設置も検討しているそうですが、今後設置される第三者委員会には以下の点をぜひ明らかにしていただきたいと思います。ここでシロだとすれば、組織ぐるみや不正隠しという二次不祥事はなかったとして、とりあえず消費者も「安心」できるのではないでしょうか。
まず店長関与の点です。118店舗のなかの3店舗だけで偽装が行われていたとなると、おそらく組織関与の可能性は薄いと思います。そこで、むしろ店長レベルでの関与が疑われるわけですが、神戸ハーバーランド店の店長、北新地店の店長、そして刈谷店の店長それぞれの「つながり」はないのでしょうか?たとえば神戸店の店長が、それ以前に北新地や刈谷の店長だった、刈谷店の店長が北新地や神戸の店長と引継ぎを行っていた、といった事実です。記者会見では、牛肉のトレーサビリティを熱心に調査していたとありますが、この3店舗の店長のトレーサビリティこそ明らかにすべきです。そこになんらかの「つながり」が認められる場合には、店長がメニュー偽装に関与していた可能性はかなり強くなるはずです。
以前、私が第三者委員会委員として関与した性能偽装事件のケースでは、こういった特定の支店長が不正に関与したことが判明し、支店長と取引先との不透明な金銭の受渡しが明らかになったケースがありました。
そしてもうひとつ。今回のメニュー偽装は、大阪市消費者センターの二度にわたる抜き打ち調査が発端となって判明したそうですが、これは船場吉兆事件とまったく同じパターンです。つまり内部告発による可能性があります。船場吉兆事件では、最初に従業員の方が内部通報をしたのですが、会社側が何も対応されなかったので、福岡市の保健局に告発したことが発端でした。今回も、従業員の方が大阪市消費者センターに告発した可能性がありますが、はたして(抜き打ち調査よりも以前に)社内に内部通報はあったのでしょうか。それともまったく寝耳に水の抜き打ち調査だったのでしょうか。これも牛肉の安全というよりも、牛肉を提供する外食産業の「安心」にかかわる調査であり、ぜひとも第三者委員会によって明らかにしていただきたい点です。
メニュー偽装発覚後の広報対応のまずさも指摘されていますが、これはまた危機広報について連載中の雑誌「広報会議」のほうで私見を述べたいと思います(記者会見での発言について、あえて申し上げるならば、質問への回答者がコロコロ変わること、「偽装はしたが、提供した牛肉は悪くない」と釈明することは、気持ちは理解できるのですが、かなりマズイと思います。こういった発言は、監督責任のある行政を本気にさせてしまいます)。外食産業の企業不祥事は、ともかく自浄能力があるところを消費者に示し、「安心」を提供することが危機対応の重要なポイントです。たとえば上記のような点を自ら調査し、二次不祥事にまで及んだものではない、ということを世間に示したうえで、最終的な社内処分、再発防止策の公表に及ぶべきだと考えるところです。
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コメント
山口先生へ。
いつも楽しく拝読させていただいております。
本日のタイトルは、大変興味がありました。
三人の店長の繋がりは、やっぱり気になります。
実は、8月7日にアップされた独禁法違反について20日に読売新聞に2つの記事が
掲載されたので感想をのべさせていただければと考えていました。
残念なことですが、私のファンであるチェーン店が松阪牛のメニュー偽装してしまった
ので本日はこちらに投稿させていただきます。
東海地方2県にある店舗に何度か行ったことがあります。
最近では、港町にある○×道店へランチタイムに行くのですが、お昼の高級コースの
予約客が優先らしくいつも食事がとれませんでした。お得感あるランチにありつけ
ないまま残念でした。この時期は、狙いめかもしれません。
5月に、お伊勢参りに行ってまいりました。津のビジネスホテルにチェックインし、
夕食は在来線に乗って松阪駅へ行き、ホルモン店に入り松阪牛のホルモンとメインの
松阪牛を食して、庶民のレベルをほんの少しだけ超えてプチ・グルメを堪能して参り
ました。
翌日は外宮内宮を参拝して参りました。内宮前では、老舗のかき氷をいただきました。
一緒にいただいたアズキの餡がのったお餅はフレッシユな感じがしました。
磨き上げた茶釜がしつらえてあるのですが、幾分寂しげな風情と感じるのは私たち
家族だけでしょうか?
創業家のご家族全ての方々は、きっとご先祖様に恥ずかしいことはもうやらないと
誓ってご精進なされているのだろうなと感じた次第です。
「キノコ会社の創業者は復権を目指しているのでしょうか?」ちょっと気になる
ところです。
創業の思い・・・そして従業員がどのように感じて受け入れられるのか?
もう、従業員はお願いだから出てこないでくれと思うのか?
消費者は、どのように感じるのか?
動静によっては、消費者はもう一社の全国展開のキノコを買うということで
あれば、じわじわと販売数量は落ちていくのでしょうし?・・・
今週月曜日には、法曹ドラマシリーズのあの人気番組の中で、贈答用の高級松坂牛が
登場しました。
そのドラマに登場する検事・検察事務官の方々も、松阪牛には目がないようでした。
三重県への赴任の際に、同僚より松阪牛のホルモンは三重県の飲食店で全て消費され、
県外の飲食店には門外不出だと話していました。都市伝説なのかは未だに不明です。
(最後まで食べ物ネタで申し訳ございませんでした)
投稿: サンダース | 2014年8月22日 (金) 15時30分
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140829/270555/?n_cid=nbpnbo_bv_ru
この記事を読むと、「労働3法なんて余計な法律を作りやがって。しょうがないから守ってやるわ。厳守すりゃあいいんだろっ」という経営者の本音があまりにも正直に出ていて、困惑してしまいます。食品偽装とは違いますが、こういう社風は(第3者委員会で指摘された事柄以外にも)内部に色んな不正を抱え込んでいるのではないかと、そう思われても仕方ないですよね。。
投稿: 機野 | 2014年9月 1日 (月) 12時00分
サンダースさん、第三者委員会の設置が決まったようですね。ホントに私がここで書いたようなことを調査してもらえるかどうか・・・、楽しみにしています。
機野さん、私が言えないことをズバリ言っていただいて感謝しております(笑)こちらも本日、なにやら謝罪コメントが出されているような・・・。
投稿: toshi | 2014年9月11日 (木) 22時36分
山口先生へ。
最近になり、週刊エコノミストの2月4日号に台湾
掲弊者保護法立法に関するタイトル「台湾/企業の
違法行為続発で内部告発促す新法制定」を見て、明日
図書館で掲載記事を読もうと思っておりました。本日、
Amazon社より、先生のご著書が近日刊行されるとの
ことで予約案内がありました。私の関心事が満載の内
容で、もう、今からワクワクしております。
ところで、台湾の掲弊者保護法は成立したのでしょう
か?
投稿: サンダース | 2014年9月21日 (日) 22時34分
サンダースさん、台湾の法制度については勉強不足なので、ちょっと調べてみますね。情報ありがとうございました。
なお、本日、新刊書について告知させていただきました。
投稿: toshi | 2014年9月24日 (水) 01時30分
先生の意見もっともです、引っ掻き回したくないんですが、元料理長の言い分聞いてくれたら幸いです、
投稿: サンタクロース | 2014年11月20日 (木) 07時03分
サンタクロースさん、そういえば9月10日に第三者委員会設置のお知らせがあったきりで、まだ第三者委員会報告は公表されていないみたいですね。ぜひ、このブログで提案した点についての調査結果を期待したいところです。
投稿: toshi | 2014年11月20日 (木) 17時31分