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2014年9月29日 (月)

不正リスク管理・有事対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント

L13687_2さて、秋の新作3部作の最後にご紹介しますのは、私の本業にもっとも近いところである、不正リスク、有事対応に関する経営者向けの新刊書です。いよいよ東京地区は10月2日、全国では10月3日より書店に並ぶことになりました。

不正リスク管理・有事対応-経営戦略に活かすリスクマネジメント (山口利昭著 有斐閣 2,592円)

有斐閣さんといえば、もうかれこれ30年近く前になりますが、司法試験受験生として、鈴木・竹内会社法、大塚刑法、平野刑訴法、鈴木手形法、松坂民法など、まさに多くの基本書としてお世話になりました。弁護士になって24年。まさか有斐閣さんから単著で本を出版できるなどとは夢にも思いませんでした。しかも江頭先生の「株式会社法」と同じ書籍第1部により、編集いただき、苦節2年(?)、いまここにようやく350頁の書物を世に出すに至りました。本業に近いところのテーマを扱っておりますので、本書を出すにあたっては、多くの方々のご協力のもとで成しえた一冊です。この場を借りて、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

まず、形式的な点から申し上げますと、素晴らしい紙質です!30年ほど前、あれだけ線を引き、マーカーを引き、付箋を張り直したにもかかわらず、裏写りしなかった伝統技術(?)が活きており、「これで350ページ?」と疑うほどに薄く仕上がっています(これは私も驚きました)。

次に、中身についてですが、詳しい目次はこちらの有斐閣さんの紹介ページをご覧ください。本書の特徴は、リスクマネジメントに予算をつける経営者向けに執筆した点です。管理部門にどんなに優秀な人材が揃っていても、経営者が営業や技術開発と同様、リスク管理にも予算を配分する気持ちにならなければ人材が活かされないという現実に常に直面しているわけでして、どうすれば、経営者が不正リスク管理に予算をつける気持ちになるだろうか?といったことへの解決策を提案しています。副題にある「経営戦略に活かす」というのは、やはりリスク管理が儲けにつながる・・・という点にかなり力点を置いていることを示しています。「はしがき」の冒頭部分のみご紹介いたしますと、

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経営者向けということですが、もちろん多くのビジネスマンの方々にも、「不祥事は起きることを前提に平時から考える」重要性を理解していただければと思っています。マスコミで大きく報じられる企業不祥事ばかりに目が向きますが、不祥事が発生しても、小さな芽の段階でこれを摘み、マスコミに報じられないうちに社内で解決できた事例のほうが圧倒的に多いわけでして、こういった事例をも参考にして本書を書きました(帯にある「不祥事はどこの企業でも起きる」というのは、そういった意味を込めています)。また、リスクがあるから新たな事業に進まないのではなく、リスクを承知のうえでリスクをとりにいく経営者を応援することを目的として「トライ&エラー」の手法によるリスクマネジメントをお勧めしています。

どうか多くの方々にお読みいただき、私の問題意識へのご意見をいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。<m(__)m>

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2014年9月26日 (金)

顧客の安心を取り戻すためにベネッセ社に必要なこと

株式会社ベネッセホールディングスさんが、「個人情報漏えい事故調査委員会による調査結果のお知らせ」というリリースを本日出されています。司法警察による調査が並行している関係で、調査報告の概要のみ開示されていますが、原因を含めた調査結果、再発防止策の内容等が手際よくまとめられています(報告概要のリリースはこちらです)。

私個人の見解は、当ブログ7月22日付「遅まきながらベネッセHD個人情報漏えい事件への雑感」で述べたとおりですし、この調査報告概要も、ほぼ私が明らかになればいいなぁ・・と考えていた点に触れておられるので、特に申し上げることはございません。情報漏えい事故は絶対に起こさない、という発想ではなく、「再び今回のような大規模な情報漏えい事故が起きることはないと顧客その他の関係者が確信するに足るだけの措置を講じなければならない」とのことで、まさに不祥事は起きる、起きることを前提に早期に発見するという思想があり、また安全の「見える化」、つまり安心理論に基づく対応を目指そうとされている点は、私自身も共感いたします。

ただ、本当に「役職員の意識改革に努める」のであれば、そして本当に「顧客の安心を第一に考える」のであれば、もし些細な情報漏えいが発生した場合でも、ベネッセさんは進んで不祥事を公表しなければなりません。今回の事故も、顧客から「情報が漏えいしているのではないか」との連絡が複数届くまで、自ら発見することはできませんでした。ここが顧客にとって最も不安を感じるところではないでしょうか。

痛ましいジェットコースター事故を起こしたエキスポランドさんは、事故後の再開で、これまでであれば事故報告をしなくてもよいような(別の遊戯機の)故障を公表(報告)しなかったことで、市民から批判され閉園に追い込まれました。JR福知山線事故後に、ほぼ同じ地点でATS(自動運転停止装置)が作動したことを公表しなかったJR西日本さんは、「作動することはよくあることで、とくに報告の必要はなかった」と記者会見で述べ、大きな批判を受け、翌日社長さんが謝罪するに至りました。

情報漏えい事故を一度起こした代償は大きいものです。これまでであれば、大規模な情報漏えい事故でなければ公表しないでもよい、と考えられていたとしても、もはや顧客がベネッセさんを視る目が変わっています。また、社員の中にも「これは公表することが正しいのではないか」との意識が芽生えます。もし本当に役職員の意識改革を行い、顧客の安心を第一に考えるのであれば、(たしかにカッコ悪いことかもしれませんが)今後は些細な情報漏えい事故が発生した場合でも、真っ先に公表しなければなりません。そのことが、顧客の安心を勝ち取るために不可欠な企業対応だと考えています。

あと、これは個人的な意見にすぎませんが、情報漏えい防止対策は、あまりにもガチガチにしてしまうと現場の「使い勝手」が悪くなるので、「例外の許容条件」に関する指針のようなものがあればよいのではないかと。そして、顧客への謝罪として、500円の図書カード、電子マネー提供、基金への寄付という選択肢の提供は、やや世間で疑問視されていますが、私も少し首をかしげるところでして、また別の議論が必要かもしれません(意地悪くみると、わざと500円の図書カードを選択させて、損害賠償の和解をとりつける意図があるのではないか、とも感じてしまいます)。

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2014年9月24日 (水)

ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン

Grayzoon009さて、秋の新作第2弾でございます。もうすでにアマゾンでも予約販売が開始されておりますが、会社法改正を楽しみながら学んでみよう・・・ということで、このたびレクシスネクシス社から「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」なる本を出版することになりました。私の4冊目の単著本となります。

ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン(山口利昭著 2,592円 レクシスネクシス)

タイトルのとおり、ブログの延長のような一冊でして、アマゾンの頁に詳しいテーマが掲載されておりますので、そちらをご参照ください。会社法務に関心のある企業実務家の方々に向けて書かせていただいたものなので、できるだけ平易に書いたつもりですが、テーマの中にはやや難しい議論なども含まれているので、どこからでも、ご関心のあるところからお読みいただければ幸いです(後ろの章から読んでいただいても、なんら問題ございません)。

単純に会社法改正の項目を解説したものではなく、ひとつの中心テーマを設定して、そこから各改正項目に派生する、というスタイルをとっています。その中心テーマというのが、「会社法のエンフォースメント」です。会社法はもちろんハードロー(国家権力によって実効性が担保されている法律)ですが、本当はこの会社法の中に、いろいろなソフトローが含まれているのではないか、そのソフトローが紛争の未然防止の役割を果たしているのではないか、といったことを考えてみました。会社法のグレーゾーンを知り、これを使いこなせる企業こそ、「儲けてナンボ」の競争に勝てる企業になるのではないか・・・といったことなど、さまざまな会社法改正項目を題材にして語っています。

なかには「これがなんで会社法改正と関係あるの?」と思われるテーマもありますが、そのあたりは最近の私の興味ということで、ご容赦ください(^^; また、「ジュリスト10月号の発売とどうして同じ時期に出すの?」というツッコミもあるかもしれませんが、焦点が全然違いますので、そのあたりもご理解いただければと。。。 もう少し時間があれば、最近のコーポレートガバナンス・コードの策定などにも触れたかったのですが、そこまで言及できていないところがやや残念です。現在改訂中のOECDコーポレートガバナンス原則と(旬刊商事法務の最新号で高山与志子さんが解説されておられた)取締役会評価制度との関係など、今後の議論に極めて重要なポイントなどは、また本書出版後に当ブログで補完させていただこうかと思っています。

なお、10月21日(火曜日)の午後、大阪におきまして出版記念セミナーを開催する予定でして、このセミナーでは非常にお得な参加費で本書一冊がプレゼント(!)されます。なので、関西近辺の方で、当セミナーにご参加されます方はご注意ください(笑)。書店販売開始日、セミナー開催場所等、詳しくはまた告知させていただきます。どうか宜しくお願いいたします。

さて、そして秋の新作第3弾は・・・。来週いよいよ告知させていただきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました<m(__)m>

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2014年9月22日 (月)

スチュワードシップ・コードの実践と機関投資家のリーガルリスク

日曜日(9月21日)の日経新聞朝刊の一面に、「投資先と対話へ指針-外資運用大手、成長後押し」という記事が掲載されていました。フェデリティ投信など、外資系資産運用大手が、投資先企業と積極的に対話をするための指針を、今後共同で作成するもので、年内にも「投資家フォーラム」を立ち上げるそうです。経産省が事務局を務め、東証も活動に協力するとのこと。

いわゆる日本版スチュワードシップ・コードの実効性を高めるために、各運用大手が対話の内容等で歩調を合わせることが狙いということなのでしょうね。したがって、指針の内容は、企業の中長期的な成長を後押しするためのものであり、単に株式配当を求めるようなものではない、と報じられています。企業側が作った経営計画を着実に実行するための体制作りなども促すということで、たとえば割高のM&Aなども含め、企業価値向上につながらないと判断すれば、共同で見解を示すことも検討されるようです。

先日、各保険会社も、スチュワードシップ・コードを実践し、コードに沿った対話方針等を各社打ち出していましたが、このようなコードを受け入れ、実践する機関投資家が増えるにしたがい、上場会社に対するガバナンス改革は、今後ますます議論が深化していくものと思います。ただ、機関投資家が株主との対話を積極的に行っていくにあたり、リーガルリスクも高まることが懸念されていました。会社法との関係では株主平等原則違反、利益供与禁止規定違反など、金商法との関係ではインサイダー取引規制違反(とくに平成25年改正における情報提供行為規制等)、大量保有報告規制違反(とくに報告免除の特例適用の可否)といったところと、「株主との対話」促進との関係です。

ただでさえ、運用機関にとっては「中長期的な成長」よりも「四半期ごとの成績」を重視して運用業績を残したいにもかかわらず、スチュワードシップ・コードを順守することによって、これまで以上にリーガルリスクを背負わされるわけにはいかない、というのがホンネのところかと。そこで、ソフトローを活用することによって、業界あげてリーガルリスクをできるだけ低減させることが必要です。上記記事にあるように、業界の指針を作って、そこに経産省や東証等、行政当局にも参加を求めて、「こういった運用であれば会社法違反や金商法違反に該当するおそれに乏しい」という原則ルールを自主的に策定しよう、という流れになるのは自然のように思います。「あくまでも、これはスチュワードシップ・コードの実践行動である」という外形的な行動規範が求められるということかと。

ところで新聞記事では、(運用大手は)割高なM&Aや巨額の資金調達などでは、企業に詳しい説明を求める方針、とあります。社長さんの報酬が比較的低額、また任期が比較的短期であり、内部留保の蓄積に熱心だとなると、日本企業は中長期投資には消極的だとみなされます。したがって、M&Aや多額の資金調達等、大型投資が行われるということは、機関投資家にとってはとても関心が高い問題です。たとえば中央経済社「企業会計」10月号特集記事では、中長期の成長戦略がとりやすい非上場のサントリーHD社の財務戦略について、同社財務担当執行役員の方に、グループ企業戦略のプロでいらっしゃる松田千恵子先生が詳しい質問をされていました。とりわけ1兆6000億という、かなり割高と思われるビーム社買収に関するサントリーHD社の中長期の財務戦略には、いろんな角度から質問が投げかけられています。仮に上場会社に対して中長期的の事業計画を実施するための多額の投資が行われるとしたら、おそらくこういったプロの目から見た質問がとんでくるのではないか・・・と、たいへん参考になりました。

「うちはグローバル展開していない中小上場会社だから、スチュワードシップ・コードなど関係ない」とおっしゃる経営者の方も多いかもしれません。ただ、8月に公表された「伊藤レポート」(経産省HPで公表、9月には追加版で「要旨」も公表されています)などを参考にすると、資産の有効活用による生産性向上のストーリー、売上高利益率をいかに上げるかといった戦略、(個々具体的なものではなく、方針としての)資本政策、内部留保問題などが、おそらく対話の中心になってくると予想される中、株主との対話が「短期利益を狙う投資家の排除」という意味ではもっとも有効な敵対的買収防衛策ではないでしょうか。そう考えますと、スチュワードシップ・コードの実践を機関投資家が明確に打ち出した現在、企業対応というものも、私は一部の大手上場会社だけでなく、中小規模の上場会社にもそれなりに検討しておくべき課題だと考えています。

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2014年9月17日 (水)

イオンの「監査役育成アカデミー」は企業価値を向上させるか?

9月13日の日経電子版に、コーポレート・ガバナンスに関連する少々驚きのニュースが掲載されていました。流通大手のイオンさんが、監査役候補者を社内で育成する機関「イオン監査役アカデミー」を設置する、とのことです。アカデミーを修了した幹部人材の方々は、海外を含め260社以上ある子会社の監査役に順次配置されるそうです。アカデミー受講者は、財務・経理、人事、顧客サービスなど各部署から部次長クラスの社員を毎年10人以上選抜し、外部から講師を招き、週末を利用して1年間で100時間強の授業を受けてもらうとのこと。修了後はグループ会社の常勤監査役に就任させる、と報じられています。

企業グループ全体のレピュテーションを毀損するような企業不祥事は、グループ内の子会社で発生するケースが多く、たとえば4年前に不適切な会計処理が子会社で発生した近鉄さんが、大幅に子会社の常勤監査役さんを増やすということもありましたが(朝日新聞ニュースはこちらです)、年間100時間を超える研修によって常勤監査役さんを子会社に設置する、という試みは、これまであまり聞いたことがありません。

もちろん日経の記事にあるように、「グループとして監査役の機能を強化し、子会社が自律的に法令順守や不祥事防止に取り組むよう促す」ということが主たる目的だと思いますが、やはり会社法改正の影響が、ここにも出ているように思います。企業集団内部統制が法文化され、親会社による子会社管理が強化される傾向が出てくるのでは・・・、といった流れから、即戦力となる常勤監査役さんを、幹部候補から抜粋・育成し、いわゆる「キャリアパス」の一環に位置づけようとされているのではないかと推測します。そしてもうひとつ、会社法改正によって親会社・兄弟会社の「支配人その他の使用人」は子会社(兄弟会社)の社外監査役に就任することができなくなります(会社法2条15号ハ 参照)。これまで親会社の幹部社員の方々が、グループ子会社の非常勤監査役に就任していたケースも多いわけですが、改正によって兼任に制限が生じますので、こちらの対策も必要になります。

リスク管理の視点からすると、こういった監査役育成プログラムは不正リスクを低減するものとして、グループとしての企業価値向上に貢献するものと予想されます。ただ、当ブログでも何度かご紹介した「ずる-嘘のごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著)の中に登場する「カギの効用」で説明したように、いくらガバナンスの仕組みを整えたとしても、本気で不正をやろうとする者の不正行為を未然に防止することは至難の業です。むしろ、社員の98%を占める「ふだんは誠実だが、誘惑があると不誠実に走ってしまう『まじめな社員』」が、不誠実に走ってしまわないように「性弱説」に立った監査活動こそ、ここで期待されるものと言えるのではないでしょうか。

「安全」は外から見えませんが「安心」は外から判断することができます。リスク管理の巧拙は、本来は組織の品質管理に依拠するものですが、企業不祥事が発生しているのか、していないのか、その組織の現在価値を外から判断することはできません。したがって、リスク管理の巧拙は、「将来、その組織において不正が発生した場合、これを早めに止めることができるのか」といった将来価値をもって判断せざるをえません。多くの子会社に常勤監査役さんが増えれば、またグループ全体として「監査役連絡協議会」のようなものが出来て、子会社不正を親会社が早期に発見できる機能も高まるでしょう。このような監査役育成アカデミーは、まさに「将来価値」に関わるものであり、企業の自浄能力が求められている昨今、企業価値の向上に資するものになると考えています。

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2014年9月16日 (火)

闘うコンプライアンス!-ネスレ日本の対消費者広報戦略

9月15日の日経朝刊「法務インサイド」では、景表法に課徴金制度が導入される見込みとなり、勉強会の開催など企業が商品表示の適正化について戦々恐々となっている姿が報じられていました。「不当表示になるのが怖いので、無難なイメージ広告ばかりになるかもしれない」といった声もあるようで、今後の景表法改正が、商品やサービスの表示に萎縮効果を与えかねないとのこと。

ところで、先週の朝日新聞(朝刊)に掲載されたネスレ日本さんの全面広告が目を惹きました。「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフ三國清三氏を起用したもので、いま物議を醸している「レギュラーソリュブルコーヒー」の紹介記事です。ご承知の方もいらっしゃると思いますが、ネスレ日本さんが所属する全日本コーヒー公正取引協議会において、この「レギュラーソリュブルコーヒー」という(広告表現としての)名称使用の可否が審議されていましたが、結局、公正競争規約上では認められませんでした。そこでネスレ日本さんは、同協議会を脱退し、公正競争規約の庇護から離れ、今後はJAS法に基づく表示の適正確保に向けた対応をとられるそうです(ネスレ日本さんのリリースはこちらです)

レギュラーコーヒーではなく、インスタントコーヒーではないのか?「レギュラーソリュブル」って優良誤認ではないのか?・・・・・といった批判も当然出てくると思います。景表法上で禁止されている「優良誤認」かどうかは、一般の消費者の視点から判断されるのですから、今朝の日経新聞で指摘されているとおり、法令遵守を念頭に置くとなると、どうしても判断が萎縮してしまうと思います。だからこそ公正競争規約という「ソフトロー」の存在は、コンプライアンスリスクを低減させるという意味では、企業にとってはありがたいですし、今後景表法に課徴金制度が導入されるとなると、各業界において公正競争規約の活用がますます検討されることになると予想します。

しかし、人と違うことをやることもビジネスの戦略であり、優良誤認のリスクがあるのであれば、逆に一般消費者に誤認のおそれがないように「打って出る」こともコンプライアンスのひとつの手法だと考えます。「ネスカフェ アンバサダーによるオフィス市場の開拓」が日本マーケティング大賞を受賞する好機を捉えて、全面広告によってインスタントコーヒーとレギュラーソリュブルコーヒーとの違いを明確に打ち出し、「第三のジャンル」であることを消費者に認識してもらう、というネスレ日本の姿勢も、まさに「闘うコンプライアンス」のひとつだと思います。お上の言うことを思考停止で従うのではなく、むしろ行政当局の規制の趣旨を理解して、自分の頭で考えながら消費者教育の一端を担うくらいの気概で広報を打ち出していく・・・ということも広報上の検討課題ではないでしょうか。規制緩和が進む中、コンプライアンスはもはやブレーキではなく、スピード経営を支えるためのアクセルとして活用する時代です。

もちろん法令違反のリスクはあります。リスクが顕在化した場合には、トライ&エラーで真摯にリスクに向き合わなければなりません。東洋経済の報じるところでは、8月14日の時点では、ネスレ日本から消費者庁への照会に対して、同庁からの回答はない、とのこと。消費者行政の方向性をつかみ、コンプライアンス経営の向上を目指して消費者と向き合う企業の姿勢は、これからソフトロー重視に向かうのか、それともハードロー重視に向かうのか、このたびのネスレ日本さんの対応は重要な試金石になるのではないかと期待しています。

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2014年9月12日 (金)

国際カルテルが会社を滅ぼす-新刊のお知らせ

いつも拙ブログをお読みいただき、ありがとうございます。いよいよ秋の新刊書を世に出す時期になってまいりました。

Kokusaikaruteruその第1弾としまして、

「国際カルテルが会社を滅ぼす-司法取引、クラスアクションの実態と日本企業の対応」(同文館出版 山口利昭、井上朗、龍義人著)

がまもなく発売となります。アマゾンではすでに予約注文を開始しております。

すでにいろんなところで申し上げておりますが、国際カルテル容疑で摘発された某社(日本企業)において、長年にわたり米国司法省、民事訴訟、欧州委員会そして公正取引委員会と対峙してきた社員の方と私の対談形式で、「国際カルテルが摘発された場合に、果たしてどのような事態が会社に発生するのか、司法取引とはどういうものか、膨大な民事訴訟はどう乗り切るのか」ということを語っていただいた本です。なお、この対談をもとに、私自身が国内対応を、そして海外のカルテル事件を最先端で指揮しておられる井上朗弁護士(ベーカー&マッケンジー法律事務所)が経営者向けのアドバイスを論稿としてまとめています。ちなみに簡単に「はしがき」の一部をご紹介いたしますと・・・・・

本書は、国際取引を行う日本企業の経営者、経営幹部をはじめ、国際取引に関わる多くのビジネスパーソンに向けて企画、出版されたものである。企業不祥事からリスク管理の方法を学ぶにあたっては、自社が痛い目に遭い、その教訓から学ぶ、もしくはマスコミ等で公表された他社事例から学ぶというのが一般的である。 しかし、これだけ脅威とされる国際カルテル事件については、このような手法はあてはまらない。なぜなら自社の失敗はとりかえしのつかない損失を被ることになり、教訓どころの話では済まない。また、他社事例といっても、国際カルテル事件は長期間、社内でも情報管理を徹底して対応するので、その事件の全貌は明らかにされないからである。

本書は、実際に反トラスト法違反事件に関わった龍と山口との対談をもとに、これまであまり明らかにされてこなかった国際カルテル事件への日本企業の対応を紹介したものである。また、国際カルテル事件の最前線で、日本企業の代理人チームを指揮する井上が、対談のレビューに加え、補足の解説を付けて内容を充実させている。そして、山口による内部統制の視点による解説、さらに国際カルテルの脅威を伝える井上のメッセージも併せて掲載している。海外の競争法を一から解説したものではないが、実際に国際カルテルの脅威に直面した経験、また日々日本企業のために国際カルテル事件と奮闘する国際弁護士の知見をもとに、日本企業の具体的な対策を検討するためには最適の一冊である。

本書を上梓するに至ったのは、偶然にも3人の思いが共通していたからである。国際カルテル事件のリスクの重大さ、(法務担当者や代理人弁護士が過労で倒れる等)事件対応の困難さを多くのビジネスパーソンに知っていただきたい、そして一刻も早く、多くの企業に国際カルテル事件に遭遇しないための対策をとっていただきたいとの願いである。
 現在、世界規模で反トラスト法に基づく取締が行われている。世界各国で反トラスト法が強化され、各国間で反トラスト取締協力協定が締結されている。このような情勢の中、各国における反トラスト法違反事件の摘発は急増し、またその執行も厳しさを増している。本書で取り上げた米国司法省、欧州委員会競争総局による摘発だけでなく、今後は中国、ロシアなどによる摘発事例も増えるであろう。また、わが国の公正取引委員会による立件もさかんになるであろう。このような時期に本書を世に出すことは、まさに時宜に適ったものと言える。日本企業の関係者におかれては、ぜひとも「手遅れ」になる前に、本書を参考に、国際カルテル事件回避に向けた準備をされることを願ってやまない。・・・以下つづく

また、目次をご紹介いたしますと・・・・・

序 国際カルテルの脅威 ·····································································································
1─国際カルテル事件と本気で闘った龍義人との対談に寄せて
1 新聞報道だけではわからない国際カルテル事件の真実
2 龍との対談実現の経緯について
3 対談の概要について
4 読者へのご注意 ─ 本書をお読みになるにあたって

第1部 対談篇
1 米国司法省との攻防 ·····································································································
1 捜査の開始
2 社内調査
3 刑事手続きとDOJとの攻防

2 ハイエナ訴訟 ····················································································································

1 民事訴訟の概要
2 連邦民事訴訟とその和解交渉
3 州民事訴訟

3 カーブ・アウトの取り扱い ······················································································

4 欧州委員会への対応 ·····································································································

5 国内対応 ······························································································································

6 海外向けコンプライアンス体制 ············································································

第2部 解説篇
1 海外不正リスクに対する社内体制の整備 ························································
1 前向きのリスク管理が求められる国際カルテル事件への対応
2 国際カルテルへの社内体制を検討するための枠組み
3 国際カルテルの防止体制(不正の抑止)
4 国際カルテルの早期発見体制
5 国際カルテルの有事対応

2企業経営と反トラスト法

EC競争法上のコンプライアンスについて ··············································
1 本書でお伝えしたいこと
2 問題点はどのようなものか
3 どのように問題点を解決すればよいのか

【資料1】米国司法省における近年の日本企業に対する主な摘発事例
【資料2】欧州委員会における近年の日本企業に対する主な摘発事例 
【資料3】連邦量刑ガイドライン§8B2.1. 
【資料4】連邦量刑ガイドライン §8C2.5. 

内容もさることながら、実はこの資料についても、井上弁護士のご厚意によって添付させていただいたものです。この資料だけでも(?)、本書をお買いになる価値があるのではないかと思うほどです。中国の独禁法政策がそろそろ動き出しますよ・・・といったことも記述していますが、もう動き出してしまいまして少し残念ですが、これからの国際カルテル事件の動向を探るうえでも有益な一冊かと思います。

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2014年9月10日 (水)

株主総会バトルは理屈と実務と胆力の総合力です

この1カ月、アコーディアゴルフ社、メディネット社に続き、ソーシャルエコロジープロジェクト社でも、少数株主による臨時株主総会の招集許可申立事件が勃発しています。支配権争いの起きた会社において、株主側から臨時株主総会の開催許可が裁判所に申し立てられるわけですが、上場会社において申立がされることは意外と珍しく、まさに会社の経営権を巡って関係者間のガチンコ勝負が展開される予兆となります。

社長解任事件や敵対的買収事件などのお手伝いをしていると、ときどき対応しなければならないわけですが(検査役に選任される、ということもありますね)、実は上場会社の場合、商事非訟事件として招集許可が下りて、株主主導の臨時株主総会が開催される、というのはレアなケースなのです。あまり詳しくは述べませんが、通常は会社側の担当者が仕切ってくれる総会実務を株主がやらなければならなかったり、株主招集の臨時株主総会の審議範囲が限定されていたり(動議も出せないとか)、大株主の意向をまとめるために、空気を読んで経営上の妥協案を考えたりといったことで、株主側はたいへん苦労するわけです。株主の確定やら委任状集めなど検討しているうちに、会社側がころ合いを見計らって臨時株主総会の開催を(取締役会で)決定するということで、落ち着いてしまうことが多いですね。

また、株主総会バトルといえば、どうしても株主総会のほうに目を奪われがちですが、敵対的買収のような「一枚岩」になれるときは別として、経営権争いが株主総会バトルとして表面化するケース(たとえばメディネットさんやソーエコさんの例)では、臨時取締役会を開催しなければならないことが多く、取締役会の手続き上の瑕疵がバトルの成否を分けるケースもあります。今回のメディネットさんの一連のバトルでも、取締役会の招集手続きに瑕疵がある、と一方からクレームがつき、監査役2名が取締役会の続行を勧告した(その勧告どおりに延期されたところ、形勢が変わった)・・・という事件もありました。

こういった株主総会バトルには、弁護士による支援も不可欠ですが、上場会社の場合には広報コンサルタントの方々の支援も不可欠ですね。株主や従業員の方々に、いま起きている事件をどう見てもらうのか・・・、一緒にお仕事してみると、シナリオ作りの大切さがよくわかります。最終的には株主の過半数の支持を得ることで決着するわけですが、そこに至るバトルには理屈と実務とKY(空気を読む力)、そしてなによりも「マスコミを敵に回しても絶対に勝つ」という関係者の胆力ではないか・・・と思う次第です。

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2014年9月 8日 (月)

コーポレートガバナンス・コードにおける監査役制度の位置づけ

当ブログの論客のおひとりでいらっしゃる「いたさん」から、先週の日本内部統制研究学会に対する厳しいご意見をコメント欄でいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。ご指摘のとおりで、たくさんの監査役さん(監査役OBの方も含め)にお越しいただいたにもかかわらず、またガバナンス改革というテーマであったにもかかわらず、監査役さんへの期待についてほとんど触れずじまいだったこと、たいへん反省をしております。すべて仕切り役だった私の責任です。

そのぶん(まったく関係はありませんが)、第2回の金融庁・コーポレートガバナンス有識者会議(コーポレートガバナンスコード策定のための会合です)では、コードにおける監査役の記述に関してかなり盛り上がったそうです(ロイターの記事はこちらです)。経済界や投資家から「日本の監査役の役割はわかりにくい、そもそもきちんと活用されていない」との意見が出されたそうで、序文に監査役の役割を記述したり、丁寧に説明することが要望されていた、とのこと。

監査役の職務(権利と義務)は、会社法で定められていますので、その内容を超えて「期待される役割」をコードに書き込むというのは、かなりむずかしいのでしょうね。もちろん事業戦略に意見を述べ、妥当性監査ということまで積極的に行っておられる監査役さんもいらっしゃいますが、中小の上場会社では、そこまで期待できないところも多いと思います。最近ではセイクレスト事件判決やニイウスコー事件判決のように、日本監査役協会が策定した監査基準をもとに監査役の善管注意義務違反の有無を判断する事例などもみられるので、強制力のないガバナンスコードといえども、監査役の職務について詳細に記述されてしまうことの「気持ち悪さ」みたいなものはあるかもしれません。記述にあたっては、仕組み(監査と監督の区別)と機能(どういった目的のために何をすべきか)をしっかり分けて議論しなければいけませんね。

あと、上記有識者会議では、監査役(会)設置会社と対比して(会社法改正で新た認められる)監査等委員会設置会社について話題に上っていたようです。私はあいかわらず監査等委員会設置会社への移行には懐疑的でありまして、監査等委員である取締役さんのリーガルリスクは監査役に比べてかなり高いように思っているのですが、あまりそのあたりには関心が向けられてないようです。個人的意見の詳細は、また講演等でお話しますが、上記のセイクレスト事件第一審判決(監査役の法的責任認容)、昨年の愛知高速交通事件第一審判決(いま債権法改正で話題となっている身元保証法5条に関連した監査役の過失認定)、少し古いですが平成18年の青森住宅供給公社事件(いわゆる「アニータ事件」ですね)第一審判決(監事の責任を否定)などを参考にしますと、監査等委員たる取締役の内部統制構築義務違反(構築指摘義務違反)が、そのまま「任務懈怠」と認定されやすいように思います。

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2014年9月 5日 (金)

自社のみでは完結しにくいコンプライアンス問題への対応

またまたひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズですが、協和発酵キリンさんは8月29日、腎性貧血治療薬ネスプの医師主導臨床研究に同社MRらが不適切らに関与した問題を受けて、渉外倫理室を統合する形で新しいCSR推進部を10月1日付で発足させ、コンプライアンス体制を強化すると発表されました(たとえばこちらのニュースが参考になります)。

担当医師との信頼関係を維持するために、MR担当者は医師の不適切行為を指摘しようとせず、また営業担当取締役は「医療機関よりも先に、当社が厚労省に事実を報告してしまうと、医療機関との関係が悪化してしまう」と考え、他の経営陣にも報告していなかった、ということなので(ちなみにこの営業担当取締役の方は「一身上の都合」ということで辞任されています)、たいへん「不祥事の根」は深いように思います。

かならずしもコンプライアンス意識が高いとはいえない方々を相手とする企業は、自社だけでコンプライアンス経営を完結しにくいわけでして、このような意思主導型の臨床研究に関与する製薬会社にとっても自浄能力を働かせることはむずかしいかもしれません(なお医師の方々にも、もちろん倫理意識が高い方もたくさんいらっしゃることだけは申し添えます)。最近よく話題となりますFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)等の海外政府高官への利益供与の禁止などにも共通するところであり、現場担当者にとっては、売上向上のためどうしてもコンプライアンスを秤にかけながら仕事をしてしまいたくなるところに同情したくなる点があります。

ただ、最近、ノバルティスファーマ、武田薬品、協和発酵キリン等の不祥事の実例を挙げて、複数の製薬会社の方に御意見を伺いますと「うちでは絶対にありえない」と、自信に満ちた回答が返ってきます(正直、意外ですが・・・)。その時に出てくる言葉が「たしかにMRがそのような不正に走ることはあるかもしれない。しかし、それは会社が絶対にダメだと繰り返し述べているにもかかわらずやってしまうわけだから、不正に走るには相当ハードルが高いはず。だから会社に責任は及ばない」というものでした。国際カルテル事件対応としてのコンプライアンス・プログラムの実践に近い感覚だと思います。もしMRが臨床医師研究に不適切に関与するのであれば、それは相当に会社の指示に反する意識をもってやらなければならない・・・、そういった意識を現場に持たせるのが内部統制の重要なポイントのようです。

私自身も、このレベルの不祥事防止となりますと、企業倫理研修では生ぬるいと思います。人は倫理意識をもっていても、いざというときには無意識に「すべきこと」よりも「したいこと」を選んでしまうということを、行動心理学的に冷徹に見つめる必要があると考えます。「ほかの会社でもやっているから」「前任者もやっていたから」「ルールには建前とホンネがあるから」「上司も黙認しているから」といった意識を現場に持たせる環境こそ根絶しなければ今回のような製薬会社の一連の不祥事はなくならないように思います。上記の協和発酵キリンさんの事例では、(第三者委員会報告書において)昨年の8月に営業担当取締役が臨床研究への不正関与の事実を知りながら、今年4月まで他の経営陣に報告をしていなかったことが強く批判されていますが、社長さんを含め、他の取締役から「最近は臨床研究不正関与事件で他社の不祥事が明るみに出ているが、うちの会社はだいじょうぶなのか?」といった話題が(半年以上)なかったのでしょうか?そういった話題が取締役会等で一切出なかったとすれば、相当にコンプライアンス経営の感度が低いといわれてもしかたがないのかもしれません。

昨年のメニュー偽装事件で批判の対象とされた阪神・阪急ホテルズさんの事例では、昨年6月に東京のプリンスホテルさんでメニュー偽装事件が報じられたことから「うちは大丈夫か」と(社長さんが)心配になって調査を開始されたのが発端だとされています。それでも、マスコミから厳しい批判を浴びた事件となったわけですから、「営業担当取締役からの報告がなかったから他の取締役は知らなかった」「問題は社会規範の変化に対する感度不足」では済まされない問題が残っているように思います。いや、本当にコンプライアンス経営はむずかしいです。

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2014年9月 3日 (水)

取引所ルールもプリンシプルの時代(エクイティ・ファイナンスコード)

(9月3日 午後5時追記)

市場ルールの形成ということでは、最近ライツイシュー(ライツ・オファリング)の在り方に関する上場制度整備懇談会のリリース等が話題になっています。ただ、取引所として(たぶん)初めてのプリンシプル・ルールである「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル(案)」が8月末に公表され、こちらもけっこう重要ではないかと考えています。

このたびの会社法改正でも一部手直しがなされましたが、公募増資、第三者割当増資、ライツ・オファリングといったエクイティファイナンスでは、法令やルールに違反しているとまでは言えないものの、その本来的な活用方法を逸脱した手法によって一般投資家や株主に多大な損害を発生させる上場会社の事例が散見されます(最近のライツ・オファリングの活用実態については、たとえば伊藤歩さんの会社法務A2Z 8月号「時事解説 岐路に立つライツオファリング」等が一般向けで参考になります)。また、ひとつひとつの経済行為を捉えれば法令違反とは言えないものの、全体の計画を総括的にみれば違法行為の疑いが強い、といった企業活動も指摘されているところです。

プリンシプルコードは、そのコードに違反することにペナルティが発生するわけではありませんが、ルールベースで規定されている法令等による規制だけでは後追い感が強く、投資家や株主が迷惑を被ってからでなければ規制ができないという現実の弊害を少しでも防止できるように、ということで、原則をもって規定されたものです。もし、まじめな会社がこのプリンシプルコードに反する「疑い」を自ら感じた場合には、投資家や株主から疑惑をもたれないよう、合理的な説明を尽くすことが求められるのであり、むしろそういった説明責任を企業に尽くさせることが狙いの一つではないでしょうか。ルールベースの規制手法の補完・・・という位置づけもできそうです。

(追記)本日、ノンコミットメント型ライツオファリングへの問題点への対応として「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」と題する基準も策定されています。

会社法や金商法違反に該当するかどうか・・・、ときどきですが意見書の作成が求められます。そういったとき、時間軸や空間軸を使って適法性や妥当性を判断したり、鳥の目と森の目を使い分けて判断するわけですが、プリンシプルも、そういったモノサシの役割になればいいですね。プリンシプル案の(はじめに)において、弁護士、公認会計士、コンサルタント等の市場関係者等において、広く共有されることを期待する、とありますが、株主エンゲージメントによるガバナンス改革が進む中、こういったプリンシプルが、対話のための道具になるのかもしれません。

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2014年9月 1日 (月)

ガバナンス改革に求められる監督機能の攻めと守り

Ftggrtd8月30日(土曜日)、第7回の日本内部統制研究学会年次大会が法政大学で開催されました。今年の統一論題は「コーポレートガバナンス変革の時代における内部統制の課題」というタイムリーなテーマです。本テーマは、会員構成が学者、実務家、実業界ほぼ3分の1ずつという、まさに当学会にふさわしいものであったようで、写真のように会場も満席となり、たいへんに盛り上がりました。私がモデレータを務めたパネルディスカッションは、ガバナンス変革の話題として、「取締役会の機能」と「株主との対話」を中心に取り上げ、監督、監査それぞれの立場から内部統制の課題について検討する、というものでした。

私個人の感想としては、経営共創基盤の冨山和彦氏の基調講演およびパネルディスカッションでのお話がとても参考になりました。冨山さんの書かれた本などを読むと、社外取締役には経営者OBがふさわしい、ということが書かれており、弁護士や会計士などの専門家は(監査役としてはふさわしいものではあるが)取締役としては、あまり有用性がないのではないか、と考えておられるものと理解していました。しかし、複数の社外取締役の選任が推進されるなかで、社外取締役の多様性ということは、冨山氏自身、否定されていないようでした。

印象的だったのは、冨山さんが、企業活動の生理現象、病理現象という言葉を講演で活用されていたことです。社外取締役が経営評価機能を果たすために、きちんと経営指標等の数字、財務三表の数字の理解は不可欠です。しかし、社外取締役が企業活動の業績をきちんと評価する(評価できる)ためには、経営環境と企業の経営方針にズレがなく、企業内に病理現象を抱えていないことが前提となります。企業が自らの経営によって解決すべき社会的課題が何か、という点を認識するためには、様々な背景を持った社外取締役が経営に参画する必要があり、また病理的現象を抱えているかどうか、という不正リスクを評価することも、社外取締役には求められるものと理解しました。

社外取締役には攻めの機能(経営者の任免権行使によって「儲ける力」を向上させる)と、守りの機能(経営者の業績を評価するための基盤の整備)のいずれもが発揮されてこそ、モニタリングモデルとしての取締役会が充実する、というなのでしょうね。たしかに考えてみると、KPIを活用して業績を評価する土壌が安定していなければ、経営者評価ということも困難になるわけで、いくらガバナンス変革といっても、変革することで企業が変わる土壌がなければ意味がない、ということかと。非常に地道な作業ではありますが、ガバナンス改革によって組織が変わるだけの内部統制がまず構築されていなければならない、という考え方もあるのかな・・・と、思ったりしていました。ただ、攻めにしても守りにしても、会社にとって社外取締役が役に立つまでには「少なくとも3年はかかる」(冨山氏)ようなので、社外取締役といっても、6年くらいの任期は務めたほうが良いのかもしれません。

ただ、日本の取締役会の現状(業務執行取締役が中心であり、社長が監査役に至るまで、絶対的な人事権を押さえている状況)を、どのようにモニタリングモデルの取締役会に変えていけるのか、そのあたりの具体的な道筋は、まだまだ遠いもののように感じます。パネルディスカッションでは、「監査等委員会設置会社への移行に期待する」との声も出ていましたが、私個人の意見としては、モニタリングモデルの取締役会への移行が先ではないかな・・・と思ったりしています。最後になりますが、論客の皆様から多くの質問を受けておりましたが、司会進行の不手際で3問程度しかご紹介(ご回答)できなかったことをお詫び申し上げます<m(__)m>

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