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2014年9月 5日 (金)

自社のみでは完結しにくいコンプライアンス問題への対応

またまたひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズですが、協和発酵キリンさんは8月29日、腎性貧血治療薬ネスプの医師主導臨床研究に同社MRらが不適切らに関与した問題を受けて、渉外倫理室を統合する形で新しいCSR推進部を10月1日付で発足させ、コンプライアンス体制を強化すると発表されました(たとえばこちらのニュースが参考になります)。

担当医師との信頼関係を維持するために、MR担当者は医師の不適切行為を指摘しようとせず、また営業担当取締役は「医療機関よりも先に、当社が厚労省に事実を報告してしまうと、医療機関との関係が悪化してしまう」と考え、他の経営陣にも報告していなかった、ということなので(ちなみにこの営業担当取締役の方は「一身上の都合」ということで辞任されています)、たいへん「不祥事の根」は深いように思います。

かならずしもコンプライアンス意識が高いとはいえない方々を相手とする企業は、自社だけでコンプライアンス経営を完結しにくいわけでして、このような意思主導型の臨床研究に関与する製薬会社にとっても自浄能力を働かせることはむずかしいかもしれません(なお医師の方々にも、もちろん倫理意識が高い方もたくさんいらっしゃることだけは申し添えます)。最近よく話題となりますFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)等の海外政府高官への利益供与の禁止などにも共通するところであり、現場担当者にとっては、売上向上のためどうしてもコンプライアンスを秤にかけながら仕事をしてしまいたくなるところに同情したくなる点があります。

ただ、最近、ノバルティスファーマ、武田薬品、協和発酵キリン等の不祥事の実例を挙げて、複数の製薬会社の方に御意見を伺いますと「うちでは絶対にありえない」と、自信に満ちた回答が返ってきます(正直、意外ですが・・・)。その時に出てくる言葉が「たしかにMRがそのような不正に走ることはあるかもしれない。しかし、それは会社が絶対にダメだと繰り返し述べているにもかかわらずやってしまうわけだから、不正に走るには相当ハードルが高いはず。だから会社に責任は及ばない」というものでした。国際カルテル事件対応としてのコンプライアンス・プログラムの実践に近い感覚だと思います。もしMRが臨床医師研究に不適切に関与するのであれば、それは相当に会社の指示に反する意識をもってやらなければならない・・・、そういった意識を現場に持たせるのが内部統制の重要なポイントのようです。

私自身も、このレベルの不祥事防止となりますと、企業倫理研修では生ぬるいと思います。人は倫理意識をもっていても、いざというときには無意識に「すべきこと」よりも「したいこと」を選んでしまうということを、行動心理学的に冷徹に見つめる必要があると考えます。「ほかの会社でもやっているから」「前任者もやっていたから」「ルールには建前とホンネがあるから」「上司も黙認しているから」といった意識を現場に持たせる環境こそ根絶しなければ今回のような製薬会社の一連の不祥事はなくならないように思います。上記の協和発酵キリンさんの事例では、(第三者委員会報告書において)昨年の8月に営業担当取締役が臨床研究への不正関与の事実を知りながら、今年4月まで他の経営陣に報告をしていなかったことが強く批判されていますが、社長さんを含め、他の取締役から「最近は臨床研究不正関与事件で他社の不祥事が明るみに出ているが、うちの会社はだいじょうぶなのか?」といった話題が(半年以上)なかったのでしょうか?そういった話題が取締役会等で一切出なかったとすれば、相当にコンプライアンス経営の感度が低いといわれてもしかたがないのかもしれません。

昨年のメニュー偽装事件で批判の対象とされた阪神・阪急ホテルズさんの事例では、昨年6月に東京のプリンスホテルさんでメニュー偽装事件が報じられたことから「うちは大丈夫か」と(社長さんが)心配になって調査を開始されたのが発端だとされています。それでも、マスコミから厳しい批判を浴びた事件となったわけですから、「営業担当取締役からの報告がなかったから他の取締役は知らなかった」「問題は社会規範の変化に対する感度不足」では済まされない問題が残っているように思います。いや、本当にコンプライアンス経営はむずかしいです。

9月 5, 2014 コンプライアンス経営はむずかしい |

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