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2014年9月 8日 (月)

コーポレートガバナンス・コードにおける監査役制度の位置づけ

当ブログの論客のおひとりでいらっしゃる「いたさん」から、先週の日本内部統制研究学会に対する厳しいご意見をコメント欄でいただきました(どうもありがとうございます<m(__)m>)。ご指摘のとおりで、たくさんの監査役さん(監査役OBの方も含め)にお越しいただいたにもかかわらず、またガバナンス改革というテーマであったにもかかわらず、監査役さんへの期待についてほとんど触れずじまいだったこと、たいへん反省をしております。すべて仕切り役だった私の責任です。

そのぶん(まったく関係はありませんが)、第2回の金融庁・コーポレートガバナンス有識者会議(コーポレートガバナンスコード策定のための会合です)では、コードにおける監査役の記述に関してかなり盛り上がったそうです(ロイターの記事はこちらです)。経済界や投資家から「日本の監査役の役割はわかりにくい、そもそもきちんと活用されていない」との意見が出されたそうで、序文に監査役の役割を記述したり、丁寧に説明することが要望されていた、とのこと。

監査役の職務(権利と義務)は、会社法で定められていますので、その内容を超えて「期待される役割」をコードに書き込むというのは、かなりむずかしいのでしょうね。もちろん事業戦略に意見を述べ、妥当性監査ということまで積極的に行っておられる監査役さんもいらっしゃいますが、中小の上場会社では、そこまで期待できないところも多いと思います。最近ではセイクレスト事件判決やニイウスコー事件判決のように、日本監査役協会が策定した監査基準をもとに監査役の善管注意義務違反の有無を判断する事例などもみられるので、強制力のないガバナンスコードといえども、監査役の職務について詳細に記述されてしまうことの「気持ち悪さ」みたいなものはあるかもしれません。記述にあたっては、仕組み(監査と監督の区別)と機能(どういった目的のために何をすべきか)をしっかり分けて議論しなければいけませんね。

あと、上記有識者会議では、監査役(会)設置会社と対比して(会社法改正で新た認められる)監査等委員会設置会社について話題に上っていたようです。私はあいかわらず監査等委員会設置会社への移行には懐疑的でありまして、監査等委員である取締役さんのリーガルリスクは監査役に比べてかなり高いように思っているのですが、あまりそのあたりには関心が向けられてないようです。個人的意見の詳細は、また講演等でお話しますが、上記のセイクレスト事件第一審判決(監査役の法的責任認容)、昨年の愛知高速交通事件第一審判決(いま債権法改正で話題となっている身元保証法5条に関連した監査役の過失認定)、少し古いですが平成18年の青森住宅供給公社事件(いわゆる「アニータ事件」ですね)第一審判決(監事の責任を否定)などを参考にしますと、監査等委員たる取締役の内部統制構築義務違反(構築指摘義務違反)が、そのまま「任務懈怠」と認定されやすいように思います。

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コメント

もちろん、山口先生を責めるつもりは全くありませんので、念のため。むしろ監査役が様々な機会を逃さず積極的に発信力を高めていく必要があるということですね。その意味でも、「コーポレートガバナンス・コード策定有識者会議」には小生も大いに注目しています。監査役制度に理解が深いと思われる経産省の「コーポレート・ガバナンス研究会」とメンバー的に一部重なるので、第二回会合の議事録公開が楽しみです。
それにしても、二つの内部統制制度の整理統合を今話題にすること自体、空気が読めない季節外れなことなのでしょうかね。成長に貢献するガバナンスをいうならば、格好のテーマのはずです。一旦制度ができてしまうと、所管官庁の面子もあって統廃合は極めて難しいということでしょうか。これこそ監査役制度顔負けの日本だけにしかない独自の制度設計です。こういう時こそ政治の出番だと思いますが。

投稿: いたさん | 2014年9月10日 (水) 01時02分

監査役設置会社から移行する監査等委員会設置会社の監査等委員のリスクが高いのではという指摘は高いと思います(委員会設置会社の監査委員のリスクも同程度には高いのですが、委員会設置会社を選択しようという会社はそれなりの会社であることが多いと予想されるため、それによってリスクが事実上軽減されると思われます)。それは、移行に伴って、内部統制等のシステムが大幅に整備されるとは期待できないからです。新規上場のときは、ある程度、整備しても、その後、劣化することが少なくないという現実を踏まえ、移行に当たって整備するというインセンティブもエンフォースメントの仕組みもないことにおもいをいたすと、移行するからといって、システム整備にコストと手間をかけるとは思われません。
そうであれば、移行会社の監査等委員は内部統制等のシステムはあまり整備されていないことを前提に監査しなければならず、そうであれば、常勤者がいないときに、どのように監査するのかという問題があるはずです。
 以上に加え、公表裁判例をみるかぎり、裁判所は、監査役に甘く、取締役に厳しいという一般的傾向を有しており、監査等委員は取締役である以上、より厳しい目で見られるという可能性が十分にあります。
 もっとも、監査等委員でも監査委員でもない社外取締役のリスクに比べれば大したことはないと思いますが…。なにしろ、監査等委員でも監査委員でもない社外取締役は業務財産調査についての権限はもっていない以上、どうやって監督権限を有効に行使できるのかという問題に直面していますから。

投稿: とおりすがり | 2014年9月11日 (木) 08時46分

 とおりすがりさんのコメントを読まさせていただいて、思ったことですが、結局取締役である監査委員も、社外取締役も、会社機関設計上は、独任制ではないので、自ら具体的案件の善し悪しについて調査ができないことが、委員会設置会社の問題点ではないかということです。
(社外取締役に監査権はないし、監査委員も単独では監査実施ができない。)
 業務執行側からの説明のみで、取締役会で賛成せざるを得ない制度設計では、企業の収益力向上に向けた企業ガバナンスの充実が目的のはずであるのに、実質的にガバナンス向上は困難となり、監査等委員会設置会社は、絵に描いた餅になりかねないとも思えます。
 業務執行側が、内部統制の充実を行うことと、監査役が独任制のもとで、多様な価値観で、充実した監査に努めることがあいまって、企業のガバナンスを向上させることができるのではないかと思います。
 9月11日の夕刻に、「吉田調書」や「慰安婦問題」に係わる朝日新聞の社長の記者会見を見ていて、多様な価値観がある中で、誤報を防ぐための新聞社の内部統制と監査役監査はどのように行われているのか、一度聞いてみたいと感じた次第です。
 

投稿: 法律しろうと | 2014年9月11日 (木) 23時30分

企業価値(株価)は、理論的には将来キャッシュフローの割引現在価値ですから、分子である将来キャッシュフローの予想が増加するか、分母の割引率(リスク)が減少するかによって株価(パフォーマンス)は上昇することになりますが、取締役会の機能である①アドバイス機能と②モニタリング機能とは、分子と①、分母と②を関連付けるのが理論的です。アドバイス機能を担うのが主に社内取締役、モニタリング機能を担うのが主に社外取締役・監査役と整理すべきではないでしょうか。社外取締役は属性により、両方の機能を担う場合もあるでしょう。(企業経営者は両者、専門家はモニタリング機能)
海外では、リスクの一つである不正会計とガバナンスについての実証研究が多く行われています。それによると、社外取締役が多いほど、その独立性が高いほど、不正は抑制されるとされています。社外取締役や監査委員会だけではなく、株主構成や監査法人との関係でも研究されています。
金融研究センター「不正会計の早期発見に関する海外調査・研究報告書」
http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2014/06.pdf
このような実証研究を前提とすると、社外取締役の導入によってパフォーマンスが向上したとすれば、それは分母であるリスクが低減した(少なくとも投資家はそのように判断した)とみるべきでしょう。我が国においても、社外取締役・監査役とリスクとの関連に関する実証研究が待たれるところです。

投稿: 迷える会計士 | 2014年9月12日 (金) 21時17分

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